1.戦のにおいのする男
1日の仕事を終えたカタルは
昨日から開けようと楽しみにしていたワインに口をつけた。
できの良い年に作られた赤ワインは、
少し軽くて花畑のような匂いがする
14歳の少年にとって、ワインはいささか
背伸びした飲み物な気がするが、
料理をするようになってから
そこに酒があるということはあまりにも
自然で切り離すことができなかった。
午後20時からはプライベートの時間だ。
しかし客がこない訳ではない。
無論プライベートの客だが。
今日も同じ客がやってくる。
3日前から彼はきていた
戦いの匂いのする人だった。
夜はプライベートだといっているのに
人とは食べたくないのだという。
そのくせ、思い出話を淡々と
聞かせるのだ
「ル・ダールの兵士だったときの話だが」
少年に注がれた赤ワインを飲みながら
男は話始めた。
男は決まって戦場の話をした
決まって敗戦の話だった
ル・ダールは小国であり
この店のある王国、ガルヴァン
との戦争は、始めから負けがこんでいる
ようなものだった
その夜、男のいた部隊は森の中で敵軍に
包囲され、ほぼ全滅。
生き残った兵士は散り散りに逃げたが、
森のなかで食料も失い、じょじょに
衰弱していったという
「俺は、ケガを負った部隊長を背をって逃げてたんだ。
あと1日も歩けば、味方のキャンプまでたどり着く。
部隊長が衰弱してるのがわかってたから、必死で話してたんだよ。
戦から帰ったら何がしたいかってさ。
そしたらあの人、奥さんの作ったハンバーグが食べたいっていってたんだ。
赤ワインで味付けするらしい。
でも結局、キャンプにたどり着く前に死んじまった。」
そこまで話して、男ほワインをあおった。
「結局キャンプまでたどり着いたのは俺だけだったよ。
そんで、間も無く国は降伏。
いまはカルヴァンの属国さ。
あの戦いはなんだったんだろうな
なんで俺だけ生きのびたんだろう。
妻も子もいたあいつじゃなくて
身ひとつの自分がさ」
静かにきいていた少年は立ち上がり、
明日のために仕込んでおいたハンバーグの
タネをひとつ手に取った。
フライパンにオリーブ油をひき
焼き始める
その間に隣の鍋にハンバーグソースを煮込み、それに飲んでいた赤ワインの瓶を傾けた。
肉のやける香りと、赤ワインの花畑のような香りが絡まって部屋に漂う。
焼けたハンバーグを赤ワインのソースで少し煮詰めて、程なく料理は完成した
目の前に差し出すと、男は無言で
息を飲み、一口くちにした
「…美味い。」
少年は問う
「生き延びて、よかった?? 」
「…そうだな、うん、悪くない。」
男は神妙な顔で、ハンバーグを口に運んだ
少年は満足して、男のグラスに赤ワインを注いだ




