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地獄世界のヘルヴェルト  作者: 生獣屋 芽怠
第十四章 彼の地にて集結せり
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地獄王の眼


 地獄の住人ランクAの獣族、青いたてがみのライオンを彷彿とさせる四足歩行の獣は良く移動手段として利用する獣、なので移動獣との名前らしい。

 しかしそれではなんだか物としか見ていない感じで可哀想、とのことでカエルレオンとマギサが命名した。青き獣って意味らしい。地獄王は意外と気に入り移動獣はカエルレオンと名称を変えることとなった。


 そんなカエルレオンに跨り、俺達はヘルヴェルトの大地を駆けている。

 先頭に地獄王とスミスが二人で乗っている。その横を俺とマギサのペアでカエルレオンに乗り隣を走る。残りの騎士団は後ろを追う形となっていた。

 赤い空の下、左には巨大な血の池が見え、右は白い森林が生い茂っていた。

 凄まじいスピードで振り落とされないように踏ん張っていた、体感では車より速い気がする。


 そんな猛スピードの中でも周りの連中は、普通にたてがみを掴んでいるだけで良く振り落とされないなと感心していた。

 やっぱり人間とは違う、俺達は今にも吹っ飛びそうなのをマギサのシュバルツミストを紐状にしてカエルレオンの胴体に回し、俺達の身体を縛って固定していた。


「凄いスピードだ、目を開けるのもやっとだぞ!」


「佐波くん大丈夫!? 私はサングラスがそれを防いでるわ! 隙間はシュバルツミストで塞いでゴーグルっぽくしてるから問題なしよ!」


 スピードが出てるから強風を一身に受けている為、大声で話さないと話事すら出来なかった。


「いいなそれ! 俺もゴーグル欲しい!」


「シュバルツミストで作ることは出来るけど透明感は皆無よ! 真っ暗なゴーグルで何も見えないと思う!」


 万能だと思ったがそんな欠点があったか、おそらく黒い粒子を集めると密度が増して透明感は皆無ってとこかな。


「あ、でも目隠しプレイなら充分に活躍できるわ! シュバルツミストは紐にもなるから身体を亀甲縛りも出来るし! 耳栓も出来る! 全く、なんてプレイをご所望なの佐波くん! マニアックね! 放置プレイ系がお好み!?」


「うるさい痴女! 頭の中にいつもピンク色かよこの野郎!」

 

「当たり前よ!」


 そんな堂々と言われると困るぞ。


「たく……マギサ、俺地獄王の眼を使う練習するから暫く話せないぞ!」


「え? 後ろから私に襲って欲しい? もう佐波くんたら案外Mなんだね! …………ごめんなさい、そんな冷ややかな視線でこっち見ないで」


 どうしてこんな性格になったんだこいつ、取り敢えず移動だけで時間を食うなら有効活用しないと勿体ない。目的地到着までに地獄王の眼を使いこなしてやる。

 出発前に使い方を地獄王に訊いた、右眼に意識を集中して地獄王の眼の中にある力、地獄の業火を感じ取りそれを外界へと放つ。


 言葉だけだと簡単そうなんだがな、実際にやってみないと分からないことも多い。


 良し、右眼に集中。


 意識を一点に収束させる、その中心に何かを感じる。それは熱、圧縮された業火は一度触れてしまえば決壊し全身へと溢れ出す。


 地獄の業火を使いこなしてやる。


 地獄王の眼から炎を解放した。


 全身隈無く炎が駆け巡る。


 しかし、それと同時に炎が牙を剥いた。


「があああああっ!」


 全身が焼ける。堪らずに集中を切る、だが残り火が皮膚を焼く。


「さ、佐波くん!?」


 マギサは驚愕しながらシュバルツミストを展開し、俺の全身を包み込み炎を消した。ミストが霧散して現れる肉体は酷い火傷を負っていた。


「大丈夫!? 一体何が起きたの! 酷い火傷じゃない!」


「くっ、ま、まさか……地獄の業火は人間の身体に耐えられないって事かよ……」


 そりゃないぞ、せっかくの力なのに全く使えないなんて。悪魔の動きを捉えることが出来る、強化された視力、これだけでも大幅な戦力アップだが奴等には悪魔化とう切り札がある。それを打ち砕くには地獄の業火が必要だっていうのに。

 宝の持ち腐れって奴か、それとも猫に小判かな。


 俺の異常を感じ取った地獄王は一時休憩を取ることにし、全軍を停止させた。さすがにカエルレオンも走りっ放しでは疲れ果ててしまう、時折休憩を挟むと聞いている。

 地獄王とスミスが急いでこっちに駆け寄って来た。


「シュン大丈夫か? マギサ、この木の実を握り潰して果汁を火傷に塗ってくれ、傷が良くなる」


 白と黒の斑模様の木の実をマギサに渡す、それを握り潰し火傷に塗って貰うと痛みが引いていくのを感じた。


「はぁ、痛みが引いていく……ありがとうございます、アフトクラトル様。マギサもありがとう、まさか地獄王の眼を使ってみたらこんな事になるなんてな、不甲斐ない」


「もしかしたらと思って火傷に効く実を持って来て正解だった、しかしこれは……」


「力を使ったら身体を焼いちゃったってこと? 地獄王さん、佐波くんは一体どうなってしまったんですか?」


「本来なら眼を受け入れれば身体に馴染み、肉体を地獄の業火に耐えられるようになる筈なのだが……地獄の住人とは違い人間の身体は脆い、それを作り変えるには時間が掛かってしまうのだろう。多少は耐えられていると思う、人間が地獄の業火に触れようものなら一瞬で消し炭だからね」


 成る程な、地獄王の従者が人間だけでも初めてなんだ、身体を作り変えるなんて異例中の異例だろう。

 数日で馴染むとは思えない。


「くそ、つまり業火は切り札にならないってことか……」


「落ち込むなよ佐波! オレがお前の刃になってやる! オレの鎌ならどんなヤツだって切り裂いてやる! だから元気出せ!」


「ありがとうな、スミス……」


 どうにか元気付けようとしてくれているスミスがなんだか可愛らしいな、落ち込む時間すら今はない。

 ならばやれる事を増やすだけだ、スミスと共闘するのも有用だし、マギサだっている。仲間に頼るのは恥ではない、それは力だ。


 今は火傷を治すことを考えるか、幸いこの実は良く効く。何かの効力は即効性があるのがヘルヴェルトの木の実の性能だ、食料だけではなく傷薬や照明と汎用性が抜群だ。

 過酷な世界で生き残る生命力が成せることだろう。


 多様性の塊たる木の実か。


「……スミス、ヘルヴェルトの木の実で何か戦いに役立ちそうな奴はあるか?」


「戦いにか? そうだな……」


 スミスは王宮を出発する時に地獄王からバッグを渡されて肩に担いでいる、それを開けて中に手を伸ばして何かを探している。つまりその中に実が詰まっているのだろう。

 おそらくそのバックから火傷に効く実を出したのだろう。


「お、この実なら役立つな。佐波、この実を二つ渡しておく」


 手渡されたのは真っ赤な色に紫色の斑模様が入っている木の実だった、なんか気持ち悪いなこれ。

 模様を眺めていると模様が髑髏に見えるように錯覚するな。


「これは体力を回復させる木の実だ、ただ味がヤバい。強烈に酸っぱくて辛くて苦くて涙が出てくるんだ……口にしたら強烈な味でまともに動けるまで数秒掛かってしまう。しかし一瞬で体力を全開にはなる」


「何それ、劇薬みたいね。こんな色の実って……食べたくないわね、それに隙が大き過ぎる」


 マギサの言う通りだな、食べると数秒動けなくなって無防備になる。だが体力を完全回復か、これは使えるな。使うタイミングを考えないとな。


「ありがとうスミス、これは有り難く使わせて貰うな?」


「おう!」


 暫くしてマギサが看病してくれたおかげで動けるまでに回復した、火傷痕も多少残っているが綺麗に消えていた。

 ヘルヴェルトの木の実は凄い効力だな。


「もう大丈夫なの佐波くん?」


「ああ、大丈夫だ。ありがとうマギサ、助かった」


「どういたしまして。まあでも佐波くんの身体を隅々まで触れたから私的に満足ね、あんな所やこんな所を念入に……」


「あのな、全部の会話に卑猥さを出すな!」


「だって全身火傷だったんだから全身の隅々に触れなきゃならないんだから! 佐波くんって大っきいから興奮しちゃった」


「な、何言ってるんだよ! 変態が!」


「あれぇ? 私何処が大っきいかって言ってないのに、何処を想像したのぉ? 佐波くんのエッチィ……私、佐波くんの手が大っきくて興奮しただけなのに」


「ぐっ……紛らわしいんだよ」


 しょうがない奴だな本当に。

 溜息をして不意に地獄王が視界に映る、視線を下に彷徨わせて指で顎に触れている、何やら考えているようだった。


「……シュン、眼の儀式の時を思い出して欲しい。眼を入れたなら必ず地獄の業火が精神世界で浴びるはずだ。精神体も肉体と同じく地獄の業火に触れてしまえば同じことになると思うが……そうはならなかった。何故か分かるかい?」


「そう言えば……俺はルベスの奴に拒絶の白を渡されていて……それを、つかったら…………ちょっと待てよ、と言うことは……アフトクラトル様、もう一度地獄王の眼を使ってみます!」


「え! 佐波くんまた使う気なの!」


「大丈夫だと……思う、もし考え通りなら」


「……やってみなさい、シュンのやりたい通りに」


「はい! マギサ、心配するな、今回は前とは違う」


「わ、分かったわよ……佐波くんを信じてみる」


「ありがとうな……良し! やるぞ!」


 瞼を閉じる、地獄王の眼を使う前にルベスから受け取った拒絶の白を発動させる。

 全身を白い膜が覆う、外敵を拒絶する白き光。


 眼の契約時に発動したこの力が業火から身体を守ってくれた、ならばこれと併用すればきっと地獄王の眼を使える筈だ。

 右眼に集中、内部で燃え盛る業火を解き放つ。


 白と炎は混じり合う。


 全身に炎が駆け巡る、赤き炎は牙を剥くことは無かった。


「……い、痛くない」


「佐波くんが燃えている……大丈夫なの?」


「あ、ああ、痛みは無い」


「拒絶の白を展開してから業火を解放か、成る程。……シュン、その状態は身体を強化している状態になる、スピードもパワーも上がっているだろう。色々試してみるといい」


「分かりました!」


 炎を纏っている状態で走ってみた、すると信じられないくらい高速で移動できた。おもむろに石を拾い握ってみると粉々になった。その場でジャンプすると3メートル以上飛び上がる。

 こいつは凄い、大幅な戦力アップだ。

 炎を右手に集中、球状に燃え上がる。この状態で敵を殴れば大ダメージだろう。


 それを解き放てば……。

 

 と、意気揚々と手の炎を放とうとしたがそれは出来なかった。

 右手の炎の球状も集めることは出来るが殴る動作をしてみたが殴ろうとすると形状を維持できなかった。


 つまり、身体を強化したがまともな攻撃は出来ないらしい。

 おそらくまだ身体に馴染んでいないのが原因だろう。


「くそ、攻撃は無理か。直ぐに炎が維持できなくなる」


「だけどいい動きしてたぞ佐波! 今までの比じゃない」


「そうだよ佐波くん! 今の動き、私よりも早く動けてたよ」


「あ、ああ……そうだな身体は遥かにアップだな」


 こうなると攻撃手段はいつものように結晶の碧だな、紅の帰還もある。

 敵の動きも捉えられるし、炎で身体もアップ。それにスミスやマギサがいてくれるなら奴らと戦えるか。


 地獄の業火は攻撃には使えなかった、その事実は心に引っかかっていた。 


 それでも納得しないとな。


 眼と拒絶の白の発動を解いた。


「うっ……」


 押し寄せる疲労がいつもの比ではない、結晶の碧と紅の帰還を長時間使って解いた時の倍以上に疲れが苛む。

 足が震えている、全身から汗が噴き出す。

 これは普段使いには向いてない、言うなれば切り札の領域だろう。


 使い所を間違えたら疲労で直ぐに動けなくなる、木の実を貰ったから最低でも戦闘では三回は使えるってところか。


「はぁ、はぁ……ヤバいな、これはきつい」


 よくよく考えれば拒絶の白を使いながら炎を使う、そして戦闘では残り二つの結晶の碧と紅の帰還も使うのだから今以上に疲労する訳か。


 参ったな、体力が持たないな。


「……スミス、体力を増やす木の実ってあったりしないか?」


「体力を増やす、か。あるにはあるが……本当に食べるつもりか?」


「あの実か、シュンも命知らずだ」


「え? そ、そんなにヤバい実なのか?」


「あ、ああ……体力を強化する実は肉体を作り変える……地獄の住人ですら苦しいのに人間の佐波が口にしたらどうなるかわからないぞ」


「佐波くん、それは食べちゃだめよ、ヤバい匂いがプンプンしてるわ」


「そうだが……この力を使うには体力がいる、今まで以上にだ。だから少しでも体力を伸ばせるなら食べてみたい」


 そう言うとスミスと地獄王は顔を合わせ不安げにしていた、それだけで相当やばいやつらしい。俺って昔からヤバいことによく当たるな、今回も地獄王の眼やら今回の実やら。


「……よ、良し、佐波、覚悟があるなら渡すが……その代わり半分だけにしとけ、それだけでも大幅に体力は上がる」


「分かった、半分だけにする」


「佐波くん……」


「心配するなよマギサ、いろんなことを乗り越えて来たんだ、大丈夫だって」


「……やっぱり男の子だね佐波くんは……いい佐波くん、ヤバいって思ったら吐き出すのよ?」


「了解だ……スミス頼む」


 バックの中から灰色と黒の螺旋状の模様を持つ木の実を取り出した、それを半分に千切ると中身はまるで生肉のような桃色の霜降りだった。

 気持ち悪い、これ本当に食べられるのかよ。


「……佐波、オレも昔一回だけ食べたことがあるんだ。本当に苦しくなるしヤバい代物だ……サングラスの言う通りヤバいと思ったら吐き出せ、良いな?」


「わ、分かった……」


 あのスミスがヤバいって言っている、そんな代物を今から食べる。まるでドーピンクだな、卑怯な感じを受けるが悪魔共はそれ以上に悪質だ。

 俺は止まっていられない、大事な人を助けなきゃならないし地獄世界も守らなければ。


 ここはもう、俺の世界でもあるのだから。


 意を決し木の実を食べた。


 食感はゴムを噛んでいるみたいだ、味は苦味と酸味、後は少し鉄の味がする。

 不快だったがそれを飲み込む。


 暫く何も起きなかった。


「……あれ、別にどうってこと……」


 初めに気がついたのは左頬に水滴が落ちたことだった、なんだこれは雨か?

 水を指で拭うと粘質的であることに気が付いた、それを視界に収めるとそれは水ではなく血液だった。


 怪我?


 そう思うと同時に水滴は右頬にも及ぶ、更に左頬に新たな血が流れている。


「佐波くん、め、目から血が……」


 ああ成る程目からの血なのか、その直後に喉奥に違和感を感じた。昇り来るそれを吐き出した。

 これも血だった、大地を赤く染めてしまった。


 これは吐血しているのか、何故か冷静だった。


 不意に全身から汗が噴き出してきた、そして全身が震えだす。

 これはヤバイかもと呑気に考えた数秒後、全身を激痛が走り回った。


「があああっ!」


 全身の筋肉が痙攣し始める、神経が向き出しなったかのような痛み、それが思考を奪う。


 何も考えられない。


「かはっ!」


 吐血が止まらない、肉体の内側がドリルで工事されてるみたいだ。


「佐波くん! 実を吐き出して! 死んじゃう!」


「ぐっ、がはっ、はぁ、はぁ……い、嫌だね、俺は……かはっ! うっ……つ、強くなる……こんな痛み、乗り越えてやる!」


 実を半分だけでこれか、だが地獄王の眼を受け入れた時の方がきつかった。あれを体験した俺ならこの痛みにも耐えられる。

 現に、最初は何も考えられなかったが今は思考できる。


 数分、俺は痛みに耐え続けた。


「……少し落ち着いたようだね。シュン、もう暫くその状態が続くだろう。安静にさせてやりたいが先を急がなくてはならない。そろそろ移動を開始する。マギサ、すまないが能力でシュンをカエルレオンに固定してくれないか?」


「わ、分かったわ……佐波くん、ごめんねシュバルツミストの縄を身体に巻き付けるわよ?」


 胴体にシュバルツミストが巻き付くと激痛が増した。


「がああっ!」


「あ! ご、ごめんなさい!」


「い、いや、俺のことは気にするな……さっきより耐えられるようになってる……暫く動けないけどな」


「佐波くん……」


「あの痛みを耐えられるとはやるな佐波、半分だけだとしてもオレが食べた時は死ぬかと思ったぞ」


「ボクも食べたがあれは辛い。身体を作り変えるように全身の筋肉が動き回ってたからね……人間では酷だろう」


 全部の実を食べてたら本当に死んでたかもしれないな。

 痛みの峠は越えたのだろうがまだ永続的に痛みが続いていた、身体を動かすと激痛が倍増する。大人しくしているしかない。


 カエルレオンに縛り付けられると全軍が休憩を終わり進軍を再開した、獣が走る度にその振動が痛みを倍増させた。

 心配そうにしているマギサには申し訳ないと思ったが、振動が激しいので全く動けなかった。


 この調子で大丈夫なのか心配だが集結地へと向かっていった、痛みと共に。


 

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