2.海辺の街にすんでいた
大通りから東に言った場所に
古くからの商店街がある。
遠方から運ばれた魚介や朝ジメにされた新鮮な肉がならぶ、王国の台所だ。
新鮮な貝類を手に入れた少年はほくほくと家路につく
これで今夜は特別メニューをつくろう。
ニンニクとオリーブオイルをたっぷり使ったボンゴレ・ビアンコにしようか・・・
考えながら、ふと漂ってくる美味しいにおいに足をとめた
今までに見なかったパン屋が出来ている。
中に入ってみると、素朴でふっくらとしたパンが並んでいる。
売り子に頼んでいくつか試食させてもらうと、どれもしっかりした味で美味しい。
自分の店で出すパンに仕入れたいと申し出ると、今夜店主がうかがうようにいたします、と
売り子に告げられた。思わぬ収穫に、少年は自然と笑みがこぼれた。
20時を回って店が閉まった後
パン屋の主人は訪れた。
30台半ばだろうか
金の髪を後ろでひとつに束ね、
シンプルなエプロンドレスに身を包んだ美しい女性だった。
「うちのパンを気に入ってくれてありがとう」
微笑んだら、初夏の太陽のような人だと思った。
話はすぐにまとまって、毎朝開店前に売り子が
パンを運んでくれることになった。
店同士がそこまで離れてないのも助かった。
「この店、噂に聞いてたんです。街で評判の、男の子が一人で切り盛りする店だって」
自分のことを人伝いに聞くのは少しこそばゆかった。
「やさしい味がするんですって。懐かしいような。あなたのような若い方がそういう味をつくるって
不思議だわ」
「僕はあなたのパンも、優しくて懐かしい味がしますよ」
「・・・そうか。私たちの作るものって似てるのね。不思議ね」
たしかに年も離れた二人が似ているのは不思議だ。
主人がこの後予定はなさそうだったので、一緒に食事をとることにした。
今朝買ったアサリとムール貝、カキをガーリックとオリーブオイルでいためる。
ガーリックが少し焦げる匂いはとても幸せな匂いだ。
そこにトマトをたくさん入れて、トマトの水分で煮詰めると、
酸味が緩和されてトマトの風味と貝の旨みの合わさった魚介煮込みができる
それと、女主人の作ったパンで頂く
貝のスープに口をつけた女主人は、一口飲み込むとなんだかおもいつめたような顔になった。
「お口に合いませんでしたか?」
心配して聞くと、首を振って否定する
「ちがう。。ちがうのよ。本当に懐かしい味がしたの。貝とトマトとガーリック。
私が昔好きがった味なの。私と、主人と・・息子も」
少年は息を呑んだ。
だけど何事もないふりをして、スパークリングをひとくち飲んだ。
何も聞かず、語られるままに聞いた。
「海辺の町に住んでいたの。私と主人と一人の息子
主人が漁師をしていて、毎日採ってくる新鮮な貝や魚で私は料理をつくって
家族のためだけにパンを焼いていた。
・・・幸せだったわ。何不自由なく
でも、怖くなったの。許されないことは分かってる。けど。。
私って、何だろう?なんのために生きているんだろう?
それはもちろん、家族のためって、わかってた、けど。。
ある日、王都行きの馬車に乗ったの。
月の出ている夜だったわ。何もかも捨てた。
衝動でしかなかった。
だけど、とても開放された。。。」
「その街に帰るつもりは、もうないの??」
「残念ながら、ないわ。。。
私、とても満たされているの
自分のために生きて、パンを焼いたら人に感謝される
この生活に。
・・・私きっと、地獄に落ちるわね」
言った彼女の顔は穏やかだった。
僕はなんだかいたたまれなくなって、パンを口に運ぶ
やさしくて、ほんのり甘くて美味しい
そしてどこか海を思わせる塩の味がした




