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フロンティア  作者: 胡蝶
第一章 獣人ギルド『ケットシー』
3/4

兎耳仕事人

うさ耳星人うっさみーん(爆)

 建物の中は20名ほどが入れる大きさの部屋があった。部屋の中央には通路があり、奥には掲示板が、通路の左右には酒場のような机といすがあった。ハクアが建物の中を見回していると、前から5名の獣人たちがハクアたちのいる扉の方へと向かってきていた。ハクアを案内してきた猫耳少年は彼らと2,3言会話を交わすと、ハクアの方へと振り向き、


「すまねぇ、待たせたな。上で話そう。着いてこい」


と言った。

 1階が大部屋1つだけなのに対して、2階はギルドメンバーの居住区となっているのであろう多くの個室で成っていた。猫耳少年は一番奥の部屋へと案内した。部屋の中は書類や資料が積み重なっており、整理がまったくされていなかったが、部屋の主である猫耳少年はどこになにがあるのか全て覚えているかのように、書類の山の中からイスを2つ取り出して、ハクアを座らせた。


「さて、さっきも言ったが、ようこそ獣人ギルド『ケットシー』へ。俺はここの代表者のゲイルだ。よろしくな」


「俺はハクアだ。よろしく。冒険者ギルドや商人ギルドは聞いたことがあるが、獣人ギルドというのは初めて聞いたよ」


 お互いに自己紹介をしながら、ハクアは疑問を猫耳少年――もといゲイルにぶつけた。冒険者や商人が集うギルドという存在をハクアはルージュから聞いたことがあったが、獣人ギルドなるもののことは聞いたことがなかったのである。そのハクアの疑問に対し、ゲイルは慣れたように答えた。


「あぁ、よく聞かれるよ。俺が独自で始めたもんだ。ヒトでは難しいことでも獣人にとっては簡単にできたりするからな、そういう仕事と後は…まあ、そんなところだ」


 ゲイルは何かを言いかけたがやめて、そんなことより、とハクアに改めて向き合った。


「単刀直入に言うぜ?一時的にでもいい、『ケットシー』に入らないから?どうしてそんなことをって顔をしてるな。理由は簡単、ただのお節介だ。あんた、えーっとハクアだっけ?はちょっと世間知らずにもほどがある。見たところ旅をしているようだけど、今のままじゃ苦労するぜ。俺は獣人はもちろん、他の亜人にも苦労してほしくない。不幸になってほしくないんだ…」


 と、ゲイルは少し表情に陰りを見せるが、そこまで話すとパッと表情から陰りを消して、ハクアに尋ねる


「それで、どうする?もちろん待遇は他のギルドメンバーと同じにするし、ハクアが十分に常識を身につけたら、自由にしたらいい。どうだ?旅の資金を得るついでだと思ってよ。頼む、手助けさせてくれ」


 そんなゲイルの姿を見て、ハクアは思わず笑いをこぼした。


「あははっ、なんで助けてくれるゲイルの方がそんなに頼み込んでいるんだよ。あぁ、それじゃあお言葉に甘えて『ケットシー』の世話になるとするよ。その分張り切って仕事はさせてもらうさ、ゲイル。いや、ゲイルさんって言った方がいいか?」


 ハクアの答えにゲイルの表情は和らいだ。


「いいや、一時的とはいえ『ケットシー』の一員になるんだ。ハクアはもう俺たちの仲間であり、友であり、家族だ」


 ハクアはすこし呆気にとられたが、右手を差し出して言った


「ああ、よろしく。ゲイル」


 ハクアとゲイルは熱い握手を交わして、お互いに自身の話をしたり、これから暮らす部屋や依頼料の取り分などギルドでのルールや過ごし方の説明をしたりして、1階へと降りた。


「おやおや、また新人くんを捕まえてきたのかな?ゲイル」


 1階に降りるとゲイルにそのように話しかけきた少女がいた。その少女は栗色の髪と頭から伸びる長い耳(これも髪と同じく栗色だ)があり、瞳は赤く輝いていた。その笑顔は多くの男性を魅了してきたのであろう可愛らしいものであった。


「アリス、ちょうどいいところに。こいつはハクア、一時的にだが、うちに入ることになった。本当なら俺が仕事の手順まで教えたいんだが、生憎とまだ処理しないといけないのが残っててな。頼まれてくれないか?」


「ええ、わかったわ。ハクアくん、私はアリス。兎の獣人よ。よろしくね」


 ゲイルの頼みに、アリスはいつものことよと引き受けた。ゲイルが今回のように新人を連れてくることはよくあることであり、そのたびに新人の世話をアリスに頼んでいたのであった。

 アリスは掲示板の前に立った。掲示板には所狭しと紙が貼られており、アリスは一通り見終えるとそのうちの一枚を手に取った。


「最初の仕事はこれにしましょうか。物品運搬の仕事」


 そうしてハクアとアリスはギルドを出て、運ぶ物品の受け取り場所として指定された場所へと向かった。そこは裏通りの中でも群を抜いて人通りが少ない場所であった。ハクアとアリスがそこに到着すると、誰もいないその場所でアリスがキョロキョロと辺りを見回した。しばらくそうしていたアリスは何かに気がついたように道の隅にあるガラクタの山へと向かい、すぐに小さな箱を持ってハクアのもとへと戻ってきた。


「それが頼まれている物か?依頼者は…?」


 というハクアの問いに


「さてね、おおかた万が一顔がバレるのを避けたかったんでしょ。さあ、あまり時間もないわ。さっさと終わらせちゃいましょう。詳しいことは仕事の後で」


 と、アリスは小声で、そして早口で答えた。

 ハクアとアリスはそれから無言のまま、極力表通りに出ないようにして移動していった。そして一見何もないようなある裏通りへ着くと、隅に依頼品である小さな箱を置き、静かに立ち去った。

 そのあとアリスはハクアを街の中でも高台となっている場所へと連れて行った。そこは人通りが少なく人目にもつきにくい場所で他人には聞かれたくない話をするのに絶好の場所であった。


「ごめんね、なんの説明もなく。でもハクアくんには早めにこういう仕事もしてるっていうことを教えたかったからさ」


 先ほどまでのピリピリした様子とは一転してアリスがそう謝った。


「こういう仕事っていうと、人に知られてはいけないような仕事のことか?」


「そう。まあ私達の能力を買ってる仕事もたまにはあるけどね、そうじゃない普通の仕事は冒険者ギルドに取られちゃうから。私達は冒険者ギルドでは出来ない仕事、もしかしたら犯罪とかに関わってるかもしれない仕事とか危険な仕事が多いのよ。まあ、流石に直接的に犯罪に関与するような仕事は受けてないけどね。今回は指定の時間に指定の場所から指定の場所へと物を運ぶ仕事。物がなにかは気にしない方がいいよ、下手に首突っ込んじゃ駄目だからね。興味本位で近づいていなくなっちゃった子もいるんだから…」


そう言ったアリスの雰囲気に飲まれてハクアは何も言うことができなかった。


「っと、ごめんごめん。変な空気にしちゃったね。そうだな…まだ時間もあるし雑談しよう!ここなら人も来ないしね」


 2人は日が暮れるまで語り合った。アリスはハクアのルージュとの訓練の話がいたく気に入ったようだった。アリスはギルドでの暮らしについての話をした。基本的には皆節約をしていること、貯めたお金はもっぱらたまに行われる宴会に使っていること、朝と晩の食事はアリスが皆の分も作っていること、幼い獣人の面倒もギルドで見ていること、ギルドメンバーたちの特徴など、それはこれからハクアがギルドに馴染みやすくなるためにも有益な話であった。そして話題はゲイルのことへと移る。


「あいつ、ゲイルさ、面白いやつでしょ?自分にはなんのメリットもないっていうのに、いろんな人を連れてきては助けさせてくれってさ…ちょっと昔話するね。ゲイルとゲイルのお兄さんと私は同じ孤児院の出でさ、幼なじみってやつ?今でこそあんなにリーダー然としてるけど、その頃は泣き虫でね、なにかあればすぐにお兄ちゃん、アーちゃん…ってさ。まあ可愛かったしイジりがいもあったんだけどね。その孤児院、私達3人以外はみんなヒトの子でね。当然と言っちゃ当然なんだけど、獣人の私達はいろいろと虐められてたわけよ。子供にも大人にも。そんな魔の手から守ってくれてたのがゲイルのお兄さん、ウェイバーさんって言うんだけど。ウェイバーさんね、19の頃に死んじゃった。そのときまだ11歳で大人に聞くしかなかった私達は詳しくは知らないんだけどね。まあ迫害の延長線上でしょう。ゲイルもそれがなんとなく分かったんだろうな…いつも泣いてるくせにそのときは私の手を取ってね、逃げようって。ぼくがアーちゃんを守る。ぼくがお兄ちゃんみたいになるってさ…ま、そんなわけでゲイルは『ケットシー』をつくって獣人の子たちを護ろうと決めたわけ。だから、なんというかな…ハクアくんにとっては突拍子もない話で信用できないかもしれないけど、怪しまないであげないで。あ、これゲイルには私が言ったって内緒ね。この話人にするとすぐ怒るんだよなぁ」


「そりゃ、勝手にその話をしたら怒られるよ。わかった。内緒にしておく」


 とハクアは答えるとなんだか可笑しくなって2人して笑っていた。ひとしきり笑い終えると、アリスは言った


「ありがと。さて、そろそろ帰ろっか。ハクアくん」


 そうして煌めく夕日を背にして2人はギルドへの帰路についたのだった。

Tips:王国

 ユエン大陸唯一の国。ユエン大陸の周囲の海は強力な魔物のテリトリーとなっており、未だに他国との関係性を持っていないため、区別する必要もなく、ただ『王国』とだけ呼ばれている。

 王族の姓は『スメラギ』であり、国王と女王には王子一人と王女一人の2人の子供がいる。

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