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地獄世界のヘルヴェルト  作者: 生獣屋 芽怠
第十四章 彼の地にて集結せり
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意思の疎通と探索


 白を基準とした十畳程の個室で覚醒する、天井には光を放つヘルヴェルトに自生している木が植え付けられ、部屋を照らしている。逆さまに伸びる木はいつ見ても不思議だ。

 後はベッドにしている白い綿の植物、これもこの世界のものだ。とても寝心地が良い。

 この部屋は自由に使っていいと言われたので自室にしている、少し殺風景だがあまり部屋に物を置かない俺にとっては居心地がいい。


 眠気を振り払うと、地獄王の眼を移植した事を思い出す。


 色々と確認すると身体は快調、視界も良好、不具合もなさそうだ。


 起き上がり軽く体操して身体の動きをチェックした、問題なくいつも通りに動く。

 久し振りの両目の視界は世界を広く感じさせた、片目だと不自由なことが何かとあったからありがたい。


 それにしてもどれだけ眠っていたのだろう、身体の具合いから数時間は確実に経っているだろう。


 時間はあまりない、悪魔レイスが解き放たれてしまうタイムリミットが迫っているのだから。


 先ずは騎士団の鍛錬所に行ってみるか。そこならどれだけ時間が経ったのか分かるだろうし、捜索隊の手伝いをしているマギサがいる筈だから教えてもらおう。

 それに隙を見て地獄王の眼を使ってみたい、この眼ならば悪魔共の動きを追うことが出来る、剣の山脈ではマギサに目の代わりをしてもらって凌いだ。


 だが、戦いの中でずっと一緒に戦うことは難しい。はぐれる恐れもある、気絶するかもしれない。

 ならば俺一人で戦えるようにならなくては。


 決意を胸に部屋を後にし、鍛錬所へと赴く。


 目的の場所へと踏み入ると騎士団の慌ただしさと騒がしさが飛び込んで来た、鍛錬所全体を見回せる高い丘に立っていた。

 騎士団の数が少ない、悪魔の捜索隊として秋人さんと外に出ているのだと気が付いた。


 残りの騎士団は数十程で少ない、だがこの荒野にテントらしき急造の建物を数十メートル先に見掛けた。

 建物と言っても木で造られた4本の柱と屋根があり、後は片面一ヶ所に壁、なんだか黒板みたいだと思った。そこに紙が貼ってある、それと机と椅子もあるな。


 その中に副騎士団長ギルを見掛ける、隣にマギサが地図らしきものを机に広げ何かを描いているな。他にも数人の騎士達が同じように地図を広げて描いていた。

 えっと、悪魔の目撃情報やら悪魔の反応をしめした地点を記入している。

 成る程、捜索隊の本部として機能しているのか、ヘルヴェルトの地図は少し大雑把に描かれているな。

 お、マギサの字綺麗だな。


 て、ちょっと待て。


 数十メートル先の文字が読めるって異常だぞ? それに口の動きすら確認出来る。


 これって地獄王の眼の影響なのか?


 そう言えば右目の視力が凄まじいな、遠くまで見えるが左目との差で立体感や距離感がおかしくなりそうだ。

 疲れるなこれ、右目に意識を集中すると視力が爆発的に上がる。いつも通りにすると左目に合わせた視力になるらしい。

 これを使う時は片目は瞑った方が良さそうだ。


 まあでも地獄王の眼の能力一つが分かったのは良好だ、望遠鏡の機能があるという事か。

 良し、これを『遠く見るパワー』と命名しよう。さすが俺だな、ナイスネーミングセンスだ。


 そう思っていたら脳内まこちゃんが『しゅーにネーミングセンスはないよ』なんて囁いて来やがった。

 まこちゃんでも俺のネーミングセンスを理解するのは少し難しかったか。まあ仕方ないさ、俺を理解できるのはやはり俺だけだ。

 と思うと脳内まこちゃんは溜息をする。

 なんだか呆れられている? 何故だ?


 謎のまま取り敢えず捜索隊の本部に顔を出す事にした。

 紅の帰還を発動して本部までジャンプした、突如現れた俺にびっくりするギルとマギサを目撃した。


「おっす、今どんな感じ?」


「シュン!?」


 ギルが目を丸くしてるな、面白い。そしてマギサもおんなじような顔していやがる。


「さ、佐波くん!? いきなり現れないでよビックリするでしょ! それに手伝いに来るって言ったのに半日以上経ってるわよ!」


 半日も寝ていたのか。


「悪いマギサ、用事があってさ」


「用事って何を…………あれ、佐波くん、その目…………それが地獄王の眼なの?」


「ああ、契約した。まあけっこう疲れたからサボって寝てた、ぐっすりと」


 間抜けっぽく言ってみた、眼の契約が命懸けだったと気付かれたくはなかった。

 しかしギルは深刻そうな表情でこちらを見詰める、そうかギルはヘルヴェルトの住人であり副騎士団長だから眼のことを知っているのか。


「……シュン、身体は大丈夫かい?」


「おおっ! 元気いっぱいだ!」


 満面の笑顔で答えた、その動作が勘の良いギルは悟り、話を反らす。


「ふっ、寝過ぎてボケては無さそうだね。サボってたなら少し手伝ってくれ、捜索隊から通石を通して情報が入ってくる、それをここでまとめている」


「了解だ! ごめんなマギサ、サボっちまってさ」


「……もう佐波くんたらお茶目なんだから。ほら働いた働いた!」


「はいはい……」


 どうやらマギサにはバレずに済んだらしい、彼女は辛い経験をしてきた。これ以上悲しませたくはない、別の世界だろうと彼女は皆川真なのだから。

 意思の疎通が出来る石、通石を手渡された。これは石を2つに割り、それを持つ者同士で意思の疎通が出来るヘルヴェルトの珍しい石だ。黒い石で少し赤く光っている、これは向こうからの呼び掛けだ。つまりは着信中と言う事だ。


 強く通石を握り締めた。


 声が頭の中に響く。


『こちら死神界隈でとてもとーーっても可愛いと評判のリリリちゃんですよう! 聞こえますかですよう?』


 嘘だろ、この石リリリと繋がってるのかよ。


『その評判、自称だろうが! 変な事言うなよこのですよう野郎!』


『ううっ? あれ、この声って……うわ、人妻スキーシュンですよう。なんでリリリちゃんの通石に出るですよう、リリリは野郎じゃねーーですよう! 萎えるですよう、最低ですよう、先輩とラブラブしたいですよう』


『てめぇ、言うに事欠いて何を言いやがる! 変な願望混ぜやがって! ちゃんと仕事してんだろうな?』


『ふんだ、この仕事熱心なかわゆい死神ちゃんになんて口の利きですよう。ちゃんと捜索してますですよう! その最中にまた操られた住人に絡まれたんですよう!』


『絡まれた? 何処でだ?』


 地図を確認しながらリリリが場所を言う、その絡まれた場所を書き込む。地図はヘルヴェルトの大まかな形、ランクSが暮らす村の場所等が記されている。


 赤い大地の地平線の側の森。


 不思議だな、赤い大地の地平線と呼ばれている場所は殆ど何もない荒野だ。リリリの話によるとその荒野からやって来たとのことだ。

    

「なあギル、赤い大地の地平線の向こう側って何があるんだ? 地図だと大きな丸の記号と、数カ所に楕円のマーク、それとドクロマークがいっぱいあるけど?」


「ドクロマークは墓場だ。ヘルヴェルトが初代地獄王の頃は争いが多発していてね、その犠牲者たちの墓場となっている……楕円は血の池のこと、大きな丸はアビスと呼ばれる大穴だ。簡単に言うと同族食いの住人を閉じ込めている場所だ。結界を貼ってあるから誰も出てはこれない」


「なるほど……今の通信で地平線から操られた住人が来たらしい。もしかしてこの地平線のどこかにいる可能性があるのか?」


「ふむ、可能性はあるだろうが情報が少すぎるな」


 確かにそうだな、偶々の可能性もあるがゼロではない。


「死神達の捜索隊らしいから地平線を確認してもらうか?」


「そうだね……ちょっと待て」


 ギルは通石を握り締めた、通信が入ったらしい。


「どうやらマコトの父上が地平線へ向かっているらしい。ならそこと合流させて手伝わせよう」


「わかった、伝える」


 秋人さんが地平線に向かっている、悪魔の気配を追うことが出来るならこの場所は怪しいな。

 取り敢えず秋人さんと合流させるべくリリリを呼び出す。


『リリリ、秋人さんが地平線に向かっているらしいからそこと合流して手伝ってやってほしい』


『ふーー、死神使いが荒いですよう。仕方ないですよう、このかわゆくてぷりちーーなリリリちゃんが一肌脱いであげるですよう。感謝するですよう!』


『……可愛いとプリティは同じ意味だぞ? 言葉勉強しような?』


『うううーーっ! うるせーーですよう! これでも同期の中では出世頭なんですよう! 先輩と一緒に仕事出来るなんて名誉を体験しているリリリちゃんは無敵なんですよう!』


 まじかよ。


『あーー悪かった、悪かった、取り敢えず合流頼むな?』


『軽く流しんじゃねーーですよう! この人妻スキーめ! 了解したけどゆるせねーーことだってあるんですよう! 大体…………』


 うるさいので通石を机に放り投げた、まあ了解って言ってたから大丈夫だろう。


「もう佐波くん、貴重な石を放り投げないでよ。こんなに珍しいの滅多に無いのに」


「ふむ、良ければこれを渡しておこう」


 ギルはマギサに通石を手渡した。


「え、良いのこんな貴重な物貰っちゃって?」


「別に構わないよ、今は緊急時、連絡は早くできるに限るからね……シュンにも渡しておこう」


 通石を貰った、俺はそれを半分に割る。意外と簡単に割れた、それをマギサに渡す。


「ほらマギサこれ持ってろよ、これで何時でも俺と連絡がとれる」


「ありがと! じゃあこの新品の通石は緊急時の時に使わせてもらうわね?」


 そう言ってマギサは新品の通石をシャツのポケットに入れた。

 なんとなくその光景を眺めていると通石が光り始めた、マギサからの通信だ。


『なんだよ近くにいるんだから話せばいいだろ?』


『ふふっ、だって佐波くんたら私の胸を見詰めていたからムラムラしてると思ったんだもん』


 しまった、こいつ痴女だった。


『な、なんとなく見てただけだ!』


『もうそんなこと言って、ここに来てからちゃんと処理してる? 貯めたままっていうのも身体に悪いわ』


『あのな、そんな心配しなくていいんだよ!』


『心配するわよ、意外と純情な貴方を見たからね、ラブホで。だからお姉さん心配で心配で……』


『ふん、あの時は色んなことが次から次に起こったから混乱してただけだ。俺がマギサで動揺するわけ無いだろう』


 そう言うと、ギルに見えない様にマギサは着ていたシャツのボタンを一部外してめくった。


『ほら佐波くん、男の人の大好物ですよーー』


 めくられたシャツから垣間見えたのは肌色、あれこいつブラを着けてないのか。


「うわあああああっ!」


「な、なんだ! シュンどうかしたのか!?」


 思わず叫んでしまった。


「な、ななな、なんでもない! 気にするなギル!」


「そ、そうかい? もし疲れたのなら休むといい」


「は、はは、そうだな、疲れたな……」


 なんでマギサはこういうことを平然とやれるんだ!

 マギサがいじめっ子の様にニヤリと笑みを浮かべ、こちらを眺めている。


『佐波くん顔真っ赤だよ?』


『お、お前! 何考えてるんだ! み、みみ、見えちまっただろうが!』


『違う、見せたのよ? ふふっ、佐波くんは純情なんだから……そんな事でそっちの私を満足させられているの?』


『変なこと聞くな!』


『これ大事なこと、もし私と同じ性癖なら……男性の鎖骨に魅力を感じている筈よ? そこに水溜りなんて出来てたらきっと欲情して貴方を求めてくるわよ? 私がそうだから。何も言わないで! マニアックなのは自覚してるから!』


 え、まこちゃんって鎖骨に魅力を感じているのか?


 そう言えば、俺がシャワー浴びて浴室から出てきた時に彼女から熱い眼差しを感じた気がする。


『きっと二人の営みは最初佐波くんがリードして恥ずかしがるそっちの私、だけど次第に攻守が逆転して佐波くんはまな板の上の鯉状態ね。一度スイッチの入った私は暴走状態に入るからね。そっちの私が色んなテクニックを習得したら恐ろしいわよ? 悪魔になる前、ちょっとした知人に彼氏を喜ばせたいから妙技を教えてって言ってテクニックを磨いたら100年に1人の逸材だって言われた…………って、あれ? 佐波くん顔が更に真っ赤だよぉ? もしかして、図星?』


『よ、よく喋るな本当に。取り敢えず黙秘します』


『それって肯定ってことだよぉ?』


 この野郎、下ネタを饒舌に喋りやがって。


『ちくしょうめ! そんなに下ネタ好きならお前のお好きでいらっしゃる鎖骨見せてやるよ!』


 シャツをめくり鎖骨を見せてやった、別に普通だけどな。けっこう出っ張っていて形を確認しやすいかな、くぼみもあるし確かにシャワー浴びると水溜り出来るな。

 暫く見せていたが静かだった。

 あれ、大人しいなどうしたんだ。

 マギサはサングラスをずらして食い入るように俺の鎖骨を眺めている、無表情で。


『…………マギサ?』


『……うん、満点。佐波くんの鎖骨は100点満点ね。いや、良いものを見せて貰ったわ……あのね佐波くん、ちょっとお姉さんと岩陰に行かない? 大丈夫、痛いことはしないから、ちょっとだけだから!』


 目がマジだ。


『お断りします』


 なんか鎖骨を晒していることが恥ずかしくなって来た、なので隠した。

 その光景を悲しげに見詰めるマギサだった。


「…………二人共、先程から何をしているんだい? こそこそ通石で話しているみたいだが」


「あ、えっと、ちょっとした世間話をな、あははは……」


 下ネタ言ってくるなんて言えるか!


「私達、大切な会話をしていたわ。とても大事、人間の根幹をなすもの、生物の根幹をなすもの」


「人間の根幹か……哲学と言う奴だろうか?」


 違います、はい。


「そう言えばギルさん、ミラエルさんのことどう思っているの?」


 なんかマギサが暴走しだしたな。


「騎士長様の事? それは当然尊敬に値する存在だ、あれ程の剣さばきは見たことはない。それにあの灼熱のブレスを受けた敵は骨すら残らない、素晴らしい」


「んーー、そっちな感じか。どうもっていくかな…………えっとギルさん、もしミラエルさんが誰か知らない男の子供を身籠ったらどう思う?」


「おい馬鹿! 何を聞いてるんだ!」


 冷静に、そしてスマートに対応をして来たギルがそんな馬鹿な話を聞いてどうにかなるとでも思っているのか?

 と、思っていた。


「騎士長様……が、み、身籠って…………」


 明らかに動揺している。


『やっぱりそうだ、憧れを抱いているのは本当なんだろうけど女性としても意識していた。きっと私が言ったもしもがあり得ないと思っていたから安心しきっていたのね……つまり危機感が足りないってことね……ようやくこれでスタート地点かな?』


 うん、取り敢えずマギサの頭にゲンコツをくれてやった。


「痛ぅーー……さ、佐波くん、痛いよぉ……」


「ちょっとは反省しろ。ギルも今の話もしもの話だ、忘れてくれ」


「……あ、ああ、そうだね……もしもだったね」


 顔色悪くなってるぞ?


 痴女に振り回され頭痛がしてきた気がする、溜息を吐いていると一人の騎士が本部に駆けて来た。


「サナミシュン、カーナ様がお呼びになっている直ぐに応接の間に行かれたし!」


「…………え?」


 先代地獄王の妃であり、現王の母でもあるカーナが俺を呼んでいる?

 そんな事を聞かされたら頭が真っ白になってしまった、胃が痛くなりそう。


 何故俺を呼ぶ?


 どうしてだ?

 

 意味が分からない。


「シュン、ここはいいからカーナ様の所へ向かってくれ」


「……まじかよ」


「なんかよく分からないけど佐波くん、絶望してるって顔だよ? 元気出して? 私のおっぱい揉む?」


「揉まねぇよ!」


 スミスの事で頭に来て失礼な事をした、これからは地獄王の従者になるんだから失礼があってはダメだろう。

 何を言われるかわからないな。胃が痛くなりそう、これが上司を目の前にしたサラリーマンの気持ちだろうか。


 謎の呼び出し、嫌な予感しかない。


 俺は足取り重く、応接の間へと向かった。




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