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フロンティア  作者: 胡蝶
プロローグ
1/4

フロンティア

ト書きむじゅかしい!!!

人歴1020年冬 燃える村


走れ、走れ、走れ

振り向くな、振り向けば恐怖で動けなくなる

ただひたすらに、走れ…




それは、きまぐれだった。

救うつもりなぞ欠片もなかったが、まだ10にも満たないであろう少年の眼を見て心が変わった。村が魔物に襲われ、家族も友人も失ったであろうに、それでもまだ生きることを諦めない眼。

面白そうだと、そんな興味であたしは彼を救ったのだ。




少年が目を覚ますと、知らない天井だった。

少年のすぐ側には、これまた知らない人がいた。

母ほどの年齢であろうスレンダーで美人なその女性は、しかし前髪に隠れた左眼と鋭さを持った右眼と口元が、人を寄せ付けない雰囲気を漂わせている。


「お姉さん、だれ?ここはどこ?」


少年はまだ幼いが、聡明であった。白髪黒眼の自分の見た目を見てもなお親切に振る舞った女性に対して警戒心を抱いていた。


「あ?起きたのか。なんだ、そんなに警戒するこたぁないよ。あたしはルージュ。ほら、とりあえずこれを飲みな、温まるよ」


ルージュと名乗ったその女性は男勝りだが安心させるような口調で語りかけ、温かいミルクを差し出した。


「…ありがとう」


最初こそ警戒心を抱いていた少年だが、ルージュのその見た目にそぐわない温かな雰囲気に心をほぐし、自分の生い立ちを語った。


「ぼくは、ハクア。お父さんはヒトだけど、お母さんは鬼種…村の人たちは、嫌い。お母さんが鬼だってだけでぼくたちをいじめるんだ…!……もう皆、燃やされちゃったけど…魔物に襲われて……」


ポツリポツリとハクアが語るのを、ルージュは最後まで聞き続けた。話し終わったハクアは話疲れたのか、またしても眠りに落ちた。


「そうかい、あんたやっぱりヒトと亜人の子、半亜人だったか。髪に隠れた2本の角を見たときにもしやとは思ったけどねぇ。純粋な鬼じゃあ、子供といえどもあんなに短くない。しかし、半亜人か…これは珍しい子を拾ったもんだ……私にとっては都合がいいから問題ないけどねぇ」




ルージュはハクアを保護することを決め、ハクアもそれをよしとした。そうしてルージュとハクアは共に暮らし始めた。初めこそハクアはルージュに対して遠慮していたのだが、時が経つにつれそれも薄れていった。そんなある日。


「ねえ、ルージュ。すっごい今更なんだけどさ」


ハクアは夕飯を作りながら(ルージュは料理は上手くなく、食事作りはハクアが担当していた)、ソファに寝そべっているルージュに尋ねた。


「ルージュって、ぼくを助けてくれたんだよね。でもどうやって?たくさん魔物がいたはずなのに!」


「どうやってって、そりゃあんた、魔物を倒したに決まっているでしょう」


ルージュは気だるそうに起き上がり、その問いに答えた。


「倒した!?うわっとと、危ない危ない」


興奮のあまり、フライパンのものをこぼしそうになり、料理に集中しようと反省する。しかしすぐにルージュってすごく強かったんだ!などと考えてしまい、集中などできていない。

結局ハクアは料理ができあがるまでこのことをずっと考え続けていた。

夕食を終え、ルージュがまた一眠りするかと考えていると、ハクアがねぇと話しかけてきた


「ねぇ、ルージュ。ぼくにね、戦いを教えて欲しい。ぼくもルージュみたいに誰かを助けられるようになりたい。」


「ハクア、本気か?」


ルージュは一瞬ビクリと固まると、そう返した


「うん。ぼくもルージュみたいになりたい」


戦うとはどういうことなのかわかっていない、覚悟もない、そこにあるのはただの興味と憧れ

しかしルージュは思った。おもしろいと。おもしろい。まさか、ここまで……


「いいだろう。それじゃあ今日からあたしのことを師匠と呼びな。あたしがあんたに稽古をつけてやるよ」






そして、それから8年の時が経つ

人歴1028年 ユエン大陸最南 最果ての森


普段は人の近づかないその森に、金属音が鳴り響く

例えキンカンキンカンと鳴る音に気づいた者がいたとしても、その音の出所は並大抵の者には見つけることはできないだろう

その音も不意に途絶え、代わりに二つの人の声が聞こえてくる


「はあ、負けだよ負け。また負けだ」


片方は青年らしい低い、少し諦めが混じったような声が


「ふん、あたしに勝とうだなんて100年早いよ。だが、もうそろそろ頃合いか」


もう片方は女性にしては低めな声が


「頃合い?何がだよ。師匠」


青年─かつて魔物に襲われた村から救われたハクアという少年は立派な成長を遂げていた─は自らの師匠に対して疑問の眼を向けた


「ハクア、ついてきな。話がある」


女性─ルージュは8年の時が経ったにもかかわらず、かつての姿を保っている─は森の切れ目の崖となっている場所へとハクアを連れて行った

その場所はかなり高いところにあるのだろう。地平線まで見えていた。


「あんたは街に出ないから知らないだろうけど、最近フロンティアって言葉が世間を騒がせている」


突然、そんな話を始めたルージュにハクアは訝しげな目線を送るが、ルージュはかまわず話し続ける。


「そういえば、ハクア。あんた誰かを守れるようになりたいって言ってたね。今でもその気持ちは持ってるかい?」


「なんなんだよ、いきなり……そうだな。もし、俺と同じ境遇の亜人や半亜人がいりゃあ、救ってやりたいよ。俺は、それだけ力はあると思う」


ルージュが何の話をしたいのかと、戸惑いつつもハクアは答える。そんなハクアの答えにルージュは


「はっはっはっ、うぬぼれるんじゃないよ。あんたはまだまださ、そうだね、王国の並の兵士と同等に戦えるだろうが、その程度さ」


と、大声で笑ったがそれもすぐに止み、ルージュは普段はしないような真剣な顔をハクアに向ける


「だが、それだけあんたは成長した。もう私の手から離れるべきだろうね。さて、それではさっきの話の続きだ」


「続きって、フロンティアとかいうやつか?」


「ああ、そうだ。この8年で世界の情勢は大きく変わった。以前は魔物に襲われれば如何に被害を抑えられるか、半壊であれば上出来といったところだったが、今はもう違う。人は魔物のテリトリーへと進軍を始めた。が、魔物の恐ろしさをまだ忘れているわけではない。その進軍とやらも国の兵士だけじゃ人手不足らしい。そこで王国が打ち出したのがフロンティア政策だ」


ルージュは自分が何を言おうとしているのか理解していないだろうハクアの顔から地平線の方へと眼を向けて、さらに続けた


「魔物のテリトリーを制圧したものは、その土地を手に入れられる。どうやら魔物も街のようなものを作っていたらしくてな、その魔物の街を制圧すれば、その街は制圧した者が支配する土地となるわけだ。」


ハクアはルージュがまた自分へと目線を戻すと、自らの師匠が次に言うであろう台詞を先取りする


「俺にそのフロンティアとやらに乗っかれって言いたいのか。何のために?自分磨きか?」


ルージュはフッと笑い、それに答える


「いいや、それもあるが、だが違う。あんたは亜人たちを救いたいと言ったね。手に入れた土地の法は、手に入れた者にある程度は委ねられる。あんたが作るのさ、亜人や半亜人のための街をね。その街では亜人への迫害をなくせるだろうね」


ルージュはニヤリとして、未だにポカンとしているハクアに言い放つ


「さあ、これが次の修練さ!旅にでな、そこではあんたがまだまだ知らない現実や、あんたに賛同する者が、あんたの考えを受け入れない者がいるだろう。仲間を集めて、周囲をはねのけて。そして亜人たちを救ってみせな!ハクア!」





こうして、ヒトと鬼の子ハクアの物語は始まった。

とはいえそのスタート地点は大陸北部の魔物のテリトリーから最も遠い、最南端最果ての森

果たしてハクアの物語はどのように紡がれていくのでしょうか



Tips:亜人

亜人は鬼種、精霊種、エルフ種、ドワーフ種、獣人種がおり、ヒトとは別物と扱われる。一般的には亜人とその血を次ぐ者は迫害の対象となっている。

大きくはこの5種であるが、それぞれの種でさらに細分化されている。

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