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ビストロ・ヘブン  作者: 月嶋みつ
3/6

3.蜂蜜と雨の落ちる午後

市場から食材を買った帰り、

怪しかった雲間から、ついに雫が落ちてきた


雨足は次第に早くなり、

道の脇の花たちを揺らし始める


少年はかかえた食材が濡れないように

背中を丸め、店までを小走りで走る


店は市街から少し離れた丘の上にあり、眺めがよくて静かだが、こんな日は

道中が少し煩わしかった。


店に駆け込むと、見計らったかのように

雨は本降りになった。


濡れてしまった服を脱いでシャワーを浴びたあと、買ってきたものをテーブルに

ならべる。


それはあらゆる花の蜂蜜だった


あらゆる果樹園や花畑からとれた蜂蜜は

船で王都の港へ集められる。

その蜂蜜専門店は少年のお気に入りだった


雨の音を聞きながら、

静かな店内で蜂蜜を少しずつ試す。午後2時から5時は夕食への準備の時間で、

客もいない。


口に入れると、甘くて、そのあとに

それぞれの果物や花の風味がした


幸せで孤独な時間だ


明日のデザートに、蜂蜜で作ったジェラートを加えようと、檸檬の蜂蜜を選んだ


これでやさしい甘さとさっぱりした

風味のジェラートになる


夜の仕込みはすでに整っているので、

なにかおやつでも頂こうと思案する


先日パン屋で頂いたデニッシュの食パン

をこんがりするまでオーブンで焼く


そこに林檎の花の蜂蜜をかけ、

アイスクリームをおとす


熱くて冷たいお菓子になる


雨音は窓を叩き続けて、止む気配もない



雨の音を聞くと遠い昔を思い出す。

自分に料理を教えてくれた人のこと


親のことは覚えていなくて

おじいさんが全てだった。


ほんとは全ておじいさんに食べて欲しくて

全部上手くなったのに、


自分が本当に満足のいくものが

作れるようになったころ


おじいさんは味覚を感じなくなっていた


最初は全くわからなかったが、

ある日、スープの違和感に自分が気づいた

お客さんにはまだわからなかったと思う


スパイスと調味料の絶妙な差だった。

昔からあらゆる味の差を教えられてそだった

自分は、少し味覚が敏感になっていた


味の違いを指摘した日、おじいさんは

少し思案したけれど、やがて、

おまえが店をやるか?といった


真実をきいて手が震えた。

料理をするものにとって、

それがどんな恐ろしいことか

想像するだけで涙が止まらなくなる


味覚をなくしたおじいさんは

急激に弱っていった


食べるという行為が苦痛になるのだ


少年は、手をつくしてなんとか

たべれるものを毎日作った


おじいさんは必ず美味しかったと

いってくれたが、


きっとそんなはずはなかった


おじいさんを看取ったのは

雨の激しくふる朝だった



自分が同じものを何種類も買うのは

その商品が好きなのはあるが、


味の変化を今日も感じていられるか

無意識にチェックしてしまうのだ。


血が繋がっている以上、あの病気

が自分に降りかからないとは限らない




今日も大丈夫だった。。

安堵して、少年は午後の開店の準備に入る。

また忙しい時間が始まる。

自分が生きていること、そしてだいじなものが今日もここにあることに

感謝をこめて

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