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地獄世界のヘルヴェルト  作者: 生獣屋 芽怠
第九章 王宮の人々と日々
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再会


 ロロちゃんが世話役になってから数日後、フェイちゃんが死神王を連れて帰って来たとの知らせを受けた。

 今は地獄王や獣王と話をしているらしい。決戦が近いのだと感じた、これが終わればきっと自由の身になれると信じている。


「死神フェイロットが死神王を連れて帰って来たらしいですね」


 私の横に待機しているロロちゃんがそう言った、世話役代理を全う出来たと安堵しているみたいだ。この数日は実に楽しめたと言いたい。それはロロちゃんの事が殆どだ。

 ロロちゃんはいつも部屋の入口付近でビシッと直立不動し自分の使命を全うしていた。見ていると何故か母性本能をくすぐられる、子供が一生懸命にお手伝いしてくれている様子に似ていて非常に和んだ。

 一生懸命のロロちゃん可愛い、男なのに可愛い。

 彼がぬいぐるみなら何も迷わずに思い切り抱き締めていただろう。


「ロロちゃんずっと立ってるけど疲れない?」


「わ、私はミナガワさんの警護と世話役代行です、だからこれで大丈夫です。それにわ、私は番犬ですから入口付近が落ち着きます」


「そっか、ロロちゃんも番犬だったっけ」


 ロロちゃんは真面目だ、それに引き替えルトさんは……いや、止めておこう、彼の事を考えるのは。

 思い出すのは恐怖だけだから。


「ミナガワさん、大丈夫ですか? 顔色が優れないみたいです」


「あ……何でもないよ、ちょっと寝不足かな、あははは」


 誤魔化したけどロロちゃんは感づいていたかも知れない、やはり別人格でも同じオルトロスだから私がまだルトさんを怖がっていると直感したのかも知れないな。








 数時間後、部屋にフェイちゃんが帰って来た、死神王を連れて。


「ただいま! 今戻ったわよマコト!」


「フェイちゃん! お帰り!」


「まああら、意外に元気そうねえ」


「死神王様!」


 死神王ソフィーネオが微笑を浮かべながら銀の長い髪を靡かせていた。


「もう死神王だなんて他人行儀よ、ソフィーネオで良いわよ? わたしと貴女の仲じゃない、胸の形から柔らかさ、そして弱いとこまで知り尽くしてるんだから……そうだわ、再会の記念にわたしのテクをもう一度……」


「え、遠慮します!」


「……そう、ですか? それは残念です……残念です」


 二回残念と言うとは余程テクニックを披露したかったのだろう。今思えばこっちに来てから私エッチな目に合う確率が高いような気がする。


「まああら、ロロじゃない、久し振りねえ」


「はい、お久し振りです死神王様」


「……ねえロロ、貴方どうして女の子じゃないのかしら? もし女の子だったらわたしの趣味を決行出来るのに」


 何か理不尽な事を言ってるよ。


「あぅぅ、はぅぅ、そんな事言われても困ります」


「勿体ないわねえ、貴方が女の子ならさぞ素晴らしく鳴いてくれたでしょうに……残念です……本当に残念です……」


 無念の丈を吐いた、とにかくソフィーネオさんは相変わらずなのが分かった、元気そうで良かった。

 ただ元気過ぎるのはどうかと思うけど。


「あの、スミスちゃんは元気にしていますか?」


「ええ、スミスは元気にしてますよ……王宮の近くで待機しています。敵との決戦が近い今スミスは必要ですからね」


「スミスとあたしがいれば百人力よ! だからマコトは心配しなくていいの! そうですよね死神王様!」


「ふふっ、そうかも知れませんね。元気なフェイロットを見ているとそんな気がしますよ?」


 敵との決戦か、そもそも敵は一体何が狙いなんだろうか?

 聞いた話では地獄の住人を操ってヘルヴェルトで暴れさせている、人間界で私の力を求めて拉致したんだよね確か、その間の記憶が抜けているけどゲートを開く力を何に使いたかったんだろう?

 あれ、私の力はヘルズゲートを開く力だ。つまり敵はここに来たかったって事かな? だったらもうその目的は達成されているんじゃないだろうか。


 では今起きている異変は本来の目的?


 考えてもまだ分からない、謎が多すぎる。決戦が終わればそれらは全て理解出来るようになるのだろうか。分からないことだらけだけど、奴らとの決戦が全てを教えてくれると信じるしかない。


「マコトどうしたのよ、真剣な顔しちゃって」


「まああら、心配事ですか?」


「いえ、何でもないんです……ただ、敵の謎は決戦が終われば分かるのかなって思ったんです」


「そうねえ……素直に敵さんがペラペラ話してくれれば即解決なんだけど、敵を捕らえる事が出来ればあるいは……敵が強すぎた場合消滅させないとならないかも知れない。そうなれば謎のままですね」


 つまり今答えを出すことは無理だと言うことだと思う。仕方ないか、敵の居場所が分かっただけでも良しとしないと。


「あ、そうそう、ロロ、今までご苦労様ねえ、本来の任務に戻っても良いわよ? ありがとうね」


「いえ、代理も立派な任務でしたから……ではわ、私は戻ります。ミナガワマコト、それでは失礼します」


「うん、ありがとうロロちゃん」


 地獄の番犬オルトロスのロロは一礼してから部屋を後にした。

 ロロちゃんはいい子だったな、また会えるだろうか。


「それでは引き続きフェイロットに世話役を任せますよ? しっかりと任務を全うするんですよ?」


「任せて下さい死神王様! あたしは優秀だから心配はないわ! マコトはあたしが守るわ!」


「まああら、やる気満々ね、可愛らしい……フェイロット、わたしに胸を差し出しなさい」


「え、遠慮します!」


 そう言うとまた残念そうに俯くソフィーネオさんだった。

 懲りないな。


「そう言えば騎士ミラエルと死神リリリ、そして……えっと人間の三人からなる調査隊が戻ってるらしいわね」


「え! それは本当なのフェイちゃん!」


「ええ、今地獄王様のところで話をしているみたいよ?」


 それってしゅーが帰って来たって事だよね? しゅーに会えるんだ、会えるんだ!


「まああら、素敵な笑顔ねミナガワマコト、ふふっ、欲情……じゃなくて、ムラムラ……じゃなくて……可愛がりたくなりましたよ!」


「う、遠慮させて頂きます」


「そうですか、残念です……残念です……でも、わたしはくじけません、騎士ミラエルが帰ったというのなら……ふふっ」


 ソフィーネオさんは何か妙な事を考えているみたいだ。

 ミラエルさんが危ないような気がする。

 会いに行きたいな、でも今は大切な話をしているに違いない。私のわがままで邪魔する訳には行かないし、じっと待っていた方がいい。


「早く会いたいけど邪魔しちゃダメだ、我慢我慢って顔をしているわねえ、可愛らしい」


「多分話なんて直ぐに終わると思うわ、心配しないで待ってなさいよマコト」


「う、うん、そうだよね……」


 しかしそれからしばらく待ったがなかなかここにやって来なかった。

 明らかに遅すぎである、心配になって来たよ。


「死神王様、遅すぎると思います」


「まああら、我慢できないのねえフェイロットは……でもそうですねえ、遅いですね…………じゃあこっちから会いに行きましょうか」


「大丈夫なんですか? だって大切なお話をしているのかもしれませんし」


「大丈夫ですよ、邪魔してしまったならわたしが謝りますから、だから行きましょう」


 しゅーに会いたい一心でそれに同意し腰を上げた。

 目指すは謁見の間。

 フェイちゃんとソフィーネオさんと共に謁見の間へ向かう、結界のゲートを潜ると直ぐに辿り着けた。

 中央の王座には地獄王が座り周りに数人の影が見えた、その中を必死に探すと私が求めていたあの人の背中が。

 押さえつけていた感情は蓋を外し吹き上がる。


「しゅー!」


 私の声は直ぐに届き彼がこちらへと振り向く、間違い無い、あそこにいるのは私の恋人、佐波峻だ。


「……まこ……ちゃん」


 自然と涙が溢れ出し目の前が歪む、寂しかった、辛かった、でも彼の顔を、声を聞いた瞬間にそれらが吹き飛びただただ歓喜に震えるのだった。

 気が付けば走り出していた、それは彼も同じ。二人が交差する頃にはもう腕の中に包まれて安堵を感じて彼の存在を抱き返して確かめている。

 間違い無い、しゅーが帰って来たんだ!


「会いたかった、ずっとずっと会いたかったよ」


「俺も会いたかった、元気にしてたか?」


「うん、元気にしてたよ……」


 温かいなあしゅーの腕の中は、もっと強く抱きしめて欲しい、もっともっと強く。

 そうしたら私も強く抱き返そう、どれだけ寂しかったか教えてあげられるから。


「……あ、これ……」


 彼の腕を見てそれに気が付いた、生々しい傷跡が腕中に見えたのだ。よく観察すれば服はボロボロでそこから覗く体に傷が後を絶えない。


「傷だらけ……」


「平気平気、かすり傷ばかりだ。心配はいらない」


「でも……」


 この傷は私のせい何だよね?


「ごめんね……ごめんなさい、私に変な力があるから……こんな目に……ごめんなさい」


「まこちゃんのせいじゃ無い、これは俺の不注意で出来た傷ばかりだ。だから決してまこちゃんのせいじゃない、本当だ」


 そう言われても申し訳なさが滲み出て来てしまう、しゅーに会えたのは嬉しいけど私の為に怪我をしているのが辛い。

 またネガティブ思考になってる、本当に私は心が弱いな。


「いや、マジで俺の不注意なんだよ」


「ううっ! そうですよう、この変態しゅんめ!」


 久し振りの声にそこへ視線を送ると死神のリリリちゃんがいた、相変わらず元気そうだ。


「え? リリリちゃん何か知ってるの?」


「人妻スキーしゅんがそもそもいけないんですよう! このかわゆいリリリちゃんとミラエルが体の清めをしている最中に覗いてきたんですよう!」


「ち、違う! あれはたまたまだ、偶然なんだよ!」


「ううっ? 偶然ですよう? じゃあ一番最初の頃に覗きに来たのは何だったんですよう?」


 あれ、あれあれ?


「あれ、じゃあしゅーの体中にある傷って……」


「それは儂が付けた傷じゃ」


 と呟いたのは騎士ミラエルだった、凛とした素敵な人、じゃなった、素敵な騎士だ。

 ミラエルさんが付けた傷ってことは……。


「ちょっとしゅー、これは一体どう言うことなの? 私すっごく心配してたのに……それなのにリリリちゃんやミラエルさんの裸を覗き見してただなんて!」


「ま、まこちゃん落ち着いてくれ、これには深い事情があるんだよ」


「深い訳じゃと? ほう、ならば儂も聞いてみたいものじゃな、儂の剣がまた傷を残す前に言ってみよ」


 剣を鞘から抜きしゅーに切っ先を向ける、次はリリリちゃんが死神の鎌を向けた。


「それにリリリを夜な夜な誘惑してきやがりましたんですよう!」


「はぁ!? てめぇみたいなガキンチョなんか興味あるか! 変なん作り話は止めやがれ!」


「うううーーっ! リリリはガキンチョじゃねぇーーですよう!」


「リリリちゃんをゆ、誘惑! しゅー! 私の目が届かないところで……ストライクゾーンがめちゃくちゃ低くなってるじゃない! 人妻好きじゃなかったの!」


「ま、まこちゃん落ち着け! 何か怒る部分がズレてる! それに俺はロリコンじゃない!」


「うううーーっ! リリリはロリイタじゃねぇーーですよう! プリティーと言いやがれですよう!」


 喧嘩の論点が段々とズレて行き数分後には訳の分からないことで揉めていた。


「だから、臭いフェチは理解出来るですけど露骨にやられるのはどうかと思うですよう!」


「待たぬかガキ! 儂は臭いフェチではない!」


「副騎士長のギルの汗の臭いが堪らないとミラエルは言ってたじゃないかですよう!」


「まああら、ミラエルはそんな趣味が……」


「違うわ! 儂よりも死神王様の方が卑猥じゃ! 女の乳房を弄ぶとは破廉恥極まる!」


 あれ、何でこんな話で論議しているんだろう?

 ようやく我に返り周りを見回すと妙な話で騒いでいる間地獄王は呆れたように眺めていた。

 何かとんでもなく恥ずかしい。


「あ、あのさしゅー」


「まだ疑ってるのかまこちゃん、俺にボーイズラブみたいな感性は持ち合わせてないぞ!」


「いつの間にかしゅーに妙な容疑が掛かってるよ……そうじゃなくてとにかく落ち着こうよ、何か最初の緊張感がなくなってる!」


 みんなに落ち着くように諭すとようやく静けさが帰って来た、どうしてこんな風になったのやら。

 静かになったのを見計らい地獄王が言葉を発する。


「ミラエルが臭いフェチだったのは意外で面白かったがそろそろ話を戻そうか」


 ミラエルさんの角が真っ赤に輝いていた、顔は無表情だけど恥ずかしいんだな。


「ううっ、リリリはロリイタじゃないですよう」


「まああら、リリリはロリイタでも露出狂でもサドでも可愛いから大丈夫よ!」


「し、死神王様、それは酷いですよう!」


 外野がうるさいが中断されていた話が再開された、決戦に備えての事柄を伝え終えるとその時までゆっくりと休息を取るようにとのことだ。

 決戦が終わればきっとみんなが幸せになれると信じている。


「では話は以上だ、ミラエルとリリリ、それにサナミシュンはゆったりと休むと良い」


「分かりました……では儂は一足早く休ませて貰うとするかのう、下衆にガキ、また後程じゃ」


 ミラエルさんはそのまま部屋を後にする。続いて死神王様とリリリちゃんが言い合いをしながら出て行く。

 残ったのは私としゅーとフェイちゃんだ。私達も部屋を出て行こうとしたとき地獄王が呼び止めた。


「サナミシュン、ボクが話した例の件、良く考えておいてくれ」


「……分かりました」


「例の件? しゅー、何の話なの?」


「……まあ大したことじゃないさ」


 一瞬しゅーの表情が曇った気がする、私達が来る前に地獄王と何を話していたのか。

 いくら問いただしても教えてはくれなかった、何を話して何を隠しているの?


「いつか話すよ、今は何も聞かないでくれ、頼む」


「……うん、分かったよ」


 気になるけどいつか話してくれるって言ってくれているんだ、待っていよう。


「ああもう暗いわねあんた達、うじうじしないでよね!」


「あ、うん、ごめんねフェイちゃん……あそうだ、紹介するよ私の世話役をしてくれてるフェイちゃんだよ」


「そっか、まこちゃんを世話してくれてありがとうな、俺は佐峻だ、峻と呼んでくれ」


「あんたの事はマコトから聞いてるわ、恋人でナース好きで人妻スキーなしょうもない男のシュンね?」


 しゅーが微妙な表情を表している、ああ、軽く傷ついてるな。


「と、とにかく私の大切な人だからよろしくねフェイちゃん」


「まあマコトがそう言うなら仲良くしてあげないこともないわ……変態何だろうけど仲良くしてあげる、感謝なさい」


「あ、ああ……感謝するよ、なはは」


「じゃあ部屋に戻るわよ、立ち話もあれだしね」


 フェイちゃんを先頭に部屋に戻ると急に用事があるからとフェイちゃんは部屋を出てってしまった。

 何かあったのだろうか?


「二人切りにしてくれたのかな?」


「さあ、でも気が利くようには見えないけどな……ま、二人切りになれたのは良かったかな」


「うん、私もそう思ったよ? ずっとしゅーに会いたかったから」


「俺だってそうだ、まこちゃんに会いたくて堪まらなかったし」


 じっと見つめ合ってから抱きしめ合う。この時間、この温もりを一番に欲していたから今は幸福の真っ只中だった。










 それから数日が経過した、決戦へ向けてピリピリとしたムードが覆っていて一触即発のようだった。

 しゅーは毎日戦いの修行と称して戦闘訓練をしている、リリリちゃんやミラエルさん、それにフェイちゃんと模擬戦闘で汗を流していた。

 今現在騎士達が鍛錬する場所で副騎士長ギルさんと戦っていた、素人目には分からないけど良い勝負をしていると思う。


「なかなかやるね、紅の帰還をそんな風に使うなんて」


「結構苦労したからな……けど二つの力を使うと直ぐに疲れる」


「仕方がないだろうな、本来はケルベロスの力、人間がここまで使えるだけでも誇っていいだろう」


 ミラエルさんがギルさんに頼んでくれて模擬戦闘をしてくれることになったけど、ギルさんは容赦がないな。でもそれを相手に戦うしゅーは凄い。

 ギルさんの戦闘スタイルはミラエルさんと同じ剣だ。但し剣と言っても巨大な大剣である。自分とほぼ同じ程の大きさの剣を片手で振り回す。

 見掛けによらず力持ちだと感心と驚きを同時に味わう。しゅーに目掛け大剣をなぎ払うがぶつかる刹那にしゅーが消えてしまった、文字通り姿が消え気が付くとギルさんの頭上に出現する。

 上空から氷の刃を生成し、落下させるが素早く落下地点から脱出する副騎士長は空を睨みつけ大剣を回転させながら投げ飛ばした。迫る回転物を難無く消えて避けた、次はギルさんの後方に現れる。


「あっぶねぇ! あれはやばいやばい」


「良く避けた、だがこれはどうだい?」


 騎士鍛錬場には二本の大剣が存在する、一つは現在回転しながら空を切り裂く一振り、もう一つはギルさんの足元に転がっている。それを拾いしゅー目掛け飛ぶように爆ぜた。

 しゅーは氷の弾を作り出して連射、爆ぜた勢いを殺し大剣を盾のように使いガード。身動きが出来ないギルさんだったが苦戦とは思わせない強い瞳で何かを待っていた。

 それは放たれた一振り。

 気が付けばしゅーの頭上に先ほど回転させて投げた大剣が迫っていたのだ。


「なっ!」


 瞬時、砂煙が舞う。地面に突き刺さる剣はまるで墓標を連想させるが肝心のターゲットはいない。何処に行ったのか慌てて探してみると、ギルさんの後ろに姿を現していた。


「はぁ、はぁ、……紅の帰還を使えるようになってなかったら死んでたなありゃ」


「良く避けられたね、大抵はあれが墓標になるのだけど……うん、君は借り物の力とは言え人間の領域を逸脱した、誇りに思うと良い」


「素直に嬉しい、ありがとうな」


 少し頬を朱に染めたしゅーは照れ臭そうに笑っていた、その姿が可愛らしいなと密かにのろける私。

 壮絶な鍛錬を行っている二人に先程から見学をしていたミラエルさんが歩み寄り拍手を贈る。


「うむ、見事じゃ二人共。本気ではないとは言えギルの攻撃を避け続けられる人間はまずいまい、ギルも儂が見ぬ間にまた腕を上げたのう、誇りに思うぞ」


「はっ、騎士長様のお褒めの言葉、有り難く頂戴します」


「ぬ……これギル、騎士長様などと呼ぶなとあれ程言った筈じゃぞ? ミラエルで良いと許可したぞ?」


「いえ、自分は副騎士長でありますから騎士長様の部下であり下僕になります。大それた事は出来ません」


 ギルさんがそう言うとミラエルさんの角が力無く下に垂れ下がった、確かあれはガッカリした時のツノの状態だ。何だか悄げた子犬みたいに見える、そう思うとミラエルさんが可愛く思えた。


「……ま、まあ何だ、何にせよ良い動きだったと言っておこう……時に聞いたか決戦の事を」


「はい、等々明日剣の山脈へ向けて進行するとの言づては伺っております」


「うむ、ギルが奇襲部隊であったな、儂が正面から攻めギルが地下からの奇襲……敵も見事に散るじゃろう、頼むぞギル」


「はっ、心得ました」


 明日、決戦が始まる。

 その戦いが終わったら平穏が訪れる事を切に願う、そしてしゅーと人間界に帰るんだ。


「……明日、か」


「うん、明日だよしゅー」


「俺達が勝って終わる、そしてまこちゃんと一緒に人間界に帰るんだ。戦う仲間がたくさんいるんだ、心配はいらない……だからそんな心配そうな顔はするなよ」


「う、うん……信じて待つよ」


 どうなるかは分からない、でも勝利を信じることは無力な私にも出来るのだ。

 どうかみんなが無事で帰って来ますように……。

 私は祈りを捧げる。


 





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