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地獄世界のヘルヴェルト  作者: 生獣屋 芽怠
第十二章 インターミッション
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ゲイズ戦


 あいつは憎らしい、狡猾で腹黒で悪戯好き。

 だが恩人だ、まこちゃんがゲートを開けてまった贖罪を俺に背負わせて貰えた。

 それは本来の理から外れているかもしれない、あいつは言った罪は罪だと。

 彼女の犯してしまった罪は自身の意思ではないにしろ償わなければならない、それを俺が背負った。正しいことなのか、それとも更なる罪となるのか、その答えも分からないままルベスは手を差し伸べたのだ。

 あいつの気まぐれか、優しさか、それとも何かの策か。


 しかしそれは俺にとってどれでもいい、彼女を救えたことが答えだと思っている。その手段を与えてくれたあいつは恩人と呼べるだろう。

 なら、答えは決まっている。

 決意と共に俺は死神王とスルル、マギサと共に王宮の別の部屋へと向かった。

 そこは荒野だった、赤い大地がどこまでも続く果てなどないような錯覚さえ覚えた。天井は白く映画のセットのような部屋、王宮には複数の訓練場がある、様々な環境で訓練できるようになっていて騎士達の訓練場は騎士全体の連携などを訓練している。

 この荒野は本気でぶつかり合うための部屋だった。


「ここなら全力を出しても壊れる心配はありませんね」


 さらりとソフィーネオはそう言う、確かにこんな広大な場所ならいくら暴れようともどうということはないだろう。


「あふ~、ひろいなあ、先まで行ったら帰ってこれないかも……マギサのおっぱい揉みたいよう」


「スルルちゃん、思考が口から漏れてるわよ」


「あふ! ぼくの口がゆるゆるになっちゃった……まいっか! はあ、マギサのおっぱい揉みたいよう」


「……駄目だこの子」


「まああら、マギサの胸ですか、わたしも気になってたんですよねえ……揉ませてもらっても?」


「良い訳ないでしょ! ああもうっ! どうなってるのよ地獄の女どもは! 変態しかいないのかしら!」


「あふ? マギサも変態だよね? なら仲間だよう!」


 これから始まる戦いに緊張感を忘れてきたのかこいつらは、あのゲイズとルベスと戦うことになるのにな。


「お前ら緊張感を持てよな、たく……そうだソフィーネオ、獣王ゼルガはまだ来ないのか?」


「もうそろそろ来ると思いますよ?」


 その言葉通り数分後に獣王ゼルガと女の子がここにやって来た。あれは誰だろう。


「……すまぬ、遅れたな」


「いえいえ、獣王も忙しい身ですからねえ仕方のないことです」


「……そう言って貰えるのは有難いな死神王、獣族を召集して戦いに備えていた、いつでも出撃できる」


「それはお疲れ様です」


 獣王ゼルガか、そう言えばあまり喋ったことなかったな。

 と思っていると視線が重なった。


「……ぬ、サナミシュンだったな名前は」


「は、はい、そうです」


「……ミナガワマコトから話は聞いている、彼女の話から中々に度胸がある奴だと小生は認識している。思い人の為奮闘するとはお前は大した男だ」


「え、あ、ありがとうございます……」


 なんか好評価だな、まこちゃんとどんな話をしたのやら。少し照れていると傍らにいたスルルが獣王の隣にいた女の子に気が付いた。


「あふ! ロロだあ! 久しぶりだねーー!」


「あ、スルルお姉ちゃん! ご無事だったんですね!」


 お姉ちゃんって、まさかスルルの妹なのか? ちょっと待て、スルルはケルベロスだからあの子もおそらく獣族なのだろう。

 両手を目一杯に広げたスルルは後先など考えることもなく猪突猛進に女の子へと駆けてそのままダイブした、俺の二の舞となり女の子はスルルの豊満なバストに頭を挟まれたまま地面へ。

 ヤバイなあれ、男ならラッキーなんて傍から見ればそう思うかも知れないがあれは苦しい、息ができないから地獄だ。経験者が語るから間違いない。


「むぐっ! むぐぅーー!」


「痛いよう……あふ? ロロが消えた? あ、なんだロロもおっぱいが好きなんだね、もう甘えん坊だなロロは」


「……スルル、バカだとは思っていたがバカさが酷くなってる気がするぞ……それから早く解放しないと死ぬぞ?」


「あふ? ロロが死んじゃう? あふ! それはダメだよう!」


 俊敏に動き女の子を解放したスルルはうろたえていた。女の子は苦しみから解き放たれて安堵していたがごめんねと謝罪しながらスルルがまた飛び掛かろうとしたところをマギサがげんこつで鎮静化させるのだった。

 人騒がせな奴だよ本当に。


「スルルちゃん、無闇なダイブ禁止! 分かった?」


「あふぅ、マギサ怖いよう……わざとじゃないもん」


「返事はどうしたのかな?」


 説教するマギサはやはり怖い。


「ご、ごめんなさい! もうしないよう!」


「はうあう、あ、あの、お姉ちゃんを許して下さい、あれはいつものことですので」


「あふ! さすがロロ、解ってるよう! いつもあんな感じだもんね! ぼく悪くないもんね!」


「スルルちゃん!」


 怒るマギサに腰を抜かしたスルルは震えながら謝罪する。まあ今のはスルルが悪いかな、反省もしてなかったみたいだし。

 恐ろしい説教が終わるとケロリと元気になったスルルに女の子を紹介して貰った、名前はロロ、この子はオルトロスのもう一つの人格とのことだ。ルトが何かやらかしたらしくて今はロロに人格を明け渡しているのだとか。

 まああいつは本当に嫌いだからいい気味だ。


「ロロです、よろしくお願いします」


「おう、よろしくな、俺は峻、好きなように呼んでくれ」


「あ、はい、じゃあ……峻さまと呼ばせて貰います」


 と笑顔、なんだこの子めちゃくちゃ可愛いじゃないか、こんな妹がいたら良いな。そんなことを思っている最中スルルとマギサが会話しているのだが何を話しているのだろう。


「可愛い女の子だね、ロロちゃんか、着せ替えとかしたら楽しいだろうな」


「あふ? ロロは男の子だよ?」


「へ? う、嘘、だって……あ、あんなに可愛いのに!?」


 会話が聞こえないな、なんかマギサが驚いているような。


「もしかしてシュンも勘違いしてんのかな? 教えてあげないと……」


「あ、ちょっと待ってスルルちゃん! 別にこのままでいいわ」


「あふ? なんで?」


「知らない方が……面白いから!」


 なんだ、悪意ある意味深な笑みを浮かべているマギサが怪しすぎるのだが。後で聞いてみよう、教えてくれるかは分からないが。


「……そろそろケルベロスの復活を始めよう、死神王準備を頼む」


「はい、了解しましたよ獣王……スルルちょっとこっちに来て下さいねえ」


「分かったよ!」


 ソフィーネオへと駆けていくスルルの姿はお菓子に釣られた子供のようで少し和んでしまったのだが次の瞬間に死神王の拳が笑顔のスルルの顔面に入る、まさに衝撃的瞬間で唖然とする一同がここに。

 見事、スルルは笑顔のまま鼻血を滴ながら地面へ。そして気絶した。


「なっ! なっ! スルルちゃん! な、何してんのよあんた!」


 激怒するマギサにソフィーネオはさも当然の如く言う。


「まああら怖い怖い……わたしの術を使うには対象に意識があったら掛けられないのよ。で、スルルの場合タフだから隙を突かないと気絶してくれないのよねえ。大丈夫、傷はリリリが治すわ」


「モラルどうなってんのよ!」


 うん、見事な突っ込みだぞマギサ。


「ソフィーネオ、後でちゃんとスルルに謝ってくれよさすがに酷いって」


「ええ、ちゃんと謝ります。さてとシュン、マギサ、ロロ、戦闘準備を始めた方がいいですよ」


 今からゲイズとルベスを相手にするんだ、和気あいあいの気分はここまでだ。

 結晶の碧を発動させる、マギサはシュバルツミストを漂わせロロは拳を握りしめボクサーのようなスタイルになった、おそらく格闘技を習っているんだろう。


「ゲイズお兄ちゃんの相手はわ、私にさせて下さい。お兄ちゃんから格闘戦を習ってたんです。……獣王様、こんな時に不謹慎かもですけど……力を試したいんです」


「……そうだったな、ゲイズとは格闘戦においては師弟関係だった。分かった任せよう、しかし危険と判断したら手を出す……いいな?」


「はい獣王様、ありがとうございます……死神王様お願いします」


「はい分かりました、ロロがゲイズと戦うのですね、ご武運を祈ります……では精神具現化術、死神風味を使います!」


 ソフィーネオの手が七色に輝きスルルにかざす。


「……まああら、邪悪な気配が2つ、やっぱりゲイズとルベスそれぞれに送り込んだみたいねえ……先ずはゲイズを呼び出します」


 スルルから七色の光りが飛び出し人の形を作り上げた、筋肉質の身体が色を失いゲイズがここに現れる。首をならしストレッチをしながら欠伸をしてなんだかほのぼのしい。


『かぁあああ、なんだか知らねぇが久し振りに動けるぜ』


「ゲイズお兄ちゃん」


『ん? お、ロロじゃねぇか、どうしたんだ? ここはヘルヴェルトか? 獣王様に死神王様、初めて見る女がいるな、それにシュンか……ん? ヘルヴェルトにシュンがいるのか?』


「お兄ちゃん後で説明するけど、今の状況を理解できてますか?」


『ああ? えっと……ああなるほどな、これは精神具現化だな? 死神王の力を感じる……それに身体のなかになんかいるな……すまないなロロ、どうやらお前と戦わなければならないらしい』


 諭すように呟いてゲイズは一瞬の内にロロの眼前へ移動し、拳を振り下ろす。出遅れたロロだったが拳を紙一重で交わし後ろへと飛び距離を開けた。


『やるなロロ、いい反応だ』


「くっ、いつもながら容赦ないです」


『すまねぇすまねぇ、どうやら身体の中の異物に身体を乗っ取られてるらしい……意識は奪われなかったが言うことを聞かない。てな訳でさっさと俺様を倒せ。ま、簡単にはいかねぇだろうがよ、俺様は強いからな』


「はい、確かに強いです……でもいつかお兄ちゃんを越えてみたいと思ってました!」


『へっ、いい根性してんな……こいよロロ、勝負だ』


 一呼吸置いて双方が激突する、拳に蹴りの嵐が巻き起こった。ゲイズの一撃を紙一重で交わして攻撃を繰り出すロロ、明らかにゲイズがパワー型の攻撃を主体としロロはカウンター型だろう。相手の攻撃を利用しつつ打撃を与えていく。

 しかしパワー型とは言えゲイズのスピードは凄まじく連続攻撃をかわしきれなくなってきたロロの腹に重い一撃が通った。


「かはっ!」


 透かさずに筋肉質の身体を砲弾のように体当たりを決行、ロロは軽々と吹き飛ぶ。


『さすがにすばしっこいが俺も中々のもんだろ? しかしロロの攻撃は軽いが同じ場所を何回も突いてくるからいてぇいてぇ……だが決定打にはならないな』


「はぁ、はぁ、さすがお兄ちゃんです……」


『こんな状況だが楽しくなって来やがったぜ……ん? ちっ、中の奴が勝負を決めたいらしいぞ、くそ、せっかく面白くなって来やがったとこなんだがな。悪いなロロ、俺様は本気を出すぜ?』


 炎が舞う、荒々しく燃え上がりゲイズの身体全てを飲み込んだ。これは事故でも災害でもない、ただの特技だ。

 ゲイズは身体全てに炎を纏わせ鎧とし戦う、攻防一体の炎の鎧は隠し玉という奴だ。迂闊に触れればこちらが燃え朽ちてしまう、これを破るのは至難の技だろう。


『ロロ分かっているな? これが出たときの対処は前に教えたはずだ』


「は、はい」


 ロロは両拳に炎を纏わせた、おそらくあれが本来の戦闘スタイルなのだろう。素早い動きで敵の攻撃をかわしつつカウンターを使い炎の拳でダメージを狙う、元々の攻撃力が弱いが炎でそれをカバーし大ダメージとする。だが相手はゲイズだ、炎の鎧とは相性が悪い気がする。


『来いロロ、やってみろ』


「行きます!」


 炎と炎のぶつかり合いは凄まじい威力だが炎の鎧にはびくともしない、本来なら鎧に攻撃を仕掛けてしまったらこちらに火が移りダメージを負ってしまう。だがロロもまた炎の攻撃、地獄の業火通しはぶつかって反発し合う。


「はぁ、はぁ、“調整”が難しいです……でも、あと少しです!」


 再度攻撃に移るが先程と同じように炎は炎に遮られた。


「あ……こ、これだ、これですね!」


 何かを発見したのか疲労困憊の表情に明かりが点る、ゲイズの渾身の一撃を紙一重でかわし、脇腹へと炎の拳を送ると炎は溶けるようにロロの拳を通す。


『ぐっ! へへ、やりやがるなロロ、やっと同じにしやがったか』


「は、はい、お兄ちゃんの炎の濃度とわ、私の炎の濃度を同じにしました、これなら同質の炎同士、弾くことなく通り抜けられます!」


 なるほどな、炎の濃度によって質が変わるから反発し合ってたのか。同じ濃度にするなら同じ炎、拒絶せずに交わる、つまり鎧は鎧に非ず。

 炎の鎧攻略か、簡単そうに見えるが難しいことだと思う、戦いながら微妙な炎濃度を調節するのは繊細さ求められる。


『やっぱりこういったややこしいことは得意だなロロ、俺様には真似できねぇよ』


「あ、ありがとうございます」


『さてと、なら続きだ。胸を狙え、俺様の中にいる異物はここにいる……お前の拳で貫け』


「は、はい!」


 両者構えて一時の静寂が訪れた、狙うは渾身の一撃、相手の出方を見ている二人は銅像の如く固まっていた。固唾を飲み見守る俺達は目を離せなかった、おそらく次の一撃で決着が付くことを本能が理解していたと思う。

 この固定されたような空間で我慢できなかったのは異物だった、ゲイズに取り付いていた者は沈黙に耐えられなかったのかゲイズを向かわせた。炎を纏う正拳突きが狂いなくロロの顔面へ放たれた。


 しかし、それはロロにとって僥倖(ぎょうこう)となる。

 ゲイズよる本来の正拳ならば強力過ぎて可能ではなかっただろう、だが異物による焦りが拳を鈍らせた。刹那的時間ロスがロロの好機、紙一重で交わし懐へと潜り込み、手刀をゲイズの胸へ。


「手応えありです!」


『ぐっ! かぁあ、やっぱ具現化した身体でも痛いもんは痛いか……よくやったぞロロ、中の奴を見事に貫いた……成長したな』


「……いえ、本来のお兄ちゃんならわ、私がダウンしてました」


『はっ、馬鹿野郎が、どんな状況だろうと勝ちは勝ちだ……胸を張れよ』


 ゲイズの胸から黒い霧が漏れだして消えて行く、悪魔が浄化されたと言うことだ。


『死神王様よお、迷惑かけたな、元に戻したくれよ』


「ええ、そうしますね」


『さてと、こらからが大変だぜ? 次はルベスとやるんだろ? あいつは全員で戦え、接近戦と攻撃力は俺様の方が強い、遠距離と視力と嗅覚が強いのはスルル、だがあいつは中間、オールマイティーでテクニカル、そして腹黒いぞ? ま、最後のは単なる悪口だが……気を付けろよ』


 そう言い残しゲイズはスルルの中へ戻された。

 ケルベロスの核を担う人格ルベス、次期獣王と称された男との戦いが始まる。





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