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地獄世界のヘルヴェルト  作者: 生獣屋 芽怠
第十章 戦地は剣の山脈
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逃亡


 赤き空に浮かぶ巨大な球体が爆発的な存在感を放ち威風堂々とそこに存在している。まるで小さな星、結界で覆われ七色を泳がせ絶えずに自身の色が変化している。

 初代地獄王が作り上げたというこの王宮は芸術にまで昇格しており見た者の心を掴む。

 その内部に俺の大切な人がいる、守らなくてはならない。


「これが王宮? 私のイメージとは違うわね」


「確かに俺も最初に見たときにはびっくりした」


「まるで小さな惑星ね、それに綺麗……よし、それじゃあ奴を探しましょう。近くにいれば奴の気配を感じることが出来るわ」


「だったら周りを飛んで気配を探ろう」


 王宮は今獣族が守りを固めている筈、ならば内部にレイスがもし入り込んだなら騒ぎで分かるかも知れない。

 今は静かだ、つまり奴はまだ来ていない事になる。

 ふとスミスの顔を見ると複雑そうな表情で王宮を眺めていた、そうだったスミスは王宮に近づけなかったんだっけ。それに自分が愛した男が中にいる、会いたいのに会えない。


「……あ~スミス、……大丈夫か?」


「心配するな、オレは大丈夫だ……さあ行くぞ、王宮の周りくらいなら飛んでも平気だろ」


 こうして辺りの探索を開始する。先程の様にマギサの力で空を飛び傍らをスミスが同行、死神の鎌を出現させつつ、いつ戦闘が起きても問題はない。

 しばしの浮遊、王宮の周りを一周したがマギサは奴を感知出来なかった。まだ来ていないのか、それとも感知出来ない遠くで機会を窺っているのか。


「静か過ぎるわ。目標は目の前なのに気配の一つも無いなんて」


 マギサの言う通りだ、奴はまこちゃんを狙っているんだ、絶対にくる筈。


「だな、怖じ気づいた……って訳でもって無いだろうし、何か引っかかるな」


「この静けさが怖いわね」


 耳鳴りがする程の無音は不気味さを醸し出し、居座りながら俺達をじっと見つめている、そんな妄想に取り憑かれそうになるが気を引き締めてそれを追い払う。

 何なんだこの静けさは、まるで平和そのもの。取り越し苦労だったのか?


「……ちょっと待てよ、何か変だ」


「何か分かったのか佐波?」


「分からないけど何かを見落としている気が…………なあスミス、もしもさお前が護衛部隊の隊長だったとして王宮をどう警護する?」


「何だそれ、突然だな……オレなら取り敢えず王宮の周りに護衛部隊を配置すると思う……あれ?」


 今回王宮を守護する筈の獣族の姿が影も形もない。

 王宮は無防備そのもの。


「獣族が居ないだと? 馬鹿な、あいつらはヘルズゲートを守護する門番であり番犬、守護に長けている筈だぞ……それなのに居ない?」


「くそ何で気が付かなかったんだ俺は!」


 まこちゃんが狙われていると知って動揺していたから気が付くのが遅れた。だがそれは言い訳だ。

 何故居ない? 仮にも数千もの獣族が突如全てが居なくなってしまったんだ?

 何だ、この感覚は。前にも似たような事があった気がする。

 どこで?

 ヘルヴェルト?

 違う。

 人間界?

 多分そこだ。


「…………そうか、まこちゃんだ」


「佐波?」


「どうかしたの佐波くん?」


「まこちゃんが居なくなった時と似ているんだ、突然居なくなってしまった、最初から誰も居なかったように……」


 忽然と『居なかった』事になったまこちゃんは悪魔の仕業だった、つまりここに居ない獣族は……。


「記憶の改竄、それがここに居ない獣族だっけ? そいつらが居ない理由じゃないかしら? そしてそれが出来るのはロゼリアだけ」


「だけどあいつは剣の山脈にいた! 今もミラエルと戦っているんだぞ?」


「そう……なのよね、もしロゼリアがここにいたなら記憶を改竄して獣族をここから撤退させられるわ、やり方は知らないけど。でも佐波くんの言う通りロゼリアは向こうにいる……」


「マギサお前奴らの力や能力は把握してないのか?」


「むちゃを言わないで、私だって奴らの全てを知っている訳じゃないわ、能力って言うのは言わば切り札、それを易々と明かすと思う?」


 それを言われると弱い、俺だってスミスが力をセーブしていたことを知らなかったんだから。

 確かに仲間や友人の全てを知る人間は少ないのかも知れない。下手をしたらそんな奴さえいないのかも。


「とにかく一番手っ取り早い方法で皆川真が無事なのか確認する方法があるわ」


「手っ取り早い方法?」


「あの王宮に行けば良いのよ」


 議論していても出ない答えが存在する。ならば論より証拠、確認しに行けば良いじゃないか。


「分かった、王宮へ行こう。ここにいても何も分からないからな」


「そうね、では行きましょうか」


 王宮へ向け突入しようとしたがここで思い出す。

 スミスは王宮に入れない。本来なら近付くことも禁止されている。


「オレはここで待っている、何かあったら禁を破ってでも助けに行く」


「……ああ、ありがとう」


 寂しげなスミスを置いて俺とマギサは王宮へ飛翔するのだった。

 王宮への飛翔はすんなりと近付かせた、何かの罠を予想していたが何もなく拍子抜けだった。嵐の前の静けさとでも言うのか。とにかく突入だ。


「マギサ、あの周りに展開している結界は思考を読み取るんだ、望む場所へそのまま行ける」


「なる程ね、なら皆川真を思い浮かべればそこに着くのね?」


「ああ……近付いて来たな、行くぞ」


「ええ!」


 王宮の結界へ飛び込んだ。目指すのはまこちゃんのところ。

 待っていろよまこちゃん必ず守から。

 結界を抜け飛び込んだ景色はまこちゃんが過ごしている部屋の前、足音を立てずに着陸する。

 静かだ、レイスの姿は見えない。


「私が外を見張るから佐波くんは皆川真を連れて来て」


「分かった」


 扉の向こうはどうなっているのかと思うだけで心臓が暴れ出しそうになる。

 落ち着け、落ち着くんだ俺。

 息を整えて扉を開け放った。

 扉の向こうは至って平安そのもの、恐怖なんて感情は一向に湧いてこない。

 視線が絡み合う、そう彼女皆川真と。


「……しゅー?」


「無事だったか……良かった」


「無事って? それに帰りが早いけど、もしかしてもう終わったの? 戦いは終わったの?」


 俺が戦いへ向かったまま時間が流れているみたいだ、そこに悪魔の介入の影は見当たらない。まだ来ていなかったと言うことなのだろう。

 まこちゃんが無事でいるならそれでいい。


「とにかく話は後だ、ここから避難しよう。悪魔がまこちゃんを狙っているんだ」


「……そっか、まだ何も終わってないんだね」


「大丈夫だ、俺が必ず守から……だから心配しないでくれ」


「うん……」


 安全なところへ身を隠さなくては成らないが何処へ行けば良いのか。

 それに王宮のみんなはどうなっているんだ? みんながどうなったのかを見に行くか? だがその間に敵と遭遇してしまったらどうする。

 ここはいち早く安全な場所へと向かい隠れていることがいいと思う。間違っているのかは分からないがこのままじっとしていては危険だ。彼女の手を握りしめて部屋を出る。するとマギサが辺りを警戒してくれていた。


「しゅー、この人は誰?」


「こいつはマギサって言ってだな、人間界で知り合ったんだよ。ま、詳しい話は隠れてからな、心配はいらない、こいつは仲間だ」


「う、うん……あの、私は皆川真です」


「……私はマギサよ、よろしく」


 軽く挨拶を交わして直ぐに外へと向かう、筈だった。

 そいつが目の前に現れなければ。

 ニメートルを超える巨人と称された奴が入口から堂々と歩いてくる。


「逃げられると思うのかマギサ?」


「リーゼス……やっぱりここに乗り込んでいたのね」


「その女とマギサ、二人大人しく己に付いて来い。そうすればその男を見逃してやる」


「誰があんたの言うことを聞くと思うのよ!」


「……それがお前の意思か。ならば力ずくで連れて行こう」


 臨戦態勢をとるが信じられない事象にどうにか成りそうになる。

 リーゼスの胸元から腕が生え、足が生えて体、そして頭が生まれ出た。それは肉体から切り離されてもう一体のリーゼスを顕現するのだった。


「劣化分身ね……もしかしてこの王宮内であんた分身をばらまいているんじゃない? つまり今戦いの真っ只中って訳かしら?」


「勘が良いな。己の分身が王宮中で暴れている。外で見張っていた獣共はロゼリアが無力化をしたのだ……ただここの王は強力、己の本体が相手をしている……」


「わざわざ説明してくれるなんてどういう訳?」


「助けは来ない、それを教えてやっただけのことだ」


 そしてリーゼスがまた増える、計六体もの巨体が道を塞ぐ。


「佐波くん、私が奴を引き付けておくからその間に逃げて」


「……分かった、だけどむちゃはするなよ」


「ええ、そうするわ」


 マギサは自身の能力シュバルツミストを発動させた。魔力をミクロン単位に縮小したものでそれらを自分の意思で動かして違う形を得させる万能な力。

 しかし欠点もあるらしい。ミストがマギサから離れれば離れる程に力を失い消失する。つまり攻撃範囲が決まっていて尚且つ敵を一度視界に捉えなければ発動しないとマギサが教えてくれた。

 何故そんな重要な情報を教えたのかは分からないが、俺は信頼の証と捉えている。だからここをマギサに任せるのは信頼の証、あいつを信じてみようと思う。

 命を賭けて俺を助けてくれた、そんなこと普通は出来ない。

 何者かは知らない、だけど信じてみたい。


「佐波くん行くわよ?」


「ああ!」


 刹那の時間に黒い霧が部屋を覆って行く、リーゼス達を取り込み動きを束縛する。

 が、シュバルツミストを突き破らんと暴れ出す。


「今の内よ! 長くは保たない!」


「分かった。むちゃはするなよ! 行こうまこちゃん」


 僅かに開いた道を潜り抜け俺達は王宮の外へ。

 結界を抜け最初に感じたのは浮遊感だった、王宮自体が空に浮かんでいる、ならば出てしまえば重力のテリトリーだ。

 落下する中でまこちゃんを抱き締めて静かに精神を集中させる。紅の帰還を起動させゲートを直ちに開き飛び込む。

 そして地上に出口を構築、無事着地に成功。


「大丈夫かまこちゃん?」


「う、うん、大丈夫……」


 急に空中に投げ出されたら誰だって焦り驚愕するもの、特にまこちゃんは女の子で体は普通の人間だ、心配して当然だ。

 それに紅の帰還を俺以外が体感するのは初めてだからな。


「本当に大丈夫か?」


「大丈夫、私の心配は無用だよ」


「……分かった」


 まこちゃんの強い瞳に偽りはない。ならば行くしかない。


「俺にしっかりとしがみついてくれ、ここから本気で逃げるぞ」


「うん!」


 紅の帰還の連続使用、これがここから逃げ出す為の方法だ、数十メートルが使用範囲だから一度移動したらまたゲートを開ける。それを繰り返していけば走るよりは早く遠くへ逃げられる上に移動速度も走るとは比較にならない。

 だが欠点がある、体力の消費が凄まじい。

 力を繰り返して使用し逃げて来たが数分も経てば限界に近付いてしまう。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


「しゅー大丈夫? 尋常じゃない汗を流してる……休んだ方が良いよ」


「はぁ、はぁ……す、少しだけ休む……や、休んだらまた逃げるから……」


 息が苦しい、目眩がするし若干の吐き気も。現在灰色の岩石地帯へ逃げ出して来た、ここからだと王宮が手の平サイズに見えるな。

 岩が身を隠すのにも最適だ、だから本の少しだけ休む。

 息が整うまでしばらく時間が掛かった、休憩している隙は無いのに情け無い。任意の場所にゲートを開く事が出来るようにはなった、移動距離もだいぶ伸びた。

 それなのに連続使用でこんなにきついなんて。でも泣き言は言ってられない、今まこちゃんを守れるのは俺だけだ。


「……そろそろ行こうか」


「し、しゅー目が虚ろだよ? その力あんまり使わない方が良いんじゃ……」


「大丈夫、大丈夫だから……ん、あれ?」


 立ち上がれない、足が動かない。何だよこれ疲れが足に来ているのか?

 くそ、まだ逃げなきゃ危ないのに。


「もう少し休もうよ、しゅーが苦しんでいるのに私は何もしてあげられない……だから助言するしかない、ここなら見つかりづらいと思うから……だからまだ休もう……お願いだから」


 涙目の必死なる訴えはもう少しだけ休む決断を与えた。

 こんなにふらふらじゃいざという時に動けないし逆に危険か、それに自分の所為で苦しむ姿って言うのをまこちゃんが一番嫌うのだ。

 だからもう少し休もう。


「分かった、もう少し休むよ」


「うん、ありがとう」


 体力の回復中は喋る事は出来るので他愛ない話をする、その大半はこっちで出会った奴らの事が話題になっていた。リリリやミラエル、ソフィーネオやフェイロット、地獄王に獣王、ギルなど……ルトは嫌いだからあえて話さなかったが。

 人間以外の知り合いが出来るとは何とも不思議な事だがそれを肯定する自分もいる。


「ロロちゃんが可愛いんだよ? 何て言うのかな弟の心が大きくなったらあんな感じになると思うんだ」


「そう言えば心は学校だとどんな風に過ごしてるんだ? ちょっと気になるな」


「心は真面目だよ? ただ……女の子にモテるんだよ。それが心配、変な女にまとわりつかれたら嫌だな」


「あはは、相変わらず弟を溺愛してるなまこちゃんは」


 温かな記憶は人間界への思いを湧き起こさせる、父さんや姉さんは元気にしているだろうか。仕事ばかりだから少しは休んで欲しいものだ。姉さんは大酒飲みだから周りの人に迷惑かけてないことを祈る。

 悪魔共を倒して早くみんなに会いに行きたい。


「よし、だいぶ回復出来た。そろそろ行こうか」


「あ、本当に大丈夫なの?」


「ああ、大丈夫大丈夫、気分も良くなったから安心してくれ」


 そう言って立ち上がると軽く目眩がしたが先程よりはマシだった、これならまだ行ける。

 安全な場所何て本当にヘルヴェルトにあるのか不安だが、それでも逃げなければならない。

 決意を固めた瞬間だった、足がふらつき倒れそうになった。

 だが地面に落ちることはなく温もりが伝わってくる、まこちゃんが倒れる前に俺を抱き締めて支えてくれたのだ。

 胸元に彼女の頭が見えた、不意に愛おしさが芽生えこんな状況だが強く抱き締める。

 逃げなきゃならないのに何やってるんだろうな俺は。


「まだふらふらじゃない、やっぱりまだ休んだ方が良いよ」


「そうも言ってられない、ここがずっと安全だって保証はないし、それに今襲われたらピンチだ、体調不良を理由にまこちゃんを守れなかったら不甲斐ない」


「でも、しゅーの体が壊れちゃったら……」


 今にも泣き出しそうな彼女に俺はキスをした、大丈夫だと伝えたくて、好きだと伝えたくて。

 俺は彼女が、まこちゃんがいてくれたから生きる希望を得られたんだ。

 小さい頃母さんが死んで悲しみに暮れる俺に優しく声を掛けてくれて、ギュッと抱いてくれた。

 あの温かさが今こうして感じられる幸せを守りたい、彼女は俺の全てだ。


 決意は力となる。


 この温かみは変わらない、むしろ熱く感じる。

 一カ所だけ灼熱と呼べる程の熱が巣くう。


「……え?」


 間抜けな声は風に流された。

 理解出来ない。

 どうしてこんな事になっている?

 彼女の美しい顔は笑みを浮かべ俺を見詰めてくる、優しくて神々しい。

 でもこれは何だ?


「ぐっ……あっ、ぐぅ……」


 地面に雨が降る、赤い赤い雨が水溜まりを広げ異常なる現象を物語っていた。


「私……しゅーが大好きだよ? だから私のプレゼントを受け取ってくれる?」


「な……何で……こんな……」


「何で? それは、大好きだかラ……しゅーガ大好きだかラだヨ……?」


 腹部に強烈な痛みが熱を生んでいる。

 俺の目が捉えた映像は鋭く光る銀のナイフをまこちゃんが俺の腹に刺して血塗れた姿。

 なんだこれ、何なんだよこれは。

 思考そのものが削除されたような感覚は空洞に似ている、目の前で起こっている事態に混乱が渦巻く。


 まこちゃんが俺を刺した?


 何故だ、何が起きている?

 荒波に飲み込まれそうになる間際、彼女の額に第三の目が出現する。いや、目に酷似した赤い模様が浮かび上がった。

 まるで魔法陣を思わせる。


「何だ……これ……まさか偽物……?」


「うふフふふフふ、私ハ本物だヨ? まだ分からない? マダワカラナイ?」


 模様が光を放ち始め一瞬眩く輝きその眩しさに目を閉じた。

 直ぐに開くと血の気が引く。


「ほラ、御対面だヨ? 答エ合わセだヨ?」


 まこちゃんの後ろに立っていた、その名は元凶。

 悪魔レイス、ロゼリア、メイディア、リーゼス。

 全員が集合していた。

 馬鹿な、剣の山脈で戦っていたんじゃないのか?


「キヒヒ、キヒヒヒヒヒ! やっぱり驚いたねぇその他ぁ、キヒヒヒヒヒ、馬鹿だよね、最初から手の平で転がされてることも知らないんだから、滑稽だし! キヒヒヒヒヒ!」


「いつもながらロゼリアの笑い声は優雅さに欠けますわ。貴女も一応は女性ですのよ? それから手の平じゃなくて手の上ではなくて?」


「む、うるさいな! それに何だよ一応って! ワタシは女だし! 変態メイディアにだけは言われたくないし!」


 力が入らない、膝から落ちてそのまま地面にうずくまる。

 意味が分からない、何だよこれは?


「キヒヒヒヒヒ! 無様だねその他! あんたの女からのプレゼントは気に入らなかったぁ? キヒヒヒヒヒ!」


「……な、何を……まこちゃんに……何を……」


「キヒヒ、なら教えて上げるし。ワタシって親切だよね……ねえその他、皆川真の空白の時間に気付いてる……?」


 空白の時間?


「あ、分からないんだ、お馬鹿だねキヒヒヒヒヒ、ねえねえその他ぁ、皆川真がいなくなった時驚いたでしょ? あんたが助けに来るまでの空白の時間があるでしょ?」


「ま、まさか……」


「キヒヒヒヒヒ、そうだよ、その空白の時間皆川真に何もしないと思ったぁ?」


 まこちゃんがいなくなってから助け出すまでの空白の時間が存在する、その間にこいつらはまこちゃんに何かをした。

 額の模様から察するなら操られている事になると思うが……。


「キヒヒ、皆川真に付けた紋章は盗聴に長けている、だから紋章を通じて貴重な情報を仕入れられたよ。戦いの作戦なんかも皆川真を通じて聞いていたんだし! 言わばスパイは皆川真! でも本人は気が付いてなかった、キヒヒ」


「く……くそ……」


「ああっ、堪んないよその顔ぉ、キヒヒヒヒヒ! 気分が良い、本当に気分が良いし! だからもっとお喋りしてあげる! この額の紋章は道標でもある、この紋章へ瞬時に移動出来るの、キヒヒ、皆川真に付けた紋章を目印に移動してここまでやって来たんだし!」


 ゲラゲラと笑い狂い、見下しながら自慢気に仕掛けを暴露するロゼリアは最高の気分だろう。

 こっちは最悪だ、その上俺は死にかけている。


「ロゼリア、そろそろ落ち着いた方が優雅ですわよ?」


「うるさいなぁ、今良いところなんだよ! 今にも死にそうな虫けらに自慢話はワタシの楽しみの一つでもあるんだし! キヒヒヒヒヒ! 良いよ、その顔ぉ、惨めすぎて潰したくなっちゃうよ……キヒヒ、発情しちゃいそうだし。そうだ、ワタシがどうやって記憶を操作したのか教えてやろうか? ワタシしか使えない術だよ?」


「ぬ、それを明かしては不味いのではないか?」


 リーゼスの問い掛けにロゼリアは激怒する。


「だからワタシの楽しみの邪魔をするなだし! ワタシの全ては人間の苦痛に歪む顔を見ることなの! それがワタシの存在理由! だからこれはワタシの至福の時なの! 次邪魔したら殺す……」


 悍ましい殺気がロゼリアから放たれる、見た目は幼い少女だが恐ろしかった。

 どうする、今の俺に何か出来ないのか? このまま死んでたまるか。


「キヒヒヒヒヒ、教えてあげる、教えてやるし! ワタシの術は人の繋がりを利用する。人は誰かと出会うとそこに小さくて見えない細い線で繋がれる、その線は縁と言葉を変換出来る。その線は親しい者なら太くて大きくなる、それが絆とでも言おうかな……まあ例外もある、元々出会ってもいない者と稀に繋がっている事があるがそれは運命と言い換えられる。


 さてここからだよワタシの術の正体は、たった一人で良い、一人の繋がりのネットワークに一時的に別の記憶を送ったのさ! 例えば王宮の周りにいた獣族に王から元の居場所へ帰れという命令が下ったという記憶を流した。そうやってあそこは無人になってたんだし……でも欠点もあるし、その術は一回しか使えない。術を掛けた奴とネットワークを通して掛かった奴を含めて一回……もう一度流そうとするとネットワーク自体に耐性が出来て駄目になる。そして時間が経てば元に戻る。


 キヒヒ、でも良いし。皆川真の記憶からの追放は簡単だけどやはり一回だけ。皆川真のネットワークを遮断する、そうすると繋がりが消え皆川真だけの記憶は消え去る。だけど遮断は一時的、時間が経てば戻るし外部からの関与で直ぐに治ってしまう。完全には切り離せない。でもそれでいい、パルテスを騙せればそれでいいし……キヒヒヒヒヒ、どう凄いでしょワタシの術! そのささやかな術が今のその他を作り出した! キヒヒヒヒヒ! まだ死なないその他ぁ? キヒヒヒヒヒ、まだ駄目だよ? ワタシがなぶり殺してやるんだからまだ死なないでね? キヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!」


「……だ、黙……れ、クソ野郎が……」


 お前の自慢話なんかどうでも良い、仕組みなんかどうでも良い。

 俺が許せないのはまこちゃんをまた玩具にして弄んだ事だ。


「お? 何々怒ったの~? 良いねその顔も嫌いじゃないし」


「お、お前らは……お前達は何が……したいんだ……ぐっ、ここで何をする気だ」


「キヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ! 簡単な話だよ? ワタシ達は……いやレイス様が望むのは破壊だし」


 破壊だと?


「レイス様はとある『横』のとある『縦』からやって来た純粋なる悪魔、ただ一つの感情を満たすためだけに来た」


「一つの……感情?」


「キヒヒ、破壊を行い生まれる感情は何かなぁ? 絶望? 激怒? 悲哀? それらを見ること、感じること、体感することこそ目的と言える……つまりただの快楽、それが目的の礎」


 破壊が快楽? じゃあ何か、ただ楽しいから混乱を招いたのかこのヘルヴェルトに。

 そんな感情の為にまこちゃんを弄んだのか。


「キヒヒヒヒヒ、どうやらその他とのお喋りは佳境に入りそうだし……ようやく到着したみたいだよ? ほら王宮側の空を見てみなよ」


 王宮が浮かぶ空は巨大な満月を彷彿させる、その空に影が見えた。

 猛スピードでこちらに飛んでくるマギサの姿が映った。






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