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地獄世界のヘルヴェルト  作者: 生獣屋 芽怠
第十五章 進撃する地獄の軍勢
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未熟への欲求


 死神に導かれて偽物軍団を突き進む地獄の軍勢、見渡す限り悪魔リーゼスがそこら中にいる。黒い肌は黒光りしながら皆川真を捕らえようと迫っていた。死神王とスミスとフェイロットは先頭で大量に悪魔を消滅させていく。

 側面はそれぞれで担当し、遠距離攻撃を放っていた。炎の弾、矢、氷の弾丸、黒い槍、様々なバリエーションの遠距離攻撃はリーゼスを一撃で消滅させた。


「なんか直ぐに消滅してる!」


 まこちゃんは驚いていた、無理もない例えば俺の氷の弾丸がリーゼスの分身体にぶつかった瞬間にまるで風船が割れるかの如く消滅する。

 簡単過ぎて驚きもするだろう。


「リーゼスの劣化分身の最底辺の分身ね、あれなら平手打ちしても消滅するわ」


 マギサがそう教えてくれた、劣化分身をやり過ぎてしまうと人の形をした風船と同じようにただ膨れているのみ。

 これなら敵でもないのだが、何せ数が多過ぎる。


「うううっ! なんだ見た目だけなんですよう! あれなら怖くないですよう!」


 上空から死神リリリが降りてきた、マギサの話を聞いていたらしい。


「リリリ油断するんじゃねぇぞ!」


「ふんだ、誰に言っていやがるですよう、この優秀な死神リリリちゃんは油断なんかしねーーですよう! シュンこそ油断してカエルレオンから落ちても知らねーーですよう!」


 ああ言えばこう言いやがって、頭を引っ叩いてやりたかったが上空で手も足も出ない。

 ため息交じりに再度攻撃に戻ろうとした時だった。


「りーりりは意地っ張りーー!」


 後方から聞いたことのある声がした、振り返ると後ろには騎士団の騎士がカエルレオンを乗りこなす姿があるのだが、その後ろに可愛らしい猫耳が見えた。

 白い毛並みをなびかせて興味津々にこちらを覗く村一のアイドルであるフェルトが何故かそこにいた。


「うううーーっ! ま、またあいつですよう!」


「な! フェルト!」


「ええ! フェルトちゃん!」


 俺とマギサは驚き声を上げる、するとその声でフェルトの存在をまこちゃんも気が付いた。


「ええ! フェルトちゃん!」


 マギサと全く同じ反応に同じ存在なんだなと感心しつつ俺はフェルトに質問した。


「何やってるんだよフェルト! 村のやつらはどうした!?」


「皆逃がしたーー! あたしぬかりない。聖女様から離れたくないーー! それにこっちに来た方が面白そーー!」


 と言って器用に走るカエルレオンの上を走りまこちゃんの上にダイブした。まこちゃんの胸の谷間に顔を埋めるフェルトは気持ちよさげにのどを鳴らした。

 それを羨ましそうに見ているマギサだったが、戦闘中を思い出しリーゼスに攻撃を仕掛ける。


「聖女様良い匂いーー、あたし離れない。ずっとずーーっと聖女様と一緒ーー!」


「フェルトちゃん、嬉しいけど今大変だから大人しくしていてね? 約束できる?」


「出来るーー! 任せろ!」


 そう言ってまたまこちゃんの胸に顔を埋めた。羨ましいが攻撃の手を止めるわけには行かない。


「まこちゃん、フェルトを任せるからな! 守ってやってくれ!」


「うん! わかったよ!」


 フェルトを加えた軍勢は進軍を進めた。ソフィーネオの攻撃が再度行われると一気に数が減る、それに技のチャージに入ってもスミスとフェイロットがカバーする。

 この調子ならアビスへ辿り着ける。


 そんな考えが招いてしまったのか黒い地平線から一人のリーゼスがこちらに迫る。


「また来たですよう! これでも食らえですよう!」


 リリリの鎌より放たれた光の玉は近付くリーゼスに直撃する。


 しかし、消滅しなかった。


 それどころか傷が付いていない、攻撃に怯むことなくこちらを目指す。

 緊張感が走る、マギサの攻撃を軽々と避け、他の遠距離攻撃をも耐える。


「不味い! 本体に近い分身体だわ! 性能が違う!」


 マギサの警告に本気で対処を開始する。黒い粒子を束ねるて数個の剣を作り出してシュバルツミストがリーゼスへ向かう。

 初撃を紙一重で躱し、二投目を手で弾き、三投目を掴む。それをこちらに投げ返してきた。猛スピードとなり真っすぐに俺に向う。


「視界孔!」


 投げ返された剣の先に小さなゲートが開き、剣を飲み込んだ。


「助かった! サンキューな、まこちゃん!」


「うん! しゅーは私が守るから!」


 俺は右手の平に氷の結晶を生成する、サッカーボール程の大きさにしてリーゼスへ向けて射出、凄まじい速度でリーゼスに向かう。だが奴はそれを弾こうと手を伸ばした。


 そう、避けるまでもない攻撃なら手を使うよな?


 氷に触れた瞬間、球体は形を崩し、アメーバーの如く奴の手を覆う。そして固めて手を封じた。

 これは絶氷空間を使う際に使う貼り付く結晶だ、本来なら密室に貼り付かせ部屋の温度を下げるが肉体に触れれば貼り付いて凍り付く。


 動きを封じる戦いは一番得意だ。


 同じ攻撃を連続掃射、気を取られている今なら当たる。足先、右太もも、左腕、胴体にヒットして氷が張り付いた。

 動きを封じることに成功する。


「さすが佐波くん! これなら当てられるわ!」


 シュバルツミストを槍にして、先端を螺旋状にする。回転をつけて威力を上げた攻撃だ。

 まさにドリルだった。そのドリルを放とうとした刹那、リーゼスの視線が一点に止まっていることに気が付く。その視線を辿るとリーゼスはある人物を見詰めていた。


 誰を見ている?


「ううっ、な、なんかあの悪魔リリリをじっと見て来やがるですよう……キモ」


 死神リリリを見詰めている。不可解だったがマギサのドリルが奴の胸を貫き消滅させていた。

 少し安堵した。


 しかし全リーゼスは同時に喋り始めた。


『子供だ、子供がいる……』


 一斉に喋ると重低音で大地を震わせた。


「うううーーっ! リリリは子供じゃねーーですよう!」


 待て、リリリが子供かどうかは今はどうでもいい。


 何故一斉に喋れる?


 リリリを見た個体は消滅させた、それなのに全員が子供がいたと口を揃えて話した。

 これにより導き出される答えは……。


「こいつら、記憶を共有している?」


 一つの個体が見たもの、感じたものは瞬時に偽物軍団に知れ渡る。それは個にして一、分離した一つの生命体。

 これじゃあ数万以上の目を持ち、体をバラバラに出来る生き物じゃないか。


 その事実に不安が纏わりつく、何もなければいいが。


 リーゼスは一言だけではなく、更に言葉を紡ぐ。


『ああ、子供は……守らねばならない、世界を壊す。しかし子供を守らねば……』


「何言ってんだあいつ、世界を壊すと言って子供を守る? 矛盾してるぞ!」


「あれがリーゼスって悪魔のこころの内面なの?」


 まこちゃんがそう呟く。


「佐波くん、リーゼスの分身と人間界で出会った時エティオくんとネリスちゃんを攻撃出来なかったわ……あいつは子供に執着してるみたい」


『ああ、これ以上子供を失うのは耐えられない……自分が守らねば……世界を壊す前に!』


 奴らの重なる声に気を取られた、不意に地面の土が爆ぜた。そこからリーゼスが姿を現した、目と鼻の先に侵入を許してしまう。

 地面を一瞥すると偽物軍団へと繋がる道のような地面の盛り上がりに地中を掘ってきたのだと理解させられた。


「子供は守る!」


 リーゼスは跳躍し、標的に向かう。


「いや!」


 奴は死神リリリを捕まえていた。


「リリリ!」


 リーゼスはリリリの足を掴み引き寄せた。腕を掴み動きを封じる、すぐに助けようと動くがリーゼスはそのまま掘ってきた穴に飛び込みリリリをさらっていく。

 あっと言う間の出来事に反応が遅れた。


 そして、それにも反応が遅れる。


 リーゼスが掘ってきた穴にフェルトが飛び込んだのだ。


「フェルトちゃん!」


 まこちゃんとマギサの声が響くが無惨にもカエルレオンはその場を通過していく。


「どうしよう! リリリちゃんもフェルトちゃんも!」


「落ち着けまこちゃん! あのリーゼスは変な感じだったが子供を守ると言っていた、なら危害を加えるとは思えない! フェルトも小さいから子供に思われると思う! 無事だと信じて前に進むしかない!」


「……わ、わかったよ、信じてみる」


 あのリリリが攫われるなんて思いもよらなかった、リーゼスは守るとぬかしていたが真実は分からない。

 奴は悪魔だ、何を企んでいるのかさえ分からないんだ。まこちゃんにはああは言ったが本当はどうなるか予想できない。


 歯痒い中で確実に前に進んでいるのだけが救いか、そう思い前を向くことにした。


 だが、あんなものを見るためなんかじゃない。


 前方の更に奥、地平線の形が変わっているのに気が付く。線は膨らみ、そして山となっていく。膨らむ山は更に奥巨大化していく。

 あれはなんだ、そう思っているとその山は人型に変わっていく。


 数十メールに巨大化したリーゼスが前方に現れた。


 本物の巨人がそこにいる。


「な、なんだよあれ!」


「嘘、あいつにあんな力があったの?」


 マギサは信じられないと言わんばかりに目を見開いていた、何が起きているのか俺は右眼を発動させて巨人を観察する。

 数キロ先、巨人の足元に劣化分身していたリーゼス達が集まり、巨人と一体化していった。


 リーゼスの形をなす黒き巨人が起き上がる。


 巨人の身体の様々な場所に目が出てきた、腕も足も顔も体もおびただしい目が開き、それらの視線が一点に集中している。


 皆川真に集中していた。


 そして巨人の様々な場所に無数の口が生み出されしゃべりだした。


『皆川真を寄越せ! 子供は渡さない! 世界を滅ぼしてやる! 子供を守らねば!』


 先頭のスミスがそれを不快そうに叫ぶ。


「何が守るだ! 世界を滅ぼせば子供も消えてしまうだろうが!」


 すると巨人の無数の視線はスミスに固定された。 


『何を言う! 子供を守らなければもったいない!』


「もったいない……?」


『ああ、世界を滅ぼす、そう滅ぼす……そうしてしまったら子供はいなくなる! ああ、ああ、もったいなぁああああいぃいいいいい! 子供は最後に、世界が終わる最後に壊さないと駄目だぁぁああああ! 楽しみが消えてしまうぅうううう! 世界の最後、全ての子供達を一箇所に集める、ああ、楽園だあ、これは楽園なのだ! 宴が始まる! 恐怖している子供を優しく頭を撫でて怖がらせないようにしなければ! そして首をひねらなければ! なぜ逃げる! なぜ逃げる! 逃げられないように脚をもぎ取らなければ! なぜ叫ぶ! なぜ叫ぶ! 抱き締めて安心させねば! なぜ藻掻く! なぜ藻掻く! 疲れたら眠らせてやらねば! なぜ血を流す! なぜ血を流す! 隣の子を殴れ! なぜ言うことを聞かない! 甘い飴玉をやろう! なぜ言うことを聞かない! 服を脱げ犯してやろう! なぜ言うことを聞かない! 怖がらないように優しく声をかけてやろう! なぜ言うことを聞かない! 頭をつぶしてあげよう! なぜ言うことを聞かない! なぜだ、なぜだ! なぜなぜなぜなぜ……』


 話を聞いているだけで吐き気がする、こいつは狂っている。子供を守るといいながら凌辱することも好んでいる、ふざけるな。


 まこちゃんの表情は蒼白となっていく。


 リリリが危ない。


「気持ち悪い!」


 スミスが叫んだ。


「テメェは子供をなんだと思っているんだ!」


 母であるスミスは激昂はリーゼスに届くが支離滅裂な悪魔には意味をなさない。


『…………お前、似ている』


「あ?」


『人間界で見た双子の子供達に……』


 エティオとネリスの事か、確か戦ったんだよな。


『あの双子……美しかった、ああ、二人…………滅茶苦茶にしたいぃいいいいい! 殴り、蹴り、痛め付けて言うことを聞かせる! ああ、そうだ、二人に禁忌を犯させてやろう。二人を交尾させてやろう。そうしてから女の子は自分が犯し、男の子は頭から食べてあげよう! ああ、子供達が欲しい! 向かわせねば! 向かわせねば! 分身達を王宮に向かわせねば!』


 大群の一部が王宮のある方へ向かっていく。


 そんな悪魔にスミスは完全にキレていた。


「オレの、オレの子供達に手を出すつもりか? お前殺してやる、2人に触ったら殺してやる!」


 スミスの鎌が振り下ろされる。次元を切裂き威力を増しながら巨人の足をきり裂いた。しかし融合し続けるリーゼスの劣化分身が傷をすぐに修復してしまう。


「な!」


『ああ、王宮に急げ我が分身達よ、子供達を連れてこい!』


 スミスの攻撃、フェイロットの攻撃、そしてソフィーネオの攻撃を仕掛けるも意味をなさない。欠損する体は劣化分身を吸収してすぐに元に戻る。

 倒しきれない。


 その為に地獄の軍勢は動きを止めざるおえなくなる。


 侵攻を阻まれ、リリリを連れ去り、王宮に分身達を向かわせている。


 不利な状況に、軍勢は黒き悪魔達に完全に包囲されてしまった。



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