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地獄世界のヘルヴェルト  作者: 生獣屋 芽怠
第十章 戦地は剣の山脈
47/75

正体

 

 生死の境目に立たされている現状は最悪だ、腹に刺さったままのナイフが痛覚を時々刺激し苦痛を生む。

 しかし刺さったままなのが幸いしている、もしナイフを抜かれていたらそこから血が溢れ出して失血死を余儀無く迎えていただろう

 つまり貫かれたナイフが皮肉にも栓となり助けているのだ。

 確かに苦しいが当分は死ぬことはないだろう。

 それにマギサがこちらに向かって来ている、助かる可能性が上がった。


「キヒヒ、釣れたね」


「そうですわね……全くマギサが余計な事をしなければこんなややこしい事態になりませんでしたのに」


「愚痴を言っても仕方ないだろう?」


 ロゼリアとメイディア、それにリーゼスが何かを話しているがその話題中心はマギサだ。

 つまりこれは罠だ、俺は餌にされた?


「キヒヒ、レイス様もう少し待ってて下さいね? 窮屈な“それ”から出しますから」


 今まで無言を貫く悪魔達のリーダー格の男レイス、マギサは何をしたんだ?


「佐波くん!」


 空から降り注ぐあいつの声に希望が芽生えた、しかしこれは罠だ。来るなと叫びたかったが声に力が入らない。

 悪魔達の目論見通りマギサがここにやって来てしまった。


「キヒヒ、ようやく来たねマギサ、待ちくたびれちゃったし」


「ロゼリア……あんた佐波くんに何をしたのよ」


「キヒヒ、佐波くんねぇ、皆川真の心配は二の次?」


「……うるさいわねどうでも良いでしょそんなこと! 許さない、よくも佐波くんに怪我を……許さない!」


 怒りに身を焦がし自身の力シュバルツミストを散布、臨戦態勢へ変化を遂げる。

 しかし攻撃は出来なかった、何故なら俺が人質だから。


「キヒヒヒヒヒ、動いちゃ駄目だしマギサ、動いたらその他の頭を潰しちゃうよ~?」


「くっ……」


 動きが完全に止まり奴らの思惑通りに事が運んだ、こんなにも歯痒い事態に陥るなんて。

 何とかしないと、でも今の俺に何が出来る?


「キヒヒ、そうそうそれで良いし。後はただ一つ、レイス様を解放しろ」


「……誰がそんなことをするもんですか、レイスを殺せるチャンスが目の前にあるのに誰が」


「へぇ、じゃあその他はいらないって事? じゃあじゃあこいつはもうヨウナシ? 殺して良いの? グチャグチャに踏み潰しても良いの? キヒヒ」


「だ、駄目!」


 うろたえるマギサの姿はあの時以来か、人間界で騙して連れて来たと言われ違うと悲しみながら訴えた。その時のマギサは今にも壊れてしまいそうな程に儚げで危うかった。

 そして今、また儚げな彼女がそこにいる。


「キヒヒ、良いねその表情……ああ堪らない。……ねぇねぇマギサ、どうしてワタシ達が一斉に襲って力ずくで実行させないかわかるぅ?」


「……力ずくじゃ絶対に従わないわ」


「そうそれ! マギサは拷問されたくらいじゃ従わない。その事はワタシ達は充分に理解してる、だからの人質になるんだし。マギサみたいな奴には人質って効果的……ほらこんな風にね」


 ロゼリアが言葉を終えた刹那衝撃が襲い掛かり一時呼吸が止まる、奴が胸を蹴ったのだ。

 その振動が腹に伝わり劇痛をくれる。


「……ぐっ、がぁっ!」


「さ、佐波くん!」


「キヒヒヒヒヒ、さぁてどうするマギサ? 要求を受け入れる? 拒否する? イエスかノーしか返答は許さないよ?」


「くっ……」


 こいつらに従っては駄目だ、お前が何をしたのかは知らない、だけどそれを解いてしまったら何か嫌な感じがする。


「ふう、全くこの交渉に優雅さの欠片も有りませんわね」


「うるさいなぁ、マギサが煮え切らないのが悪いんだし」


「だったらタイムリミットを設定したら良いのではなくて? こんな風に……」


 せき止めていた栓をメイディアは無理矢理抜き去る、決壊し、溢れ出すそれは死を呼び寄せる元だ。

 止まらない、止まらない、寒い。


「お腹のナイフを抜くだけでマギサは焦りますのよ? ほらあの動揺した顔は可愛いですわ」


「キヒヒヒヒヒ! なんだメイディアもそう言う趣味があんの?」


「わたくしの場合は女の子限定ですけれど……焦りは欲情のスパイスですの」


 ナイフを抜かれた、血が止まらない。このままじゃ本当に死ぬ。

 何も出来ないまま死ぬ何て……。


「ほらほらマギサ、早くしないとその他が死んじゃうよ? 良いの? キヒヒ、目の前で死ぬ何て最高だし! その時の絶望する顔を見せてぇ!」


「や、止めて……」


「このままじゃ後数分もしない内にお陀仏だよぉ? キヒヒヒヒヒ!」


「止めて……止めてよ! 佐波くんが死んじゃう、死んじゃう…………わ、分かった、何でも言うことを聞くから、だから佐波くんを死なせないで!」


「キヒヒヒヒヒ、交渉成立だね。ほらさっさとレイス様を解放しろよ、そうしないとこいつが死ぬだけだし……キヒヒヒヒヒ」


「……わ、分かった……」


 複雑そうな顔で俺を一瞥した後レイスの元へと歩み寄る。

 怒り悲しみ絶望後悔憂い、そんな負の感情が混じり合いマギサは手を拳に変え握り締めた、血が滲むほどに。


「手間だった。我の投獄は計算外のもの、貴様は優秀なる駒だった」


「……うるさい黙れ!」


「その激しい感情は心地が良い。数多の破壊を執行し見て来たがやはり自身の信念の欠落も破壊、故にこれもまた一興」


「黙れって言ってんでしょうが!」


 完全に弄んで楽しんでいる、それが余計にマギサの思いを踏みにじる。

 レイス、こいつが全ての原拠。


「早くしなよマギサ、怒るのは良いけどその間にその他が死んじゃうよ? 良いの? 良いの?」


「……ッ、分かってるわよ!」


 怒の根源へと歩み寄り手を男の胸元へ、するとマギサの手が青色に輝き始めそのまま右へ手を回転させた。

 まるで鍵を開けるかのように。瞬時レイスの体に青の線が走り、消える。


「あら? 消えてしまいましたわよ? それにレイス様が解放されるようには見えませんわ」


「マギサどういうこと? 返答次第でその他がグチャグチャになるよ?」


「……鍵は解除したわ。後は時間経過が必要……それでこの牢獄は消滅する」


「キヒヒ、わざわざそうなるように作ったねマギサ? やらしいなぁ、こういったことを考えて時限式にしたんだね? ま、解けるならどうでも良いけど」


 何が起きているのか、何を話しているのかさえ理解から遠退いていた。

 正に無力だ、俺は何も出来ない。


「さあ約束は果たした、佐波くんを放しなさい!」


「キヒヒ、皆川真は良いの~? 佐波峻だけぇ? キヒヒヒヒヒ、ねぇねぇマギサ、何でこいつに執着するの? こいつは“違う”んだよ?」


「そんなこと分かってるわよ! あんたに私の何が分かるのよ!」


「キヒヒ、その言葉をそのまま返すよ、マギサだってワタシの何が分かる訳? ワタシの苦しみはワタシだけが知っていればいい……だけどワタシの全ては苦痛に歪む顔を眺めることだし……キヒヒ、だからワタシは意地悪なの。ねぇその他、マギサをどう思ってる? 正体不明で少し気味が悪く感じてない? ワタシも理解出来ない。けど何となく分かる気だけはする……キヒヒ、ねぇ知ってる? マギサは偽名だって」


 偽名……?


「キヒヒヒヒヒ、本当の名前知りたくない? 多分それを聞いたら何故いつも助けてくれるか分かるかもよ?」


「や、止めて……それを言わないで! 言っちゃ駄目!」


「マギサの本当の名前は……」


「止めてぇえええ!」


 初めはそれが何を意味しているのか分からなかった、いや理解を拒んでいたのかも知れない。

 聞き慣れた名が悪魔から謳われる。


「聞こえなかったぁ?」


「……え?」


「キヒヒヒヒヒ、“ミナガワマコト”」 


「その名前は……え?」


「マギサの名前は皆川真、お前が愛を注ぐ女の名前だし」


 同じ名を持つ女性がここにいる、マギサの名前がミナガワマコト?

 なんだこれは、意味が分からない。


「キヒヒヒヒヒ! マギサぁ、知られちゃったねぇ、キヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!」


 黒き髪の彼女が膝を落として絶望を体感していた、サングラス越しには見えぬ瞳は何を訴えているのか。

 頬に伝うものが何かを教えた気がする。


「……マギ……サ……お前……」


 必死に振り絞る声、しかし枯れた声が彼女に届いたのか分からない。不意に脳裏を掠めた記憶はここに来る前の戦いを鮮明に映し出す。

 まこちゃんを救う為にマギサと乗り込んだ工場であいつは俺を庇った。その時にサングラスが落ちてマギサの素顔が晒された、その顔が似ていたんだ。

 皆川真に。

 見間違えかと我が目を疑い心に閉ざした、何故かそれを表に出してしまえば全てが変化する気がして。

 同じ顔、同じ名、これは何なんだ? 夢でも見ているのか?


「キヒヒヒヒヒ! 堪んなぁい、その絶望に満ちた表情が堪らない!」


「ロゼリア、そろそろよろしくなくて? 佐波峻の利用価値はこれで無くなりましたわ。もう皆川真はわたくし達の下に……これからは『横』ではなく『縦』を渡り歩くのですから」


「……そうだね、もうその他はいらない。皆川真が旅の鍵であり門、マギサとは違う楽しみがあるし……じゃあ最後に皆川真から挨拶させようか、キヒヒ」


 先程から虚ろだったまこちゃんの視線が俺に向けられる。

 悪魔に操られたマリオットが言葉を吐き出す。


「ばいばイ、さよウナら……」


 それは別れのセリフ。


「……ま、まこちゃ……」


 手を伸ばしても届かない。立ち上がることすら出来ない、守ると約束したのにそれすら許さない体が煩わしい。


「それじゃあねマギサ、その他と仲良くやりなよキヒヒ」


 悪意に満ちた別れ際の言葉を終えたロゼリアは手を空に掲げると光が生誕する。それと同時にまこちゃんの額に紋章が浮かび上がり、瞬きを一つ終えた次ぐに見えた景色は無だった。

 悪魔とまこちゃんが消えた、目の前にいたのに助けられなかった。

 ちくしょう、ちくしょう……。


「ぐっ……ぐぅぅ……」


 腹の傷が喚く、うるさくてそれがまるで責め付けているかのようだ。


「……あ、さ、佐波……くん……」


 マギサがこちらに歩み寄ってくる姿が眼に飛び込む。


「ごめん、ごめんね……ごめんなさい」


 涙腺を緩ませながら彼女は腹の傷に手を当てる。


「……私のシュバルツミストを体内に送り込む、傷口をそれで塞ぐ……痛いけど我慢して、応急処置だけど……これ以上血が流れたら死んじゃうから」


「……頼む」


 今は死ねない。後悔なら死んでも出来る、だがまこちゃんを助けられなくなる。

 俺は生き延びてまこちゃんを助け出す、そしてマギサの事情を訊く。それまでは死ねない。


「……行くよ」


 侵入してくる異物は不快さを漂わせて遠慮無しに奥へと進行する、それは同時に激痛を伴わせた。傷口に指を入れられたような感覚、それが四方に動き回り更なる苦痛を置いて行く。


「ぐっ……が、がぁ……ぐうぅ……」


「痛いだろうけど我慢して!」


「ううっ……がああ!」


 傷にへばり付くマギサのシュバルツミストは外敵ではない、しかし尋常を凌駕していた。今出来る事は耐えるだけ、それだけが最愛の彼女を守れなかった俺に許された行為。

 そして最愛の彼女の名を持つ女に全てを託している。

 これを皮肉と言わないで何と言う。

 気が遠くなり無へと落ち掛けるが、痛覚がそれを引き戻す。その繰り返し、厳罰の如くそれが続く。

 無力は罪なのかと何度も自分に問い掛けた。

 時間の感覚が麻痺してどれだけ経過したのか、傷口は黒々としたマギサの処置後が残されていた。

 血が止まった、だが傷自体は完治したわけではない。


「……血は止めたわ。後は治療が出来れば良いんだけど……私にはそんな力はない……」


 途方に暮れた子供の様に自身の元気を何処かへ逃がしてしまったマギサは今にも壊れてしまいそうで儚い。

 体が動けば抱き締めたのだろうか? だって彼女はミナガワマコトなのだから。

 どうして同じ名前何だろう。


「佐波ーー! 皆川ーー! サングラスーー!」


 鬱な気分を吹き飛ばす声が活力を微力ながら取り戻させた。

 空より死神スミスが飛行する姿が。

 俺達を見付け急いで降りて来た。


「さ、佐波! お前どうしたんだその腹は! それに皆川は何処に行ったんだ!」


 慌てるスミスを落ち着かせる為にマギサが説明をし始めた、ただ自分の名を明かすことは無かったが。


「皆川が連れ去られただと? ……くそ、オレが早くここに駆け付けられたら……ちょっと待ってろ佐波、通石を使ってリリリに連絡を入れる」


 リリリなら傷の治療が出来る、これで助かる筈だ。

 何とか生き延びられる、まこちゃんを助けるまでは何としても生き延びてやる。


「佐波くん……」


 小声でマギサが話し掛けて来たが弱々しい、力無き声に耳を傾けるしか無かった。


「……傷が治ったら全部話すよ……もしかしたら理解出来ないかも知れないけど、それでも話すよ……私の事を……」


 小さく頷いて見せ肯定と知らせると「ごめん」と謝罪するマギサは胸を締め付けるような感情を芽生えさせた。

 そして急に沼底へ意識が引きずり込まれ始めた、ぼやけて行くマギサの顔と景色が黒一色になる頃に電源が切れ、静へ。

 暗影に漂い世界の色をジッと見詰めている、ただの黒をずっと。








 


 ここが夢の中だと気が付いたのは意識を取り戻してからだがそれはまだ先の話。

 訳も分からずに影の中で膝を抱えて目を瞑る。

 不意に声が聞こえて来た気がする。

 懐かしい。

 君が居て俺が居る。

 駆け抜けた、雑踏は街路灯は止まって見え、世界には俺と君しか動は無い。

 手を取り、君といつもの商店街を走る。何かが始まる気がしてワクワクしながら。

 でも本当は知っていた筈だ、君と出会うそれ自体が始まりなのだと言う事に。


 皆川真は俺の始まりで全て――。


 伝えたい思いが沢山ある、渡したい言葉が沢山ある、有りすぎて困る程に保管して出番を待たせている。それなのに別れは唐突過ぎて気持ちが定まらない。

 皆川真が去ってミナガワマコトが側に……。





 




 いつの間にか隣にマギサが手を握っている姿を目撃する。

 ひんやりとして冷たい手が包む、縋るように手を離そうとはしない。これは何だ?

 俺の隣はまこちゃんの居場所だ、マギサは違う。

 違うんだ。

 そう言い聞かせるが離そうとはしない。

 それとも……俺が離さないだけか。

 そんな馬鹿な。

 混線する思考は複雑さを増して呼び寄せた、覚醒を。

 生還する意識が初めに捉えたのは傍らにいる彼女だった。


「佐波くん?」


「……マギ、サ?」


「ああ、良かった目が覚めたのね、良かった……」


 マギサは今にも泣いてしまいそうな程に弱々しく映り、儚げな笑顔がまこちゃんと重なって見えてしまう。

 夢から抜け出した先にマギサが待っていた、ここは何処だ?

 どうやら俺は横になっているらしい。天井が視界を覆う、白い天の壁。四角を形作る内部、壁、天井、全てがまるでプラスチックを連想させる光沢感、そして記憶はここを何処か教える。

 まこちゃんが王宮で過ごしていた時の部屋だ。


 俺から見た左側にマギサが居て反対側には座ったまま眠るリリリの姿が。器用な奴だが首を傾げているからきっと起きたら痛めているに違いない。

 あれ、何でリリリがここにいて寝ているんだ?

 あれ、何で俺は体が痛む?

 記憶の混乱が巻き起こるが、マギサが説明をしてくれた。


「大丈夫佐波くん? この死神の子が寝ずに一晩中治療してくれたのよ?」


「……一晩中? 治療?」


 何だ、何か忘れている気がする。何故怪我をしてしまったのか。混乱は正常を求めて走り出し手を伸ばす、徐々に鮮明に記憶が蘇って来た。

 ああそうか、俺は大切な人を守れなかったのか。


「……そうだったな、悪魔からまこちゃんを取り返さなきゃ成らない……俺が寝ている間に何があったか教えてくれ」


「気を失った後スミスさんが呼んだリリリちゃんが来て治療をしてくれたわ。戦っていた人達も王宮に戻ってきて、私はある程度地獄王に事情を話したわ……佐波くんが目覚めたら理由を全て話す条件で王宮に入れたの」


「……そうか」


 体を起き上がらせようと奮闘し始めたが痛みが走る。まだ本調子ではないらしい。


「あ、まだ寝てなきゃダメよ」


「ぐっ……マギサ、もう隠し事は無しだ、話してくれないか? お前の正体を」


「分かってるよ……でもその前に『縦』と『横』の事を知らないと理解出来ない……その2つを理解出来れば『十字次元』を理解出来るから」


「『十字次元』?」


「ええ……先ずは『縦』を知らなきゃね、『縦』とは異世界の総称なの。この世界ヘルヴェルトも『縦』に属している、あらゆる異世界は全て『縦』と呼ばれているわ。簡単に言えばそうね……自分の世界に有り得ない物が存在する世界が異世界かな」


 有り得ない物、スミスが持っている意思を疎通出来る通石がそれに当てはまるのか。それにあの王宮や地獄の住人達、全て人間界では説明が付かないし有り得ないもの。

 しかし何で異世界を『縦』と呼ぶんだ?


「佐波くん今どうして異世界を縦と呼ぶのかって思ったでしょ? それは『横』を説明してからちゃんと教えるから」


「……分かった、続けてくれ」


「次に『横』は多元世界の総称よ、言わば平行世界の事……何もかも全て同じ世界、しかし少し変化している。佐波くんが生まれてこなかった世界もあるし、皆川真がいない世界もある、もしもの世界は多元、つまり無限に続いている……それを『横』と呼んでいるの」


 多元世界、同じような世界だが少し違う世界のことか。


「無限に続く『横』は合わせ鏡に例えられるわ。佐波くんのいた人間界を中心に考えて『横』に続く鏡が多元世界。『縦』は先の見えないドアみたいなものよ、鏡とドアがどの世界にも必ず存在する……その形が十字になっているでしょ? だから『縦』と『横』を総称して『十字次元』と呼んでいるのよ……それが『縦』『横』の正体」


「……まさかお前は……」


「そう、私はとある『横』から来たミナガワマコトなの」


 『横』の世界のミナガワマコト、その言葉を聞いた瞬間に今までのマギサの行動を思い出していた。

 無条件で俺を助けてくれたこと、何者なのか明かすことが出来ない煩わしさ。

 無意識に彼女を傷つけていたかも知れない、あまつさえ彼女を疑い疑心暗鬼に陥った。俺は何て愚かなんだろう、マギサの気持ちを考えてやれないなんて。


「……お前はまこちゃんなのか?」


「違うわ。私は皆川真、でもあなたが知ってる皆川真じゃない……それに私の愛称はまこちゃんじゃないわ」


「……えっと、どうして……悪魔の仲間だったんだ?」


 何を訊けば良いのか分からなくてそう言った、彼女は皆川真、なのに黒い血を流したのを忘れていなかった。


「何が起きているんだ、最初から教えてくれ」


「……うん、話すって約束したからね」


 マギサの過去が語られる。

 深い溜め息の後マギサが開口する。


 




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