猫耳旅先案内人
ケモ耳の章のはじまりダッ
俺には責任がある。あいつらを導いてやる責任が。あいつらを生かす責任が。
決して迫害の対象なんかにはしない。そのためなら、なんだってやってやる。耐えてやる。この街のヒトにとって俺たちが、あいつらが必要な存在となるために…
ハクアは最果ての森を出て、最初の街に到達した。ここに来るまでの数日、ただひたすらに街道もない森を歩き通しだったので、いつ着くかと不安に思ったが、幸い水や食料を使い果たす前に街にたどり着くことができた。その街はとても整備が行き届いているとは言いがたいが、この辺りでは発展している方なのであろう、道には露店が出ており活気のある街であった。
ハクアはろくな準備もせずにルージュに叩き出されたため、この街で旅の準備をすることに決めたのであった。
街へと入るとその喧騒は更に増してくる。生まれてこの方、寂れた村とルージュが拠点としていた最果ての森での生活しか知らなかったハクアにとって、この光景は珍しいものであった。
(そういえば腹が減ったな)
などと思い、ハクアは肉の焼ける良い香りを漂わせている露店へと向かった
「それ、一つくれ」
と、ハクアが注文をすると、店主はハクアのヒトとしては珍しい髪の色について尋ねた
「ずいぶんと珍しい髪の色ですな。染めておられるので?」
なかなか流通しているものでもなく、そのため金も多くかかるため一部の貴族にしか使われていないが、髪を染める技術は一応ある。もしも染めているのであれば粗相があってはならないと思っての発言であった。
「いいや、遺伝だよ」
ここでハクアは一つミスをした。長年ルージュとの二人きりの暮らしであったのと、親の他に鬼種や亜人といった者を見たことがなかったため、遺伝だと伝えただけでは自らが鬼の子であることがバレないと思ったのである。しかし…
「遺伝だと…?白髪が遺伝として出るってこたぁ、てめぇ亜人ってことかぁ?あぁ!?」
生まれたときから遺伝として白髪が現れるのは、鬼種の血が通っている証である。鬼種はその他にもヒトとの違いとしては角があるのだが、普通それは髪に隠れており見えないため、白髪が目印にされている。もちろん老いれば髪は白くなるし、前述したように髪を染めているという場合があるので、見た目だけでは判断できないのだが。しかし、ハクアは遺伝とハッキリ言ってしまった
「亜人がなんでこんなところにいやがる!亜人ごときが、なんで客の真似事してんだ!あぁ?」
「なっ!?」
店主がハクアに殴りかかろうとし、ハクアがそれに対抗しようとしたときに、誰かが間に入ってきた。
ハクアと同じ頃の年のように見られるその少年はヒトにはない特徴があった。それは頭の上の猫のような耳と服の中から伸びた尻尾である。
「すいやせん、旦那!少々、少々お待ちを!」
「あぁ?てめぇはケットシーのとこの…」
猫耳少年の姿を見ると、店主は冷静さを取り戻した。猫耳少年はそれを見て突然の乱入者に唖然としているハクアの頭を無理矢理に下げさせる
「こいつはウチの新人でして。よそから来たのを拾ったのでまだまだ礼儀というものを知りませんでして。旦那にご迷惑をお掛けしたようで申し訳ない」
そして猫耳少年もともに頭を下げた。それを見て店主は怒りを収めて
「ったく。新人教育ぐらいちゃんとしとけ」
と言うと、猫耳少年はハクアの腕を引っ張り、路地裏へと連れて行った。猫耳少年は周囲に誰もいないのを確認すると、ハクアの腕を放し、先ほどまでのへりくだった話し方とは一転し、激しい口調でハクアに詰め寄った。
「あんた一体どういうつもりだ!亜人があんなに堂々と人前にでて。俺がたまたま近くを通りかかったから良かったものの、そうじゃなかったら大騒ぎになってたぞ!」
「あ、あぁすまない…いままで人とあまり接することがなくてな。それにまさかこの髪の色だけでバレるとは思わなかった。だけど助かったよ。ありがとう。」
と、ハクアは猫耳少年の豹変ぶりに戸惑いながら返した。
「バレるとは思わなかったって、いままでどうやって生きてきたんだよ…まあいいか。とりあえずこんなところで立ち話もなんだ、こっちに着いてこいよ。」
猫耳少年はハクアに呆れながら、ハクアを連れて路地裏の更に奥へと歩き出す。奥へ奥へと進むと、幾分か開けた場所に一つの建物が見えた。周りは背の高い建物に囲まれているため陽の光が届いておらず、一見ぼろ屋のように見えるが、よく見るときちんと整備が整っているようであった。建物の中心からは一本の大樹が伸びていた。
その建物の扉を開きながら、猫耳少年は振り返り、ハクアに言った
「ようこそ、同胞よ。ここが獣人ギルド『ケットシー』だ。」
Tips:ユエン大陸
ユエン大陸は人の住まう王国と、魔物の住まう魔物の地で構成されている。近年、魔物の地への進行が進んでいるが、未だ大陸北部の詳細は判明していない。