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ビストロ・ヘブン  作者: 月嶋みつ
6/6

5.いつだって不安で怖いけど

「うわーー!すごい・・・!」


とあるうららかな午後、その画家はやってきた。

以前発注した絵が出来たので、レストランに持ってきてくれたのだ。


その老齢の画家は、「雲の画家」と呼ばれていて、

空と雲の繊細な描写が王都で流行っていた。

通常ならば、王都の売れっ子画家の絵をいちレストランにおく機会はなかなかめぐってこないのだろ思うが、

画家は祖父のよしみということで優先的に依頼を受けてくれたのだ。


その絵は、丘の下からレストランを見上げた絵で、レストランの上にかかった雲から

柔らかな光が降り注いでいる絵だった。

分厚い雲から光がさすときにおこる、「天使の梯子」という現象だ。

まさにビストロヘブンにぴったりの絵だった。


カタルは絵のお礼もかねて、特性ビーフシチューを作っていた。

祖父直伝の味だ。


「ああ、この味懐かしいねぇ。君の爺さんと宮廷で働いていた時代を思い出すよ。」


画家はシチューを非常によろこんでくれた。

画家と祖父は、若いころ宮廷で働いていたのだ。

宮廷画家だった彼が、夜遅くまで絵を描いていると、

宮廷料理人だった祖父が、このシチューを夜食にもってきてくれていたらしい。


2人は親友だった。


「でもなかなかおじいさんと同じ味にはならなくて・・試行錯誤してるんですけど・・・」


「そりゃあ仕方ないさね。人生は永遠の試行錯誤だからさ」


「永遠の試行錯誤・・・あなたもですか?」


カタルから見たら、老人は絵の技術を極めつくして、もう怖いものがないように見えた。

老人はふふ、と笑う。


「そうさ、今もいつも怖いんだ。絵を描き始めるとき、これがうまくできなかったらどうしよう。

どうしようって思うものさ」


「そうなんですか??そんな風に描いてるようには…見えないけど」


「仕事には出さないのがプロってものだよ。あんたの爺さんのよしみで教えるが、これはほかの

人には秘密だ」


そう言って老人はいたずらっぽい笑みを浮かべた。

カタルは頷く。


迷っても、失敗してもいいんだなぁって思えると、カタルは少し楽になった気がするのだった。

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