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地獄世界のヘルヴェルト  作者: 生獣屋 芽怠
第十章 戦地は剣の山脈
44/75

開戦

 

 空を舞う影が複数確認出来る、それらは山脈の左右に別れて鋭利な武器を誇らしげに掲げ、その時を待つ。

 地を駆ける軍団は甲冑に身を通し、剣を握り締めて山脈を睨み覇気を燃やす。

 その先頭に美しき女騎士が愛刀たる黄金の剣を天に向け、そのまま前方へ。

 これが戦いの合図。


「行け! 敵をなぎ払うのじゃ!」


 その途端交差する咆哮、地鳴りさせながら騎士団が進撃を開始する。

 それを合図に死神達も下降。

 陸と空からの攻め、そして地下から。待機している奇襲部隊を加えれば何とも頼もしくて勇ましいことか。

 俺とソフィーネオ、それからオマケにリリリ。俺達は騎士団の後方に待機していた。


「等々始まっちゃいましたねえ」


「ううっ、き、緊張するですよう!」


 進軍する騎士団の士気は上々、このまま何事も起きずに進めれば良かったのだがやはりそんなに甘くはない。

 剣の山脈より現れたそいつらに緊張が走る。

 人型を模した影が実体を持ち、ゆっくりと歩いてくるのだった。一つだけではない、数十、数百もの影の大群が騎士団とぶつかる。


「あ、あれは……」


「シュンさんあれをご存知で?」


「ああ知っている、悪魔のリーダー格の男、レイスが従えていた影の人形だ……ビンゴだな、本当にここにいやがったんだ」


 初めて奴に対面したのはマンションの屋上だった。影の人形に攻撃は利かなかったはずだ、奴らの体に放った氷の弾は全てすり抜けた。

 案の定ミラエルがいの一番に切り掛かるがそれは影の体をすり抜け無傷、つまり攻撃が利かない。


「なんじゃこやつ等は!」


「ううっ! ミラエル様の攻撃が利かないですよう! うううーーっ! 他の騎士達の攻撃も利かないですよう!」


「まああら、それは困りましたわねえ、最初から苦戦だなんて……シュンさん、あれの弱点は知りませんか?」


「……俺が戦った時は確かに攻撃が貫通していた、けど影全体を凍らせたら動けなくなった」


「……もしかしたら体全体がコア、核なのかもしれませんねえ。これは推測ですけど攻撃が体をすり抜ける、しかし全身なら効果を得られる……つまり壊すなら一度に消滅させないといけないって事ですよ。おそらく攻撃が利かないのではなく再生速度が早いのではないですか? 体の一部が攻撃されても再生してしまう、しかし全身がコアなら全体を消滅させなければならない」


 なら攻撃が突き抜けているように見えるが実際は利いていて素早く再生させている、だから一度に全身を攻撃しなければならない。

 なる程、だから凍らせられたのか。


「リリリ、ミラエルに至急今の推測を伝えに行って下さい」


「ううっ! 了解ですよう!」


 翼を背より生やしリリリが滑空する。

 リリリがミラエルに仮説を教えるとすぐさま行動に出た、兵を引かせミラエル一人で矢面に立つ。群がる影がミラエルを狙い襲いかかって来た、しかし全く慌てずにミラエルが行動に出る。

 大きく息を吸い込み中で留め、猛撃とも言える紅蓮の炎を吐き出す。影全体を覆い尽くす熱と光は瞬く間に影達を覆い隠し燃やす。

 影は跡形もなく消え去る。


「仮説通りでしたねえ?」


「ああ、一度戦っていたのが良かったみたいだな……良し、俺達も戦闘準備だ」


「そうですねえ、わたしもやる気を出さなければなりませんね」


「結晶の碧発動」


 碧へと眼が変貌し手の平に冷気を感じる。良し、この場所は湿気が多い。剣の山脈の内部は空洞、ならば中に入って気温を下げれば絶氷空間を発動出来る。上手く絶氷空間を作れればこちらの優勢になる筈だ。

 だがその前に山脈の内部へ侵入出来るかが問題になってくるだろう。

 ミラエルの活躍で活路が開き一斉に騎士団が向かう。空は死神部隊が新たに現れた敵との交戦へ突入する。何と先程大量に現れた影の背より翼を生やして死神に牙を剥いたのだ。

 あれは空を飛べるのか。

 スミスやフェイロット達が苦戦を強いられている。


「くっ、何だこいつら切っても切っても……くそ!」


 鋭き鎌を振り回し接近戦を得意とするスミスは傷を負わない敵に苦戦している。

 一方のフェイロットも鎌の刃がブーメランの様に射出、しかしダメージは絶無であった。


「ああもう何なのよこいつらはーー!」


 このままじゃ殺られるのは時間の問題、しかし敵は情けなど皆無だった。

 山脈より一体の悪魔が現れた。


「ふふっ……何やら騒がしいと思いましたら皆さんお揃いですわね……」


 紫の長い髪を左肩に掛けて前に垂らし、純白のワンピースに身を包む女が笑っている。剣の山脈より現れた悪魔が一体、名をメイディア。

 王宮に忍び込んだあの変態女が威風堂々と壁となる。


「ぬっ、貴様は!」


「まぁ、まぁまぁまぁまぁ! わたくしの愛おしきミラエルじゃありませんの! ふふっ、わたくしの愛撫が忘れられないのかしら? 良いですわよ、またお相手して差し上げますわぁ……ふふっ、貴女が淫らにもがきヨガった果てに放出する蜜を全部飲んで差し上げますわ! 貴女の全身に舌を這わせたら……溜まらないのでしょうね?」


「世迷い言を……相変わらずの破廉恥振りじゃ、貴様は必ず儂が微塵に切り裂いてくれる!」


「それは楽しみですわね、わたくしの愛撫(攻撃)に直ぐ下半身を濡らして差し上げますわ! ふふふふっ! ふふふふっ!」


 ミラエルとメイディアが激突する。

 メイディアは中指をくわえて噛み切る、頬を赤く染めて妖艶に微笑みながら指を食して飲み込む。

 すると反対の手の平に黒き球体が出現する。


「魔弾の根源、さぁ身を千切りてお行きなさいな」


 球体から複数の小さき弾が千切れてミラエルに降り注ぐ。

 対するミラエルは自慢の愛刀を駆使しそれら全てを叩き落とす。


「ふん、その程度の攻撃など無意味じゃ! これでは前回の焼き直しではないか、膠着状態が好みか?」


「ふふっ、ミラエルとならそれもいいですわねぇ? ああ、早くその鎧をはぎ取りたいですわぁ!」


 ミラエルはメイディアを相手にしている為身動きが出来ない、その間にまた影の人形達が群を成してこちらに攻め込む。応戦する騎士団だが切られても無傷、一気に体全てを葬り去らないと意味がない。

 なら俺が何とかするまでだ。

 前線へと駆け結晶の碧を駆使し人形を体全てを凍らせ固体の中に閉じ込める。前回マンションの屋上での戦いで影達は全身を氷で包んでしまうと動けなくなった、だからこれは有効打だ。


「まああら、上が苦戦してるわねえ?」


 上空では死神と影との戦いが繰り広げられており、苦戦を強いられていた。


「リリリ、シュンさんのサポートお願いしますねえ? わたしは少し上を手伝ってきますから」


「ううっ、了解ですよう死神王様! あ、でも……死神王様が戦ったら……大変な事になるですよう」


「大丈夫です、ちゃんとセーブしますから」


 そう言い残して空へ。

 ソフィーネオの手にはいつの間にか光が顕現し鎌へと形を変える。光の鎌、それは殺傷力では無く消滅力を極めし必殺の光。

 一体の影に羽ばたき光の鎌を振り下ろす、すると一瞬で影は消滅する。話には聞いていたが実際に目の当たりにすると驚愕しか浮かんでこなかった。


 リリリに聞いたがソフィーネオの光の鎌は触れた物を有無なく消滅させてしまうとても危険なものらしい。あまりに強く、本気になれば多分ここいら一帯を平地にするのは容易い。

 ならば本気で剣の山脈ごと悪魔共を消せばいい。と思ったのだがここの山脈より生えるクリスタルは騎士団が使う武具や王宮の部屋の壁や床などに加工して使われていると言う話だ。

 しかもこの物質はここからしか取れない貴重な採掘場でもある。

 だから光の鎌はここでは最小の力しか使えない。


「ちっ、よりにもよって何でこんな場所に巣くったんだ奴らは」


 影の人形を凍らせながら愚痴をこぼしてしまった、それは仕方がない事だ。

 愚痴る暇があるのならば一体でも倒すことに集中しなければならない。


「うううーーっ! いくら倒してもキリがないですよう!」


「愚痴る前に手を動かせ手を!」


「ううっ! シュンだって今愚痴ってたくせにですよう! ……ひゃあう! い、今のは危なかったですよう……危うくお腹に風穴が空くとこでしたですよう」


 しかし戦えど戦えど一向に影の人形が減らないのだ、正しく言えば剣の山脈より次々と出て来ては戦い凍らせるか消滅させる、その繰り返し。

 いつまで続くのか。その間ミラエルとメイディアの戦闘は熱を増す。


「まぁ! わたくしの攻撃を物ともせずに背後に回り込むなんて……ふふっ、さすがはわたくしの女ミラエルですわ」


「誰が貴様の女じゃ!」 


 魔弾を潜り抜けメイディアの後方へ回り込み剣を縦に振り落とす。が、メイディアは素早く小指を噛み切り姿を消す。


「ふふっ、こちらですわよ~?」


 声を辿り発見した場所は遙か上空、メイディアは落下しながら魔弾を真下のミラエルへ。黒き雨が穿たれた。

 砂煙が舞いミラエルの姿が粉塵に奪われた。


「まぁ、やはりミラエルは素早いですわ」


「貴様程ではないがのう……」


 メイディアより更に上空に竜の翼を生やしたミラエルが見えた。


「一瞬でそちらに? 良くってよミラエル……ふふふっ、愛撫甲斐が更に増しますわぁ……」


「この、破廉恥発情女めが!」


 怒りの叫びを上げミラエルは真下で落下を続けるメイディア目掛け一気に急降下、剣を突き出して串刺しを狙う。二人の距離は一気に収縮、空中では身動きが出来ないメイディアはただ流れに身を任すのみ。

 しかしメイディアの表情は穏やかだった。距離が更に短くなった刹那、メイディアは自らの親指を口に含み、そして噛み切る。指を噛み切る事で様々な力を使える事は知っているが親指の効力は知らない。王宮から逃げ出した時にも確か親指を使った。

 親指の効力を思考したが答えが出る前にメイディアは突如姿を消す。


「むっ! 何処じゃ!」


 ミラエルは慌てて探す。しかし姿は見えない。


「逃げたか……?」


「まあ、わたくしがミラエルを諦めて逃げると思いまして?」


 突如奴の声が響いた、メイディアはミラエルの背中に出現、そのまま後ろから抱きついた。


「なっ! 貴様いつの間に!」


「ふふふっ、秘密ですわ……そんな事より前回の続きをしませんこと? ふふっ、今度こそその体を味合わせて貰いますわ!」


 メイディアは淫靡なる笑みを浮かべミラエルの首筋に舌を這わせた、あまりの気持ち悪さにミラエルの鋭き眼を持つ顔が歪む。

 眉間にしわが寄り悍ましそうにしている。


「ぐっ、貴様……」


「ふふっ、美味しいですわよミラエルの汗……ふふっ」


 後ろからがっちりとロックされており、あのミラエルですら抜け出せずにいた。

 しかし前回とは状況が違う。


「ふふっ、それでは先ずはミラエルの肌を見せて貰いますわ、ああ楽しみですわね」


「ふざけるなこの変態女めがぁ!」


「まぁ、ミラエルが吠えてますわぁ、可愛い」


「ならお前の叫びはどんな感じだ?」


 第三者の声と共に鋭き線が走りメイディアを襲う。

 とっさにメイディアはミラエルを解放してそれを回避。


「邪魔をしないで下さいませんこと?」


「はっ、お前の言う事をなんか誰が聞くか! オレに命令出来るのはオレ自身だけだ!」


 銀の髪を靡かせ漆黒の翼を羽ばたかせる女が自慢の鎌をかざしながら敵を威嚇する。

 ミラエルの友、死神スミスが不適な笑みを浮かべていた。


「スミス……すまん、助かった」


「礼なんかいらん、オレはただこの女が気に入らないだけだ、気色悪くてな!」


「まぁ、わたくしが気色悪いですって? 貴女見る目が無いんですのね、わたくしはただ愛するミラエルとの愛撫を楽しんでいただけですわ」


「それが気色悪いって言ってるんだ! 女同士で何考えているんだ、頭がおかしいのかお前!」


 気持ち悪そうにスミスは顔をしかめた。


「女で有りながら女の良さを理解出来ないみたいですわね……銀の髪の貴女、……貴女も美しいですわね、ちょっと浮気しちゃいましょうかしら、女の良さを教えて差し上げましてよ!」


「……ミラエル、あいつ切り裂いて良いか?」


「気を付けろスミス、軽口じゃが奴は強い。舐めて掛からぬ方がよい」


「ふふっ、銀髪さんはどう苛めてあげましょうかしら……では行きますわよ?」


 そしてまた親指を口に加え噛み切る。

 瞬時メイディアの姿が消える。警戒を怠らないスミスとミラエルだが完全に気配は無い、まるで削れたみたいに。スミスが鎌を握り直し視線を左右上下走らせた時、魔手がスミスの胸を鷲掴む。


「な!」


「ふふっ、良い感触ですわぁ」


 まさかの真正面にメイディアが忽然と現れスミスの胸を弄んでいた。全く気付かれずに懐に入り込んだ。


「良いですわよ、ほら、ほら……」


「ひゃん! ……っ……て、てめぇ、ふざけるなぁ!」


 半月を描き鎌をメイディアの頭上目掛け振り下ろす。

 が、虚空を切り裂くだけだった。またしても消えたのだ。


「何て可愛らしい鳴き声なんでしょう。ますます銀髪さんに興味が出て来ましたわ! ふふっ、ふふふっ!」


 声は響くが姿は見えず。それがスミスの怒りを倍増させて行く。


「ふざけやがってあのふしだら女めぇ、バラバラに切り裂いてやる!」


「落ち着けスミス! これは敵の罠じゃ、怒りにて乱させる、だから落ち着け」


「落ち着いていられるわけがないだろうが! オレをコケにしやがって!」


「全く持ってその通りです!」


 響き渡る凛とした透き通る声、スミスの前に光臨する死神がいた。光で構成された鎌と翼を持つ死神を統括する王、死神王ソフィーネオが眉間にしわを寄せる。


「ソフィーネオ! 出しゃばるな、これはオレとミラエルの戦いだぞ!」


「まああら、お姉ちゃんと呼ぶように言ってますよスミス。それを言うならスミスだってミラエルの戦いに入ったじゃない」


「あ、あれはだな、不甲斐ないミラエルが見ていられなかったから仕方無くだな……」


「待て、儂が不甲斐ないじゃと? 聞き捨て無らないぞ今の話!」


 あろう事か敵との交戦中に何やら喧嘩が始まってしまった、何やってんだ上は。


「真面目にやれないのかあいつら」


「人妻スキーが言っても説得力が無いですよう……あ~あ、先輩のおっぱいかぁ、良いなぁ~……ですよう」


「お前も言えないと思うぞ?」


 しかし上でも下でも苦戦している。影の人形は一向に減らない。

 くそ、絶氷空間が使えれば何とかなるんだが。

 上空の対決はまさかの仲間同士の喧嘩が勃発していた、敵であるメイディアが剣の山脈から伸びたクリスタルの上でその光景を呆れたように眺めている。

 そりゃあそうだ、俺がもしメイディアの立場だったら呆れもするさ。


「だからスミスの胸は小さくても弾力は天下一品です!」


「ソフィーネオ! お前何言ってやがんだこんなときに!」


「だからお姉ちゃんと呼ぶように言ってありますよ! もう、スミスにお仕置きが必要かしら? 後ついでにミラエル、鎧を脱いでわたしに胸を差し出しなさい」


「な、何を言うのじゃ死神王様! 破廉恥な!」


 だが、軽口を叩きながら襲い来る影の人形共を無に帰して行く。切り裂きながら口喧嘩、器用な奴らだった。


「ああもう! スミスの体はわたしのものです!」


「ソフィーネオ! 変なこと言ってんじゃねえ! て言うかオレ達は何の話をしてんだよ!」


「ぬぅ、卑猥じゃ!」


 とその時。


「うううーーっ! 先輩の体はリリリのものですよう!」


「テメェもつられて参加すんな!」


 アホのリリリは放っといて、このままでは埒が明かない。

 そう思った矢先事態は悪化する。

 第二の悪魔が現れたのだ。


「キヒヒヒヒヒヒ、随分と騒がしいと思ったら何だ、その他来てたのかぁ、キヒヒヒヒヒヒ、良くここに辿り着けたね、キヒヒヒヒヒヒ」


 小柄の少女がいやらしく嘲笑う。こいつはロゼリア、相変わらず胸くそ悪い顔をしていやがる。

 だけどそれも今日でおさらばだ、悪魔共を倒してまこちゃんと一緒に人間界に帰る。


「ううっ、何かちっこい奴ですよう……こいつも悪魔ですよう?」


「ちっこい? 誰かは知らないけどあんたには言われたくないし。そっちもチビじゃん、キヒヒヒヒヒヒ、チビチビチビ」


「うううーーっ! リリリはチビじゃねぇーーですよう! チビって言った奴がチビですよう! この幼児体型! ですよう!」


「よ、幼児体型じゃないし! ワタシは若いだけだし! あんたの方が幼児体型だしぃ! や~い! や~い!」


 子供の喧嘩か? 何て緊張感の無い戦場なのだろうか。


「うううーーっ! カッチーンですよう! リリリよりもぺったんこぺちゃぱいの癖にですよう! もう怒ったですよう! ううう! 殺っちまえですようシュン!」


「俺がやるんかい! ……とにかくそろそろ気持ちを切り替えろ、あいつを甘く見るな」


「キヒヒヒヒヒヒ、じゃあこっちも茶番はお終いで良いんだね? キヒヒヒヒヒヒ」


 聴覚に不快なざわめきが触れてくる、生臭さが辺りを包み気味悪さが背筋を舐める。悪寒が危機を知らせた、ざわざわと蠢く生命、もう周りを囲まれているらしい。


「キヒヒヒヒヒヒ、やっと気が付いたの? 鈍感だなぁ、キヒヒヒヒヒヒ」


「ううっ、これは何か覚えがある気がするですよう……」


「ちっ、またあいつらか」


 黒が一匹姿を現す。そして更に一匹、また一匹と数を増やし周りは黒一色に変貌した。

 ロゼリアの蟲が俺達と騎士団を取り囲む。


「何だよ簡単に捕獲出来ちゃったじゃん、あんたらは無能? キヒヒヒヒヒヒ、影の人形とワタシの蟲達……相手にして生きてられるかな? キヒヒヒヒヒヒ!」


「うううーーっ! あ、あれはリリリの服を食いちぎった蟲ですよう!」


「騒ぐなリリリ! 前向いてないと死ぬぞ!」


「キヒヒヒヒヒヒ、大丈夫だよ大丈夫、こいつから一斉に襲うことは無いよ? その代わりちょっと面白い余興をしてみることにするよ、もう大量に蟲が襲ってくるシチュエーションに飽きたでしょ?」


「何をする気だ」


「キヒヒヒヒヒヒ、怯えなくてもいいし、そんなに難しいことじゃないんだ。ただの……共食いだしぃ」


 そう言い終えた途端に粗食する異音が聴覚を刺激し、それらは段々と増えて行く。その異音を視線に追わせてみると正に共食いが上演されていたのだ。

 蟲が隣の同種に噛み付き貪る。しかし一匹だけではない、四方から蟲が集まりやられた蟲に群がり食す。

 食べ散らかし、食われ、食べ返し、また食われる。

 その連鎖を止める術は皆無だった。


「こ、これは……」


「覚えてるその他? お前と遊んだあの白い森でさぁ、見せたワタシの蟲の特性を……なら答えは出たんじゃないぃ? キヒヒヒヒヒヒ」


 特性、そうだあの白い森で戦った時蟲が蟲を共食いして力を増した。

 ヤバいぞ、力を増した蟲は人間の俺には捕らえられない速さだった、死神や騎士達は見えるか知らないが。だけどこのままにさせておく訳はない、すかさず蟲に向け結晶の碧を使用する。

 氷の弾を高速射出。


「キヒヒヒヒヒヒ、そんなの無駄なのに」

 氷漬けになった蟲、しかし氷が溶け出し液体と化す。


「忘れてたぁ? ワタシの蟲は温度を上げられるし、氷なんか意味ないし! キヒヒヒヒヒヒ」


「ちっ、リリリ蟲共に攻撃してくれ!」


「ううっ、リリリちゃんの出番ですよう!」


 リリリの鎌は鎌とは言えない奇妙な形をしている、三本の爪が先端に存在し、切るではなく焼き払う。三本の爪より放出される青白い光、それらは一つとなり球体へと形を変えた。

 これは弾だ、リリリは遠距離攻撃型の鎌を持っている。凍らすのがダメなら燃やしたらどうなる?


「リリリちゃんボール! シューートですよう!」


 光の弾が黒へ直進する。

 期待とは失望を肥大化させる糧なのかも知れない、リリリが放った攻撃を蟲共は食事しながらもいとも容易く避けた。続けてもう一度攻撃を仕掛けるが無意味を知らしめる。


「ううっ、は、早すぎですよう!」


「キヒヒヒヒヒヒ、こんなんじゃダメダメ、それにもう手遅れだし」


 蟲を取り込み一回り巨大化した蟲は更に共食いを決行する、段々と巨大化していき蟲の数は四匹に。

 但しそれを蟲と呼べれば良いのだが。

 巨大、その一言しか思い付かない。

 数十メートルにまで膨れ上がった蟲が四匹こちらを睨み、涎を垂らしている。蟲ではなく最早怪獣だった。


「さあ始まるよ、一方的な虐殺、食べて食べて食べて食べて食べて、全部胃の中! キヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!」


 怪獣の後方で癪に障る甲高い笑いが響き上空で喧嘩中のミラエルとスミス、それからソフィーネオに届く。

 状況が悪化しているのにようやく気が付いたらしい。


「何じゃあれは」


「まああら、おっきな怪獣ねえ?」


 緊張感の無い奴らだ。


「……可愛い」


「スミス、貴女またあんなゲテモノが可愛いなんて言って……お姉ちゃんは心配ですよ?」


「うるさいな、可愛いんだから仕方無いだろうが!」


 本当に緊張感がない、あいつらはあれで普通かも知れないが俺に取っては命懸けなんだぞ。

 あまりの緊張の無さにさすがの俺もピークに至る。


「てめぇら! 真面目に戦え!」


「まああら、こちらも真剣何ですよ? ほらよそ見は禁物ですよ?」


 瞬時、巨体が動き出す。牙を剥き、瞳を輝かせ、目の前に散らばる“餌”に食らいつく。

 早い、とても走っては逃げられない。

 牙が地面を掘り返し、土と肉を噛み砕き、胃に納めた。その肉は騎士団の一部である。だが餌はまだ大量に残されている、怪獣はそれを見逃さない。

 血潮が舞い骨が砕け肉が裂かれたその光景は正に地獄、ヘルヴェルトは地獄だがこの食事は更に生々しい。生き残った騎士団が怪獣を相手に反撃を開始するが敵はそれだけではない、影の人形はまだ顕在。

 その地獄を上空から眺めていた。


「危なかったわね……」


「助かった、ありがとうフェイロット」

 スミスのライバルにして死神のフェイロットが怪獣に襲われる瞬間に助け出してくれたのだ。傍らにはリリリも飛んでいる。


「ううっ、怖いですよう……あのおっきいのは怖いですよう」


「だらしないわねリリリ、あんなのあたしが倒してやるわよ!」


「フェイロット様が粋がるのはかってですよう……でも一死神じゃあ無理があるですよう、四匹もいるんですよう!」


 怪獣が四匹、どうする多分結晶の碧は利かないだろう。

 ならばあれを操る本体を倒すしかないじゃないか。

 ロゼリアを探すと剣の山脈に生えるクリスタルの上で下界をゲラゲラと笑い声を上げて眺めていた。傍らに仲間メイディアもいる、たった二体の悪魔に戦場はかき回された。


「キヒヒヒヒヒヒ! 見てよ見て見て! バラバラに引き裂かれて飛び散ってるし! キヒヒヒヒヒヒ!」


「全く、貴女の笑いには品が無さ過ぎますわ、あのようなグロテスクなもので笑えるなんて優雅さに欠けますわ」


「キヒヒ、自分の指を旨そうに食うあんたのセリフとは思えないし」


「一つ訂正がありますわよ? 旨いではなく美味なのですわ! その違いが分からないようでは貴女は淑女に成れないですわよ?」


 談笑とでも言うのか奴らの会話は、あれだけの命が消えてそれを笑えるなんて。悪魔め。


「何が可笑しいのじゃ……」


 悪魔の会話を聞くミラエルのツノが頂に。憤怒が溢れ出す。


「儂の騎士団を愚弄したな? 何が可笑しい……何が可笑しいのじゃあ!」


 怒を纏いて悪魔へと突撃する。


「まあミラエルったら情熱的なアタックですわね、気持ち良くしてあげないと失礼ですわよねぇ?」


 ミラエルに対しメイディアが親指を噛み切りその効力を実行する。瞬時姿を消し去る。

 奴の戦闘を見て来たが親指の効力はどう見ても瞬間移動にしか見えない。もしかしたら違う力なのかも知れない、だが現段階であの力は危険だ。

 目には目を歯には歯を、瞬間移動には瞬間移動をだ。


「紅の帰還……発動」


 青を輝かせていた瞳が赤へと変わる。今まで練習して来たんだ、自信を持て。メイディアがミラエルの背後に出現、それを見逃さない。

 ゲートを開けろ、場所はメイディアの真後ろ。

 全身を赤い光が包み込んで行く、温かな膜を連想させる。

 目の前の空間に亀裂が発生し赤い光が漏れ出す。そこへ踏み入る。


「ちょっとシュン、あんた何を……」


 俺の腕を掴んでいるフェイロットの声を聞いたが返答している時間はない。ヘルズゲートの中へ侵入、赤に囲まれた世界へ。

 全てが赤、何もかもが紅、世界そのものが朱、そんな場所に光が差し込み底へ飛び込む。

 世界は一変し眼前にメイディアの背中が飛び込む。

 ヘルズゲートを繋げる事に成功した。

 透かさず結晶の碧へシフト、奴の背に手を着けた。


「凍りやがれ!」


「な! あ、あああっ!」


 触れたものを凍らせる力だ、直接結晶化させる激痛は尋常じゃない。

 メイディアが痛みにより静止、それを見逃さない騎士がいた。


「待っておったぞその隙……」


 高速斬撃がメイディアの体を切り刻む。顔面、腕、足、腹、膝、手、その他の体のパーツを刻み美しかった肌は悪魔の血に染まり黒色へ。


「ぎゃああああああああああああああああああああ!」


 大ダメージと共に地表へ叩きつけられた。


「どうじゃ迫真の演技じゃったであろう?」


「あれが演技……?」


 ミラエルに腕を掴まえられて空を浮遊する中ミラエルの怒の感情が演技だったと言っているのだが。

「怒りは戦闘で命取りじゃ、冷静さを失えば殺すのは容易い……ならばあえてそうなり敵の意表を突く。下衆、貴様だったら飛び込んでくると確信しておったぞ?」


「なんだよそれ……でもあの怒りは半分は本当何だろ?」


「……騎士団は我が誇りじゃ」


 激怒と冷静を半々に飛び出したのか。でもこれは俺を信用してくれているから出来た芸当だ。そう考えると嬉しくもある。


「キヒヒヒヒヒヒ、やるねやるね、メイディアに悲鳴を上げさせるなんて。そろそろワタシも本気出しちゃおっかなぁ」


 ロゼリアの不気味な笑い声は聞き慣れたがあまり良いものではない、苛立たしくなる。下を覗くと怪獣と騎士団との戦闘は激しさを増している、しかしこちらの劣勢であるのは明白だった。

 影の人形も相手にしなければならない。それに空中にも影の人形が攻めて来ている、そいつらはスミスとリリリ、フェイロットにソフィーネオと残りの死神部隊が相手をしていた。

 今ロゼリアに対抗出来るのは俺とミラエルだけか。


「……妙じゃな」


「何がだよ?」


「そろそろ……いや、とっくの昔にギルの奇襲部隊が攻めているはずじゃが……静かすぎる」


「そう言えば……」


 戦闘を開始してからしばらくして奇襲する筈だが。

 おかしい、何かあったのか?


「キヒヒヒヒヒヒ」


 短い付き合いだが副騎士長ギルは決まり事をを遵守する男だった、俺との模擬戦の時だって開始10分前にはやって来ていたし何より命令は絶対厳守。

 そんなギルが作戦を反故にする筈はない。それはミラエルが一番知っている。


「キヒヒヒヒヒヒ、キヒヒヒヒヒヒ」


「さっきから何を笑っていやがるんだてめぇは!」


「キヒヒヒヒヒヒ、だって心配かなぁと思ってさぁ……キヒヒ」


「……心配だと? 何の話だ」


 ニヤリといやらしい笑みを作り奴は語る。


「奇襲部隊が来ないから心配してるんじゃ無いのかと思ってさ、キヒヒヒヒヒヒ」


「なっ!」


 何で知っているんだその事を。まさか地下空洞に気が付いてしまったのか?

 だとしたらギル達が来ないのは……。


「キヒヒヒヒヒヒ、その他ぁ、お前ヤバいって顔したし! 良いねその顔、ゾクゾクするしぃいい! それにミラエルだっけそのツノ女、思い人がもう死んでるかも知れないよ~、キヒヒヒヒヒヒ!」


「くそ! やっぱり地下空洞がバレたんだ! ミラエル、ギル達を助けに……」


「落ち着け下衆よ、冷静になるのじゃ。ギルはこやつ等なんぞ殺られる男ではない。それに……奴の話に少し違和感を覚えた、何かきな臭い……」


 違和感?


「貴様、何故奇襲部隊を知っておるのじゃ?」


「キヒヒ、何を言うかと思えばそんなことぉ? 地下空洞にわらわらお前らの仲間がいるのを見つけたからだし。それくらいも分からないの~?」


「地下空洞を発見したのか……それは可能性として有り得るが、しかし何故“奇襲部隊”との名を知っておるのか不思議じゃな。地下からの敵に増援でもなく、奇襲でもなく、挟み撃ちでもなく……奇襲部隊と正式名称を何故知っておる?」


 そうか、普通敵が地下から来たなら奇襲とは言うかも知れないが奇襲部隊との正式名称まで知らないはずだ。仮に適当に言い当てたのなら言い逃れられるがもう一つ奴は失言している。


「思い人と貴様は言ったな? 奇襲部隊にそのような人物がいると良く分かったのう」


「キヒヒ、あ~あ、失言だったか」


 ミラエルはギルに片思いしている。だがこれを知っているのは限られた者だけだ、それなのに奴は知っている。

 つまり……。


「情報が洩れてる」


「その通りじゃ下衆、どの様な手を講じたかは知らんが儂等の作戦を知っておったな?」


「キヒヒ、キヒヒヒヒヒヒ! 正解だよ正解、気が付くのが遅すぎだし! そうお前等がここに来ることはとっくの昔に知っていたし!」


「……貴様、その情報を何処で仕入れた?」


 王宮内でしか話していない筈だ、それなのにどうやって知ったのか。

 ロゼリアは得意そうに語る。


「簡単な話だし、お前達の中にワタシ達と繋がる者がいる……簡単に言えばスパイ、面白さを追求するなら裏切りってやつかなぁ、キヒヒヒヒヒヒ」


「ば、馬鹿な! 儂等の中に悪魔と繋がる者などおらんわ!」


「その証拠は? キヒヒ、ワタシは証明したよ、ほら奇襲部隊の事、その中にミラエルの思い人がいる事、個人的なレベルの情報をワタシは握っている。キヒヒヒヒヒヒ」


 俺達の中に裏切り者がいるのか?

 疑心が戦地で花を咲かせ根付く。


 



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