契約と賭けと
それは聞かされた話。
法を制定し秩序を創り上げた男は強大な生命力に満ち溢れ、その眼は紅く業火を思わせた。
遥か昔のヘルヴェルトは無法地帯であり争いの絶えない世界だった。その無法を変えるべく一人の地獄の住人が立ち上がる。
それが初代地獄王バシレウスだ。
地獄王バシレウスは頼れる仲間と共に無法のヘルヴェルトを平定し秩序を与えた。
戦いの中で獣族と同盟を結び、輪廻転生を司る死神とも協力関係となり地獄の住人を管理するためランクを作った。
地獄王は膨大な力を持って生まれたメシアと呼ぶに相応しい者、その力を使い小さな惑星を創造する。
それがヘルヴェルトの王宮である。
王宮を中心にヘルヴェルトの秩序をもたらし長きに渡り王として務めた。
だが長命だとしても寿命が迫り、新たな王を選定する必要があった。
王は自身の目に全ての力と知識を込めて取り出し、次の王へとそれは受け継がれた。その代は六にも及び、現在の獄王アフトクラトルへと繋がる。
そこでようやく謎が解けた、地獄王の右目は顔に穴が開いたような亀裂があり、その奥に赤く光る球体が浮かんでいる。
あれが初代地獄王の力を込めた目だったのだと。
「察しの通りボクの右目は初代地獄王の力を込めた目だ。移植の際に余りにも強大な力の為に納めた瞬間に裂けてしまってね、右目の穴は頬にまで及んでしまった。だが力と知識が流れ込み王としてのボクが誕生した」
と地獄王アフトクラトルは語る。
王の謁見の間にて地獄王の話を聞いていた、王の成り立ちと右目のこと。
俺はアフトクラトルとの契約を承諾した、今の自分の状態では満足に戦うことすら出来ない。悪魔の動きに対応するにはアフトクラトルが地獄王の目を移植する前の目、つまり元々の目が必要だ。
初代地獄王の目を移植した王はかつての目を誰かに移植させ従者にすることが出来る。それを移植された者はある程度の王が有していた力を得ることが出来るそうだ。
俺に移植されたならアフトクラトルの力を得られる。だが人間に与えたことはなかったらしく異例中の異例、何が起きるのかは不明だ。
これは危険な賭けでもある、果たしてアフトクラトルの目は俺に馴染むのか。
「シュン、契約の内容は覚えているね?」
「はい、契約はアフトクラトル様の目を移植し従者となる。代価はヘルヴェルトであなたの手足となり忠誠を誓う」
つまり俺は人間界にはもう戻れないと言うこと、まこちゃんを取り戻したとしても彼女との時間は終わりだ。
「内容を理解しているのならもう一度最後の確認だ。人間に地獄の住人の目を移植するとは未知の領域、失敗すれば死が訪れる可能性を秘めている。それでも契約を望むかい?」
確認の必要はない、もう決めている。
「はい、望みます」
死ぬかもしれないか、はっきりと言えば怖い。
でもまこちゃんがいなくなる方がよっぽど怖い、あの日彼女が消えた日俺はどうにかなりそうだった。
あんな怖い思いをしたのは彼女がヘルズゲートを開けてしまって以来か。
冷たくなる彼女を感じながら絶望を知った。
彼女が消えて絶望が甦った。
そして今度もまた絶望に震えそうだ。
まこちゃんを失う辛さに比べたら俺は前へと踏み込んでいける、死ぬかもしれないが生き残るかもしれない。
もう絶望は嫌だ、そろそろ希望に賭けてもいいだろう。
父さんや姉さんには悪いことをするな、もう会うことはないだろう。このヘルヴェルトで地獄王の従者となって世界を守っていくんだ、ヘルヴェルトを守ると言うことは人間界も守ることになる、二つの世界の為に、そして彼女を取り戻すために決意は強固になる。
もうここは俺の世界でもあるのだ。
「確認した、ならばこれから従者の儀を執り行う……付いて来なさい」
王座から立ち上がった王の後に続く。
謁見の間の出入口へと進み壁の中へと進む、球型個別空間である王宮は俺達の思考を読み取りある場所へと招いた。
そこは螺旋状となっている地下へと続く階段だった。半透明で遥か下まで丸見え状態は緊張感をさらに高めた、ここはどこなのだろうか。
「ここは宝物庫だよ。王宮の財宝と一緒にボクの前の目を保管している、それを取りに来たんだ……シュン、儀式が成功した場合君は従者となる、ここの場所も覚えておいた方がいいだろうと連れてきたが普段は誰も入れないようにはしている」
階段を下りながらそう説明してくれた。
「宝物ってことは宝石とか金とかを入れてるんですか?」
「金とは確か人間界での通貨に使われていたりするものだったかな? このヘルヴェルトでは物々交換がポピュラーだ。人間界のような複雑な経済ではなく単純なもの、本人が気に入れば交換できる」
それがここの仕組みか、ヘルヴェルトにも町は存在していて物々交換などで生計をたてているとミラエルと旅をして教えて貰ったっけ。
主食の木の実等を交換するのが主流らしい。まあ木の実なら探せばすぐに見付かる、旅で食料に困ったことは一度もない。
ならばここは何を入れている場所なのだろう、地獄の住人が宝と呼べるものとは一体なんなのだろうか?
「地獄王様、ならここには何があるんですか?」
「そうだね、様々な物を貯蔵しているが例えばボクのかつての目や力を帯びた武具などが多い。ボクらは未知なる力を尊ぶ、強き者を崇め弱気者を守る、それが信念でありこの世界のルールだ……ただそれはランクSの知性を持った者に限られるがな」
力、つまり強さが基準となる世界がヘルヴェルトか。
科学技術が発達した人間界とは違い力を奮い戦いを経て平和を保っている、無法地帯だったここに安息をもたらしたのが初代地獄王か。並大抵のことではなかっただろうな。
それから階段を下り終えると宝物庫の入り口が目の前に現れた。
だが眼前にあるのは巨大な人形の銅像が膝をつき両手を広げている姿、頭から二本角をもつこれはまるで門番のようだ。
銅像があるだけで入口らしきものがない。
「あの、これは?」
「これは初代地獄王を模して創られた守の巨像、これこそが宝物庫の入口だ」
銅像が入口?
「侵入者対策だよ、入口は像に認められた者以外は入れない仕組みだ、侵入者にはこれが制裁を与える……」
「ってことはこれって動くんですか?」
「ああ、意思を持った像だからね。身構えなくても大丈夫だ、ボクと一緒なら像は何もしない……ただ一人では来ないことだ、こいつはこう見えても素早いからね」
こんな狭いところで巨大な奴を相手にし、尚且つ素早いとなれば苦戦は免れないな。
ま、泥棒になる気は更々ないけどな。
「さてとそろそろ中へ入ろうか。像よ、ボクだ、地獄王アフトクラトルだ。二人を中へ入れてくれ」
地獄王が語り掛けると像から声が聞こえてきた。
『アフトクラトル、モウヒトリ、ナカヘ、イレル……ショウチシタ』
すると像が動き出した、その場に立ち上がると仁王立ちとなる。そして足元の壁から光が漏れだし、中へ続く通路が現れた。
「では行こうか」
像の股の間を潜って宝物庫へ。
宝物庫との名前から金銀財宝が溢れていると思っていたが予想とは違い中は何もない空部屋がそこにあった、宝がない? まさか泥棒が根こそぎ奪っていったのだろうか。
そうだとしたら目も奪われたことになる、そんなことになっていたら俺はどうすればいいんだ。内心焦りに頭の中が渦巻いていた。
「あ、あの、これは……」
「ああ驚くことはない、これが宝物庫だ」
と当然の如く地獄王は答えた。
「何もないように見えるがそうではないよ、この部屋は王宮と同じ仕組みでね、宝は別の空間に貯蔵している。入って来た者の思考を読み取り望むものを出現させる……驚かせてしまったね」
「な、なんだ……びっくりした」
「これもセキュリティだ、像を払いのけ侵入を許してしまった場合大抵は空の部屋に呆れて帰る……仕組みを理解していようと宝の持ち主以外は宝を出現させない。二重、三重の守りだ」
それなら安心して預けられるな、王宮もそうだけどこの仕組みを作り出した初代地獄王は凄い。
「さて、かつてのボクの目を取り出そうか」
地獄王は部屋の中央へと向かいそこで止まる、すると彼の眼前の空間が歪みだした。
球状の歪みの中へと地獄王が手を入れると直ぐに中身を取り出した、その直後歪みは風景に溶けた。
彼の手の中に赤い光が纏わりついていた。
「これがかつての目だよ、ボクから離れようと未だに力を帯びている……さて、これからが大変だ、用意は良いかい?」
「はい、覚悟は出来ています」
「よし、契約の間へ向かおうか、従者としての儀式を行う」
宝物庫を出ると像はまた同じ場所へ収まり動きを止めた、まさに宝物庫の番人って奴だな。
階段を登り出口へと向かう、王宮の結界を通過すると白と黒の部屋に辿り着いた。
しかし部屋との表現は適切ではない、四方を見回すと天井と壁が見当たらない。地面は白一色で広大に広がり先が見当たらず天は黒一色、天井が見えず高さが分からない。
妙な世界に迷い混んだ気分だ。
「ここが契約の間だよ」
「……広大って言うか不思議なところですね」
「契約の際に力を暴走させて被害が出る場合を考慮している、まあ滅多にそんなことはないのだが過去に一度だけ目を移植した者が地獄王の目に耐えられず爆散してしまって当時の契約の間を吹き飛ばしてね、三代目の地獄王の時代だ。困った当時の地獄王がこの広大な空間を創り爆散に耐えられる部屋を構築したんだ」
爆散との単語が俺の不安を倍増させた。王宮の部屋は言わば空間を固定化させ創られた頑丈なものだとミラエルに教えて貰ったがそれを壊すとは相当なエネルギーを秘めているのだろう。
三代目の従者になろうとした者は地獄の住人は人間よりも強靭的な肉体を持っていたのにも関わらず爆散した、なら俺はどうなると言うのか。
貧弱な肉体に地獄の目は馴染んでくれるのか、不安しかない。
だがもう後戻りは出来ない、いやする訳にはいかない。
まこちゃんを助け出すには力が足りない。
「怖い顔だ……リラックスして望んだ方がいいだろう」
「そう、ですね……」
深呼吸にて気持ちを整える。
「よし! もう腹は括ったんだ、やるぞ!」
「ふふ、いい気合いだ、なら始めようか……」
意気込み地獄王へと歩み寄った、だがここに現れた第三者によりそれは制される。
「始めてもらったら困るわ……お待ちなさい」
唐突な声に入口へと視線を移動させるとそこには見知らぬ顔が三つあった。
一人は中央にて不満げな表情を露にしている小柄の女、腰まで延びた金の長い髪は歪みとは一切無縁の綺麗な直線だった。きらびやかは絹のように滑らかだ。そして頭から伸びるは二本の角。
鋭き眼が前髪から覗いている、透明感のある白き美肌が金の髪に栄えていた。ふくよかな唇が特徴、スレンダーな体に纏われる衣は人間界の巫女服に酷似しているが全身が赤かった。美しい人だと思った。
彼女の右隣りには老人がいた、白髪の二本角を持つ、長き髭、額には一線の傷、黒きローブを纏っている。
そして左側、全身銀の西洋風の鎧に身を包む高さ二メートルを越える騎士がいた、フルフェイスの兜で顔は解らないが二本の直角に曲がる角が頭部の横から突き出ている。
第一印象では令嬢を守る騎士と爺やって感じだ。
「アトラ、これは一体どういうことですか? 妾に話を通さずに」
そう金の髪の女が話し出した。アトラ? それってスミスが地獄王を呼ぶときの愛称だよな確か、その名を彼女が呼ぶってことは親しい間柄なのだろうか。
それに続き老人が語る。
「王よ、これは少々問題でありますぞ、人選ミスでしょうなこれは」
「ライバーンの言う通りだわ、妾も納得してないのよ?」
老人の名はライバーンとの名らしい。
「……二人とも落ち着いてくれ、ボクの人選に間違いはないよ」
「いいえミスですよ、この世界の法を犯す問題です、これまでの世代の中で人間を従者に迎えた例はありません!」
なるほど俺が地獄王の従者になることが気に入らないから抗議に乗り込んで来たと言うことか、まあ考えればそうだよな俺は人間、ヘルヴェルトにいるだけで罪なんだもんな。
地獄王の配慮で特例として迎え入れられてはいるがそれをよく思わない者がいて当然か。
「確かに例はない、しかし今回のことが例となる……理は確かに大切だが古き考えも改編させなければならないときもある……それに世代交代は終わっている、もうボクが王だ、決めるのはボクの意思…………母上の進言は聞けません」
母上! ならこの人は地獄王の母親か。
「なっ! アトラ、いつから妾にそのような口をきけるようになったの! 妾は悲しい……」
よろよろと目眩がしたのか崩れ落ちそうになったが鎧の騎士が支えた。
「ありがとうカイエル、自分で立てるわ……」
無口な鎧の騎士の名前はカイエルか。
「……ふう、妾としたことが。おほん、世代交代したとは言え妾は先代の妃、助言する権利は持っております。アトラ、確かに王は貴方ですけど間違った命は妾が正さなくてはならないわ…………貴方が王になった日、妾がどんなに嬉しかったか分かりますか? あの気弱なアトラが立派な男になり、貫禄ある王となったあの日を……ああ、今も瞼に焼き付いていますよ?」
身をくねらせ過去を思い出しているらしい、もしかしたら地獄王の母親は子煩悩、もしくは親馬鹿なのかもしれないな。
なんか地獄王が困った顔をしているのは新鮮だった。
「地獄王の就任に際して従者を作るのは二代目様からの習わしだったのに、あんなことで腹を立てて作らなかったアトラがようやく従者を作ると聞いたとき妾がどれだけ嬉しかったか……しかしその実、まさかよりにもよって人間を従者にしようだなんて……」
あんなこととはなんだろうかと考えていると抉るような視線が俺に向けられた、それは憤怒を孕む。見た目は二十歳前後の女性だが赤い瞳に固唾を飲む、冷や汗と鳥肌が全身を蝕む。
やはり地獄王の母、ちっぽけな人間をただ睨むだけで恐怖させるとは。やばい、ちょっと震えてくるな。
「あんなこと……ですか母上」
地獄王の表情に怒りが見えた、些末にあんなことと言い捨てたことに苛立ちを覚えたのだろう、事情を知らない俺が見ているだけで怒っていると分かったくらいだ。
「アトラ、まさかまだ納得してないの? あれから数年経つと言うのに……そんなにあのみすぼらしい死神が気になるのかしら? あんな身分違いのメスなど忘れてしまいなさい」
みすぼらしい?
身分違い?
メス?
まさか、スミスのことを話しているのか?
「母上、それ以上の彼女への侮辱は許しませんよ……」
「侮辱? 違います妾は真実だけを述べているのですよ? 身分違いは事実、初代地獄王の血統である妾ら王の一族はヘルヴェルトを統べる高貴な存在、死神等は妾らと話すことすらおこがましい……しかし妾も譲歩したでしょう、勝手に子を作りアトラを誘惑した罰を腹に納めた。それに会うことさえ苛立たしいのにも関わらず年に一度の謁見を許してあげたわ、こんなにも妾は寛大さを見せてあげたのに……」
なんだよそれ、譲歩した? 寛大さを見せた?
「そこは感謝しています、しかし母上、スミスは誘惑などはしておりません、彼女にボクが一目惚れしたのです」
「ふん、そう思い込まされているのでしょうね、ああなんて可哀想なアトラ……あんな魔性の女に骨抜きにされるなんて……やはりあの女は悪女よ」
何を言っているんだこいつ、あいつが、スミスがどんな思いでいると思っているんだ。
いつも大雑把で大飯ぐらいのサボり癖のあるあいつは地獄王のことを話すとき、子供たちのことを話すときは優しい声になるんだ。
温かみのある声は最愛の者への気持ちを滲ませていた、きっと家族の前では俺の知らない妻としてのスミスが、母としてのスミスいる。
子供を取られ二人の誕生日にしか会えなくてもあいつは嬉しそうだった、二度と会えなくなる訳じゃないと笑ってたんだ。
「ふざけるな……」
「……なんですって? 人間、今何か言いましたかしら?」
王宮に連れてきてくれたとき、中には入れないことに寂しさを必死に隠そうとしていたあいつはどんな気持ちだったか。
子供たちがいなくなったときの動揺を俺は知っている、あいつはバカにされるような奴じゃない!
「ふざけるなって言ったんだ!」
「ぬう、人間め妃様になんて口を聞いておるのじゃ!」
ライバーンとカイエルは身構えたが地獄王の母親がそれを制した。
「人間、何がふざけるなと言っている?」
「スミスのことだ! あんたあいつと話したことはあるのか? どんな奴なのかをちゃんと理解して貶しているのか?」
「理解? ふふふ、なぜ死神ごときを理解しなければならないのかしらね、まあエティオとネリスを産むための借り腹としては優秀だったわね、そこだけは認めてあげていますよお? 新たな血筋は可愛らしいから満足はしています。でも所詮はみすぼらしい死神、理解する方がおかしい」
俺の中で何かが切れる音が響いた、完全に頭に来たぞ。
「シュン、もういい、人間の君が母上に逆らうことは死を意味している、もう止めるんだ」
「地獄王様、俺はスミスの友人として怒っているんですよ」
死だって? 俺は元々ここに命懸けでやって来ているんだ、恐れるものはない。
「地獄王の母親だって聞いてどれだけ凄い人かと思ったけど大したことないんだな」
「……人間、言葉には気を付けないと死ぬわよ?」
「どうせ目を移植したら死ぬかもしれないんだ、死ぬのが早いか遅いかだけの話だろうが! 地獄を統べる王の母親がここに住む住人たちのことを知らないと言ったんだ、無知な者によくヘルヴェルトが統治できるよな!」
「こ、この、人間ごときが妾を愚弄するとは……お、おおお、おのれぇええ!」
激昂する母親は正に鬼のような形相でこちらを睨み付けている。
「俺の言葉に怒るなんてあんた図星を突かれたんだろ? それが悔しいんだろ?」
「こやつ調子に乗りおって! ええい殺してくれる! 妾自らの手でな!」
彼女の体に赤いオーラが纏わり部屋全体が震えた。するとライバーンは顔面蒼白に、カイエルはたじろぎ、地獄王は動揺していた。
ここからだ、怒りながら俺はある考えを叶えるためにわざと彼女を怒らせた。
さてどう転ぶかな。
「ふん、人間にここまで言われて言い返せないものだから殺してしまうなんて器が小さいな、おばさん」
「な、なにぃいいいいいい!」
怒りが頂点となったか、ならここで。
「どうだ俺と賭けをしてみないか?」
「賭けぇ?」
「ああそうだ、今から地獄王の目を移植する、俺は人間だから死ぬ確率が高いだろうな……俺が生き残ったらスミスのことを悪くいったことを謝罪して俺の願いを叶えろ! 生き残らなかったらそっちの望み通り惨めな死を見せてやるよ!」
「この、言うに事欠いて妙な要求を!」
「自信ないのかよ王族なのによ」
「お、おのれぇええ! 妾は先代地獄王の妃にして現地獄王の母! このカーナの名において今の賭けとやらに乗ってやる!」
「本当かぁ? 嘘言ってんだろ?」
「妾に二言はない!」
掛かった、俺の願いは叶った。
メチャクチャな要求だってのは分かっている、だからわざと怒らせ判断力を鈍らせた。
後は俺次第だ。
「……地獄王様、始めましょう」
「シュン……分かった、ならば契約の儀式を始めよう」
憤怒の視線を感じつつ俺は部屋の奥へとある程度進む、どこまでも続く同じ風景が続く広大な空間は自分の位置を把握しづらい。
どこにいても変わりはないのだろう、ならばここら辺でいいか。
地獄王と対面する、彼の手の中にある赤い光は鼓動を打っていた、心臓と同じリズムで生きているのだと主張しているようだった。
本体から切り離されても脈動を続ける目は生命力に溢れている、そんな強大なものを人間の中へと招く行為は果たして正解なのか、それとも愚行か。
そんなものやってみてから考えるものだ、ただその代価は高過ぎるが。
「シュン、始める前に君には感謝をしておくよ」
「え?」
「スミスの為に怒ってくれただろう? それが嬉しかったよ……古い体制を変えるべく勤めてきたが結果は今の通りだ」
やはり地獄王もスミスのことをどうにかすることを諦めてはいなかったか、最愛の人を忘れられるわけがない。
俺だってまこちゃんを助けるためにこうやって目の移植に踏み出した、本人が知ってしまえば心配させてしまうだろう、悲しませてしまうだろう。
それでも俺は守ると子供の頃から決意している、いくら時が経とうと変わることのない気持ちだ。
ごめんなまこちゃん、勝手な真似をしているのは充分理解しているけどもうこの方法じゃないと助けに行けそうもない。
「…………始めて下さい」
「分かった」
こうして従者の儀式が始まる。




