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地獄世界のヘルヴェルト  作者: 生獣屋 芽怠
第十四章 彼の地にて集結せり
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麗しき聖女


 どれだけの時間が経過しただろうか、激痛に耐えながらカエルレオンの上でようやく身体が動くようになり起き上がった。

 あれから数回の休憩を繰り返して集結地点へと向かっていた、地面が更に深紅の濃ゆい赤色に変わっていく。


 大穴アビスがある赤い地平線の先へ近づいていた。


「佐波くん! もう起き上がって大丈夫なの!」


「痛みがだいぶ引いてきた、動けるまで回復した……」


 なんとか動けると言ったところだろうな、カエルレオンの動きが激しいのでその度に痛みが押し寄せて入るが。


「地獄王さんがもうすぐ到着するって!」


「分かった!」


 前方に何やら見えてきていた、あれが目的地か。

 そこへの距離はだんだんと近くなり等々カエルレオンの動きが止まった。


 集結地点となる赤い大地の地平線、その一番近くの地獄の住人が住まう村へとやって来た。


 小さな村だった、赤い大地にそびえるのは赤い石を積み上げた住居だ。しかし一メートル程しかない高さ、狭くないかと思ったがよく見ると入り口は斜め下になっている、つまり地面を掘っている訳だ。

 成る程、石だけ積み上げても強度が足りないから暮らすスペースを地面の下に作り上げたのか。


 その赤石の家が三十程見掛けた。村の近くには森があり、血の池もすぐ近くにある。当然本物の血の池ではなく地面の色で赤く見えているだけの綺麗な湖だ。


 この村の住人達は人間タイプが多いな、耳が長い者や肌の色が赤かったり青だったり。頭が犬みたいな奴もいるし様々な種族が暮らしているらしい。

 服装は草を編んだ布を身体に巻き付けて紐で縛り固定している。


 皆同じ格好で、女性の住人は肌が見えすぎている気がして直視できなかった。


「……佐波くん、村の人の格好エッチだなって思って視線逸らした?」


「な、なんの話だよ……」


「純情な佐波くんって身内とかには覗きとかするのに見ず知らずの他人は決してエッチなとこを見ないようにするエセ紳士純情青年だもんね? ……峻くんと全く同じだわ」


「う、うるさいな……他人に迷惑かけないだけだ」


「身内にも迷惑かけないほうがいいよ?」


「…………正論だな確かに」


 ごもっともな話だった。


 話をしていると地獄王とギルが同行して村へと入っていった。

 すると村人が何事かと騒ぎ出していると村長らしき住人が地獄王と対峙していた。

 おそらく村の外に騎士団を駐在させる事を伝えに行ったのだろう。


 地獄王の従者である俺も同行したほうがいいのだが、実を使った影響を考えて安静にしておけと待機を命じられた。

 とは言ってもだいぶ動けるようになってきている、さて体力が増加していると思うがどれ程なのか分からないな。


 不意にスミスの奴がやけに静かだなと思っていると寝息を立てていた、移動だけでも大変だったもんな、そっとしておくか。


「……あれ? 佐波くん、こっちを見ている住人がいるわよ?」


 不意にマギサが村の方を指差した、そこへと視線を辿らせると確かに村人の一人がこっちへ近付いて来ている、珍しげにこちらを観察していた。

 小柄な女の子だ、身長は百四十くらいで全身白い毛に覆われている。獣族らしい、顔が猫と人間の中間といった顔立ち、猫耳と猫の鼻、瞳孔も猫だった。

 手は毛で覆われているが人間に近い、ちらりと肉球が確認出来た。ふさふさの尻尾が愛らしかった。猫人間と称してもおかしくはないだろう。


「か、可愛いわね……ファンタジー物で出てくる亜人ってやつかしら? あの尻尾もふもふで撫でたら気持ちよさそう」


「……なんか俺とマギサをじっと見てる気がするな……じりじりと近付いてくるし」


「それって人間が珍しいからじゃない?」


「あ、成る程な……」


 等々猫女は俺達の眼の前へと姿を晒した、じっと俺達を見詰めて珍しそうだった。その間尻尾がゆらゆら動いていた。

 猫女はゆっくりと口を開いた。


「変なのーー、お前達王宮の奴らと違う」


「……あ、ああ、俺達は人間だからな」


「人間? ふーーん」


 俺達の周りを一周しながら観察してから満面の笑みを浮かべた。


「おもしろーーい!」


 人間が珍しかったらしくなんか懐かれたみたいだ、興味津々で距離も近くなった。

 凄い急接近だな、小さいし子供なのかもしれない。


「名前何ーー? あたしフェルトだよ!」


「俺は佐波峻だ、峻と呼べ。こいつはマギサだ」


「しゅーんにまーぎさだね!」


 名前が伸ばされてる、まあニックネームみたいだし別にいいか。


「村に何をしに来たのーー?」


「ちょっと悪い奴を倒す為に来たんだよ、で、他の仲間達とここで合流することになってるんだ」


「へーー、おもしろーーい!」


 更に急接近、もうパーソナルスペースに侵入を果たしていた。

 動物を見ると感じる可愛いとの感情が膨れ上がってきた、衝動的に頭を撫でてやりたくなるな。


「あれ、マギサどうかしたのかさっきから黙ってるけど……」


「佐波くん、私……もう、我慢…………出来ないわ!」


 マギサはフェルトの頭を撫でた、びっくりしたフェルトの耳と尻尾がピンと立ち上がる。しかしマギサの手が気持ち良かったのか身を任せていた。

 するとフェルトは喉を鳴らす、ゴロゴロと聞こえてきた。


「可愛い! 猫ちゃん可愛い!」


「マギサは猫好きだったか……暴走していやがるな」


「まーぎさ、なでなでじょうずーー、気持ちいいよーー」


「よしよし、可愛いね、可愛いね!」


 あっと言う間にフェルトはマギサに懐いた、マギサ抱きついて身を任せている。喉を鳴らしながら。


「幸せ、猫ちゃん撫でられるのは最高……」


「気持ちいいーー、撫で方聖女様と一緒だーー」


 聖女様?


「しゅーんも撫でてーー!」


「お、俺もか?」


「うん! 撫でてーー!」


「わ、分かった……」


 恐る恐る頭を撫でてやる。


「いい感じーー、これも悪くないーー」


 うわ、毛がフサフサで撫で心地最高だな。

 猫か、ペットとか飼ったことなかったからな。猫を飼ってみたくなったな、この世界ってペット文化みたいなのはあるのだろうか? こんどギルにでも聞いてみるか。


 不意に村人の数人かがこちらを見ているのに気が付いた、身長もフェルトくらいで耳が長いエルフみたいなやつと狼の頭を持つやつ、それから一つ目の筋肉質なやつだった。

 冷ややかな視線だったが距離的に分からない、後になって知ったのだがフェルトはこの村のアイドル的存在らしく村中の若い男がみんな恋しているらしい。


 つまり嫉妬の視線だったのだ。


「しゅーんもまーぎさも気に入ったーー! あたしの巣に来い! ごはん食べさせてあげるーー!」


「お、いいのか? それは有り難いな」


 ちょうど腹も減ってきたしな。


「フェルトちゃんのお家行くわ!」


 お誘いを受けマギサと一緒にフェルトの家へと向かうこととなった、村に入る途中で地獄王とギルに遭遇したので説明した。

 集結にはまだ時間が掛かるとのことだったのでそれまで自由時間の許可を貰えた。


 意気揚々とするマギサと共に村へと踏み入ると意外にも歓迎ムードだった、挨拶すると向こうも返してくれる。警戒心はないのかと思ったが若い男の数人からは睨まれていた、そりゃそうだみんながみんな歓迎する訳じゃない。


 フェルトの家は村の一番奥、血の池に近い場所だ。石を積み上げた建造物、入り口は他と同じ斜めに掘られていて地下に向かう仕組みだ。

 フェルトが手招きしたので遠慮なく中へ踏み入る、狭い入り口だったが中に入ると意外と広かった。十畳程で中は光る実をつけた木が壁から生えていて明るい。

 入り口近くに吊るされた桃色の実から何やら甘い香りがして土臭さとは無縁だった。白い綿の寝床が敷いてあり、その傍らにツルツルした綺麗な石が何個か置いてあった。


「見ろ! この石綺麗! あたしのお気に入りーー!」


 置いてあった石を拾い上げ俺達に見せてくれた、人間界の青空のような真っ青な石は光沢感がありとても綺麗だった。

 やはり女の子なんだな、綺麗な石や部屋の良い匂いとか。


「綺麗だねフェルトちゃん!」


 マギサが石を褒めると満足げに笑うフェルト、次々と石コレクションを見せてくれた。

 ご満悦になるフェルトを眺めていると不意に床に敷かれている白い綿が気になった、一人が寝転ぶくらいの広さに敷かれているのだが、その数が二つだったのだ。


 つまりフェルトは誰かとここで暮らしているのだろう。


「……フェルトは二人暮らしか?」


「そうーー! 聖女様と一緒!」


 また聖女が出てきた。


「聖女ってどんな奴なんだ?」


「凄いのーー! あたし尊敬してるーー!」


 要領得ないな、説明が漠然としている。

 ま、二人暮らしってことならその内ここに帰ってくるだろう。


「あ! 石ばっかりだった! しゅーんとまーぎさごはん食べろ! 持ってくるーー!」


 部屋奥に行くと縦横一メートル程の石があった、上の部分が蓋になっていてそれを開けると中は空洞でそこから何かを取り出していた。

 つまり石をくり抜いて作った食料箱と言うところだろうか、フェルトは笑顔で食料を俺達に手渡した。


「食べろ! 美味しいぞーー!」


「フェルトちゃんありがとう!」


「ありがとうな…………んん?」


 食料を渡された、それだけのことだったのだが渡されたものに違和感を覚えた。


 平べったく、焼き目のついた物。


 なんだこれ、木の実じゃない?


 ヘルヴェルトは木の実を食べるのが当たり前だ、こっちに来てからあんまり美味しくない木の実を食べてきた。

 だから渡されたものに違和感を感じてしまった。


「……フェルト、これはなんだ?」


「えっとねーー、聖女様が作ってくれたーー! 木の実と別の木の実を混ぜて火を使って作ったーー!」


 木の実を混ぜて火を使った?


「え? 佐波くん、それって……料理じゃない?」


「あ、ああ……そうらしいな…………このヘルヴェルトで料理?」


 信じられない、料理なんて文化がないヘルヴェルトでまさか。


「どうしたーー? 食べないの?」


「あ、いや、食べるよ……いただくな?」


 俺とマギサは同時に食べてみた。


「う、旨い!」


「え!? これって、パンケーキの味がするわ!」


 ほのかな甘みが舌に広がる、そしてふわふわの食感に人間界で食べたパンケーキを思い出す。

 このヘルヴェルトでこんなものを食べられるなんてな、本当に旨い。


「美味しいだろーー! 聖女様は凄い!」


 聖女って奴がこれを作った?


 この味、料理をする発想、これって……。


「………………フェルト、聖女様って何処にいるんだ?」

 

「聖女様は血の池いるーー」


「そうか……ちょっと行ってくる。マギサはゆっくりしててくれ」


「う、うん、分かったわ……」


 ある考えが頭を離れなかった、それを確かめる為に血の池へと向かう。

 フェルトの家を出て真っ直ぐに血の池へ向う、距離も近くて歩いて五分も掛からなかった。


 広い池だ、左右を確認すると右側は血の池の端まで見えていて人影はない。左側は森林と隣接している、木々で左端が確認出来ない。

 なら聖女は左側だろうと結論付け、黙々と歩く。途中森林に入り暫く歩くと、木々を抜け血の池の左端が確認出来た。


 そこに誰かがいた。


 どうやら水浴びをしているらしい。


 こちらに背を向けている。


 そこにいたのは女性だと認識する、つまり彼女が聖女なのか。


 褐色の肌が水滴を纏って艶やかに輝いている。腰まで流れる白銀の長い髪が濡れて背中に張り付き、なめらかな曲線を描いている。

 水でコーティングされた髪は光を反射させて煌めき、神々しさを呼ぶ。

 肩甲骨の辺りから流れ落ちる雫が背筋をたどり腰のくびれへと消えていく。

 彼女は両手で髪をすくい上げ、水を絞っていた。その動作で、肩や背中の筋肉が優美に動き、褐色の肌と銀髪のコントラストがいっそう際立つ。

 引き締まった身体つき、細い肉体に映える筋肉はとても美しいと思わせた、筋肉美とでも言うのだろうか。


 美しい。


 それが感想だった、後ろ姿だけでそう思わされてしまう。


 俺の全てが囚われている、その美しさに。


 もう少しだけ絵画のように美しい姿を目に焼き付けていたかったが足音を立ててしまった、彼女は侵入者に気付きこちらへと振り向いた。

 女性らしいくびれに存在する筋肉は絞り込まれていて腹筋も見事に割れていた。

 視線を上げると彼女のパッチリとした瞳がこちらを見詰めていることに気がつく、少し幼さを残すフェイス、ちょっと高めの鼻と小さな口。


 それは懐かしさを感じる。


 色が変わろうと、姿が変わろうと。


 覚えている。


 疑問はある、しかしそれよりも思考は身体を動かすことを望んだ。


 駆ける。


 服が濡れようが構わずに水の中へ。


 手を伸ばし、彼女をこの胸へと抱き寄せた。


「……ごめん、守ってあげられなかった……俺は最低だ」


「……そんなことないよ? いつも一生懸命になってくれる、それがどれだけ嬉しかったか……その度に感謝してた」


 この日をずっと待ってた。


「……今度こそ、俺は君を離さない」


「……私こそ、足手まといにはならないよ」


 神がいるのなら感謝する。


「心配したんだぞ……」


「ごめんね、私も会いたかったよ」


 そして彼女を呼ぶ。


「まこちゃん……」


「しゅー……」


 眼前に皆川真がいる、色々聞きたいことがあるのにそんな物は二の次だ。


 今はこの温もりを噛み締めるだけだ。


 時が止まったように二人は抱き締めあった。


 時間の経過が冷静さを呼び戻す、すると疑問が湧き上がる。


 抱き締め合いが終わり、愛おしく離れた。


「……えっと、まこちゃん、聞きたいことあるんだけど…………なんでここにいるのとか、悪魔共はどうしたのかとか……その姿は?」


「ちゃんと説明するよ……えっと、その前に…………身体見過ぎだよ、さすがに恥ずかしい」


「え、でも綺麗だぞ? 鍛え抜かれた身体、髪の色も綺麗だし……とても魅力的だ。いつものまこちゃんも魅力的でいいけど、このまこちゃんも最高だ……その、えっと、今直ぐ押し倒したいって思う!」


「ば、馬鹿!」


「馬鹿で結構! と言うわけで……まこちゃんが欲しい」


「え! ここで!? そ、それは我慢して! 外なんてハードル高過ぎるよ……せめて室内が…………そうじゃないと、原初ちゃんに教えてもらったテクニックが……じゃない! 変なこと言わせないで!」


 原初ちゃん? 教えてもらったテクニック?


「と、とにかく私は服を着るから! やらしく見ないで!」


「いや、そりゃあ無理だよ……綺麗なまこちゃんから視線を逸らしたくないし」


「うっ、恥ずかしいんだってば!」


 大事な所を手で隠しながら池から上がる、その姿こそやらしいと思うのだが。

 嫌、言葉にはしないでおこう。

 まこちゃんは下着を着けてから大きめの白いシャツとジーンズに着替えた。


 あれ?


「ま、まこちゃん、そのシャツ……男物だよな? 誰のだよそれ……」


「え? ああ、このシャツね……貰ったんだ、大好きな人から」


「え? え? 大好きって…………何処のどいつだよ、大好きな人って」


「気になる?」


「当たり前だろ! まこちゃんは俺の彼女だ! 誰にも渡さない!」


「嫉妬してるしゅー可愛い……変なことじゃないんだよ、それもちゃんと説明するからこっちに来て?」


 草むらに座るまこちゃんは右隣を叩いて座るように促していた、釈然としなかったが話を聞こう。

 隣に座るとこれまでのことを話してくれた。


 王宮から俺と逃げて、気が付いた時には悪魔に捕まっていたと言う。


 つまり操られて俺を刺した事を覚えていなかった、ならそれは言わなくていい。自分の意志ではなかったとしてもきっと気にしてしまう、ならば知らないままでいい。

 後でスミスやマギサに釘を差しておかないとな、刺した事を言わないようにと。


 それから精神世界に秋人さんに教えられた横世界の『観測者』がやって来たと教えられた、なんでも横世界において最初の皆川真が観測者だったらしい。

 まこちゃんと区別をつけるために原初ちゃんとの名前になったということだ。


「まじか……今も原初ちゃんってまこちゃんの精神世界にいるのか?」


「うん、皆には聞こえないけどお喋りなんだよ。原初ちゃんのおかげでゲートの力を使いこなせるようになったんだ、それに色々出来るようになったよ、今も上空に視界孔、小さいゲートを展開して村全体を千里眼で見れるようにしてるんだ……危険な奴を村に入らせないようにしてる」


 上空を確認すると赤い何かが浮かんでいるのに気が付いた、あれが小さなゲートか。

 知らない間に凄いことが出来るようになったんだな。


「それで、アビスから逃げ出す為に縦世界にゲートを開けて逃げたんだよ、その異世界で私の従兄弟のお兄ちゃんに出会ったんだ……このシャツはお兄ちゃんのだから浮気とかじゃないからね?」


「な、成る程な……俺びっくりしたんだけど? 意味深に大好きな人とか言うからさ、焦ったよ」


「ごめんね」


 悪戯好きな子供のように笑いながら舌を出す彼女が可愛いとの思いが胸を貫いた、なんだこの可愛い生き物は。


 異世界に従兄弟がいたのは驚いたな、まこちゃんの説明によると俺達の世界に異世界幻想の大陸に行く手段があるらしい。そこで冒険をしたということだ、俺達みたいに非日常を体験してるなんて何か因縁めいたものを感じるな。


「で、お兄ちゃんとエリスちゃんにお別れを言ってヘルヴェルトに戻って来たんだけど……どうやら時間がズレてたみたいなんだよね、私が逃げた時間から一ヶ月前にここに辿り着いたって原初ちゃん教えてもらった」


 別の世界へ行くことは、時間にズレを引き起こす可能性があるのかもしれないな。


「現実でゲートを開いた回数ってまだそんなにないから慣れてくればズレはなくなっていくって……」


 成る程な。


「困ったのは広大なヘルヴェルトを彷徨うのはリスクが大きいから、悪魔達がいるアビスを見張れる所にいればきっと王宮の誰かに発見されて向かってくるって思ったんだよ、だからみんなが来るのを待ってたんだ」


「だからこの村でフェルトと暮らしていたんだな?」


「そうそう。フェルトちゃんにあったんだね? あの子可愛いよね! 最初あの子が悪魔に操られていた住人に襲われていてね、それを助けたのが出会いの切っ掛け。それから村に居ていいって言ってもらえて、待つ間アビスの監視とスキルの練習をして……余った時間にどうにか美味しいものが食べられないか考えたんだよ。色んな実を味見してそれをすり潰して混ぜて焼いてみたらパンケーキ味が出来たりしたな、沢山実験してステーキ味やカレー味、ピザ味なんかを開発したよ」


「パンケーキ味食べたけど本当に旨かったよ、さすがまこちゃんだ」


「えへへ。村のみんなも気に入ってくれて感動してもらえたよ……そしたら聖女様って呼ぶようになって気恥ずかしいんだけどね」


「まこちゃんは聖女に間違いない美貌を持ってるって……やっと腑に落ちたよ、ここにいる理由……えっとその姿ってずっとそのままなの?」


「ううん、元に戻せるよ。ここの世界の生き物って強力な力を持ってたから何があっても良いように原初モードで暮らしてたんだ……ほら、元に戻るよ?」


 原初モードを解除したまこちゃんはいつもの肌色と栗色の髪へと戻った。

 ああ、やっぱりいつもの姿だと安心感があるな。


「やっぱりいつものまこちゃんは落ち着く、綺麗だよ」


「ありがとう……しゅーもかっこいいよ?」


 見詰め合って唇を重ねた。

 久し振りだったから心臓がうるさく野次を飛ばす、俺は我慢できずに舌を向かわせた。

 そのままディープキスへ移行し、狂おしい程に激しく愛を確認し合う。

 唇が離れると二人共瞳を潤ませて高揚していた、外だろうとお構い無しに彼女を押し倒す。


「……だ、駄目だよ……」


「嫌なら突き飛ばせばいい……」


「…………いじわる」


 もう我慢は無理だ。

 俺はもう一度キスをするために顔を近付けた。


「聖女様としゅーん交尾するの?」


 第三者の声に俺達は正気に戻り、声の発生源へ視線を向ける。

 興味津々に見詰めているフェルトがいた、その後ろにマギサもなんとも嫌らしい笑みをしている。

 当然俺達は顔が噴火していた。


「うふふ、もう佐波くんたらお盛んね! あ、私達のことは気にしないで続けて!」


「あたしも興味あるーー! 見てても良い?」


「「良くない!」」


 同時に叫んでまこちゃんと距離を取る、二人共何故か正座をしていた。


「もう、帰りが遅いから心配して見に来たらこんな事してるなんてね……でもまさか彼女がいるなんて予想外ね」


「お、俺も驚いたけど……そりゃあやっと会えたんだからさ……色々抑えが効かないって言うか……」


「佐波くんのエッチ」


「ぐっ、今回は言い返せない……」


 いつもの乗りを繰り広げているとまこちゃんの膝の上で寝息を立てているフェルト、それを撫でている彼女に母性を感じていた。

 マギサとまこちゃんの視線が絡む、するとまこちゃんは口を開いた。


「……この前は緊急事態で挨拶しか出来なかったけど、貴女に……もう一人の私にお礼が言いたい……ありがとう、しゅーを助けてくれて……」


「え、私が別の貴女って気が付いてたの?」


「ううん、教えてもらったんだ、原初ちゃん……原初の皆川真から。後でお話がしたい、私と精神世界のもう一人の私の三人で」


「……え、ええ、それは構わないけど…………別の世界の私と話すって変な感じね、貴女もそうでしょ?」


「うん、変な感じだけど……貴女を知りたいって思う」


 なんだか気恥ずかしそうにしているマギサが珍しかった、まこちゃんも同じなのか照れてるような感じを受ける。

 もう一人の自分と話す、か。それは当人同士ではないと分からない感覚なのだろう。


 こうして横世界の皆川真が邂逅した、更に精神世界にも原初の彼女がいる。

 同じ存在が三人、これこそ珍しい事象だろう。


 俺は蚊帳の外な気分を味わいつつ、皆川真達を視界に収めていた。


 

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