表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/41

勇者と魔王はやはりうまくいかないようです

「……ッ……私は……」


「あっ、目覚めた? 酷いけがだったからもう少し横になってた方がいいよ」


 ユウキが目を開けるとどこか見た天井が目の前に広がっていた。

 そして聞こえた声に目を向けるとそこには魔王がいつも通り笑みを浮かべて椅子に座っている。

 その手のリンゴを器用にも跳び跳ねるウサギの形に切りながら。


「……あんたそれどうやってるの?」


「可愛いでしょ? 気に入った?」


 皿の上をぴょんぴょんと元気よく跳び跳ねるウサギ型のリンゴを指差してユウキは魔王に問う。

 それに対しよく気づいてくれたと言わんばかりに魔王は満面の笑みを向けそう答える。


「……はぁ」


 あくまで推測に過ぎないがこれまでの経験、そして知識の中からユウキはそのファンシーな状況が全種族で魔族だけが使用することができる闇魔法、それも極めて上位に位置する魔法を応用した結果なのだろうと考える。


 そして、理解が追い付くと同時に呆れ半分苛立ち半分にユウキは溜め息を吐く。

 どこまでいっても目の前にいる存在はふざけているのだ。

 人間の風貌をしながら魔族を圧倒的に凌駕する力を持つ規格外さ。

 仮に魔王が世界を本気で征服しようとしたならば認めたくはないもののそれはきっと彼一人て十分に達成できてしまうだろう。

 にも関わらず魔王がしていることと言えばその恵まれ過ぎた才能の無駄遣いともとれるバカげた魔法の使い方と自身への求愛くらいのもの。


 ユウキにはどう転んでもなぜそうなるのか理解できずこれから先もきっと理解できるときなど来ないのだ。


「……あんた、ほんとになにがしたいの?」


「ん? ユウキとあんなことやこんなことをしたいと――」


「死になさい」


「うわぁ、辛辣……」


 ぽつりと溢した言葉にめざとく食い付きセクハラまがいのことを言い出す魔王(アホ)をウサギを眺めながらユウキは罵倒する。


「というかこれだけ生き生きされてると食べづらいんだけど……」


「ん? 絞めようか?」


「その言い方止めなさいよ!」


「あはは、冗談だよ冗談」


 スッと笑顔を引っ込め真顔で手首をコキッと鳴らす魔王に叫ぶユウキ。

 そんなユウキを見て次の瞬間にはまた先程までの顔が嘘のように魔王は笑みを浮かべる。


「はい、あーん」


「……一応聞くけど何のつもり?」


「だってその手じゃ食べられないでしょ?」


「…………別にそんなことない」


 動きを止めそれはそれでなんだか死んでしまったみたいで食べづらいリンゴを一つフォークで突き刺し差し出す魔王にユウキは自身の痛々しく包帯の巻かれた腕を見ながらそう答える。


「……ねぇ」


「なに?」


 そんな自身の状態を眺めユウキは一つの疑問を抱く。


「思ったんだけどさ……これってもしかしてあんたがやったの?」


 身体に巻かれた包帯は腕だけには留まらない。

 腕を伝ってほとんど全身に巻かれている。

 詳しくユウキ自身は覚えていないもののまぁあれだけ派手にやられたのだからそんな状況になっているのも無理はないし納得はできる。


 ただ一つ。

 包帯(それ)は全身に巡っている。

 つまり服の下、腰や胸の辺りなんかにも巻かれているのだ。

 仮に包帯を巻いたのが魔王なのだとすれば……


「うん」


「――ッ!?」


 ズザザッ、と嫌悪感溢れる目を魔王に向けながらユウキは後ずさる。


「と、言いたいところだけどやってくれたのは全部セレンだよ」


 そんなユウキの様子に苦笑を浮かべながら魔王はそう続けた。


「……ほんとに……?」


「ほんとだよ。せっかく合法的にユウキを脱がせられるチャンスだったのにセレンにひっぱたかれてさ」


「死ねバカ……」


「酷いなぁ……」


 心底残念そうな表情をして最低な発言をする魔王にユウキはゴミを見るような視線を向ける。

 もっともそんなのことはもはや魔王にとっては日常茶飯事なので特に落ち込むことなどなくむしろ最近ではそれに喜びすら感じ始めているのだが。


 絶対に関わってはいけない人種である。


「……ありがとね。ユウキのおかげで死なせずに済んだ」


「……何よ急に」


 突然魔王の口から吐いて出た感謝の言葉に困惑するユウキ。

 そんな彼女を見てまた笑みを浮かべると魔王は続ける。


「ほんとに感謝してるんだ。それに不謹慎かもしれないけどさ……嬉しいんだよ、ユウキが魔族のあの子を助けてくれて」


「……そんなの当然よ。私は勇者なんだから」


「ううん……」


 視線を全く逸らすことなくまっすぐユウキを見つめたまま言葉を紡ぐ魔王。

 それが照れ臭かったのかその美しい純白の肌をほんの少し朱色に染め視線を泳がせながらユウキはそう言葉を返した。

 そんなユウキの言葉を魔王は優しげな声音でゆっくりと首を左右に振りながら否定する。


「……きっと魔王城(ここ)に来るようになった頃のユウキだったら……俺達を、『魔族』を敵としか見ていないユウキだったらそんなことはしなかったと思う」


 そして優しい声音のまま魔王はじっと勇気を見つめそう続けた。

 その目に微かな慈愛と悲しみの色を宿らせながら。


「…………別に、私は今でもあんた達魔族は害悪だと思ってるしあんたは殺すべき存在だと思ってる。ただ……魔族も私達人間と同じように生きているんだって思っただけ」


「……ありがと」


「……なによ、それ」


 本当に、一切の濁りなく、自分の言葉を信じ切っているのが見て取れる魔王の姿にユウキは顔を背けてそう呟く。

 魔族は冷酷で残酷で醜悪な種族。

 ならば、これまで自分が見てきた魔族よりもよほど汚れた人間たちは一体どんな種族なのだろうと思いながら。


「……ごめん。怪我させて、頼ってしまって」


 ユウキの言葉に何を感じたのか。 

 それは魔王だけが知ることで魔王はそれに対して何か返答を返すわけでもなくただ一言気遣うようにそう口にして魔王は部屋をあとにした。


★★★★★


「……全く、随分と人の領地で好き勝手やってくれる奴もいたもんだよな」


 ポツリと魔王は呟く。

 

「ねぇ、テネブル。念のために一応探っておいてくれる?」


「……はい。かしこまりました」


 魔王の言葉に姿を見せずテネブルはそう答えた。


「人の大事なものに手を出すなんてさ……ほんと許せないよねぇ……」


 誰にともなくそう口にした魔王の瞳は底が見えないほど暗く冷たい殺意に満ちていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ