第5.5羽[外伝] 人鬼-ショウジョ-の為に狼-イヌ-は鳴く
今回の話、いつもの2倍程長いです。
前・後編に分ける内容でもないので、一つの話
として投稿しました。
やあ、僕だよ? 帝様だよ!
本編に1回しか登場してないし、姿も見せてない
不遇なキャラの帝様だよ……
これから、出番が増えるかなぁ、ブツブツ……
ご、ゴホン! 今日は、ある〝村の過去〟に
ついて話に来たんだ。
僕って暇だからね、話し相手が欲しいんだよ。
じゃあ、話すね……
今よりはるか昔、川の辺に人鬼が
住む村があった。
その村で過ごしていたうちの、一人の少女
の日記を元に、物語を進めよう。
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陰陽歴 928年 央夏季の7・晴
ある日、川で遊んでいた私の元に、1匹の
薄汚れた子犬が走ってきた。
「あ! 可愛い~♡ おいでおいで!」
その子犬の様子を見た私は、とりあえず
川で体を洗ってあげようと思い、呼び寄せた。
だけど……
「あ、あれ? なんでそっぽ向くの?」
子犬は、私から目をそらし、そっぽを向いて
モジモジとしているだけだ。
「・・・・あ、私が裸なのがいけないのかな?」
川遊びで服が濡れてはいけないと思い、
服を脱いでいるのを忘れていた。
岩に置いておいた布で体を拭き、急いで服を着てから、
「ほら、服を着たから……ね? おいでおいで!」
子犬を呼ぶと、今度はちゃんと私の元に来てくれた。
「よしよし! ちゃんと体を綺麗にしましょうねぇ」
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陰陽歴 928年 央夏季の8・曇
昨日出会った子犬は、お父さんとお母さんを
説得して、家で飼うことになった。
「飼うからには、名前を付けてやらんとな。
どうする? やっぱ自分で名前を付けたいか?」
お父さんに名前を付けるように言われた後、
私は悩みに悩んだ。
そして、体を洗ってあげた後の子犬が、
銀色の体毛・赤色の目のカッコイイ子だったから
〝ポチ〟と名付けることにした。
「よろしくね、ポチ!」
ポチが、グルル…… と、少し嫌そうなうなり声を
出した気がするが気のせいだと思う。
・・・・そうだ。明日、首輪を買いに行こう。
名前を書いておかなきゃね。
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陰陽歴 928年 央夏季の11・晴
今日は満月の夜。月が見たくて、夜の外に出てみた。
いつも川遊びをする場所まで行くと、岩の近くに
人影が見える。
「・・・・誰か居るの?」
声をかけてみると、その人影は私に近寄ってくる。
近づくにつれ、人影の異様な姿が見えてきた。
布をポンチョのように羽織っただけの格好
も異様だけど……
「初めまして……かな? 可愛いお嬢さん」
銀色の髪の間から獣耳を生やし、赤色に光る
目の男の子。怪しく微笑む口元から、八重歯がのぞき、
その子の怪しさを、更に引き立てていた。
「良かったら、俺と遊ぼうよ」
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陰陽歴 928年 央夏季の18・晴
最近、夜にあの子と遊ぶようになった。
だけど…… あの子、朝や昼間には
遊んでくれない。
いや、その間はこの村に居ないのかもしれない。
そう、確信を持って思えた。
だって私、あの子の〝正体〟に気がついたから。
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陰陽歴 928年 央夏季の19・曇
今日も、いつもの時間に、いつもの場所で
あの子と会う。
いつもの布に、赤色の首輪。
その首輪に、こう書かれていた。
〝ポチ〟って。
「やっぱり、そうだと思った。君、ポチなんでしょ?
銀色の髪・獣の耳・赤色の目・赤色の首輪・
私が無くした、川遊び用の布。全て……
全てが〝俺はポチだ〟って、伝えてるような
ものなんだもん」
男の子に聞いてみると、驚きもせずに
「そうだよ、ご主人。君と遊びたくて
人鬼に化けて出てきたんだ。
まあ、実際は…… 〝人狼〟である俺の、不思議な体質のせいなんだけどね。
でだ、ご主人様。ご主人様はまだ、俺と遊んで
くれるのか?」
自分の正体を教えてくれ、私と遊びたいと
言ってくれた。
私は、次の日も遊ぶ約束をして、家に帰った。
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陰陽歴 928年 後夏季の3・曇
あの子の正体がポチだと分かってからも、
私は毎日、夜になるとあの場所に行って
ポチと遊んでいた。
そんな毎日だけど、今日だけ少し違った。
「俺は、君が望めば〝忠実な番犬〟にもなる。
君が望めば〝獰猛な狼〟にもなる。
でも、君がそれ以外を望むなら……
俺は〝人として〟君を…… 愛せる。
人狼である俺は、君を愛してはいけないか?」
ポチが、私に告白をしてきた。
顔を真っ赤にしながら、真剣な表情で。
言葉を聞いてから、数秒は頭が真っ白になった。
まさか、ポチがそんな事を思っていたとは
考えもしなかったから。
でも、答えは決まっていた。私は……
「いいよ、愛してくれて。いや、愛させて。
私も…… ポチの事、愛してるから」
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陰陽歴 936年 前秋季の21・晴
ポチからの告白から、何年がたっただろう。
私も、もうすっかり大人の女性になっていた。
ポチも、狼の状態でも人の姿でも、大きくなった。
とても美しく、頼もしい姿に。
あの頃から成長した私達だけど、あの頃と
変わらない事がある。いつもの場所での、
二人で話す時間だ。
川のサラサラと流れる音を聞きながら、
二人寄り添って岩の上に座る。
そんな時間を過ごしているだけで、とても
幸せを感じられた。
そう、いつものように川の音を聞いていると……
ポチがあの頃と同じような表情で、私に
「結婚しよう」
一言だけのプロポーズをしてくれた。
「言うのが遅いよ……」
私は、涙を流しながら返事をした。
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陰陽歴 940年 央春季の25・晴
結婚してから、数年間経つ。
その間、山奥に家を建てて、過ごし始めたり、
息子1人と娘1人を授かっていた。
村から離れた生活で、不自由が無いとは
言いきれないけど、とても幸せな毎日だった。
そう、幸せな毎日〝だった〟。
いつものように過ごしていた今日の朝、ふと
家族の顔が見たくなり、両親に孫の顔を見せに
行こうと、子供たちを連れて山を降りた。
主人のポチには、家で留守番をしてもらう事にした。
まあ、ある意味〝番犬〟だしね。
「おかーしゃん、どこに行くの?」
「にぃ、どこに行くんだろうね! ワクワク!」
子供たちは、山を降りるのは初めてだ。
初めての道、初めての光景に胸を踊らせている。
更に山を降り、村についた頃には、日が頭の上まで
動いていた。
初めは元気の塊のようなはしゃぎっぷりだった
子供たちも、その頃にはヘトヘトで、疲れ果てていた。
村に着くと、実家に一目散に向かう。
「ただいまー! 帰ってきたよー!」
家に向かって大声で呼ぶと、扉がガチャリと開いた。
「あら、あらあら! いつ帰ってきたのよもう!
お父さん! 愛しの愛娘が帰って来たわよ!」
お母さんが、玄関から大声でお父さんを呼び、
久々に私たち家族が顔を合わせた。
「いやぁ、ほんと綺麗になったもんだなぁ。
あの日、村を出ていくと言い出した時は、
どうなるものかと……」
お父さんが、私の顔を見ながらしみじみと
昔の話をし始めると、途中で言葉を途切れさせ……
「で、その男の子と女の子は、〝誰と誰の〟
子供なんだ?」
ゆっくりと、ドスの効いた声で、私に問いかけてきた。
「誰って…… 私の子にきまって」
「もし、そうなら…… 相手は誰だ?!
こんな…… 獣耳生やした奴なんて、この村
で見たことないぞ! 一体誰なんだ! なぁ!」
初めて見る親の表情。そんな顔を見るのが怖くて、
私は、何も答えられなかった。
子供たちも、知らない男の人に怒鳴られて、ただ
怯えて泣いていた。
「なんとか言ったらどうなんだ! こんな……
〝バケモノ〟を連れてきやがって!
くそ…… 久々に顔を見せに来たと思ったら、
こんな忌み子を産んでいただなんて」
お父さんが、子供たちを悪く言ったその時……
私の脇を通り抜け、一瞬でお父さんの首元へ
噛み付く、狼の姿があった。
お父さんの後ろにいたお母さんは、その異様な
光景を見て、泡を吹いて倒れてしまっていた。
「ぽ、ポチ?! な…… なにしてるの?」
動揺しながら聞いてみると、ポチは無言で、
お父さんの首を喰いちぎる。
喉から血とともに、ブプゥと…… 壊れたラッパの様な
音が、弱々しく鳴り響いた。
そんな様子を見てしまった私は、軽く胃の中のものを
吐いてしまう。
そんな様子を見届けた後、ポチが答えた。
「言っただろう。君が望むなら、獰猛な狼にもなると」
「そんな事頼んでない! なんで…… なんで!」
「望んでいた。父親が怒り狂ったその時、君の
目は、殺意の念を映していた。
・・・・俺は、これから〝この村に居る全員〟
を殺す。父親でさえこれなんだ。他の奴らの
反応が目に浮かぶ。なら、殺しても構わないだろう。
じゃあな、愛しき俺の妻よ……」
私は、全てが怖くなり、子供たちと共に
家まで逃げた。
その頃には、もう辺りも真っ暗の筈なのに……
下の方では、赤色の光がチラついていた。
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陰陽歴 940年 央春季の26・曇
次の日、もう1度村へと向かうと、そこには
焼け焦げた廃墟と化した村があった。
こんな状態になった村に、ポチが居るわけがない
のに、私は必死に探し回った。
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陰陽歴 958年 前春季の4・雨
ポチが、あの時私に別れを告げてから、もう
何年もたった。
息子と娘は愛を育み、子供まで産んだ。
それなのに、ポチは……
二度と姿を見せる事はなかった。
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パタンと、古びた一冊の日記が閉じられた。
「日記に書いてあることは、ここでおしまい。
どうかな? 楽しんでもらえたかな?
僕も、いい暇つぶしになったよ。
また、機会があったら、別の話を聞かせてあげるね」
帝様、出番はここですよ?
P.S
日記形式に、自分(少女)の見た目や両親・子供の
姿を書くのは不自然と思い、書きませんでした。
本当の日記を読んでいるように、思い思いの姿を
想像していただけたらと思います。
P.SのP.S
この話は、この小説を書き始める前段階の
設定案の時から考えていて、いつか書こうと
思っていた物でした。
あの頃と考えていた形とは、少し変わって
しまったけど、自分的には満足です。
自己満なだけなんですかね?
P.S.のP.S.の追記
蛙のために鐘は鳴るって知ってますかね?