そういう本を、読んだことがある
なんとな~く試しに書いてみた短編小説です。
どうぞお手柔らかに~
私は中学2年生の松下歩美。
私は学校でいじめを受けている。
別に今始まったことでもない。
もともと勉強と読書が好きで、人とのコミュニケーションがうまく取れなかった私は、入学時から周りの子と打ち解けることができずに、いつの間にかクラスで浮いた存在になっていて、気が付くといじめられていた。
理由は自分でもよく分からないが、そういう本を読んだことがある。
彼らにとって私が気に食わない存在で、いわゆる「いじめの対象にしやすいタイプ」なのだろう。
最初はちょっとした嫌味な言葉から始まり、次第にそれは暴言になっていき、「死ね」「キモイ」といった陰湿なノートへのらくがき、上履きを捨てられたりなど、どんどんいじめはエスカレートしていった。
確かに最初の内は、笑いながら受け流したりもしていたが、そんな余裕もなくなった私は、抵抗することもせずにじっとそれに耐えることしかできなかった。
担任の先生に思い切って相談したことはあったが、これといった対処もなく、もう相談することも、期待することもなくなった。
かといって、自分がいじめを受けているなんて、親にはとても言えない。
毎日が辛かった。
辛かったけれど、それでも何とか私は学校に来れている。
その理由は、隣の席に恵理菜がいたからだ。
恵理菜はいつも明るく気さくな子で、彼女とは保育園からの幼馴染だった。
私にとっては親友とも言える唯一の友達だった。
中学に入って私がいじめられても、庇う事こそなかったが、彼女は私を慰めてくれて、いつも一緒にいてくれた。
それだけで私は救われた。
救われたのだ。
2年生の夏のある日、いじめから逃れる場所でもあった屋上で、私はそんなことを考えながら大きな入道雲を眺めていた―――
しかし、その翌日である。
私がいつものように自分の席へ向かえば、机の上には白い菊が生けた花瓶が置いてあった。
初めて経験したいじめだった。
しかし、そういう本を、読んだことがある。
いじめの標的の机に、花の生けた花瓶を置く嫌がらせを。
そういう本を、読んだことがある。
花の生けた花瓶を置くことは、間接的に「死ね」と伝えているのだと。
そういう本を、読んだことが、あった…。
ショックのあまりに茫然自失し、机の前で立ち尽くしていると、恵理菜が登校してきた。
「…おはよう、歩美!」
彼女はいつものように屈託無くそう言うと、私の机の花瓶に刺さった白い菊の花を、時が止まったかのように茫然と凝視した。
それも束の間で、恵理菜は気さくな笑顔を取り繕った。
「あはは、誰だろうねぇ、歩美の机にお花なんか置いたの…大丈夫だからね、歩美…!」
恵理菜はそう言うと、とっさにその花瓶を持ち、白い菊の花をゴミ箱へ捨て、花瓶の水を廊下の流しに流した。
それを見たいじめグループの数人が声を上げた。
「…は?せっかく花を生けてやったのに、アイツまじで意味わかんなくね…?」
「……いや~ないわ~、山下と同じで気持ち悪いやつだな…」
今まで私を庇うことのなかった恵理菜のそんな行動に、私は思わず呆気にとられた。
私だけではなく、いじめグループ以外の傍観者達も、恵理菜の行動には驚いているようだった。
当たり前だ。
私を庇うことは、次のいじめの標的になることを意味するのだから…。
戻ってきた恵理菜は、自分の席に腰を下ろすと、私の方を見ながら口を開いた。
「…大丈夫だよ歩美。…私、大丈夫…大丈夫だよ……今までごめんね、歩美」
震えた声でそう言い続ける恵理菜の目からは、涙が溢れていた。
そんな恵理菜を直視することもできずに、いたたまれなくなった私は、その教室から逃げ出した。
恵理菜は私を庇ってくれたのに、私ときたら逃げ出すことしかできない。
どれだけ怖い思いを抑えながら、私を庇ってくれたのだろうか。
どれだけ勇気を振り絞って、あの花を片付けてくれたのだろうか。
そう考えただけで、気が付けば私の視界は歪み、涙が滂沱として頬を伝う。
弱い私は、あの場で泣くことすらできなかったのだ―――
私はいつもの屋上に逃げ込むために、ドアを握り締め捻った。
が、なぜか開かない。
何度捻っても、何故か開かない。
なんで、どうして、開かないの…?
ハッとした。
keep Outと張り巡らされた黄色いテープ。
立ち入り禁止と大きく書かれた張り紙。
そういう本を、読んだことがある……
事件があった時に、立ち入られないようにするための、バリケードテープ…。
私は、
わたしは、
昨日屋上で
飛び降りて死んだのだ。
自分が死んだことに、気づかない幽霊がいる……
そういう本を、読んだことが、あった
サスペンスというかホラーというか、物語の構図としてはありがちなネタですね笑