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地獄世界のヘルヴェルト  作者: 生獣屋 芽怠
第十三章 深層より原初が来たりて
63/75

悪魔の内心に触れて


 沢山のスキルが発現した事によりゲートを開くだけではなく、多様性が開花した。

 ステータス画面を閲覧しに来た原初ちゃんはスキルを眺めて何かを確信したようにこちらを向く。


『まーちゃん、スキルなんだけど最初は『身体強化』を使いこなそう。現実世界に戻った時に精神と肉体の乖離が激し過ぎて身体が付いて行けない。実際に今『身体強化』を使っても肉体関係の数値が多少プラスされるだけで、ちょっと運動が得意な奴程度だよ。使いこなしてレベルを上げればアスリート以上にもなれるし、人間の限界も突破出来る』


 人間の限界を突破?


 この私が?


「なんだか信じられないけど、頑張ってみるよ」


『うん、頑張れ! 取り敢えずある程度『身体強化』をやってみて? 使い方はゲートの時と同じ、自分の中に意識を集中させていけば自然と分かる筈だから』


 言われた通り目を閉じて意識を己の内側へと向けた、一度感覚を掴んだお陰ですんなりと意識の奥底へ向かうことができた。

 底には先程と違って複数の光が浮いている、私が求める物に手を伸ばす。

 掴み取り、身体へと流した。

 全身に『身体強化』が施されていく。筋肉が微小だが膨張する感覚はむず痒く、全身に蟲が這い回っているようで気持ち悪かった。


 眉間にしわを寄せてそれに耐える。


 暫くして不快さが落ち着いた。


『おめでとう、『身体強化』が発動したよ! スキルを初めて使う時は不快感があるけど、一度やってしまえば後は簡単に発動できるようになるよ?』


 瞼を開けて自身の身体を確認してみた。


「…………あれ? なんか皮膚の色が濃ゆくなってるような? 気の所為、かな? それに……髪の毛の色も若干変化してる……?」


『身体をゲートの力で強化したから身体に変化が出てくるよ? レベルが上がっていく内に私と同じ様な色になる。褐色の肌と白銀の髪色に変わるんだ。お揃いだね!』


「そうなんだ……えっと、色ってまさかずっとそのまま?」


『大丈夫! 『身体強化』を解除すれば元の色に戻るから…………ふむ、それにしても『身体強化』なんてありきたりな名称だな。良し、スキルの名前変えちゃおう! ちょっと頭に触れるね?』


 と言って両手で私の頭を包んだ。すると虹色に輝く光が漏れ出ていた。


 とても温かい光。


 そう言えば原初ちゃんに助けて貰った時もこうやってくれたっけ。

 

『はい、終わったよ? ステータス確認してみて?』 


「うん、ステータス」


 皆川真 レベル10

 体力  24/11

 生命力 30/26

 精神力 168/18

 力   17 +2

 防御力 13 +2

 素早さ 15 +2


 スキル 『ゲート』レベル10

     異界への門を開ける力。

     #『縦』世界を開く。

     使用精神力 100


  派生スキル 『原初モード』レベル1

        ゲートのエネルギーを全身に

        纏わせて肉体の数値を上昇

        させる。

        力、防御力、素早さに+2

        使用精神力 50


        『視界孔』

        視界に映る場所に小さな

        ゲートを作る。

        使用精神力 10


        『千里眼』

        ゲートから観える世界を

        瞳を介して脳内に上映する。

        使用精神力 60


        『ゲート(横世界)』

        『横』世界のゲートを開く。

        使用精神力 80


        『異界飛ばし』

        対象を設定し、狭間の世界へ

        追放させる。       

        使用精神力 300

        #使用精神力200でも発動可能

        その場合横世界にランダムで

        追放させる。


「あ、身体強化が原初モードってなってる」


『このスキルを使ったら今の私のようになっていくからね、だから『原初モード』って名前を変えておいたよ? 後スキルの説明も若干分かりやすくしといた』


「ありがとう……この力とかの数値が+2になってるけど、レベルが上がれば数値は増えるってこと?」


『そういう事! まあここからはスキルを使って使って使いまくらないとレベルは上がらないからね?』


 使い続ければレベルが上がるってことかな。


「あ、成る程、今度はスキルを使って精神力を削って倍増させていくんだね?」


『まーちゃんは可愛いのに感がいいね! スキルのレベル上げと精神力の倍増は同時に出来るからお得な訓練になってくるよ!』


 良し、訓練の内容が明確になったからやる気が出てきた。頑張るぞ!

 考え方も前向きになって来たかも、最近は後ろ向きだったから良い傾向かな。


 そんな事を考えていると先程原初ちゃんが私の頭にした虹色の光の事が気になった。


「原初ちゃん、さっき私にした虹色の光ってスキルなの?」


『うん、私固有のスキルかな。『精神改善』って言って精神を落ち着かせたり、回復させたりする。改善だから異物を排除したり色々出来て便利な力だね……最初に出会ったときにこれを使ってまーちゃんに掛けられた術を解除したんだ。精神世界に潜り込んでいた悪魔の分身を追い出し、額に掛けられた紋章、あれは盗聴とマーキングだね、あれがあったら逃げても瞬間移動で追い掛けてくるから嫌らしい術だよ』


 その紋章のせいで私は悪魔に捕まったのか。

 精神世界から悪魔を追い出すことも出来るってあのロゼリアに対抗するには一番大事かも。


「ねえ原初ちゃん、そのスキル私にも使えるかな?」


『え? …………そうか、あの悪魔厄介だからね、覚えておいて無駄にはならないか。良し、やってみようか! 私の手を握ってみて?』


 彼女の手を握った。すると握っている手の中から虹色の光が漏れ出す。


『目を閉じて集中して? ただ今回は自分の中ではなくこの光を感じて私の心に触れるように集中』


「は、はい!」


 目を閉じて虹色の光に集中する。


 私の中には無かった光、温もりを纏い安らかな気分にさせてくれる。私を救ってくれた光、その中へ飛び込むように意識を向かわせる。

 光を通過した。


 更に彼方へ。


 淡い桜色の光を感じる、これが原初ちゃんの心なのだろうか。

 そこへ手を伸ばし触れる。


『あっ、んっ…………私、まーちゃんに触れられてる……まーちゃんを感じる…………んんっ、こそばゆいな……い、今から『精神改善』を発動させるよ? 体感すれば後はまーちゃん自身がこのスキルを再現出来るはず、同じ皆川真なのだから出来るよ……』


 触れた心から虹色の光が放たれた。肌で感じ、心で理解する。

 これが原初ちゃんの力。


 体感した光を私の中で再現する、元々持っているゲートの光、精神力を糧に輝く力。

 光の濃度を変え、体感した感覚に近付けるように光の構造を変えていく。


 油断すれば元の光に戻ってしまう、もう一度挑戦する。

 バラして、組み替えて、虹に近付ける。その繰り返しの果てに私の光が二つ、三つと色が分かれていく。


 そして確信した、光は虹色になると。


「はぁ、はぁ…………で、出来た……」


 と呟いたと同時に精神力がゼロになった。

 意識が途切れ眠りへと落ちた。








「ん、あれ、私……?」


『おはようまーちゃん、精神力切れちゃったね?』


「そっか、使い果たしたんだ」


『でもそのお陰でスキルが発現したっぽいね? 全く、あれだけ私の心をいじくり回すなんてとんだ助平さんだねまーちゃんは? このエッチ!』


「人が聞いたら誤解するような言葉を謹んでくれるとありがたいかな? 原初ちゃんの方がエッチだよ」


『私はドスケベだからエッチなのは当たり前だよ』


 えっへんと胸を張る。


「……私もこんな成長するかもしれなかったなんて信じられないよ。取り敢えず確認しなきゃ、ステータス!」


皆川真 レベル10

 体力  24/13

 生命力 30/27

 精神力 336/336

 力   17

 防御力 13

 素早さ 15


 スキル 『ゲート』レベル10

     異界への門を開ける力。

     #『縦』世界を開く。

     使用精神力 100


 追加スキル 『精神改善』レベル1

        精神世界の改善、回復

        を行い、異物を排除する。

        使用精神力 30


  派生スキル 『原初モード』レベル1

        ゲートのエネルギーを全身に

        纏わせて肉体の数値を上昇

        させる。

        力、防御力、素早さに+2

        使用精神力 50


        『視界孔』

        視界に映る場所に小さな

        ゲートを作る。

        使用精神力 10


        『千里眼』

        ゲートから観える世界を

        瞳を介して脳内に上映する。

        使用精神力 60


        『ゲート(横世界)』

        『横』世界のゲートを開く。

        使用精神力 80


        『異界飛ばし』

        対象を設定し、狭間の世界へ

        追放させる。       

        使用精神力 300

        #使用精神力200でも発動可能

        その場合横世界にランダムで

        追放させる。


「良かった、『精神改善』はちゃんと追加されてる!」


『まーちゃんは流石だよ。さてと、お風呂ご飯休憩終わったらスキル訓練再開だよ!』


「分かりました!」


 ルーティンを行い訓練を再開した。原初ちゃんがスキルの説明で『原初モード』を発動させ続ける事がレベル上げに必要だとの事だった。

 現実世界に戻った時のことを考えて貧弱な身体を補う意味で必ずスキルは『原初モード』を使ってから使用するように身体に刷り込む。

 それが完了すると別のスキルを同時並行で訓練を開始する。


 取り敢えずよく分からないスキル『視界孔』を発動させた。視界に観える範囲に小さなゲートを作ることが出来る。

 実際に15センチ程の小さなゲートがぽつりと目の前の空間に出現した。


 これが何になるのだろう?


『まーちゃん、『千里眼』使ってみたら?』


 原初ちゃんの言われるまま『千里眼』を発動させる。すると私の脳内に映像が浮かび上がる。

 その映像に私がいた。

 薄めの白銀の髪と褐色になっている白いバニーガール、それが今の私。


 なんで自分が見えるのだろう?


 ステータスを出して『千里眼』を確認するとゲートから観える世界を瞳を介して脳内に上映する。

 ゲートから観える映像。

 謎が解けかけた、その答えは目の前にある。


 『視界孔』で作った小さなゲート、そのゲートから観える世界、つまり今は私が観えている。

 小さなゲートからの映像が脳内に上映されていたんだ。


 つまりスキルを組み合わせる事で真価を発揮するスキルなんだ。


『理解したみたいだね? 視界に映る場所に小さなゲートを作れるってことは上空にゲートを設置してそこから『千里眼』を発動させれば辺り一面を見渡せるナビゲーションだって出来る』


「成る程、これ便利だね!」


『ふふっ、まだまだだねまーちゃん、『視界孔』は単体でも充分に使える便利なスキルなんだよ? 例えば何かの物体にゲートを展開して閉じると……』


 スキルの説明を聞いていると凍ってしまったかのように止まった、原初ちゃんは顔をしかめていた。


「原初ちゃん? どうかし……」


 どうかしたのかと言い掛けた刹那に異変が起こる。

 地震がこの世界で発生した。


「え! 地震!?」


『不味い、まーちゃん、現実世界で貴女が起こされそうになってる!』


「嘘! まだ練習もままならないのに!」


『取り敢えず現実でも私の声は聞こえるから、悪魔に従順なフリをして逃げ出そう! 大丈夫、今の貴女なら出来る!』


 来るべき時が来てしまった、これから悪魔に立ち向かわなければならない。不安はある、でもこれまでの訓練は私の精神力を底上げしてくれた。

 前とは違う、ちっぽけな精神力は今は桁が違う。

 抜け出して皆と合理する、それが今のベストだ。


 覚悟を決めたのと同時にキャンバスゾーンは地震によりひび割れて粉々となっていく。元の精神世界に飛ばされた。

 浮遊感に包まれた、暗闇の世界に光が裂けてそこに吸い込まれていく。


 この先は現実が待っている。















「……ほら起きて下さいまし? わたしくに貴女の綺麗な瞳を見せて下さいます?」


 身体が揺さぶられている、少し頭痛がする。暑苦しさで全身汗を噴き出して不快さが纏わりついている。

 瞼を開くとアビスの横穴、最初に目覚めた場所で覚醒したようだ。赤く光る岩の壁、地面、天井が暗闇を追い払っている。


「気が付きましたのね? ふふ、可愛い寝顔でしたわね、わたくし興奮しちゃいましたわ」


 この声の主を知っている、紫色のロングの髪、それを左側で束ねて肩に垂らしている。鋭い目、左目の下に蛇を模した刺青が垣間見える。

 黒いワンピース姿の女はメイディア、私が初めて遭遇した悪魔だ。


「……何か、用?」


「随分嫌われてしまいましたわね? ロゼリアから虐め過ぎたって言われて来ましたけど、どうやら大丈夫そうですわね? 寝ている間に精神が元に戻ったみたいで安心しましたわ」


 ロゼリアが呼んだ、今はメイディアしか確認出来ないけど近くにいる可能性がある。

 不意に原初ちゃんの声が頭に響く。


『一人だけっぽいけど油断しないで? 慎重にね』


 分かったよ原初ちゃん、慎重になる。


「それにしても……皆川真、全身汗でずぶ濡れですわね? 涙や嘔吐、それに鼻水後もありますし、人前に出られない姿ですわね…………この大穴の下の方にある横穴に地底湖を見つけましたの、わたくし水浴びをしようとしていましたから丁度良かったですわ。今から水浴びに連れて行って差し上げますわよ? このまま体調を崩されたら困りますもの」


 確かに今の私は酷い格好だ、気持ち悪いし、こんな姿をしゅーには見せられない。ここは従った方が良さそうだ。


「わ、分かったよ……水浴びに連れて行って下さい」


「素直で可愛らしい……水浴びが終わったらわたくしが気持ちいいことをして差し上げますわね? その身体、隅々まで愛撫してあげます」


 やっぱりこの悪魔は気持ち悪い、目が本気でずっと身体を舐めるように見詰めている。


「立てます?」


「大丈夫……です」


 立ち上がろうとすると、身体が重りを背負ったように重くて動き辛い。精神世界では楽々に身体を動かせていたけど現実では身体が重くて変な感じだった。

 身体が弱っていることも関係あるだろうけど精神と現実のギャップに驚いていた。


「うっ、はぁ、はぁ……」 


「身体がフラフラですわね? 余っ程ロゼリアの虐めが利いてますのね……全く、優雅さが足りませんわあの子は。ほらわたくしの腕を掴んで?」


 言われた通りメイディアの腕を掴みゆっくりと歩き出した。横穴を出てアビスの下へと繋がると壁沿いの道を下る。

 ロゼリアはいない、今いるのはメイディア一人。


「どうしたのかしら、わたくしを見詰めて。怖い顔、何を考えていて?」


 逃げ出す口実を探しているなんて言えない、話題を逸らさなきゃ。


「……あ、貴女達は世界を壊す事をなんとも思ってないの?」


「まあ、勇ましい事ですわね、臆することなく言えるなんて……だからロゼリアに虐められる事になるんですわ。でも、その感情も美しいですわね……わたくしは別に世界を壊す事なんてどうでも良いのです」


「え?」


「純粋な悪魔レイス様にわたくしは悪魔にして頂きました、わたくしを辱めた者共に復讐できるならと悪魔になることを望んだ…………わたくし、復讐はとうに終えておりますのよ?」


「……な、なら貴女はどうしてこんな事を?」


「ふふっ、復讐は終わり残ったのは欲望だけ……わたくしは、貴女の様な素敵な女性を楽しむ為について行ってるに過ぎませんわ。男は汚い、男は視界にいれるのも本当は嫌、男が潰れる姿は気分が良い。わたくしは愛欲を満たせれば良いのです…………もちろん誰でも良いわけではありませんわ、美しい外見は勿論、強い意志を持った女性が好みですのよ?」


 男を拒絶して女を求めている。なんだろう、ロゼリアと比べたら悪魔らしくないような気すらする。

 しかし、そんな甘い考えは直ぐに誤りだと気付かされた。


「美しい女性の身体を辱め、わたくしがいなければ生きていけない存在に仕立て上げる、ふふっ、清らかな存在が自ら股を開く……ああ、それは良いですわね、肉体の快楽を存分に与えて与えて与えて、その果てに最高の快楽、痛みを教えてあげるのですわ……指を噛み切り、それを元に戻し、骨を折り、それを癒し、腹を裂き中身を取り出し、それを元の状態へ。ああっ、痛みこそが最高の快楽!」


 恍惚と口角を抉らせまるで三日月を思わせる笑みに背中がゾクリと戦慄が走る。


「痛みの果てに精神が崩壊する! その瞬間こそがわたくしの望み……ああっ、考えただけで濡れちゃうぅうううううっ! 美しい女性が壊れていく、ふふふふっ、もっと壊れてぇ、もっともっと虚無になってぇ、わたくしにそれを見せてぇええええ!」


 私の考えが甘かった、ロゼリアと比べて狂気をあまり感じないと思っていた。だけどメイディアも狂気を胸に宿した立派な悪魔だった。

 元が人間だったとしても長い時の中で精神が変化して狂気を住まわせている。


 悪魔は4体、ロゼリアとメイディアは分かるけど残りのレイスとリーゼスと言う悪魔はどんな狂気を孕んでいるのだろう。

 逃げられるのだろうか?


『まーちゃん狂気に飲み込まれてる! しっかりして!』


 原初ちゃんの声に我に返った。


「はぁ、はぁ……申し訳ありませんでした、わたくし興奮してしまいましたわ。ああっ、でも、興奮が収まらないですわ……はぁ、はぁ……」


 淫靡に獲物を狙う獣の如く私を見定めている。舌舐めずりをしながら。


「ふふっ、まだ我慢、我慢ですわ……」


 怖気を感じながら下方の横穴へと入った。奥まで続く長い穴を暫く歩くと広い空間へと踏み入った。

 赤色の鍾乳洞の様な洞窟で地面には水源がある。小さな地底湖が眼前に広がる。心なしかここの温度は少し低い様な気がする。


「水浴びをしましょう皆川真、さあ、服を脱いで下さいます? わたくし、一糸纏わぬ姿になるのを観察してますわ」


 羞恥心に苛まれながら衣服を脱ぐ、汗で貼り付いた服を地面へ。生まれたままの姿に悪魔が喜んでいた。


「はぁ、はぁ……さ、さあ、水浴びを楽しんで? わたくしも水浴びを楽しみます」


 水へと入ると結構冷たくて気持ちが良かった、頭から顔、身体の汚れが取れていく。人間界の水じゃない、ヘルヴェルトの水は汚れを良く落とし無害化する。

 地底湖は膝が浸かる程度の深さだった、お風呂の様に座って身体を清めた。

 凄く気持ちが良い。


 メイディアは黒いワンピースを脱ぎ地底湖へ踏み入った。

 何かされると身構えだけど大人しく水浴びをしていた。


 何もされない内に逃げ出す算段をつけなくちゃ。監視が緩んだ瞬間に原初モードになってこの洞窟から抜け出す。


『まーちゃん、それだと直ぐに追い付かれて捕まると思う。原初モードはレベルが低いから逃げられないよ。だから考えた、まーちゃん、原初モードを発動したら洞窟を抜けてそのままアビスの大穴へ飛び込もう』


 あの巨大な大穴に飛びこむ!?


『そう、穴に落下しながらゲートを開く! 何も地上へ逃げる必要はないよ、貴女は別の世界へ移動できる力がある、なら逃げた先の世界でまたこちらへとやってこれる』


 一度『縦』世界に逃げ出す。

 そうか、もう私はゲートを使えるようになったんだ。

 なら今すぐ逃げても大丈夫じゃないの?


『その場合悪魔もゲートに飛び込む時間を与えてしまう。直に閉じたとしても数秒掛かるからね、なので落下スピードを加えてゲートに飛び込めば追ってくるリスクがぐんと減る』


 成る程。ならやる事は決まった、様子を見て原初モードを発動、そしてアビスへ落ちる。

 ゲートを開き『縦』世界に逃げる。


 うん、行けそうな気がする。


 算段を作りメイディアの様子を確認しようと視線を向ける。


 思考が空白となった。


 息を切らし、発情している悪魔はいつの間にか私の近くに寄っていた。その距離は数ミリ、彼女の香りすら確認できる程の距離にいる。


「はぁ、はぁ、わ、わたくし、もう、が、我慢出来ませんわ……貴女が悪いんですのよ、わたくしを興奮させたのだから……」


 目が正気じゃない。余りの豹変に恐怖が沸き上がる。


「あ、こ、来ないで……」


「駄目ですわ!」


 地底湖から無理矢理上がらせ両手を封じられた、メイディアの左手が私の頭上に両手をやり力で固定した。


「は、離して!」


「ふふっ、駄目ですわ! 貴女を初めて捉えた日からこの身体を快楽で溺れさせたかったのですがまだゲートを開けるか確認もしたければならなかった、佐波峻を鍵として精神にショックを与えれば確認出来ますから……ずっと我慢してましたわ、ああ、だからわたくしが見張りに志願して意識のない貴女を楽しむことでわたくしの欲望を抑えてきましたのよ!」


 意識のない私を楽しむ?


「ふふっ、ふふふっ、ずっと貴女の秘部をねぶりながら一人で自分自身を慰めましたわ、意識が無くとも貴女は身体を震わせて果ててましたわねぇ? その姿、愛おしくてずっとずっと続けましたわぁ」


「ひっ! へ、変態……」


「まあ、涙目で顔を真っ赤にして、わたくしを誘ってますのぉ? 嫌らしい娘ですわね」


 不意にメイディアの人差し指が私のお腹に触れた、そのままなぞる様に下へと向かう。


「い、嫌っ!」


「前回は外部だけで内部には触れておりませんわ、だから今から内部を楽しみますわ! わたくしの事しか考えられないようにしてあげますわ……数百の時間をこの事だけに費やしてきました、だから廃人になる一歩手前で止めて差し上げますね? 貴女がいけないんですからね、わたくしを本気にさせたのだから!」


『不味い! まーちゃん原初モードを発動させて視界孔を……』


 原初ちゃんが何かを言い掛けたその時だった、ここに第三者がいるのに気が付いた。私達二人をずっと見下ろしている人物がいる。

 そいつは溜息を吐いてからメイディアを蹴り飛ばした。

 壁に激突し身体がめり込んでいた。


「………………わたくしの邪魔を何故しますのロゼリア?」


 蹴り飛ばしたのはロゼリアだった。


「あのさ、お前がこれまでの皆川真を毒牙にかけて何回心を壊して来たんだし! ゲートの精度も落ちたりして面倒くさくなるんだし!」


「はぁ? 貴女こそ何回皆川真達の精神を崩壊させて来ましたの? その度にわたくしが治して来ましたのよ、自分ばかり楽しんで、わたくしが楽しんで何が悪いんですの!」


 睨み合う悪魔と悪魔。


 これってもしかして逃げ出す勝機?


 素早く立ち上がる。原初モードを発動させようとする、精神世界でやって来たことを現実世界で再現するだけだ。

 ここを逃したら私は悪魔から逃げられない。


「原初モード!」


 意識の奥底、そこに7つの光がある。それ一つ一つがスキルだ、その一つを掴み現実へ顕現する。

 髪は白銀に、肌は褐色に。

 それと同時に身体そのものが変化する、精神世界で鍛え上げた引き締まった筋肉質の身体に変化した。


 悪魔二人が私の変化に驚いた、私は躊躇なく地を駆けた。速い、今までこんなに速く走ったことはない。

 逃げられそうに安堵しそうになったが原初ちゃんの警告する。


『メイディアが何かしているよ!』


 メイディアを視界に捉えると指を口に向かわせている。確か指を噛むことで能力を使える。

 目には見えない速さで動けるようになってしまう、そうなれば逃げられない!


『まーちゃん視界孔をメイディアに!』


 ああそうか、視界孔の説明を途中までしてくれたっけ。

 思い出せ、確か物体にゲートを展開して中に入れる。


 それを閉じた場合は?


「視界孔!」


 メイディアの指が向かう先に先回りして小さなゲートを展開、すると手がすんなりとゲートの中に入った。

 手はゲートの中、まるで手がなくなったように見える。

 別の次元に手が入っている。


「え?」


 間抜けなメイディアの声、ゲートを開けたのなら閉じることができる。だからメイディアの手が入っているゲートを閉じた。

 するとゲートは消えるのと同時にメイディアの手を切断した。

 黒い血が舞う。


「ああっ! わ、わたくしの手ぇ!」


 これが視界孔の使い方、ゲートにいれて閉じれば物体を切断出来る!

 

 メイディアは反対の手を口に向かわせる、力は使わせない!

 視界孔で手を収め閉じる。両手を無くし、どうすることも出来なくなり無力化に成功する。

 後はそのまま入り口へ。


 これで逃げられる、惨めにメイディアが一人で混乱している今なら。


 あれ?


 メイディアの側にいたロゼリアがいない?


「キヒヒ、驚いたけど、どうせ逃げるにはこの出入り口を通るしかないし!」


 入り口に先回りしたロゼリアがいる、しかし止まることは出来ない。視界孔を準備しながらロゼリアへ向かう。

 ロゼリアを視界に捉えている、後はスキルを発動させるだけ。


『駄目! 視界を外して!』


 原初ちゃんの叫びは失念していることを思い出させた。


「キヒヒヒヒヒヒッ! さぁ、幻の中で溺れておいで?」


 しまった、あれはロゼリアの幻を見せる術だ。

 視線が絡み合う、急速に意識が内側へ。

 

 現実世界が遠退いて行く。


 幻の世界へ私は堕ちた。




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