第2羽 ~極めれば王様~
「ぎぃやあああああああああああ!!!」
『ほらほら、もっと走らんと食われてまうよ?』
「ブァカ! 馬鹿だよお前っ! 勝てっこねぇよ!
誰か助けてぇええええええええ!!!」
この声が聴こえた人、おはようございます。
比内です。
なぜ俺は、必死こいて逃げてるのかと言うと……
「GAAAAAAAOOOO!!!!!」
『いやぁ、元気な虎やなぁ。まだへばっておらんやない!』
「いやぁあああああ!!! へばってええ!!!」
野生の虎に追いかけられているからだ。
元いた川辺を、下の方へ向かって逃げている。
こんな状況、普通だったら死を覚悟するはずなのだが、
『ほら、アンさん! がんばれ♡がんばれ♡』
帝の遣いは、こんな調子だ。
「頑張れじゃねぇーよ! 頑張ってるよ!
そして、後数分で多分死ぬよ! ガブリからのDie!」
こんな風に、ギャーギャーワーワー逃げていると、
川の水の色が、奥に向かうにつれ、赤黒くなっている
のが見えた。
その、異様な光景を見た俺は、不意に立ち止まってしまい、
呆然とその川を見る……
「おいおい、なんだこれ…… 血なのか?!」
俺の言葉に、素早く帝の遣いが答える。
『んー、血やろなぁ。 アテもこんなになっとるなんて
知らなかったわぁ。 ・・・それはさておき、
アンさん、虎の奴さんが自滅しおったで?』
(さておきって……って、虎?! 自滅!?)
俺は急いで後ろを振り返ると、そこには……
大岩にぶつかり、死んでいる虎がいた。
『いやぁ、良かったなぁ。これで、アンさんの
経験がつまれ、身体能力が上がるかんなぁ。
まぁ要するに、〝経験値とレベル〟やな。
虎の奴さんは、かなりの強敵のはずやし……』
「んで、何レベル上がるんだ?」
『んー。9レベル上がって、Lv.30になるなぁ。
もう転生できそうやわ。アンさん、どうしはるぅ?』
なるほど、虎はそこまで強い敵だったわけだ。
まあ、肉食動物の中でも上位に居るだろうしな。
って、ん? なんか今、凄いことが聞こえたぞ?
「え? また転生できんの? マジで?」
『マジや。今の〝地鶏〟の解放レベルが
15やからなぁ。次の転生が30でも、おかしくないんよ。
まあ、これからはこう簡単に転生はしないと思うから、
心配しないでええよ』
「んじゃ頼む! 転生すれば、地鶏よりかはマシだろ!」
俺は、目の前が真っ暗になった!
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『ギャハハハハハ! いや、それ!
アンさん、またかいな! アハハハハ!』
「代わり映えが無いぞこれ。どうなってんだよ」
俺は、川の水面に映る自分を見て、ゲンナリと呟いた。
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NAME [長鳴 比内]
M’NAME [逃走大王]
CIASS [王鶏]
RANK [C]
LEVEL [30]
【SKILL】
脳力拡張(人脳) 帝の遣い
跳躍 瞬足 第六感
厖-ボウ- 啄-ツイバミ- 睨-ニラミ-
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・瞬足
疾走の強化版。(乗用車の速さ)
・第六感
感覚が鋭くなる。相手の攻撃をかわしたり、
相手の位置を把握できるようになる。
※使用する度に、把握できる範囲が広がる。
初期は1m間隔ほどしかない。
・厖-ボウ-《固有スキル》
肉体、体毛を増やし、巨大化する。
大きく膨れ上がった体で、のしかかり攻撃や、
相手の攻撃の威力を和らげる。
「これ、ただ見た目が黒くなっただけの
レアな鶏じゃねぇかよ!しかもなんだ
王鶏って!舐めてるだろ! 俺を舐め腐ってんだろ!」
『まあまあ、落ち着きなはってや。
最初はこんなもんやて。ようやく〝動物〟の
括り
から開放されたんや。喜ばんと!』
「ん…… 素直に喜べないんだよなぁ」
確かに、スキルも動物のそれとは違うし、
力も各段に上昇した感覚がある。
ただ…… 見た目がなぁ。黒くなっただけ幸いか。
「で、忘れそうになったけど……
あの川の水。かなり変だし、ちょっと見に行ってみるか?」
『せやなぁ。アテも気になるし、行ってみはってや』
その言葉を聞き、俺は川辺を奥へと進んだ。
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『うわぁ。酷いなぁ』
「嘘だろ。鳥の……死体の山だ」
俺達が、川で見た後継は、あまりにもグロかった。
燕・白鳥・孔雀等の鳥類が、首やら羽やらを
食いちぎられ、放置された状態で、川の中に沈んていた。
『これ…… 〝候補者〟の人らやないの。
……アンさん。一歩間違えれば、アンさんも
こうなるねんかぁ』
「…………ん? ちょっと待て。候補者ってなんだ?」
『説明してなかったか? ああ、してないわ。
じゃ、説明するからよう聞いておき』
そう言い、帝の遣いは昔話を始めた。
ようやく、主人公に〝ちゃんとした攻撃手段〟が
備わりました。
これから、どう肉体が変化するのか
楽しみに待っていてくださいませ。
P.S.
次回は、昔話で1話が終わりそうです。
短めになるとは思いますが、ご了承を。