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地獄世界のヘルヴェルト  作者: 生獣屋 芽怠
第十二章 インターミッション
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記憶の底


 一呼吸して決意を強固へ。

 眼帯を取り外し空の中へと地獄王の目を招き入れた。

 体に力を入れ身構えた。

 

 予想外にも目は温かさを保ったまま静かに中にあった。


 静けさが流れていく。


 もしかして人間との相性が良かったのか?

 それとも適性が無さ過ぎて移植すら拒まれているのか。

 そんな思考を巡らせていると自分の甘さに苦しめられることとなった。

 地獄王の目は温かさを維持していたが突如熱した鉄のように灼熱を芽生えさせた。


「ぐっ、ああっ、があああっ!」


 熱い、中が焼ける!

 熱の痛みが苛み、俺はその場に踞り痛みに耐えた。

 しかし苦痛から逃れられることはなく熱は更に高まり悲鳴を上げさせた。

 いたい、痛い、イタイ。


 地獄王の目は無慈悲にも新たな苦痛を与え始めた。眼球に無数の針が生えたように神経を啄む、その痛みが瞳を経由して全身へと侵食する。

 全身全てナイフで抉られる感覚、内側より蟲が喰い破られるような怖気、血液が沸騰するかの如き灼熱。

 

 ああ、これは駄目だ。


 もう我慢できないと地面を転がり回るしか出来なかった。

 取ってくれと縋りたかった。

 しかしそれを言葉にすることすら許さないのか、まともに喋ることも無理だった。

 些末な姿に耳障りな笑い声が飛び込んできた。


「くくくっ、あははははははは! いいざまだわ人間! さあもっと苦しむ姿を見せておくれ!」


 カーナの高笑いが聞こえるがもはや何を言っているのか理解出来ない。嫌、聞いていたとしても痛みにより取り零した。生身の人間に強大過ぎる力は無理なのか。

 神経を直に触れられて爪を立てられている気分だ、上下の歯を小刻みにぶつけながら全身から汗が吹き出す。

 なぜこのような苦しみを感じなければならないのかと発端すら磨耗する。


 頭が空っぽになり、世界が遠くなっていく。










 どこまでもどこまでも落ちていく、闇の中を。

 これが奈落と言うものなのか、藻掻こうとも身動き一つ出来ない。


 もうダメだ、諦めてしまえ。


 そんな囁きに耳を貸しそうになる。

 楽になってしまえと甘い言葉で思考をとろけさせる、悪魔の誘惑だろうか。

 そうしてしまえば苦しみから解放されて安らぎを得られるのだ。

 そう願って落下に身を任せた。


 俺は頑張ったよな?


 母さんを亡くして辛かった。


 ーーでも彼女がいた。


 ヘルズゲートが開き大切な人を失って取り戻した。


 ーー彼女の為に。


 安らぎを得た。


 ーーでも、彼女はいない。


 彼女?


 誰のことだっただろうか。


 誰がいない?


 何を忘れている?


 この闇の世界はなんだ?


 苦痛に苛まれる記憶、掘り起こすように探す。

 もう指すら動かすのが苦痛だ、何もしたくない、このままがいい。


 ーー逃げるなよ。


 正気に戻りまた掘り起こす。


 ーーああ、そうだった。


 俺は生きる希望をくれた彼女の為にここにいるのだと気が付いた。

 皆川真、まこちゃんが俺を支えてくれたんだ。

 捕らわれた彼女を助けにいかなきゃならない、だからこんな幻想の中でもがいてる暇はない。

 この夢は地獄王の目が見せている幻なのだろう。


 ならば聞いてくれ。


 貴方を求めるのはとてもシンプルな思い、俺は大切な人を助けたい。ただそれだけなんだ。

 貴方なら理解してくれるだろう? 地獄王アフトクラトル、本体から離れようといまだに輝きを失わない瞳、そこには思いがきっと残っているはずだ。


 スミスを守りたいと願ったはずだ、大切な人なのだから。

 大切な人を守るとの思いは同じはずだ、だから応えてくれ。


 強くそう願った。


 闇を落ちる最中、俺に応えてくれたのか闇が終わり光が底から浮上してくる。

 しかしまだ落ち続けた。

 光の中を落ちている、その過程で何かの映像が俺の脳内で再生された。


 ーーそれは記憶。


 赤い池の側にある大きな岩の上に座っている映像、ずっと下ばかりを見ていた。

 誰かの記憶、その感情が伝わってくる。







 気の弱い自分にヘルヴェルトを治めることが出きるのだろうか、父のような偉大な王に成れるのだろうか。

 そんな苦悩を抱えた”彼“は突如背中に強い衝撃を受けて赤い池へと落ちた。

 何が起きたのか分からないまま浮上し衝撃の正体を眼で捉えた。


 そこに銀があった。

 白銀のショートの髪、前髪の隙間に見える鋭い目は不満げな表情を増大させているようだった。

 そいつが話す。


『なんだお前、ここはオレのお気に入りのサボり場所だぞ? 勝手に座るな!』


 傍若無人、その言葉が似合う台詞だ。

 しかしそいつをよく観察すると暴力的な言葉使いだが女だと理解する。

 小柄で澄んだ白い肌をしていた、鋭い眼に少しだけ高い鼻と小さな口、清楚で美しいフェイスは女神に思えた。


 ああ、美しい。


 理不尽な理由で池に落とされてもそれさえも許してしまえそうな美しさに見惚れてしまった。


『……な、なんだその目は、お前もここが気に入ってたのか? なら諦めろ、ここはオレの場所だ、早い者勝ちだね!』


 と言って胸を張った、そこには彼女には似つかわしかないドクロのネックレスが揺れる。


『なんだよ、お前喋れないのかよ、それとも頭打ったか?』


 頭をかきながら仕方なさそうに、漆黒の翼を背中から生やし、こちらへと飛翔して助けて貰った。

 その翼が教えてくれた、彼女は死神なのだと。


 これが死神スミスとの出会いだった。





 地獄王の目に宿る彼女との思い出が呼び起こされている、俺の思いに反応したのだろう。

 次々にアフトクラトルとスミスの思い出が上映されていく。





 お気に入りの場所にいる為にとの理由付けで、スミスに会いに行くアフトクラトルは理不尽だが場所代とした食べ物を貢いだ。

 それに気を許し同席を許したスミスとの二人だけの時間が始まった。

 今まで次期地獄王として育てられてきた彼は背中を足蹴にされ横暴な態度をとってきた者に会うのは初めてだった。

 美しい美貌を持ちながら暴力的な言葉使い、自分の回りにはそんな者はいなかった。

 彼女に興味が出るのは至極当然だった。


『あの、これをどうぞ』


『おお! これは三大珍味の一つ虹の実じゃないか! 噛めば噛むほどに七つの味に変わるあの実かあ! 旨いんだよなぁ……ただ、七つ目の味を感じたらすぐに捨てないと世界一不味い味になってしまうハラハラの実でもあるがな、お前いいもの持ってるな! 気に入ったぞ、好きなだけここにいろ!』


『ありがとうございます』


 そんな関係が続きアフトクラトルが王族だと気が付かれた。

 この関係もおしまいかと思ったが彼女は態度を変えなかった。


『王族だあ? だからどうした、お前はお前だろ?』


 そう言い捨てた。他の王族が聞いたなら即座に処罰されかねない台詞だが臆することなく、いや本当にどうでもいいのだと彼女は言ったのだ。

 自分のことを次期地獄王ではなくアフトクラトルとして接してくれたいる、自分を見てくれている、それが堪らなく嬉しかった。

 だからアトラと呼んで欲しかった。

 この名は父と母と妹だけが呼ぶ親しい者だけに許した名、それを彼女に呼んで欲しかった。


『ボクのことはアトラと呼んで欲しい』


『アトラ? いいんじゃないか、アフトクラトルって言いにくいって思ってたしな! アトラ、オレのこともスミスで良いぞ!』


『はい、スミス……』


 二人の距離は時間が縮めてくれた。




 二人でいることが日常と化して暫くすると唐突にスミスは腹の下辺りを擦りながらアフトクラトルに告げた。


『おいアトラ、お前の子供を孕みたい』


 木の実を食べている途中、唐突過ぎる言葉に口の中のものを全て噴き出してしまった。

 驚愕の顔をしながらアフトクラトルはスミスに注目する。

 とんでも発言だったが照れもなく、至極当然にスミスはアフトクラトルの回答を待っていた。


『ス、スミス、それがどういった意味か分かってるんですか!?』


 顔を真っ赤に染め上げたアフトクラトルがスミスに問うた。


『あん? 交尾するんだろ?』


『そうですけど……でも何故急にそんな事を?』


『……お前といるとな腹の下辺りがぎっとなる。お前のことを考えるとぎゅとなる。何でかわからなかったけど……さっきからお前の顔を見てたらわかった、オレはお前の子供が欲しいんだなって』


 淡々とそう述べてアフトクラトルの手首を掴む。


『来い! 交尾するぞ!』


『えっ! あ、あの、スミス! ちょと待って下さい! スミス!』


 強引にスミスは自分のねぐらへとアフトクラトルを連れて行く。

 暫し時間が経過し、二人はねぐらから出てきた。

 先程までとは違い男の顔になったアフトクラトルと、肩で息をし、足腰を震わせ、頰を朱色に染めながら涙目でスミスは睨みつけていた。


『あの、スミス? そんなに睨まれると困ってしまうんですが……』


『……うるせぇ、よくもあんな…………くそ、このオレが……負け…………体力どうなってる…………お前これから敬語やめろ、一人前の雄だって認めてやる……………………ケダモノッ』


 バツが悪そうにスミスから視線を逸らした。





 それから暫くしてスミスは子供を身籠った。

 最初は戸惑いつつも嬉しそうにお腹を擦っていた。

 アフトクラトルと二人でいるとき気の強さが和らいで優しい笑顔を見せるようになる。


 二人は家族となっていた。


 そんなスミスを愛おしく、必ず守ると誓うアフトクラトルだった。

 お腹も大きくなり、あまり動けなくなったスミスを甲斐甲斐しくサポートし、頻繁に王宮から抜け出していた。

 それが王妃カーナに怪しまれる結果となった。


 そして双子が生まれた。


 エティオとテネリタースと名付けられた。


『オレの子供達……』


 小さな手を握る。


『お前達はオレの全てだ、ずっといっしょだ、オレが守ってやるからな、エティオ、ネリス……』


 しかし、その願いは破られた。


 王妃カーナはライバーンとカイエル、そして数人の騎士を連れスミスのねぐらに乗り込んできた。


『……貴様かあ、妾のアトラを拐かした女狐は! 死神風情が、我らが王族だと知っての狼藉か!』  


『母上!』


 激怒する王妃は双子を見た瞬間に思考が固まる。


『…………ま、待ちなさい、貴様が抱いている子供は……まさか……』 


『何だよ、オレとアトラの子になんか文句あるのか?』


『な、なんてこと……高貴なる王族がよりにもよって死神風情と…………おのれぇ、アトラを拐かしただけではなく汚れさせたなっ! 騎士達よこの端女を殺せ!』


 騎士達が一斉に迫る。


『やめろ!』


 スミスと子供達の前へとでたアフトクラトルは手で制した。

 しかしこの時のアフトクラトルはまだ王ではない、王妃の命令が優先される。

 騎士達が止まらないと悟りアフトクラトルは戦闘態勢になる刹那、死神の鎌を出現させたスミスが前へと前進した。

 騎士達の猛撃を物ともせず、鎌を横へと走らせた。

 流血が舞い、騎士達を一撃で地に落とした。


『何だ、ケンカ売ってんのか?』


 睨みを効かせるとカーナはたじろいだ、スミスの強さを見誤っていた。

 だが出産し間もないスミスの身体は悲鳴を上げていた。鎌を握り締める力がいつもと違うと気付き、身体が震え、目眩もやってくる。

 息がすぐに上がる、いくら死神だとしても出産は弱体化を余儀なくされていた。

 

『スミス下れ! 君はまだ本調子ではない!』


『……ちっ、アトラの言う通りにする』


 前へと再びアフトクラトルが家族を守る為に立つ。


『母上、ボクらは愛し合っています。放っておいてほしい』


『何を言ってるのアトラ! 妾にそんな逆らうなんて……ああっ、妾の可愛いアトラ、貴方には素晴らしい伴侶を見つけてあげるわ、いつもそうだったでしょう? この母が全てを与えると。王族に相応しいものを与えると!』


『ボクはもう子供ではありません、愛する者は自分で見付けられます。いえ、もうここにいるのです! 愛した、そしてボクの子供達も愛している。傷付けることは許さない!』


 強く、強固な意志を纏わせた視線にカーナは撃ち抜かれた。


『ア、アトラ……妾のアトラ……お、おのれ、おのれぇえええ! 死神め! 妾のアトラを返せえ!』


 スミスへの憎悪が膨らむ。

 力を返せ解放させようと王妃カーナは自身の中より地獄の炎を呼び起こす。

 強大、炎を圧縮。


『妃様! ここでそれを使われてはこの場所の地形が変わってしまいます! 落ち着き下され!』


 ライバーンは王妃を諌めようと叫ぶ。


『妾を止めるでない! この爆ぜる炎ならばアトラには効かぬ、邪魔者だけ炭にしてくれる!』


 地獄の炎を操れる者はいる、しかし王族は地獄の炎を触ろうと負傷はしない。

 炎に選ばれた一族、それが王族の誇りである。

 王族は無事だろう、しかしスミスは無事では済まない。

 そして子供達、死神と王族との混血、炎を防げるのか分からなかった。

 それが双子に死なれたら困る第三者をここへと招き入れた。


『やめろカーナ』


 ねぐらの入り口に現れたのは統べる者にして王妃の伴侶。

 彫り深い顔に鋭く全てを貫かんとする眼光、右側は頬にまで伸びる亀裂が彼の目だった。亀裂の奥に赤く光る瞳が浮かぶ。

 紅蓮の頭髪は天を貫くかのように逆立ち、二つの角が頭部より伸びる。巨大な体躯は巨人を連想させた。

 彼こそが地獄の王。

 地獄王ドゥクス、堂々と顕現する。


『あなた! ど、どうしてお止めになるのです!? あの死神は妾達のアトラを奪った端女! ならば天誅を下さなければなりません! 速やかにあの死神を……』


『カーナ、暫く黙れ』


 その一言にカーナは萎縮し口を閉じた。同時にライバーンとカイエルは跪いていた。


『父上……』


『ふっ、男らしい顔になったなアトラ。これならば次期王と言えるだろう……さて、死神、素晴らしい強さだ。産後の身体で良くそこまで動けたな、騎士達を殺さずに倒すとはな、中々の技量を感じ取れる』


『ふん……』


『さて、本題に入ろう。アトラが無断で王宮を幾度も抜け出したこと、無断で他種族に子種を与えたこと、罰を与える』


 アフトクラトルへと手をかざすと重力による衝撃が襲った。

 アフトクラトルの周りだけが何倍もの重力が掛かり地面へめり込む。


『ガアアアア!』


『アトラ! てめぇ何しやがる! 自分の子供に酷いことしてんじゃねえ!』


『これは誅罰だ、痛みはアトラを成長させる』


 しかし重力は更に食い込み体の様々な場所から出血を誘発した。

 王妃は顔面蒼白、この騒ぎで双子は泣き出した。

 必死に重力から逃れようとするがそれは叶わず、踏ん張るが努力も虚しく意識が飛ぶ。

 動かなくなるアフトクラトルを確認して地獄王は重力を解除した。


『カイエル、アトラを運び出せ、王宮へ連れ帰り数日牢へと監禁しておけ』


『仰せのままに』


 連れて行かれようとする刹那スミスは止める為に駆けた。

 しかし地獄王の重力がスミスを襲う。


『がっ! ああああっ!』


『邪魔をするな。死神よ、本来ならば八つ裂きにするところだが子を残したのは僥倖だ。血族は宝である。混血であろうと我らが血を継ぐ者、双子は王宮で育てる。子を残した褒美だ、命は助けてやろう』


『な、何……言って……………や、やめ……やめろぉ! オレの、子供達に、触るなぁ!』


 全身から血を噴き出しながら立ち上がる。


『ぬっ、死神の中でも上位の強さだ、まさか重力に抗うか……しかしそれ以上は動けまい。カイエル、アトラを。カーナ、双子を連れて行け』


『……わかりました』


 アフトクラトルが連れて行かれる、カーナが双子を抱き抱えスミスに背を向けた。


『や、やめ、ろ……やめてくれ…………連れて行くなっ! オ、オレ、の、全てなんだ……やめてくれ、お願いだ、オレから子供達を……と、取らないでくれ! エティオ! ネリス! アトラ、アトラ助けてくれ…………助けて!』


 ねぐらから子供達が運び出された。泣き声が耳奥に根付いて涙が止まらない。

 いつの間にか重力も解かれた。しかし動けずにその場に倒れた。


『や、やだ、嫌だ……返せよ……オレの子供返せよ! エティオ、ネリス…………うわあああああああああああああああああああああああ!』





 その後、王宮の牢獄で目覚めたアフトクラトルは怒りで炎雷を解放し牢を破壊、謁見の間にいた地獄王へと食って掛かった。

 重力で動きを封じられ更に傷を負う。

 アフトクラトルの憤怒は収まることはなく幾度と王に挑み、その度に動きを封じられた。


 ボロボロになる我が子を目の当たりにしたカーナは王に願い出てた。話し合いの結果、年に一度だけ子供に会わせると約束を取り付けた。

 以降、冷静さを取り戻したアフトクラトルは現在に至るまで死神スミスを王宮へと招き入れられるように交渉を続けていた。






 これがスミスが子供達を取られた時の事件か。

 スミスがあんな声で泣き叫ぶのを初めて聞いた、いつもは横柄な態度で、自信家で、サボり癖があって。

 時折見せる母の顔は優しい温もりを纏わせていた。哀しみを内包して。

 あいつは何も悪くないだろう!


 アフトクラトルの瞳よ、俺はまこちゃんだけじゃなくてスミスも救いたい。

 応えてくれ、大切な人を守りたい。その思いだけは同じだと信じたい。


 俺に力をくれ。


 もう奪われなくて済む力を。


 誰かを救える力を。


 そう願った。


 何もない暗闇を落ちている。果てはない、光もない、永遠に落ちている。

 ふと光を見た。

 遥か底より舞い上がる光は深い赤、揺らめいて燃え上がる。

 奈落の底の炎。

 あれに触れれば人の体は灰になる。

 直感は教える、灰になって何もかもなくなってしまうと。


 だが諦めない。


 覚悟をしたその時、俺の身体は白い光りに包まれた。


 これは自分の内より現れた。


 地獄の番犬より借りた『拒絶の白』降りかかる災厄を拒絶する白い光。

 あいつ、こんなことまで見通してたのだろうか?

 たく、お節介なんだよ。

 そう思うと自然と口からこぼれた言の葉が意思を示す。

 

 ありがとう。


 これで受け入れる準備ができた。


 業火が俺を包んだ。右目の中へと入り込む。

 全てを受け入れて意識が浮上していく。

 空に光が漏れ出している。


 そこへ手を伸ばす。









「ば、馬鹿な……」


 間抜けなカーナの声が目覚めたのだと教えている。いつの間にか身体の痛みはない。

 右目に違和感があるが次期に慣れるだろう。

 久し振りの両目、何だか世界が広く感じる。

 気怠さに苛まれながら立ち上がる。膝が笑っている、気合を入れてないと意識が飛ぶ。


「良くやったシュン、君はこれよりボクの従者だ」


「はい、アフトクラトル様に忠誠を捧げます」


 王の前で一礼する。

 そしてカーナへと向く。


「賭けは俺の勝ちだ……約束に従って俺の願いを聞いてもらう!」


「くっ、ぬぬっ…………妾は王族、放った言葉に責任を持つ。何が望みだ?」


 記憶の旅をしてきたなら願いは一つ。


「死神スミスに謝罪して子供にいつでも会えるようにしろ! もちろん王宮にも入れてもらうからな!」


「シュン……」


「………………それが貴様の願いか?」


「ああ!」


「…………妾は約束を違えぬ。死神スミスを王妃にすることは叶わぬ願いだ。なれば客人として王宮に通すがいい……エティオとネリスが望めば面会はやぶさかではない。その時に貴様の目の前で死神スミスに謝罪してやろう…………だが言っておくことがある」


 カーナは俺を睨む。


「妾は貴様が嫌いだ」


 何故か駄々を捏ねた子供のようにそう告げた。


 俺に背を向けライバーンとカイエルを従えここを離れて行く。

 部屋を出るカーナは直前でこちらを一瞥する。


「……人間にしてはやるな、アトラに迷惑を掛けるでないぞ?」


「は、はい!」


 そう言い残して去った。


 これは憶測だ、カーナは心の奥底でスミスから子供を取り上げたことに負い目を感じていたのかもしれない。

 アフトクラトルを愛する母であるならば子を取り上げられる苦しみを理解できると思う。

 もしかしたら俺みたいな馬鹿を待っていたのかもしれない。

 嫌、これは考えすぎか。


「シュン、ありがとう。本当にありがとう……感謝したりないな」


「アフトクラトル様、俺はスミスの為にやっただけですよ…………あれ?」


 視界が歪む。気絶しそうだ。


「ちょっと寝ます、めちゃくちゃ疲れまし……た……」 


 これからの為に今は眠ろう。


 まこちゃん、待っててくれ。


 眠気に引かれて夢へと旅立った。







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