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地獄世界のヘルヴェルト  作者: 生獣屋 芽怠
第十三章 深層より原初が来たりて
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私と私


 平行世界の最初の皆川真、彼女そう自己紹介をした。

 平行世界ってもしもの世界のことだったと思う、違う人生を歩んでいる自分という訳か。

 もしかしたら私がお金持ちだったり、もう結婚もして子供もいるのかもしれない。そもそも男性ってこともあり得る。


 様々な要因を含んだ世界の最初、一番最初に生まれた皆川真、それが目の前にいるなんて。

 ただ、光り輝いていて微かに人と確認が出来る。

 でも、その一番最初の皆川真が私の夢の中にいるのだろう?


 そんな疑問を持った刹那に彼女が姿を消してしまった。


『ごめんね、この夢の空間だと姿を維持するのが難しい。なので話をするなら相応しい場所がいるし、なんなら話す相手も必要だよね? このまま謎の声に話すってなんだか話しにくいしね、なのでちょっと待ってね?』


 彼女がそう言うと何もない暗闇の空間に光が溢れ出し世界を包む。眩しさに目を瞑り身を任せた。

 すると浮遊感が消え、足が大地を踏み締めていることに気が付く。

 急な変化に不安を覚えたがそっと瞼を開く。


 そこは白い空間が広がっていた。白い空、白い大地、何もない世界に私は立っていた。


「え、なんなの、ここ……?」


『ここは貴女の夢に広げた心象の欠片、思考せし物、想像、または空想すら具現化させる白き世界。数多の可能性すら再現可能、五感すら本物だと感知する』


「……えっと?」


『あれ、分かりづらい? えっとね…………私の心に浮かんだことをこの白い空間に現す事が出来るの。想像した物や、もしもの世界にありそうなものさえここなら形に出来る。こんな風に』


 白い空間の大地に草木が生える、そして空が青色に変化し、そこに雲が浮かぶ。

 あっと言う間に森の中にいた。それだけじゃない、風が肌に触れる、草木の匂いが鼻腔をくすぐる。

 空気が美味しい気がしてきた。


『凄いでしょ? 行ったことのある場所も空想上の場所もここなら再現可能なの。なので白い世界を私はキャンバスゾーンと呼んでいる。その方がかっこいいから!』


 見えないけど自慢げに顎を上げた気がした。


「かっこいいのかは分からないけど、凄いって事は分かったよ……」


『そうでしょ? 能力をひけらかすのはとても気分が良い。おっと、景色だけ作っても仕方ないね。このキャンバスゾーンなら私を形作れるから。と言う訳で私をここに出すね?』


 大きな大樹の根元に人の形をした歪みが生まれた。そのまま歪みは人間を出現させた。

 女性のシルエット、長い栗色の髪、白い肌、ぱっちりとした瞳が垣間見れた。


 ちょっと待って、この姿はよく知っていた。

 目の前に現れたのは私だった。まるで鏡を見ているように皆川真と瓜二つな姿で現れた。


『話す相手がいると喋りやすいからね、久し振りにこの姿に戻ったよ』


 準備運動をするように身体を伸ばしたり屈伸を行っていた。


「な、な……」


 寸分違わぬ皆川真なのだが、ただ致命的な欠陥に驚愕するしか無かった。


『な? どうかしたの?』 


「な、なんで……なんで何も着てないの!」


 そう、完全無欠の素っ裸だったのだ。


『何もって……ああ、服か! いやぁ『観測者』になってから意識だけになってるからね、身体を持つのは久し振りだったよ。まあ良いじゃない、私達しかいないんだし』


「駄目だよ! 姿が全く同じなんだから私が……へ、変態みたいで嫌だよ」


『変態って……同じ姿だから恥ずかしいってことなの? それじゃあこうしよう!』


 彼女の髪の長さがショートとなり、色が白銀へと変色し、肌色が褐色へと変化する。


『どう? これなら違いが出て貴女が変態には見えないね! 問題解決!』


「解決してない! 取り敢えず何でもいいから服を着て! と言うか羞恥心を持ってよ!」


『分かった、分かったよ……この私は注文が多いな。服を着るから怒らないでよ』


 そう言って褐色の肌は衣服に隠れた。


『はい! これで問題ないでしょ? これ以上は何言われても変えないからね!』


「わ、分かったよ……裸じゃなければもう良いよ……でも、なんでバニーガール?」


 黒く長い耳飾り、黒のボディスーツに白い襟に蝶ネクタイ、網タイツを纏い黒いヒール。そしてお尻には綿のような丸い尻尾、これはバニーガールそのものだった。

 私が、バニーガールになってる。髪型と色、肌が違うけど恥ずかしい。


『可愛い私は何着ても似合うんだけどやっぱりバニーちゃんは最強なの。可愛いし、セクシーだし、最高でしょ?』


 同意を求められても困る。


『と言うか気が付かない? 自分の姿』


「え?」


 嫌な予感に視線を下げ服装を確認する。

 いつの間にか私は白いバニーガールになっていた。


「きゃあああ! 何これ! いつの間に!」


『ああ、バニーちゃん最高! 白も良い! 私って何着ても似合うけどバニーちゃんは最強ね、私可愛い! 眼福眼福……』


「自分大好きか!」


『当たり前だよ! 可愛い私、完璧な私、数多の世界の私を眺められるのは至高であり崇高! ああ、私可愛い! ぐふふ、抱き締めたい!』


 紅色に頬を染めて自分に酔いしれるもう一人の私に身の危険を感じた。

 なので距離を取った。


『…………こほん、ごめんなさい、ちょっと暴走しちゃった。取り敢えずこのままの姿で話をしましょうか。もしバニーちゃんが嫌とか言ったらライブ配信がバンされちゃうようなドチャクソエッチな姿に変えるからね?』


 たまに何言ってるか分からないけどこのバニー姿を拒絶したら大変なことになることは理解した。

 と言うかこんなのが最初の皆川真なの? なんか複雑なんだけど。


『取り敢えず肯定って事だね? それじゃあゆっくり話せる場所に変えるね?』


 指を鳴らすと森は白い世界に消えて行き、私と私を中心に四方に壁が出現して囲われた。

 壁は窓が現れ、外の光が確認出来る。いつの間にか天井が出現し、蛍光灯が出来る。中は部屋に変化していく。

 壁横に机、ベッドに棚が生まれそこに並ぶ映画のDVDのラインナップがホラー作品多めだった。

 そして窓の外に広がるのは見慣れた街並み。


「ここって、私の部屋だ」


『リラックス出来るでしょ? この部屋は高確率で皆川真の部屋の並びになるんだ。様々な私達が暮らす部屋だからね』


「凄い……ただ、違いがあるとすればしゅーからもら貰ったクマのぬいぐるみが無いくらいかな」


『しゅーって佐波峻だったね? 彼は平行世界において希少なんだよ、そうだな無限にある世界で片手で数えるほどしかいないんだ……まあ私が観測出来てないのもあるかもだけどね。見てきた中で皆川真と出会う事があんまりないかな。彼は特別な使命を持つ場合が多い、輪廻転生から外された『縦』の世界の守護者である『輪廻の外』に選ばれた場合もあるからね……あ、これは別に覚えなくていいことだった。無駄に喋っちゃうな、やっぱり私は可愛い……えっとたりないのはクマのぬいぐるみだったね?』


 そう言いながら私の手を握った。


『ちょっと記憶を覗かせてもらうね?』


 どういう事なのかと問う前に手が離れた。気が付くと視界に見慣れた物を確認した。

 しゅーから貰ったクマのぬいぐるみが部屋に現れたのだ。


『これでここは貴女の部屋だね。ようやくゆっくりと話せる。取り敢えず『縦』と『横』の説明しないといけないね』


 もう一人の私は偶に分かりにくい表現に謝罪しつつ出来るだけ分かりやすく説明をしてくれた。

 『縦』世界は異世界のこと、数多くの自分の世界にはあり得ない物が存在している世界。要は悪魔や地獄の住人などがそれに該当する。

 『横』世界は平行世界のこと、多元世界とも言う。様々なもしもを内包する世界。男の私がいたり、目の前の変な私がいたりもする。


 『十字次元』は『縦』と『横』の総称、名前をつけた者の主観で横に並んだ合わせ鏡を『横』と呼び、何も見えない縦に存在するドアを『縦』とし、それが十字に合わさるからこの名前らしい。


 先程知らなくていいと言われた『輪廻の外』が『縦』世界を守護している。

 同じように『横』を管理しているのが『パルテス』と呼ばれる存在らしい。


『で、貴女の父親がパルテスだから』


「へえ……ん? えっ、な、なんか今、重要なことをさらっと言わなかった?」


『だから貴女の父親がパルテス。次元を越えた存在が配役として様々な『横』に存在して多元世界を守ってるんだよね、なのでその影響で貴女にゲートの力があるの』


 唐突過ぎて理解が追い付かないし、さらっと重要事項を漏らされた気分だった。

 パパがパルテスで、その娘の私にゲートの力が現れた。

 長年謎だった私の力がものの数秒で解明されてしまった。感情が困惑して嬉しがればいいのか泣けばいいのか分からず困っている。


『色々思う事はあるだろうけど今は話に集中して欲しいかな、後で一人の時間をあげるからそこで頭の中を整理して』


 なら気持ちを奥に押し込んで取り敢えず話を聞こう、後で整理しないとパンクしそう。


『ごめんね。私の紹介をするには前提の知識が無いと分かりづらいと思ってね。えっとね私は『観測者』と呼ばれてるの、深層心理ってあるよね? 簡単に言えば自分では気づいていない、心の奥底に存在する心理状態や心の動きのこと。そして深層心理の底では皆繋がってるって言われてる……突然に閃くアイデアやインスピレーションは、自分にだけじゃなくて集合的無意識から湧き上がってきたものなの。個々に深層心理は影響しあっている』


 難しい話になって来た、深層心理の底は繋がっていてそこからいイメージやアイデアがやってくる。

 閃いたことは深層の底に存在している知識とでも言うのかな? それを共有しているからこそ、同じアイデアを持つ人だっている訳だしね。

 私的にそう解釈した。


『ま、深層心理とか集合的無意識とかは説明すると長くなるから今回は深層心理の底で人の意識は繋がっているって事だけを認識して欲しい。後は学問とかになっていくから知りたければ後は勉強してね? 取り敢えず、深層心理の底で人は繋がっている。そして更に奥、『横』世界の同じ存在である自分と意識の底で繋がっている……私は始まりの皆川真、その更に奥の意識に繋がることが出来る。私の意識を『横』世界の皆川真へと移動して来ることが出来る。どうやら世界、または神とでも言うのかな、私は皆川真の観ている世界を通して世界を観測することを役目にされた存在なんだ』


 底の更に奥で『横』世界の自分と繋がり、意識を移動させられる存在か。

 そこを通って私のところに来たのか。


『ま、限定的な観測しか出来ないんだけどね私。様々な私達の観ている映像しか確認出来ない。なので皆川真が知らないことは知らない……そのおかげで『横』の異変に気付くのが遅れた、最初に気が付いたのはある世界で唐突に別の私を観測出来なくなった。それが悪魔の仕業だって気付くのにだいぶ時間が掛かったよ』


 私が観ている映像か、何だか監視カメラみたいだな。複雑のカメラからの映像を一人で観ている、異変に気付くのが遅れてしまうのも無理はないと思う。


『悪魔は私達を囚えると意識を奪い操る、きっと気が付かない内に意識を奪い操って『横』を移動していた……だけど唯一気まぐれだったのか皆川真の目の前で正体をバラした瞬間があった。それがマギサって呼ばれる私が悪魔と始めて遭遇した時だった。悪魔を認識出来たけど、マギサを守ってあげられなかった…………それが今も心残り』


 悲しそうにそう呟いた。


「あれ、マギサって確かしゅーと一緒にいた人……黒髪の大人の女性だったよね?」


『マギサは別の『横』の貴女だよ』


 また重要事項をさらっと言った。


『簡単に説明すると悪魔達に囚われて、無理矢理悪魔にされてしまった貴女だよ。悪魔達を裏切って貴女の世界にやって来て、佐波峻を助けたんだ。そのお陰で佐波峻は生きている。彼女は悪魔に恨みを持っているからね、一緒に戦ってくれてる。なのでまた出会ったら優しくしてあげてね?』


「そうだったんだ……恩人だね」


『うん、同じ存在同士だから仲良くね』


 頭の中に最初の私、『横』からやって来た私、まさか同じ世界に三人もの皆川真がいるなんて変な感じだな。

 でも、しゅーを助けてくれた、なら信じてあげたい。


『私が二人もいるなんて最高……こほん、とにかく悪魔をなんとかしたいと思った訳だよ』


「じゃあ貴女は悪魔を倒す為にここにやって来たの?」


『そう出来れば良いんだけどね、私にそんな力はないよ。私に出来るのは皆川真が出来ることの全て、私に習得可能なものを全て再現出来るのが私。なので皆川真が苦手なものは私も苦手。それに意識を移動させるだけだから現実世界では何も出来ない。まあ観測者だからね……それでもじっとはしていられなかった、私がいじめられるのは嫌だから。私はナルシスト、私は私を愛している。だから……』


 にこりと笑う。


『貴女を助けたいと思った』


 悪魔の手によって心を閉じてしまった。だけど彼女に助けられた。だから彼女の言葉を信じてみることにした。

 彼女に触れられて心が楽になったのは事実だから。


『まあ現実世界では貴女にだけ聞こえる幻聴みたいなものだけど、意識だけの世界なら万能だよ! 私は私に影響を及ぼせられる。例えば勉強させればちゃんと貴女の知識として定着するし、もし魔法なんてものがあったなら教えて貴女が使えるようになる……まあ魔法なんて私は覚えられないけどね。だけど様々な皆川真に共通する力があるよね?』


「それって、ゲートを開く力?」


『正解っ! なら私に出来ることは一つだけ。貴女にゲートを使いこなして貰おうとこうしてやって来たんだ』


 ゲートを使いこなす? そんなこと考えたこともなかった。


『目の上のたんこぶって感じだったと思うんだけど、このゲートってちゃんと使いこなしてあげるとすごく便利だよ? 極めればゲートを開いてしまったとしても自らの意思で閉じることも出来る。それにちょっとした小技とか出来るし、おそらく捕らわれているこのアビスからも脱出出来ると思うよ?』


「ほ、本当に!?」


 使いこなせればここから出られる。そうしたら皆んなと合流出来る。


「ちょっと待って、力を極めるって簡単じゃないよね?」


『そりゃあね。数多の研鑽の果てに得られる成果だからね』


「時間が掛かって……ここは夢だから、目が覚めて悪魔に幻を見せられてしまう。また負けて逃げられなくなる可能性もあるよね?」


『大丈夫、時間はたっぷりあるよ。何故なら夢と現実では時間の流れが異なってる。夢とか見てて、長い間いたのに起きたら数時間しか経ってないってことなかった? 今は私がめいいっぱい時間を引き延ばしているからここでの一日が向こうの一分くらいかな。一時間で六十日もあるし何とかなると思うよ、まあ貴女の努力次第だけどね』


 私次第。ゲートの力で迷惑を掛けてきた、しゅーは私に代わってヘルズゲート事件をやり通した。

 なら、今度は私がやり通す番だ。


「分かった、私頑張る、いや、頑張ります!」


『さすが私だね、決断してくれるって思ったよ。凛々しい顔だね、はぁ、私可愛い』


 恍惚となった彼女はうっとりと私を見詰めた。

 もしもの私なら一歩間違えば私もナルシストになるってことなのかな。彼女がそういう気質だったから助けに来てくれたのは事実だけどね。

 感謝しなければ。


『おっと、貴女に見惚れてた……少し一人にしてあげるね? 話の整理もしたいだろうし、暫く消えてる。整理出来て訓練を始めても良いなら私に声を掛けて。声を出して私を呼べば出てくるからね?』


「分かった……ありがとう」


 彼女の姿がいつの間にか消え去っていた。


 私はベットに横になって自分の中で話を整理し始めた。

 別世界のこと、原初の私のこと、マギサのこと、そしてパパのこと。

 複雑だけどパパが私をどれだけ大切にしているのかは過去の記憶が教えてくれている、出張であまり家には居ないけど優しい父親だ。


 この力に振り回されている、愛した人を巻き込んで。


 パパのせい? 


 違う、それだけは絶対に違う。


 どんなことだって、経験して、成長して物事に関わる。


 そこに自分の意思がある、それには責任も伴っている。


 親のせいにはしてはいけない。


 これは私の問題、なら私が解決しなければならない。


 極端な考えだろうか?


 そうだとしても自分の失敗や過ちを親にぶつけたとしても何も変わらない。


 叫んでいるだけの道化と一緒だ。


 なら私はやることは決まった。


 腹を決める。


 何が起きるか分からないけど、行った努力はきっと何かの役に立つと思っている。


 ゆっくりとベットから身体を起こし、両手で頬を打つ。

 気合いを入れる為に。 


 ちょっと力を入れ過ぎて痛かったけど気合は入った。


 意を決し立ち上がり彼女を呼ぶ為に虚空に呼び掛けた。






 

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