伝承
日常が終わってゆく中、介はずっと前に聞いた伝承を思い出した。
その名も『五つの魔法』。
神様が人間を試すために置いた杖で五つだけ願い通りの魔法が使えると言う伝承だ。
一つは星を守り、二つ目はたった一人の人間に力を与え、三つ目は人に進歩を与えた。
四つ目と五つ目はまだ使われていないという内容で、当時の子供たちにいろんな夢を与えていた。
今思い出すことがばからしいが、記憶に強く残っている理由がある。
魔法を使えば使うほど人に不利益が降りかかるようになり、五つ目を果たした時点で地球が滅ぶと言うまさしく子供に教えることに適していない内容だったからだ。
当時は信じていた、だが今では使えたらどれだけ楽ができるだろうというような感じだった。
そもそも今になってそんなこと覚えている人がいるのかという疑問さえ湧く。
そんなことも考えている暇ももうない。特に介たちには。
支度を済ませ、集合したのだが、そこには竹斗に加え、元島と岡島までいた。
また、もう一人気の弱そうな少年だった。
「全員来たか、まずは改めて自己紹介とでもいこうか。」
元島がそう言って自分から始めた。
「俺は元島 公、赤威中学校三年だ。そして戦技士であり、この小隊の隊長を任された。これからよろしく頼む。」
赤威というのは、かっこつけた名前ではなく、介たちがいる場所の名前であり、正しい名前はは赤威島と言う。その島にあるから赤威中学校と言うのだ。
「しかしまあ、学校名までいう必要は無いだろうな、赤威島にはあれ一つだけだからな。」
「じゃあ俺続きまーす。」
そう言って竹斗が続いた。
「風雁 竹斗っていいまーす。中二でっすよろしく!」
竹斗が元気よく言うと介に死線が向けられた。
「永井 介といいます、竹斗と同じく中二です。よろしくお願いします。」
知り合いでも自己紹介をする必要がこれまでなかったため、介には歯がゆい体験になった。
「じゃあ僕行きます。」
「僕は岡島 一馬です。元島の同期で、前は救護班でした。」
その次に初対面の少年が出てきた。
「新崎 悠人といいます。赤威中学一年ですが宜しくお願い致します。」
見た目とは裏腹にかなり堂々とした自己紹介だったため、介は少し驚いた。
「なら全員が揃ったところで、作戦司令部からの伝言を通達する。」
「『本日五月十七日から四日後、五月二十一日に特殊人型機動兵器『要鎧』五・零式の搭乗訓練、及び、譲渡を行う。チームとしての意識を高めるために小隊用訓練を用意した。これを五月二十一日までに完遂せよ』とのことだ。」
「訓練ってなんですか隊長?」
岡島が内容を尋ねた。
「からかってるようにしか思えないが・・・まぁいい。内容は合宿だ。」
「学校の方はどうなるんですか?」
新崎の言葉で竹斗は凍りついた。
どうやら学校をさぼりたいらしい
「学校の方は並行して行う。ただ帰ってくるところが変わるだけだな。」
再び竹斗が凍り付いた。
「やべぇよ・・・介、俺学校さぼるつもりで聞いてたのによ・・・。」
「全部自業自得だろ。」
「そんな無情なッ!?」
元島がこちらに気付いた。
「そこはなにを話しているんだ・・・。まさか風雁、お前学校をさぼれると思ってたんじゃないだろうな?」
「イイイイイエソンナコトハゴザイマセン!」
「嘘つけ、馬鹿野郎。」
「信じてくれよッ!?」
元島はため息をついた。
「お前戦技士の自覚あんのか・・・。最初どれだけ有能かと思ってたんだぞ・・・。」
「前者を切り離して後者だけでオネガイシマス。」
元島は一馬に言った。
「なぁ、一馬、風雁を何とかできるか・・・?」
「部隊長しっかりしてくださいよ。」
「お前なぁ・・・!」
「そろそろ、話を進めてください、お願いします。」
新崎が全体に注意した。
「あぁ・・・了解した。」
「合宿と言ってもかなりきついことがある。」
竹斗がまさか、と言わんばかりに振り向いた。
「携帯やゲーム機は使用禁止だ。また、電子機器は装備転送用端末以外持ち込み禁止ということになっている。
その他に許可されたものは一定額小遣いのみだ。」
竹斗が沈黙し、あきらめの表情を浮かべた。
しかし、なぜか顔をあげたときにはニヤニヤしていた。
「要鎧を受け取りに行くのは俺たちだけじゃないんすよね?」
「どうした。なんで知ってるんだ?」
「いやぁ、合宿つったら、他の隊もいるんだろうと・・・。」
また元島がため息をついた。
「お前・・・。まさか・・・なにか悪戯でもしようって言うんじゃないだろうな・・・?」
「いやぁ、そんな馬鹿なこと竹斗でも考えないでしょう・・・。」
介がフォローをかけるも、竹斗は凍り付いていた。
「いやいや、そんなことは。」
その様子を見た介も凍り付いた。
「女子いたら・・・覗き・・・したいなと・・・。」
「そこ正直に言うのかよ!?」
「介、まさか・・・お前もかッ!?」
「そんなわけあるかぁぁぁぁあああ!?」
「茶番は終わりだど変態共オォォォォォォォ!」
「だから俺は冤罪ですって隊長ォ!?」
元島は叫んだあと、咳払いをして言葉を続けた。
「ともかく、合宿は二日間行うので明後日までには何とかしろ!」
「よく聞きゃ無茶苦茶なこと言ってるぞこの人!?」
「いやぁ、騒がしいというか、楽しげというか、面白い部隊になりそうだねぇ。」
「岡島ァ!お前はのんきなこと言ってないで事態の収拾をつけてくれぇ!」
「二年めェ・・・。」
その日、うるさい精鋭部隊が来たと司令部に苦情が来たという。