第0羽 ~人生のエピローグ/転生した鶏《チキン》が逃げて何が悪い! の開始。~
不定期連載になるかとは思いますが、
これからも応援の程、よろしくお願いします。
1/22 追記:
サブタイトルを変更しました。
やけに静かで、重々しい空気が流れる面接会場。
『試験番号53番の方、自己紹介からどうぞ』
この静けさの中、面接官の女性は淡々と言った。
……53番、俺の番号だ。
元気よく返事し、行儀良く椅子から立ち上がる。
今時、こんな奴はいないと言われるほどの
真面目な格好に、面接官の視線が食いつく。
細身、長身の体に合わせたオーダーメイドスーツ。
真っ黒な髪を七三分けにした髪型。
真っ黒、真四角、極太な縁メガネ。
ここまで〝THE.真面目キャラ〟を
体現しているのは俺だけだろう。
皆の注目が集まった事を確認してから、
俺は話し始める。
「長鳴 比内! 21歳!
私が御社に入社したら……」
俺は、真面目に頑張った。
その筈なのに……
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自宅であるアパートの、ドアに設置された郵便受けに、
一つの封筒が届けられていた。
「送り主は…… お、面接した会社か」
ウキウキしながら封を開け、中の紙を見る。
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長鳴 比内様
株式会社○○の△△と申します。
先日は、当社の社員採用試験(最終面接) にお越しいただきありがとうございました。
厳正なる選考の結果、誠に残念ではございますが、
今回は採用を見合わせていただくことになりました。
ご希望に添えず恐縮ですが、なにとぞ
ご了承くださいますようお願い申し上げます。
多数の企業の中から当社に応募いただきましたことに
感謝するとともに、
長鳴 比内様の、
より一層のご活躍をお祈り申し上げます。
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嘘だろ……?! あんなに真面目に頑張ったのに!
「って、言っても…… 〝10社目〟の
不合格通知だけどな。もう慣れたよ…… ハハ」
俺は、玄関の鍵も掛けずに、アパートを飛び出した。
目指すところも、目的も分からずに
とにかく走り続ける。
途中で呼吸が苦しくなる。
でも、俺は走った。何かから〝逃げる〟ように。
「結局…… はっ…… ゼェハァ…… 逃げ、るのか……」
俺はいつも、〝逃げる〟だけの人生だった。
辛い事、苦しい事から…… 逃げて、逃げて。
そして最後は……
「廃ビルの屋上。 ここなら誰にも見つからないか」
こんな場所にまで、逃げてしまった。
もう、決心は固まっている。
屋上の端にある、低い段差の上に乗り……
「バイバイ、苦しいだけの人生……」
人生から逃げるための、1歩を進んだ。
あらゆる時間がゆっくりと進み、地面が遠く感じる。
地面に到達する間に、ある場所が見えた。
「ああ、あの場所にいる白い鳥のように、
自由に空が飛べたら……」
ここで、俺の意識は閉ざされた。
■■■
ふと、目を覚ます。
足を折り曲げて座ってたのか、簡単に立ち上がれる。
あまり自由に動かない首を振り、辺りを見てみた。
うん、森だ。湿った土の香りが小さな鼻穴を通る。
(えっと、森で遭難した時は…… 川を辿るんだっけ?)
と思いながら、水の音が聞こえるか耳を立てる。
「クェ! ココッケッココーォ!!」
ん?あれ?
(お! 聞こえるじゃん水の音ぉ!!)
と言ったはずなんだけどな。
喉が枯れているのか……
川の水が綺麗なら、飲んでみるか。
と、チョット待てよ。俺は何かを忘れている。
(俺、確か…… 廃ビルから落ちて死んだんじゃ……)
今の状況が怖くなり、夢中で川まで走った。
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川にたどり着き、水面を見る。
(俺って、もしかしてゾンビになった?!)
と思ったから、外見の確認だ。
……見た。俺は水面を見たはずだ。
てか、今見てる。なう、水面見てるなう。
なのに、なのに!!
「コケコッコーォォォオオオオ!!!!」
(なんで鶏が写ってるんだよぉ!!!!)
俺の逃げた先は、ニワトリでした。