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地獄世界のヘルヴェルト  作者: 生獣屋 芽怠
第十二章 インターミッション
56/75

ルベスとオルトロス

  

 具現化は無事成功した。


『おや、これはみなさんお揃いですね』


 と、さも何事もないかのようにケルベロス最後の人格はそう述べた。深紅の長髪をなびかせた男は俺たちを一瞥すると状況を一瞬で判断したらしく少し照れたように頭を掻いていた、不覚をとった自分が恥ずかしかったのかもしれない。

 そんな微笑ましい日常を垣間見せるが、照れたルベスの姿は瞬き一つした後に忽然と消失する。


 目の錯覚かと疑ったがそうではないと気が付いたのはロロが後方へと大きく吹き飛ばされた姿を目の当たりにしたからだ。

 何が起きたのか理解するのが遅れたが死神王と獣王だけは動きを読んでいたらしく行動が早かった、死神王はロロを救助する為に動き、獣王はルベスに対峙する。


「……刹那の時間で状況を理解し行動するとは、さすがに早いなルベス」


『お褒めに預り光栄です獣王様、ですが異物が余計でしたね、これは私の不覚です……早いところ切り離して欲しいものです。胸の奥にいるので切除をお願いします』


「……ふっ、この状況で落ち着き払うとはな、やはりお前が次期獣王に相応しいだろう」


『おやおや、それは早計です、私は若輩者であり未熟な獣です……そうであるから異物に侵入を許してしまった、この失態は消すことができません』


 肩を落としてルベスは語るがその間も激しい攻防が続いていた、指の爪を長く鋭利に伸ばした獣王の切り裂く攻撃を右へ左へと受け流しながら僅かづつルベスの体力を奪っていた。

 獣王は接近戦において圧倒的なアドバンテージを持っているらしい、接近戦ではゲイズが上であるらしいから本来なら人格を入れ替えて戦うのだろう。

 このままいけば時期に追い詰められるだろう。

 と、結論付けてしまったのは早計だった。


「……むう、これは……」


 獣王は何かに気が付いたらしく攻めるのを止めてしまった、どうしたのだろうかと思考する刹那に後方から先程吹き飛ばされたロロが戦場に舞い戻る。


「ルベス兄様、流石ですね不意討ちと気が付くのが遅れました」


『久し振りですねロロ、元気そうで何よりです。気を落とすことはありませんよ? 不意討ちをガードするとはいい反射神経です、流石に接近戦では貴方にも叶わないでしょうね』


「それでも吹き飛ばされました……だからリベンジです、皆さんまたわ、私に戦わせて下さい、次は負けません!」


「……む、待てロロ、今ルベスは……」


 獣王が何かを言い掛けたがそれを聞かずにロロがルベスへと挑んだ、皆が見守る中でロロはゲイズ戦で見せた接近戦を披露する。

 両拳に炎を纏わせて連打を叩き込むとルベスは飛び回りながら上手く交わしているが近戦ではロロが一枚上手らしい、足の裏へと炎を纏わせてそれを爆ぜさせ推進力として利用、ルベスの懐へと潜り込む。


「覚悟ですルベス兄様!」


『これは不味いですね』


「待てロロ! 攻撃するな!」


「え?」


 獣王の忠告に解せない声を出しながらロロの拳がルベスを打ち抜く。


『ぐっ! ロロ、腕を上げましたね……ですが、気配と見抜く能力をもう少し磨きましょう』


 諭す地獄の番犬はそのまま木っ端微塵に爆散した、跡形もなく。

 まともに爆発の炎を食らったロロは地面に倒れていた、所々負傷して火傷が寄生するかのようにそこにあった。


「ロロちゃん!」


 マギサの叫びに微かに反応を見せた姿にまだ生きていることを確認できた、しかし何故ルベスは爆発したのか。


「……ぬう、やるなルベス」


 そう言えば獣王は何かに感ずいていたようだったな。


「獣王様、あいつは何をしたんですか?」


「……先程のルベスは本体ではないと気が付いた、炎で本物そっくりの分身を作っていたのだ、分身を戦わせて戦場の観察をしているはず」


 炎の分身か、あいつ厄介な力を使ってくるな。ならば今奴はどこにいる?

 この赤い大地と白い天井の広大な空間には隠れるような場所はない筈だ。

 考えられるのは姿を透明に消してどこからか見ている、もしくは未知のやり方か。透明になれるのかは分からないがそれに準じた特技を持っている可能性も否定できない。


「マギサ、お前のシュバルツミストの有効範囲はどこまでだ?」


「そうね……やっぱり距離が離れるにしたがって攻撃力は減っていくかしら、十メートル位なら強い攻撃は出来るけど」


「なら、ただ伸ばすだけなら?」


「え? えっと、伸ばすだけならこの部屋くらいなら……あ、佐波くんの考えがわかった気がするわ!」


 マギサはシュバルツミストをこの空間へと散布した。

 黒い霧は四方へと拡散する、空間を塗り替えていくように果てまで。


「いた! 佐波くん真上!」


 指示された場所へ視線をやると散布されたシュバルツミストを食い破ったかのように白い空間が浮かんでいた、それも人の形を模して。

 広大な部屋で遮蔽物もない、ならば自ずと姿を隠蔽していると結論付けた。何らかの方法で姿を消し、炎の分身を戦わせて文字通りの高みの見物をしていた訳だ。

 マギサにシュバルツミストを散布させたのは言わば探査機、部屋全体にミストを行き渡らせられるのならば必ず引っ掛かると睨んだ。

 案の定見付けることに成功した。


「よくやったぞマギサ!」


『おや、バレてしまいましたか』


 上空で姿を晒したルベスは悪戯がばれてしまった子供を彷彿させる困った顔で苦笑い、しかしそれはあいつの演技だと俺の勘が囁く。

 多少の付き合いだがあいつがあんな表情をするときこそ嫌な予感が増大する。

 あの野郎、まだ何か仕掛けを残してるな?


『成長しましたね、よく私のいる場所を突き止めました。はなまるを贈呈しましょう』


「お前のはなまるなんかおぞましくて貰えるかよ!」


 結晶の碧を即座に射出、ルベスにヒットする前に上空から地上へと奴は降り立った。やはりすばしっこいなこいつは、ならば逃げ道を塞げば嫌でも当たるだろう。


「マギサ同時攻撃だ!」


「了解よ!」


 シュヴァルツミストの散布を縮め上空に千はあろうかと思わせる黒き槍を生成、ルベスを取り囲んで配置した。こちらは地面に手を置き結晶の碧を発動、地を這う氷の刃が駆け抜ける。


『おや、これは逃げ場がありませんね』


 呑気に呟いたルベスは全ての攻撃をかわせなかった、それ以前に交わす気が無かったかのように映った。

 結晶とミストは確実に噛み付いた。


「……ちっ、くそったれ」


「うそ、それ反則よ」


 マギサと俺は思わずそう口走る。


『その気持ち分かりますよ? しかし出来てしまうので仕方がありませんね』


 牙すら届かぬ壁があった、ルベスを包む白い光。


「あれって確かスルルちゃんの技でしょ?」


「あ、ああ、拒絶の白だ……あいつ他の人格の技も使えるのかよ」


『峻、勘違いですよ、拒絶の白と結晶の碧と紅の帰還は私が創ったものです、それをスルルに貸していたに過ぎません。つまり本来所有者であるので、使えて当然です……まあ、ゲイズの炎の鎧とスルルの炎弾は二人がそれぞれで創り上げたものですが……再現は可能ですよ?』


 瞬時、炎の鎧がルベスを包む。そして手をこちらに向け、炎の弾を出現させた。


『さて、難易度をレベルアップさせますね、峻、死なないように気を付けてください』


「あれはスルルの炎弾じゃねぇか」


 防御は完璧、遠距離も強力、これ以上不利になる要素は御免だと結晶の碧を飛ばす。結果はもちろん無意味だ。


「……シュバルツミストも通らないよね、きっと。ああもう佐波くんの知り合いは異形が多すぎるわ」


「確かにな……ちくしょうルベスの野郎め」


 敵に回すとこんなに苦戦するなんてな、まああいつはチートって言っても過言じゃないだろうな。どう戦う?

 俺のは全てルベスから借りている力だ、通じるとは思えない。炎の鎧はロロなら攻略出来るだろうが拒絶の白がそれを阻むだろう。ソフィーネオの攻撃は消滅を極限にさせたものと聞く、つまり強力すぎて逆に使えないと言うことだろう。

 獣王ならなんとかなるのだろうか? 詳しい力を知らないのだが仮にも王と呼ばれている。


「獣王様、何か対抗できる策とかありますか?」


「……方法は確かにある、小生の力は粉砕、拒絶の白結界とて破壊することはできる。だがその後が問題が、炎の鎧はこちらのダメージ覚悟で挑まなければならない。……まったく、次期王候補を悪魔などに好き勝手にされるのは気に入らん」


「それなら拒絶の白破壊後はわ、私に任せてくれませんか……」


 全身傷と火傷をおったロロがふらふらになりながら歩み寄ってきた、ダメージが大きすぎる、立ってるのがやっとじゃないか。


「こまったものね、私が安静にって言ったのにねえ」


「すいませんソフィーネオ様、わ、私は兄様を助けたいんです」


 と構えるロロ。

 緊張感ゆえに曇る表情、拒絶の白破壊後の炎の鎧を突破しなければならない。ゲイズとの戦いでは炎の濃度を調整して貫通させた、ならばロロがルベスを倒す鍵だ。

 問題は負傷した体でどこまでやれるのか。


「……獣王様、お願いがあります」


「なんだ?」


「……ルトを一時的に解放させていただけませんか? 兄様に対抗するにルトが一緒じゃないと今のわ、私では無理です……わ、私とルトは2人で1人ですので……揃うことで本領発揮できます。お願いします」


「……やれるのか?」


「やります! やってみせます!」


「ならばこの戦いはルトの贖罪として一時的に解放を許可する。聞こえていたなルト、愚かな行為の贖罪、やってみせろ」


 そう獣王が語り掛けた、するとロロの姿がルトへと変わる。


「ええ、やってみせますよ獣王様……ようやく、このルトがルベスを超える日が来たんです……このルトが兄に劣るわけがない!」


 そう言ってルトからロロへと変化する。


「……ルト、ルベス兄様に劣等感を感じているのは知ってたよ、それで何も上手くいかなくて心が荒んでたことも知ってる。でもそれを周りにぶつけるのはダメだよ……1人で悩んでないでわ、私をもっと信用してほしいよ、2人で1人前なんだからわ、私達は……だから見せ付けようルベス兄様に! 1人前の姿を!」


 ルトとロロ、2人で1人前の地獄の番犬。それぞれではなくオルトロスとして挑むと決意を固め眼前の目標へと気持ちを向けた。

 ロロの姿のまま手と足に炎を纏わせた。


「獣王様! お願いします!」


「任せろ!」


 ルベスへ向かい獣王が進撃する。軽やかなフットワークでルベスの懐へ侵入した。

 長い爪を走らせルベスへと向かわせる。一瞬と誤認させる時間で拒絶の白に爪が触れる。同時に爪が赤く輝き出し爆発音と共に拒絶の白を砕いた。


「往け! ロロ!」


 燃え盛る足に纏った炎を爆発させ推進力とし、ルベスとの距離を縮めた。


『おやおや、こうも接近を許すとはやりますね。ですが炎の鎧はゲイズと違う濃度ですよ? すぐに調整できますか?』


「大丈夫です! 適材適所ですから!」


 炎の拳をルベスへと向かわせた。

 しかし、そこにロロの姿はなく、もう一つの人格ルトがルベスと相対する。


「忘れましたかルベス、このルトはそういうことが得意だと!」


 炎と炎が触れる、拳はいつの間にか手刀へと代わり神経を集中させて穿つ。

 すると指先が少しずつ炎の鎧を貫通し始めた。

 そういうことが得意、つまり濃度調整はロロよりも精密にできるということだろう。そう思考している間に炎の鎧はもはや鎧にあらず、炎の手刀は同じ濃度となり壁を突破した。


「あとは任せますロロ!」


 瞬時にルトからロロへと変化、その瞬間にロロへ向けて炎弾を発射させる。それを体を捻り紙一重で躱しルベスの胸を貫く。


「やあああああっ!」


 胸を貫かれたルベスは吐血しながら笑みを浮かべていた。成長を遂げた兄弟が誇らしかったのだろう。


『良く出来ました、ルト、ロロ、貴方方は自慢の弟ですよ』


 笑顔で兄弟を褒めたルベスの胸から黒い靄が現れる霧散していく。

 こうしてルベスは悪魔から解放された。







 ようやく地獄の番犬ケルベロスの完全解放となり安堵していた。ソフィーネオがちゃんと解放されたのか調べていた。その間ロロは獣王が呼んだ王宮の治療部隊が治療を受けていた。

 治療を終えてロロがこちらへとやって来た。


「みなさんお疲れ様でした、色々と助かりました。マギサさんの探索、峻様の判断力、獣王様の協力、みんながいてくれたのでなんとかなりました。ありがとうございます」


 と深々と頭を下げた。


「一番頑張ったのはロロちゃんよ、かっこよかったわよ」


「マギサの言う通りだ。しかしあのルベスに勝っちまうなんてすげぇな! あいつも世代交代なんじゃないか? もう隠居かもな!」

 

 と言うと獣王もロロも微妙な表情になった。

 なんだ?

 

「……峻様、兄様は全然本気じゃなかったと思います」


「え?」


「いつもの兄様なら攻撃が通った時点で炎の分身のように爆発させて、これは偽物でした、残念でしたね、洞察力を磨きましょうとか言って絶望させてくるはずです」


「小生も同意するな、偽物を本物に見せるのが上手いからな、昔訓練で獣族の部隊と模擬戦した時もその方法で部隊を翻弄し、全員動けなくなった頃に体力満点姿も綺麗なままで出てきて『はい、本体登場ですよ!』などと言い放った時の部隊の絶望的な表情に爆笑してたなあいつは」


「まじかあいつ……」


 中々の性格の悪さ、それはなんともルベスらしい。あいつの爆笑している姿が目に浮かぶ。


「要約すれば悪魔に取り憑かれようとも全力を出させないように悪魔を抑え込んでいたのだろう。今回は花を持たせたと言うことだな……ロロにルト、まだまだ精進せねばな?」


「はい、もっと努力します……ルトも一緒に頑張るって言ってます」


 ロロには頑張ってほしいな、まあルトは嫌いだけど。

 暫くするとルベスが気恥ずかしそうにこちらへと歩んで来た、どうやら問題はなかったらしい。


「みなさん申し訳なかったですね、それにお世話になりました。獣王様感謝します」


「うむ、よく帰還した。さて、ルベスが知らぬ情報を伝えねばなるまい」


 これまでの経緯を話して聞かせた、悪魔の到来から襲撃、そして今は大規模な捜索をしていること。まこちゃんが連れ攫われたこと、そしてマギサのこと。


「……そうでしたか、『横』からやって来た悪魔ですか」


 と呟いてマギサを一瞥する。


「大変でしたねマギサさん、協力に感謝します」


「え、あ、いえ……私のせいでもあるので……」


 優しい声だった、少し不思議そうにマギサはルベスを見ていた。初対面の奴にそんな言葉を掛けられるとは思っても見なかったのだろう。

 少しフォローを入れてやる。


「ルベスはまこちゃんを助ける為に無理をしてくれたんだ、マギサに何か思うところがあるのかもしれないな」


「あ、なるほどね……優しい方なんだ」


「嫌、ルベスや嫌なやつだぞ」


「おやおや、相変わらず手厳しいですね峻。そんなこと言うと……貴方の恥ずかしい失敗談をうっかり喋ってしまいそうです」


 と満面の笑みを浮かべた。おっと、これ以上は藪蛇だったか。


「佐波くんの恥ずかしい話!? 聞きたい聞きたい!」


「おや、ノリが良いですねマギサさん」


「ば、馬鹿野郎! 変なこと吹き込むなよな!」


 慌ててルベスを諌めた。

 後に俺がいない間にこっそりとマギサに恥ずかしい失敗談を話したのを後で知ることとなった。







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