目指す世界は直ぐそこに
羽ばたく黒鳥を眺め行き先を見守る、その先は戦闘中のマギサだった。鳥はマギサへと近付き肩に舞い降りるとクチバシを微かに動かして元の黒い霧へと戻ってしまう。
多分作戦を伝えてマギサの意識へと帰還を果たしたのだろう。
さあ始めよう、巨人を滅する作戦を。
左右の手を炎弾を放つ時の形に成す、人差し指、中指、そして小指をぴんと伸ばして残りの薬指は親指で押さえ付ける。言うなれば手を鉄砲の形にしている。
でも今度は二丁、両手で行なうこの攻撃はぼく最大の破壊力を持つ必殺技だ。両手の伸ばしている指を合わせて一つの銃に。
意識集中、力を、炎を一点に凝縮。
中指と小指の間に力が集まり弾を製造する、今までよりも大量に、そして力強く固めて形を整える。固まった力を更に凝縮、更に凝縮、これを何度も繰り返し凝縮した力を複数作製し、それらを一つに。
すると炎弾と同じ直径五センチの弾が作られた。
しかし炎弾と比べると色が濃厚、圧縮により密度が高い為炎弾とは比べられない威力を内包している。これを左手で制御して重なった手が離れた。
左手にぼくの最高必殺技、極炎が燃え盛る。
準備完了、いつでも発射出来る。さあ始めよう、マギサに教えた合図は炎弾が撃たれたら直ぐに離れる様にって言ってある。離れたのを確認したら極炎で消滅させる!
完璧な作戦だね! もしかしてぼくって馬鹿なのに頭が良いのかな? この作戦が終わったらマギサのおっぱいを揉み揉みさせてもらおっと!
「よ~し、マギサを揉み揉みする為に頑張るぞ!」
右手に炎を集中させて炎弾を作り出した、これはマギサへの合図用だ。だから若干手抜きで通常の炎弾よりも威力が半減している、だけど合図用だから別に敵に当てなくても良い、でも当たったらダメージを残せるか一応。
良し、作戦を決行だ!
右手の炎弾を巨人へと狙いを定めて放つ、その直後に両手をさっきの様に重ねて極炎の発射態勢をとった。さあ極炎はいつでも大丈夫、後は炎弾の合図でマギサが神社を離れるのを待つばかりだ。
狂い無く突き進む炎弾はまた神社の壁を突き抜けて巨人にかする。ダメージは無いに等しい、でも本番はこれから。マギサが黒い霧から翼を作り出して神社を飛び出す。
そのまま安全圏へと脱出を確認出来た、良し今がチャンスだ!
「さようなら極炎、振り返らずに食べて来てね? お残しはや~だよ!」
極炎を神社にいる巨人さんへ向けて発射……。
「………………あふ?」
あれ? 巨人さんが神社にいないよ? おかしいな、何処に行ったんだろう? 神社の境内もくまなく見渡すが見当たらない、どうなってるの?
「あふ? 何処に行っちゃったんだろう? お腹減っちゃったから帰ったのかな?」
頭を抱えているとこっちにマギサが飛んで来る姿が見えた。
「あ、お~いマギサ~!」
大降りで手を振ってマギサを呼んでみるけど手を振替えしてくれないな。
「マギサ~! 手ぐらい振替えしてくれたって良いじゃん! ぼく寂しいよ!」
「スルルちゃん逃げて!」
「あふ?」
逃げてって?
「小娘め、良くも穴だらけにしてくれたものだな?」
「あふ!」
土足で踏み入って来た声は驚愕をもたらして動揺を土産にする、後ろに振り替えるとそこには巨人さんがいた。
いつの間にかこんなところに現れるなんて気が付かなかった。
「あれだけ撃てば居場所は直ぐに分かる……馬鹿な女め、一度攻撃したら直ぐに場所を変えなければ攻撃対象になる、だからこんな目に合うんだ」
「う、動いたらダメ何だよ! ぼく攻撃しちゃうよ!」
「また炎の弾か、しかしそんなものを食らおうと問題は無い」
巨大で大木の様な腕が振り上げられる、天まで伸びてピタリと止まる。
「自分は優しい、一瞬で肉塊にしてやろう」
「あ、あふ……」
けたたましく腕が落ちて来る、あまりの速さに対象が遅れた。
直ぐ後ろへ飛ぶ、しかし腕が服にかすり破けながらコンクリートを粉砕。
晒け出された胸の谷間、ネクタイが粉々に。白いシャツとスーツが少し破れてしまう。しかし振り降ろした衝撃が凄まじく吹き飛ばされた。
「あふ!」
「ち、意外に素早い」
屋上の端まで飛ばされて直ぐさま姿勢を正す、相手と距離が出来た、これなら炎弾で応戦出来る。素早く極炎を左手に移し、右手を相手に向けて炎弾を作り出す。
「動いたらダメだよ! ぼく撃っちゃうかんね!」
「それで離れたつもりか?」
不快な感触が足首に感じた、視線をそこへ送るとぼくは捕まった事に気付かされた。右足に大きな手が絡まってる、正確には手か足を握り締めている。
「何これ……」
手を辿るとそこには“足”があった、次は“腕”その次はまた足。
奇妙に腕と足が長い綱の様に伸びているのだ、あの巨人さんから。
「スルルちゃんを離しなさい!」
マギサの声と共に黒い針状の弾が巨人さんへ向かう。それを難無く避けてしまう、そのまま足元から生える足と腕の綱を戻し始めた。
ぼくの足が綱に引っ張られて頭と地面がキスして激痛を生みながら引きずられ始める。
「あふ! 離してよ!」
「こいつ、スルルちゃん離せって言ってんのが聞こえないの!」
ようやく屋上へやってこれたマギサは勢いを無くす事なく巨人さんに体当たり、上空から落下の力を利用した攻撃は上手く巨人さんにヒット、そのまま屋上から飛び出して真っ逆様に地上へ。
ぼくと一緒に。
「あふーー!」
「しまった、スルルちゃん!」
下降中に綱がぼくの足を離す、衝撃で掴んでいられなかったんだ。
丁度真下に巨人さんが落下中だ、今なら極炎をぶつける絶好のチャンス。でもここで攻撃したらぼくとビルも巻き込んでそこら一帯が消滅しちゃうよ。ぼくはまだ死ねない、ゲイズとルベス、それに峻と真を助け出すまでは。
だから極炎は止め、炎弾を下へ発射させる事にした。
「行ってらっしゃい炎弾! 迷子にならないでね!」
炎の雨を降らせる、それに気が付き巨人さんは腕でガード、でもそんなの意味が無い! 腕を焦がしながら貫通し肉体へ抉り込む。
「ぬぅううう!」
もう一撃、そう思ったが地面が近い!
巨人さんは受け身も取れずに裏路地へ落下し人工の大地に罅を入れ血だらけになった、真っ黒だ。
「あふ! ぶつかっちゃう! あふあふ! あふーーーー!」
「スルルちゃん!」
地面激突までもう殆ど時間が無い刹那にマギサの声が聞こえた。声へ首を動かすと黒い翼を生やし羽ばたかせながら急降下して来る彼女の姿が見えた。
懸命にぼくに手を伸ばしながらどんどんと近付いてくる。ぼくも手を伸ばす、彼女の手を掴む為に。
「スルルちゃん掴まって!」
「マギサーー!」
求め合う二つの手は段々と距離を縮め、等々ゼロ距離に。
良かった、助かった!
「ありがとうマギサ! …………あふ?」
「……あれ?」
ゼロ距離が消滅し、マギサが彼方へ行っちゃった。
あれ?
「あふ?」
「やば! キャッチし損なっちゃった!」
「あふ! あふーーーー!」
爆音を奏でながらぼくはコンクリートの大地にダイブした。
「きゃあああ! ス、スルルちゃんを落としちゃった……ど、どうしよう、いくら人間じゃないって言っても無防備にこの高さから落ちたらヤバいわよね? ス、スルルちゃん! 生きてる!? スルルちゃーーん!」
「あふーー! お尻打っちゃったよう! 痛いよう! あふあふ!」
「嘘……ピンピンしてる! 間違いなく落ちたのに」
痛い痛い痛い! お尻が痛いよう!
「マギサのお馬鹿! どうして掴まえてくれなかったんだよう! お陰でお尻が痛いよう! 絶対赤くなってるよう!」
「ご、ごめんなさい! でも何で平気なの!?」
「あふ? ……あれ、何でぼく平気なの? ……あ、そっか、ぼく『拒絶の白』を使ったんだっけ、持ってるのすっかり忘れてたよ」
拒絶の白、それは簡単に言えば結界でありバリアーだ。ぶつかる瞬間にそれを展開させて衝撃を半減させて無事だったんだ、良かったこれを峻に渡さないでおいて。
直ぐにマギサが降りて来てぼくに怪我は無いかと心配してくれた、その気遣いが凄く嬉しいな。足場はもうグチャグチャ、誰かに見られたら怒られちゃうかも。
「とにかくここを離れるわよスルルちゃん、さっきの騒ぎで人が集まって来ると思うから」
「分かったよ! じゃあマギサおんぶ!」
「な、何で私がスルルちゃんをおんぶしなきゃならないの!」
「だってぼく空飛べないから。おんぶして空を飛んでった方が良いよ!」
そう言うと何だか嫌な顔をした後に仕方ない今回だけだからね? みたいな顔をしてぼくを背中へ導いてくれた。
直ぐにおんぶの形になってマギサは空へ羽ばたく。
「あふーー! 速い速い!」
「ちょっと背中で暴れないでくれない? 私は遊具じゃ無いんだから!」
そんなやり取りをしながら上空で下の様子を伺う、すると案の定人だかりが出来ていてうじゃうじゃとまるで蟻の様にたかっていた。
巨人さんどうなったゃったんだろう、死んじゃったのかな?
「巨人さんは死んじゃったのかなマギサ」
「分からないわ……でもあれ位で死ぬとは思えないけど」
経過を見守るしか出来ないな。
「マギサ……」
「何?」
「マギサのおっぱい揉み揉みして良い?」
「殴るわよ」
本当に殴りそうだったから揉み揉みは断念だ。
がっかりしてもう一度下を覗く。
「……マギサ」
「もう一度おっぱい揉み揉みとか言ったらこのまま落とすわよ」
「あふ! ち、違うもん! 巨人さんが起き上がったんだもん!」
「え! ……あちゃあ、予想はしてたけどやっぱり生きてたか」
粉々のコンクリートを掻き分けて浮上して来た巨人さんはぼくらを睨むと直ぐに行動を開始する。
足に力を入れ飛翔、一気に数十メートルも跳躍し、失速するとビルの壁を蹴り再度ジャンプ。すると隣りの若干低いビルの屋上に着地を果たす。
「あふ! ジャンプ力が凄い!」
「ちょっと感心してる場合じゃないわ!」
その言葉の意味は直ぐに分かる事となった。巨人さんが体全体から何かを飛び出させる。
正体は歯、歯を体のあちらこちらから生み出して放っているのだ。まるでマシンガンみたいに。
「きゃ! くそ、一旦逃げるわよ!」
翼を羽ばたかせて空を滑る、巨人さんは建造物を足場にジャンプしながらぼくらを追って来る。もちろんその間歯を使い攻撃を止めない。
「あふーー! 攻撃が止まないよう! ……あふ? 歯って口に生えてるのにどうして体中から生える様に出て来るの?」
「リーゼスは自身の体の様々な場所に自分の体のパーツを生やす事が出来るのよ! 自分の足を胸に生やせたり、目を後頭部に、爪をお尻から発射だって出来るのよ……だからあいつに前も後ろも関係ない、それに怪力とそれに似合わない様な俊敏な動き……あいつは厄介な相手よ! きゃ! ……今のは危なかったわ……一応前戦った時に完全に消滅させた筈なのにまた現れた。何事も無かったかの様にね、くそ……どうしようかしら本当に」
「ねえマギサ、ぼくの左手にはまだ極炎が残ったままだよ? これなら多分巨人さんを消滅させられるぼく最高の必殺技だよ? ただ……消滅力が強過ぎるけど、どっかの光の鎌を使う死神よりはマシだよ、光の鎌使ったら下手したらこの町無くなっちゃうしね」
「……良く分からない話だけどとにかく必殺技をいつでも使えるって訳ね? だったら……」
いきなり急上昇を始めたマギサ、すると巨人さんはビルの屋上を上手く使いそれを追って来る。
マギサは辺りを見回し何かを探しているみたいだ。
「一番高いビルは……あったあれね! スルルちゃん、私の指示に従ってくれる?!」
「おっぱい揉み揉みさせてくれるなら!」
「な! またそんな事を……ああもう時間がない! 分かったわよ! だから今から言う事を聞いてね!」
どさくさに紛れて嬉しい約束を取り付けた、後が楽しみだなあ。マギサからの指示を聞き、ぼくは極炎をいつでも発射出来る様に準備する。
「あの一番高いビルが勝負場所よ!」
「あふ! 任せて!」
そのビルへ向け急加速、巨人さんも負けじとジャンプして来た。
本当に上手く行くのかな?
一気にビル最上階へ上昇、そのまま屋上を通り過ぎてある程度の高さに達したところで空中に静止する。巨人さんは屋上へ上がり、力一杯ジャンプする、数十メートルの大ジャンプでマギサに届く勢いだ。
「何のつもりかは知らんがこの距離ならもう飛んで逃げても捕まえられるぞ!」
「私、軽い女じゃないのよリーゼス? 今よスルルちゃん!」
遥か上空よりの指令を受け取った。ぼくは真っ逆様に落下中である。
マギサが上昇した時にぼくは落とされた。近くのビルが死角となり巨人さんは気が付かなかったのだろうねぼくが落ちてるって事に。
マギサが餌となってぼくが狙撃する作戦、丁度空中で極炎を使っても被害は建造物に出ないかも。
これも計算だったのかなマギサ?
「さようなら極炎、振り返らずに食べて来てね? お残しはや~だよ!」
極炎を躊躇無く発射する。巨人さんはぼくに気が付いてこっちを見ているけど空中じゃ動けないよね? 巨人さんがぼくに気を取られている隙にマギサが下降する、極炎と交差し離れて行く。
当たれ!
真っ直ぐ極炎は大気を燃やしながら突き進む、その軌道に炎の道を残しながら。ほんの小さな小さな弾は狂い無く巨人さんの腹部に接触するとそのまま更に上空へ巨人さんを押し上げる。
炎弾は貫通力に特化した技、極炎は消滅に特化している必殺技だ。貫通力は殆ど無いがそんなものは必要ない。
だって全部消しちゃうから。
遥か空の彼方へ巨人さんを連れて行き、そして限界が訪れた。凝縮されていた力が一気に四方に逃げ出す。
大爆発、その凄まじいエネルギーは太陽に似ている。
一時的に世界はもう一つの太陽を出現させた。
あの中にいた巨人さんは蒸発する、ぼくが目を凝らして見たから間違いない。細胞一つ残さずに消滅した。爆発は段々と弱まり最後には何ごともなかったかの如く青い空を映す。
「……凄い、スルルちゃん貴女やるわね」
「あふ! マギサに褒められたよ! それに今度はぼくを拾ってくれたね!」
今ぼくはマギサにキャッチされて空を飛んでいる、後ろから抱き付く様に捕まえられているから背中にマギサの二つの山を感じる。
後で好き放題に出来るなんてぼく幸せ者だなあ。
「……本当に消滅したのよね?」
「うん! ぼく見てたよ! 間違いなく髪の毛一本も残さずに消滅させたもんね! ぼく偉い?」
「ええ、スルルちゃんは偉いわよ」
やった! ぼく褒められるの大好き!
いつも怒られてばかりだから本当に嬉しいよ!
「消滅させた……だからもう終わり……だと信じたいわ……神社に戻るわよスルルちゃん、これからヘルヴェルトへ」
「うん! ……ルベス、ゲイズ、それから峻に真、絶対助けてあげるからね」
神社に戻ると先にエティオとネリスが戻って来ていた、退屈そうに二人仲良く地面を小枝で絵を描いてる。
亀裂は相変わらずそこに存在していて、ヘルヴェルトへの道は無事みたいだ。
「にゅにゅ! おねえたんとスルルだぁ!」
「ほえ? あ、ほんとだ! おーーい! スルル! おばちゃん!」
「私はおばちゃんじゃないの! ……空人さんはまだみたいね」
神社へ降りるとチビッコ二人が駆け寄って来てマギサに抱き付く、マギサは人気者何だな。
「どこいってたのおばちゃん?」
「もうエティオくん、私はおばちゃんじゃないっていつも言ってるわよ?」
呆れた様に注意する、それに釣られたのかネリスも注意を始めた。
「にゅ! エティオ! マギサはセ、セクシーなおねえさんなんだからおばちゃんっていっちゃダメなんだよ! メ!」
「ほえ……じゃあ、おばあちゃん?」
「それはもっと駄目!」
微笑ましいな、そう言えば昔生まれたばかりの二人をスミスに見せて貰ったっけ。ぼくが抱っこすると何故か二人とも泣いちゃって悄気ちゃったんだよねぼく。
ぼくは母親には向いて無いのかな? あれ、そう言えば赤ちゃんってどうやって作るのかな?
「マギサ、赤ちゃんってどうやって作るの?」
「は? 何言ってんのよスルルちゃん、そんなの簡単よ、誰かとエッチするだけで良いわよ?」
「ふーーん……マギサ、ぼくとエッチしよっか!」
「誰がするか! 大体女同士じゃ赤ちゃん出来るか!」
と口論になっていると。
「にゅにゅ? おねえたん、エッチってなに?」
「ほえ~……あかちゃんのつくりかたみたいみたい!」
「ちょ! 子供にはまだ早い! スルルちゃんが変な事を言うから二人が興味持っちゃったじゃない!」
「あふ、ぼく悪くないもん」
エティオとネリスが質問をマギサにぶつけまくる、あたふたと説明している姿が面白いな。赤ちゃんか、ぼくもお母さんになってみたいな、エキドナは今何処にいるのだろう。ケルベロスを生んだエキドナは今何処にいるのかは知らないけど生きているらしい。
あそっか、エキドナってぼくにとってお母さんなんだ。
そう言えばオルトロスのルトともう一つの人格のロロは元気かな? ぼく兄弟がいっぱいいるからね、オルトロスやキマイラ、それにスフィンクス! みんな元気かなあ? 他の兄弟は……えっとあの子は神と人間の子に退治されちゃったっけ? あれ、別の子だったっけ?
まいっか。
「ヘルヴェルトに帰るの楽しみ!」
「一人で何ワクワクしてるのよスルルちゃん、もう私本当に疲れちゃったわ、エティオくんとネリスちゃんの相手をしててくれない? 私ちょっと休む」
「良いよ! チビッコはぼくにおまかせ!」
この時ぼくは油断していた。
「にゅにゅ、チビッコ?」
「チビッコ……だって? ネリス、スルルをおしおきしちゃお!」
「うん! わたちチビッコじゃないもん!」
二人が一斉にぼくに飛び掛かって地面に倒されてしまう。
すると体の上に跨がって二人が何やら怖い笑顔を。
「にゅ~、チビッコっていったな!」
「ほえ~、チビッコっていったいった! おしおきおしおき!」
「ご、ごめんなさい! 許してよう! あふ! そこ触っちゃ駄目! あふふ! んっ、あっ……そ、そんなところに手を入れたらぼく、ぼく……あふ、あふあふ、あふーーん!」
「……ちょっとスルルちゃん、台詞がエロくてR指定物よ?」
呑気な空気が流れる最中、逆風は突然を告げた。
確かにぼくは確認したんだ、だからおかしい。どうしてこうなってしまうの?
「呑気だな、そんなに自分を倒せたのが嬉しかったか?」
神社の屋根にそいつが現れた。
「あふ!」
「なっ! リ、リーゼス!」
消滅させた筈なのに、無傷のまま巨人さんが笑う。
「そんな……スルルちゃんは確かに消滅するところを見ていたのに……佐波くんのマンションでも消滅させた、それなのにどうして……いくら悪魔でも完全に消滅させられたら再生何て無理よ……どうなってるのよ……」
「にゅにゅ! おにいたんのおうちにいたおっきいヤツだ!」
「あれ、ぼくたちあいつたおしたのに! おかしいよ!」
三人が愕然と屋根を見上げている、倒したもん、ちゃんと倒したのに何で巨人さんはここにいるの!
「ふ、驚くのは勝手だが現に自分はここに存在している。何か不服な事でも?」
「大有りよ! もう一度消してあげるわ、それでも生き返ったら大したものよ!」
「あふ! また極炎の準備しなきゃ! あふあふ! でもあれは一日一発しか無理だよう!」
「馬鹿な女だ、欠点をわざわざ教えてくれるとは……ならばもう脅威ではない、無論マギサもな? おとなしく自分に捕まれマギサ!」
とにかく炎弾は使えるから用意してと。マギサは黒い霧を出して準備したけどチビッコ二人はどうしよう。生意気でも子供だもん、安全な場所に移さなくちゃ。
「エティオ、ネリス、ここを離れるよ!」
「やだ! わたちもたたかう!」
「ぼくもだい! このまえたおしたんだもん、だいじょうぶだもん!」
「だ、駄目だよう! 二人に何かあったらスミスが泣いちゃうよ! だからぼくの言う事を聞いてよ!」
どうしよう二人が言う事を利かない、もう戦闘は始まっているのだからここは危険だ。
どうにか説得しないと、でも巨人さんはそれまで待ってくれるとは思えないよ!
「女、敵を目の前に考え事か?」
巨人さんが飛び降りぼく目掛けて攻撃を仕掛けて来た。
後ろへ飛び、逃れ様としたが巨人さんの手から伸びる腕や足が蛇の様に襲い、ぼくの体に巻き付く。
しまった、と思ってももう遅い。繋がった腕や足が段々と締め付けられて苦しい。
「鈍いな、近距離は苦手か?」
「あふぅ……ぐっ、苦しいよ……あふぅ……あぐ!」
「この! スルルちゃんを離せ!」
「動くなマギサ、妙な真似をすればこの女を締め殺す。それが嫌ならば自分の言う事を聞いて貰う」
悔しげにマギサが動きを止める、ぼくは何で馬鹿だ、マギサを束縛しちゃうなんて。
このままじゃマギサが……。
「くっ……何が望みなのよあんた」
「自分が何を望んでいるか分かるだろう? 何故お前を捕まえようとしているのか」
「……そうね、なるほどね。あいつを解放したい訳ね? 生憎ね、私にその気は無いわ!」
何の話をしているの?
「貴様があんな事をしでかさなければこんな面倒臭い思いはしなかったのだがな」
「……そうしないと私は逃げ出せなかったし、結果的に世界は平安を維持出来るのよ……あんたは考えた事がなかったの? あいつを解き放ってしまったらどうなるか……あんたはどう考えて来たのよ今まで!」
「……どうもない、ただ従っただけだ……思考、感情は邪魔になるからな」
「くっ、やっぱり悪魔よあんたは!」
マギサと巨人さんの話が良く分からないよ、元仲間だから何かあるんだろうな。それにしても穏やかな話じゃ無いよね、いくらぼくがお馬鹿さんでもそれくらいは分かるもん。
「マギサ、ならばお前は解放する気は無いのだな?」
「ええ、この現状は私にとって最高の好機! この現状を作り出す為に何十年、何百年費やして来たか……私は絶対にあいつを……」
感じる、マギサの憎しみのオーラを。マギサに一体何が起きたんだろう、何をそんなに憎んでいるの? それに、マギサって何者何だろう、仲間を裏切ってまで何をしようとしてるの?
「……ならば、尚更この女を解放する訳にはいかんな。お前を連れて行く、ここで自分に課せられた使命を全うするのみだ。ほら、こうすると……」
「あぐぅ、ああああああああああああああああああ!」
体を縛る物が力を増し、食い込んで来る。それは凄まじい激痛だった。
痛い、すっごく痛いよ。
「スルルちゃん!」
「にゅにゅ!」
「スルルがたいへん!」
「さあどうするマギサ、更に力を加えると内蔵が潰れかねないが? おとなしく自分に下れ!」
ぼく何かの為にマギサが頑張って来た事を無意味にさせて堪るもんか!
「ううううっ! ぼ、ぼくを……舐めないでよね! ペロペロは駄目駄目ぇ! あぐっ、ああああああ!」
「威勢だけは天下一品だぞ女、今のお前に何が出来る?」
「ああああああっ! ぼくは……ぼくは……君を穴だらけに出来る!」
威力は通常と比べ様も無く衰えた炎弾を作り出す。でも、
「この距離で、連射されたらどうかな? ああああああっ! ぐっ、い、行ってらっしゃい炎弾! ま、迷子にならないでね!」
両手は二丁の拳銃と化して巨人さんに打ち込む。
がむしゃらに撃つのみだ!
「ぐっ、ぬぅううう! がああああああああ!」
炎弾は貫通力を殆ど失っていた、けれど中にめり込んで行く。
腕、足、胴体、様々な場所に食らい付き、めり込んだ体内で熱を発し、内から焼く。それは想像絶する苦痛。
苦しむ巨人さんは堪らずにぼくを解放した、今が絶好のチャンスだ! マギサが黒い霧を散布、巨人さんの周りに配置すると霧は無数の刃へ変化。ナイフの形へと成り、巨人さんを四方から狙う。
「じゃあねリーゼス、今度こそ消えなさい! シュバルツ・ナイフ、無数の刃を躱せる? 細胞一つ残らずに切り刻んであげる!」
ナイフはマギサの掛け声を合図に取り囲む中心へ収縮、黒き血を噴き出させ、黒が巨人さんを飲み込む。
包み込んだ後ももがく様に蠢く、多分包んでからも切り刻んでいるんだ。
まるで口の中で噛み砕かれているかの如く小さくなって行く、最後には肉の塊が転がる。
「スルルちゃんこれを燃やして!」
「はぁ、はぁ、……うん!」
炎弾を打ち込み燃やす、全てが無くなるまで見守っていた。
ちゃんと消滅させた、これで二回目、もう出て来ないよね?
「あふぅ……ぼくもうヘロヘロだよう……」
「スルルだいじょうぶ!」
「にゅにゅ! スルルがヘロヘロになった!」
横目でマギサを一瞥すると案の定疲労した姿が写り込む。
ぼくらはもう限界だ、これ以上戦えないよ。
「マギサ……巨人さんはもう出ないよね?」
「はぁ、はぁ、……そう願いたいわ。私もちょっとヤバいわね、また出て来られたら本当のピンチよ」
「ならばこちらが有利な訳か?」
泥沼に陥った感覚、それも底無しの。足掻いてももがいても沈んで行くのみ。
三度、衝撃を受ける。
どうして?
「疲労困憊、か。願ったり叶ったりな事になっているじゃないか、自分にとってはな」
「嘘……」
「あふ、あふ……」
「にゅにゅ!」
「ほぇーー!」
何事も無く、巨人さんがこっちに歩いて来る。
二回も消滅させたのに、それなのに。
「しつこいよう! あふ!」
「くっそぉ! あんたは一体何なのよ! しつこい男は嫌われるんだから!」
「そんな些細な事情なぞ知らん。だが、ここにいる現実から目を逸らすのは勝手だが変わる訳は無い」
「ぐっ、スルルちゃん立って! もう一度こいつを消すのよ!」
「あふ! ぼくもう力がカラカラでヘロヘロでニュルニュルだよう……」
出来たとしても炎弾を数発撃てるだけ、こんなんじゃ駄目だ。
ぼくらは負けちゃう、みんなを助けられないまま負けちゃう!
「ふむ、どうやら忘れ去られてしまった様だね僕を。それは酷いじゃ無いか君達」
不意の声に神社の入り口に彼がいた。
「あふ! この声は……真パパ!」
「済まないねスルルくん、道に迷ってしまってね、ただ今到着だ」
真パパ、皆川空人がようやく帰って来た。
「ぬ、貴様は……?」
「あははは、僕はパルテスだよ」
パルテス、そう口走った瞬間に巨人さんの顔が歪む。驚愕を交えた焦りは立場の逆転を物語る。
にこやかな真パパとは対照的に睨み付ける巨人さん。
「馬鹿な……何故異端なるマギサと一緒にいるのだパルテスが!」
「ああ、彼女は特例だよ。ま、僕個人の思惑なのだがね? ……ところで、君は後13かな?」
「……何?」
「確認しているんだよ。しかし13とはまた随分と多い」
真パパは巨人さんの秘密を何か握っているのかな?
13って何なんだろう?
「……気が付いたのか?」
「スルルくんとマギサくんには悪かったが少々君達の戦いを観察させて貰ったよ。君の消滅から出現までの過程が妙だったからね? 再生した訳ではないよね? もし再生するのならば燃え尽きた場所に現れるだろう? しかし君は屋根から現れたり、別の場所から出て来ている……そう、だから13なんだ」
「真パパ、一体どう言う事なの?」
「そうね、私にも分からないわ……リーゼスの復活の謎が」
「二人とも、難しく考える必要は無いよ、何故ならリーゼスくんだったかな? 君は既に答えを僕らに見せている。体のパーツを体の何処にでも生やせる……」
あふ? さっぱり分かんない!
真パパの言葉でマギサは何かを考えていた。
「……そ、そうか、何で気が付かなかったんだろう私! リーゼス、あんたは!」
「ち、バレてしまったか」
瞬時、周囲に“13”が現れた。
「そうよね、そうなのよね、体からパーツを生やせるのなら……肉体全てを一つのパーツとすれば……そして切り離せたら……」
「あふ! あふあふあふあふあふ! な、何これ! 周りに、周りに!」
「リーゼス! あんた全てのパーツを一つに合わせた物を体から生やして……切り離したんでしょう! この13が何よりの証拠ね! あんたは……自分のコピーを体から生やして切り離したんだ! だから完全に消滅させても別のあんたが出て来たんだ!」
13人もの巨人さんが神社を取り囲んでいる、一人を倒すのにあれだけ苦労したのに、13人もいるなんて。
「ふ、ご名答だマギサ、自分のパーツを生やす力と分離させる力……それがこれを可能にさせている。13体……おっと、ここにいる自分を合わせて14体か。しかしマギサ、それを知ったからと言って何になる? 自分達と戦うと? 疲労困憊な貴様らがか? 1体を倒すのにどれだけの時を消費したのか忘れたのか?」
「うるさいわね! 何人に増えようが何しようが私は負けない! 負ける訳にはいかない!」
「あふ! ぼくだって……負け無いもん! ……多分」
何とでも言えるんだ口では、でも現実的にはもう限界だ。エティオとネリスはいくら地獄王と死神スミスの子供だったとしてもやっぱり幼い。ぼくは馬鹿だけど子供を守るって事を分かってるつもりだよ。
マギサとぼくはもうボロボロでヘロヘロ、後は真パパだけだ。
14人の巨人さんとどうやって戦えって言うんだよ。
「疲労困憊か、確かにその通りだろうね。マギサくんもスルルくんもきつそうだ」
「おじさん! ぼくらをわすれないでよ!」
「にゅにゅ! おじたんわたちたちは、とってもとーーっても、つよいんだよ!」
「エティオくん、ネリスちゃん、君達を戦わせてしまったら僕は君達の母親に怒られてしまうからね、それは出来ないよ」
スミスが怒ったら怖いよ、スミスの拳骨は最強だかんね。一回だけぼくがスミスに悪戯したら叩かれたな、数日痛みが引かなかったよ。
「にゅ……おかあさまがおこったらこわい」
「う、うん……ゲンコツこわい」
「そうだろう? だったら僕に任せて貰えないかい? 大丈夫、上手くやるから」
「上手くやるだと? パルテスは確かに厄介だが、この数を相手にする気か?」
「確かに厄介だよねこの数を相手にするには。しかし、厄介なだけで無理では無いよ?」
と、おもむろに真パパは右手の指をパチンと鳴らした。
「周囲に歪みは設置済みだ、無限放浪は苦痛だろうね13人」
周囲13人の巨人さんは一瞬きで削られた。獣が食料を食う様に、強者が弱者を支配する様に。
跡形も無く、13人の巨人さんは消える。
「な! ば、馬鹿な……」
「何を驚いているんだい? 言った筈だ、周囲には歪みを設置済みだって。それにこの場合、数は関係ない、質の問題になってくる」
「質……だと?」
「答えはとっくに君が見せ付けていた、最初スルルくんがリーゼスくんを消滅させた時間、次にマギサくんが消滅させた時間、……短かっただろう? あれだけ壮絶な空中戦をしてようやく消滅させたのに、マギサくんが戦った時にはあっさりと倒された。それを分析して分かった、簡単な話だ……君は劣化分裂をしているんだろう? つまり分裂したもう一人の自分は元の自分より力が劣っている。簡単に言えば自分より弱い分身しか作れない。そこに13人、一番最後に作った君は人間と同等か、それ以下だったんじゃないかな? ならば消すのは容易い」
13人の巨人さんが一瞬の内に消えてしまった、まるで手品を見ているみたいだ。
真パパ凄い、一体何をしたんだろう。
「ま、真パパ! 一体何したの! 教えて教えて!」
「難しい力じゃないよ、僕の力は至ってシンプルだからね……ただ彼らを『囚えた』だけだからね」
「ぐっ、さすがはパルテスと言っておこうか。……これだからパルテスは厄介なんだ」
「それはそれは、褒め言葉と受け取っておくよ。いやいや、リーゼスくんからその言葉を貰ったのは大きい気がするよ…………さてと、何か言い残す事は無いかな? これから無限を体感するんだ、苦痛だよ、慈悲をプレゼントしようじゃないか」
すると巨人さんの背中から腕が生えて前に突き出す。四本の腕、どうやら殺る気らしい。
「タダでは囚われん! 腕の一本くらいは道連れにしてやる!」
筋力をフル活動させて巨人さんは真パパへ半ば飛びながら駆けた。焦燥に取り付かれた様に巨人さんは必死に攻撃しようと構える。
しかし、真パパは冷静そのもの、微動だにしない不動を貫き、胸元に右手を上げて巨人さんに語り掛けた。
「さようなら、無限によろしく」
指を鳴らす。
呆気ない終焉が平和をもたらした。あれだけ荒々しく迫っていた敵が世界から削られたのだ。
一瞬で巨人さんが消えた、それも忽然と。
「また一人囚われた……哀れな」
「……ま、真パパ、今何をしたの?」
「にゅにゅ、わたちもしりたい!」
「ぼくもしりたいしりたい!」
凄い、一人で14人もの巨人さんを消しちゃったよ。
ぼくらがだだをこねているとマギサがそれを制した。
「みんな落ち着きなさい、スルルちゃんまで一緒に何やってるのよ」
「だって知りたかったんだもん!」
「まあまあ落ち着きなさいスルルくん、子供達もね? 僕の力は向こうに行きながら説明してあげるからね? さ、遅くなってしまったがヘルヴェルトへ行こうか」
真パパは亀裂に歩み寄り手で触れると亀裂は広がり一つの門が完成した、これがヘルズゲートだ。
人間界と地獄を連結する道、ようやくヘルヴェルトに帰れる。
「では行こうか……真、無事でいてくれよ」
「やっと行けるのね……佐波くん、待っててね」
「にゅにゅ、おかあさまニンゲンカイにいなかった、きっとむこうにいる!」
「おかあさまにはやくあいたいな、あったらいっぱいいっぱいあたまなでなでしてもらうんだ!」
ぼくも真と峻、ゲイズとルベスを助ける為に――。
あれ、何か忘れてるぞ?
「あそっか、忘れてたよ……えい!」
「きゃ! な、何するのよスルルちゃん!」
「まだおっぱい揉み揉みしてなかったから! それ! 揉み揉み~!」
「ひゃん!」
ヘルヴェルト、そこで始まる事件をぼくはまだ知らない。
全てを巻き込む大事件、ぼくらは僅かな希望を胸に進むのみだった。




