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地獄世界のヘルヴェルト  作者: 生獣屋 芽怠
第九章 王宮の人々と日々
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決戦の予感

 

 落ち着きを取り戻した一同は地獄王に視線を集めていた、その口から何が語られるのか知らないけど重要な話だとは感じていた。

 地獄王が皆を一瞥し終えてから言葉を外界へ漏らす。


「要件は三つ、先ず話すのは新たな不安要素だ。数日前このヘルヴェルトに人間界から亀裂を通りここに侵入した者がいるとの情報が入った。人間二人と、一応は悪魔と名乗っているがまだ謎のままの敵、それらがヘルヴェルトへの侵入を果たしている為無視は出来ない。ゲートの管轄は獣王率いる獣族、監視体制の強化を宜しく頼む」


「……うむ、心得た」


 また何かがここに入ってきた、それは果たして何なのか。

 新たな敵か、それとも……。


「この忙しい時に来るとはね、ボクはその侵入者は敵と何らかの関係があるのではないかと睨んでいるよ。来るタイミングがちょうど良すぎるからね……ギル、王宮の警護レベルを上げておいてくれ」


「了解しました」


「さて次は二つ目、これはミナガワマコトに取っては朗報となるだろう。現在敵の調査のために出払っている者達に王宮への召集命令を発動した」


 それってつまりみんな帰ってくるって事だよね? ならしゅーが帰ってくる、しゅーに会えるんだ。

 もう1ヶ月以上も会ってなかったから本当に嬉しい。


「マコト、あんたすっごく嬉しそうね、顔ニヤニヤしてるわ」


「う、うん、しゅーに会えると思うだけで嬉しくて」


 早く帰ってこないかな、凄く待ち遠しい。紅葉する頬は期待に火照る。


「あれ、敵の調査をしているのに戻しちゃって大丈夫なの?」


 つまり調査を中断すると言うわけだ、そこまでして召集する意味はあるのだろうか。


「何故召集命令を出したのか、それは三つ目の話に関わっている」


 最後の話に召集する理由があるらしい、一体どんな話が飛び出すのか。

 地獄王は三つ目を語り始めた。


「最後の三つ目、これは先程調査隊の一つが持ち帰ってくれた貴重な情報だ、ヘルヴェルトを脅かす謎の敵、その居場所が判明した。場所は剣の山脈、別名針の山に奴らは巣くっている、調査隊が戻り次第隊を編成し、剣の山脈へ向け騎士団と共に戦をしに向かう。可能な限り生け捕りとしたいが状況次第だろう、やむを得ない場合は消滅を許可する」


「……小生ら獣族と死神はどうされる?」


「守護を生業とする獣族は王宮の警護に当たって欲しい、死神は戦闘部隊結成し、騎士団と共に戦へ臨む様に命を出す……敵の能力は未知数、死者が出る可能性は大きい、皆気を引き締めて戦へ臨んで欲しい」


 奴らの居場所が判明した、これから大きな戦いがあるみたいだ。罪もない地獄の住人を操り、安らかな眠りを妨げ屍をも利用する醜悪さ、許してはならない。


「敵はミナガワマコトを狙ってくる可能性は充分にある、警護は万端に頼むよ」


「……心得た、小生ら獣族が守ろう」


「さて、敵は剣の山脈に巣くっているのはこちらとしては不利でもあるが有利でもある」


 不利で有利?


「フェイちゃんどう言う意味なの?」


「剣の山脈はね文字通り剣の様な結晶が辺り一面に生えてるのよ、生物が通れる道は狭い上にその結晶に触れれば傷を負うわ。それを向こうが盾にして戦闘をすれば間違いなく苦戦する……ただ剣の山脈の内部は空洞になっていてね、そこに出れれば結晶の脅威は無くなり広い場所で戦える……でも向こうが有利でしょうね、そこまで無事に行けるか」


 剣の山脈か、厄介な場所に奴らは住み着いた。これが地獄王が言った不利なんだろうな。

 だったら有利な部分って?


「フェイちゃんその剣の山脈の有利ってどんな風に有利なの?」


「剣の山脈の地下には巨大な空洞があるって話したでしょ? 別の場所からそこへ入って空洞を通り剣の山脈の広い場所に繋がっている、つまり奇襲が出来るってわけよ。まさか足元から攻めてくるなんて予想はしてないでしょう?」


 フェイちゃんの話を交代するように地獄王が作戦を話した。


「フェイロットの言う通り地下に空洞がありそれを使う。陽動部隊を作り真正面から攻める、そして奇襲部隊が地下から攻め挟み撃ちにする……」


 それから戦術の話が始まる、私にはちんぷんかんぷんだったからさっぱり分からなかった。

 話は数時間に及びすっかり置いてけぼりになってしまった、でも決戦は近いと言うことだけは理解していた。


「……では今の案で決定しよう。それぞれ抜かりなきように……さて、急だった為死神王と協議が出来なかったが今決定した事柄を伝えなければならない、フェイロット、至急死神の箱庭へと飛び今の話を伝えに行ってくれないか?」


「はい分かりました、直ぐに行って来ます」


 フェイちゃんとは暫くお別れか、寂しいな。でも仕方がない事だもんね。


「マコト、あたしは直ぐに戻ってくるから心配はいらないわ、必ず守ってあげる」


「うん、ありがとうフェイちゃん」


「じゃ行ってくるわ!」


 慌ただしく走り去って行く。


「次はミナガワマコトの世話役と守護の代わりなのだが……」


「……ふむ、地獄王暫く小生らが世話をしよう」


「獣王自らが?」


「……それは建て前、小生はこの人間と話をしてみたいと思っていたところだ。……ロロが世話の代役となろう」


 獣王が私と話をしたいって一体何を話したいのか検討が付かない、それに失礼だけど獣王って何だか怖い。

 体も大きくて目つきも鋭い、私なんかと何を話したいのだろうか。


「では暫くの間頼めるかな獣王」


「……心得た、ではミナガワマコトだったな、そなたの部屋へ行こうか。遅れるなよロロ」


「は、はい、待って下さい!」


 こうして重大な会議を終えて獣王とオルトロスのロロと一緒に部屋へと戻る事に。

 緊張して来た、話したこともない相手だからどんな人なのか。


「えっと、えっと、獣王様はお優しい方ですよ」


 不意にロロちゃんが私に話しかけてきた、うんどう見ても女の子何だけどなあ。男の子だなんて信じられない、すっごく可愛いのに。


「獣王様は愛妻家でも知られているんです」


「奥さんがいるの?」


「は、はい、見ているこっちが羨ましい程のラブラブっぷりです」


 想像出来ないな、奥さんとラブラブか。私もいつかしゅーと結婚して、今以上にラブラブになって……。


「……ミナガワマコトどうかしたのか、ニヤニヤしているが」


「へ? あ、何でもないです! あはははは!」


「……そうか、ならば問題無いな」


 妄想に取り付かれちゃっていた、いけないいけないしっかりしないと。でもしゅーと結婚するって事は私はお嫁さんで、妻になって……。

 あ、また妄想に取り付かれるところだった、落ち着け私。


「えっと、獣王様には奥さんがいるらしいですね」


「……ぬ、ああ小生の妻は可愛らしい、相思相愛、最高の妻だ」


 のろけてる、相思相愛なんだな。


「……会ってみるか、小生の妻に」


「え、ここにいるんですか?」


「……ああ、待たせてある」


 まさか獣王の奥さんに会えるなんて、どんな方何だろうなあ。

 期待を胸に奥さんが待つ部屋へと向かうことになった。

 結界のゲートを潜り抜けると青い部屋へとやって来た、四方全てが青の何も無い空間。

 その真ん中に何かがいた。


「……紹介しよう、小生の妻、名をアギトと言う」


「こ、これが……獣王様の奥さん?」


 中央に居たのは約5メートル程の高さをした怪物だった、白い肌は岩のようにゴツゴツとしている。四つの太い足で胴体を支え、鋭い牙を何本も生やす口は体の半分を占めていた。

 目が見当たらず、変わりに鼻の穴は確認出来た。これが獣王の奥さん? ペットじゃなくて?


「……どうだ、美しいだろう?」


「えっと……はい、び、美肌なんですね……」


「……うむ、小生もそこが気に入っている」


『カロロロロロ』


 奥さんが鳴いた、あれって嬉しがっているのだろうか?


「……ぬ、どうしたのだアギト、機嫌が良いな、褒められて嬉しかったのか?」


『カロロロロロ』


「……そうか嬉しかったのか、それは何よりだ」


 獣王がアギトへ近付き体を撫でた、すると次の瞬間予想外のことが起きてしまった。

 アギトは傍らの獣王に噛み付いた、獣王の上半身が口の中へ。


「きゃあああああ! じ、獣王様がた、たた食べられた!」


「落ち着いて下さいミナガワマコト、あれはスキンシップです」


「スキンシップ? あれが?」


「はい、アギト様は好む相手に甘噛みをするんです、あれはラブラブの証です」


 ロロちゃんの説明で危険ではないと教えられた、そう言えばさっきからアギトは口を軽く動かしている。

 あれが甘噛みなのだろう。


「……甘えん坊だなアギトは」


『カロロロロロ』


「そっか、仲良しなんだね…………って、あれ」


 えっと、獣王の足下に赤い液体がボタボタ落ちているんだけど?


「ひぃ、歯が食い込んでるよ! ち、血が出て、血が!」


「大丈夫ですよあれぐらい、あくまでもあれは甘噛みなのです、もし本気が噛んでいたなら一瞬で真っ二つです」


「……よしよし、お前は可愛いな」


『カロロロロロ』


 確かにラブラブだった、血が出るほど仲が良いとでも言うのだろうか。

 とにかく獣王が愛妻家なのが凄く分かった、うらましい程に仲良しだ。


「……アギト、まだ用事があってな、また行かねばならない」


『カロロロロロ』


「……うむ、早く戻ってくる、しばしの辛抱だ」


『カロロロロロ』


 暫くして甘噛みから解き放たれた獣王は血塗れだった。

 何だか生々しいホラーだったな。ホラー映画は笑えるのにこれは笑えないよ。


「……待たせたな、ではミナガワマコトの部屋へ行こうか」


「はい……えっと失礼します」


『カロロロロロ』


 アギトさんに言葉は通じるらしい、行ってらっしゃいと言わんばかりに大きな声で鳴いていた。

 部屋へ戻ってくるとロロちゃんと獣王と三人でお話が始まった、他愛ない話から私の事、そして人間界でのケルベロス、ルベスさんの様子を訊いて来た。

 どうやらそれが核心だったらしい、ルベスさんは今生死不明、ロロちゃんも獣王も心配しているのだ。


「……あいつは生きている、そう小生は思っている、あの腹黒が殺されるとは思えん」


「わ、私もそう思いますですはい、お兄ちゃんは生きてます」


「私も生きてるって信じてます」


 欠けた記憶にルベスさんの事を記録していたのかは分からない、ああもどかしい、何で記憶の一部が飛んでいるんだ。その記憶にルベスさんの安否の手掛かりがあったかも知れないのに。

 だから大丈夫だと言い聞かせるしかないのだ自分に、それだけしか出来ない無力さが恨めしい。


「……小生は地獄王と決戦の話をしてくる、細かい調整もあるからな。その間ロロを置く、ロロ世話役の代理を全うするように」


「は、はい、了解しました」


「……では小生は行く、ミナガワマコト、話を聞かせてくれて感謝している、ケルベロスは心配無用だ、あいつは神出鬼没、その内顔を出すだろう」


 心配するなと獣王は言っている、なら信じて待つしか今は出来ない。だから今出来る事を頑張る。


「はい、私もそう思います」


「……うむ、良い顔だ」


 そう言って獣王は部屋を後にした、残ったのは私とロロちゃんだけ。


「ど、どうしましょうかミナガワマコト」


「え? どうするって?」


「わ、私は男です。男女が小さい部屋で二人切りと言うのは……は、破廉恥ではないかと」


 顔を真っ赤にしてもじもじしている姿は爆発的に可愛かった、ああそうだったロロちゃんは男だったっけ。可愛いから直ぐに忘れちゃうな。


「破廉恥かは分からないけど緊張する事はないと思うよ?」


「そ、そうですか? そうなら……き、緊張しないように頑張りますですはい!」


 そう言いながら頬を赤らめてもじもじしている、すっごく可愛い、女の私でも可愛いと胸をキュンとさせられる。


「ね、ねぇ、本当に男の子なの?」


「ほ、本当にわ、私は男何です! あぅ、どうして分かってくれないんだろう、あぅぅ」


 だって可愛いんだもんと言ったらロロちゃんを傷付けてしまうかも知れないな、だから別の話題に切り替えよう。


「えっとロロちゃんってルベスさんの弟何だよね?」


「あ、はい、ケルベロスはわ、私の兄になります。ケルベロスの三つの人格達、ゲイズは良くからかってきます、スルルはわ、私を可愛がってくれます、ルベスは強くて優しく尊敬する人格です……」


 尊敬しているんだな。お兄ちゃんか、小さい頃は従兄弟のお兄ちゃんに良く可愛がって貰ったっけ。中学の時以来会ってなかったな。護お兄ちゃん元気にしているかな? 後伯父さんも。

 パパは帰ってきたかな? 私が居ないって知ったらどう思うだろうか。それに弟の心やママ、会いたいな。

 決戦が終わればまた会えるよね?

 不安が背にのし掛かりギリギリと私を苛む。陸揚げされた魚の様に、羽をもがれた鳥の様に、足を怪我した馬の様に、私は無力だ。

 果てが無いこの闇はいつまで纏い付くのか。

 ただ時に身を委ねるのみ。

 最愛の彼を思い浮かべてその日を待つ。






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