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地獄世界のヘルヴェルト  作者: 生獣屋 芽怠
第七章 謎を追う騎士と死神と人間と
32/75

忘れられた力

 

 それは研ぐ感触に似ているだろう、意識を一点に集束させ絡み合わせながら細く鋭利なものを生む為、意思を深く沈めるのだ。そこに他者より移された力を掴む、川を下る如く流し、研いだ集中と混ぜ合わせる。

 手の平より外界へと這い出る力が唯一の戦う術、集中力が脆ければ暴れ出す程に強力な力だ。

 名を『結晶の碧』、地獄の番犬ケルベロスことルベスから借り得た能力だ。

 触れたものを凍らせ、操る力。


「ふぅーー……」 


 意思を深く、深く。

 出来るだけ鋭利に、出来るだけ素早く。

 暗夜に支配されたヘルヴェルトは肌寒い。赤い世界は黒く変色し生物の睡魔を呼び起こす。白く輝く月だけが明かりであり、道しるべ。

 最初、この世界にも月があるとは驚いた。

 ここ数日暴れ回る地獄の住人を鎮圧する為に各地を回り静めて来た。大抵は砂漠や山脈、又は森の中で獣の相手ばかりだったが何とか仕事をこなして来た。

 奴等の手掛かりを掴む為に奮闘している途中だ。

 断崖絶壁たる谷の遥か下、周りは岩壁ばかりで見上げる月以外何も無い。そんな場所の側に小さな洞穴があり、今日はそこで野宿だ。

 先にリリリとミラエルは休み、俺は外に出て結晶の碧を使いこなす為に鍛練をしていると言う訳だ。

 こっちに来てからは毎晩鍛練を欠かさない。奴等は想像以上に強い、癪だが今の俺ではかなわない。元々ただの人間、ルベスから力を借りているに過ぎない。

 だから使いこなせる様に鍛練をしている、まこちゃんをこれ以上悲しませない為に。


「ふーー……」


 深く息を吐き出し精神統一に努めた、再度肺に新鮮な酸素を食わせまた外界へ。集中。絶氷空間がずっと使えれば負けはしないがそうはいかない。

 本来の持ち主ルベスは絶氷空間に必要な条件が揃わなくとも使えたのだ。離れた相手を凍らせる技術が凄いと本気で尊敬したものだ。


「ふーー……んんっ、今日はこのくらいで良いかな」


 力を解除し瞳が元の色へと変わる。だいぶ素早く氷を錬成出来る様になって来たと思う。ルベスに比べたらまだまだだが、だいぶマシにはなった筈だ。

 自負を胸に宿していると後方からの足音が肩を叩く、振り替えるとそこには騎士ミラエルの姿があった。


「あ、ごめんなさい、起こしてしまいましたか?」


「いや、たまたま起きたら下衆が見当たらなかったのでな、外に出てみた訳じゃ。まだ寝ぬのか?」


「ああ……あっ、いや、はい、今から寝るところです」


 危ない危ない、うっかりタメ口になり掛けたぞ。ミラエルにそんな口を利いたら死は免れないだろう。

 気をつけないとな、普段から敬語何て使わないからな。


「儂は目が覚めてしもうた、じゃから話の相手になれ下衆。少しくらいは良かろう?」


「は、話? ……ですか? 俺と?」


「うむ、儂とて人間界に興味が無いと言えば嘘になる、遥か昔一度行った事があったがもう数百年も昔じゃ、人間界も変わったのであろうな下衆を見る限り、詳しく教えて貰えぬか?」


 こりゃあ驚いた、だってあのサツバレ(俺命名)で殺気で相手を震えさせるミラエルが俺と話がしたいだと?

 会ってまだ数日だが珍しいと言っても不思議では無いだろう。


「どうしたのじゃ下衆、話すのか? 話さぬのか?」


「えっと……それじゃあ話すよ……あ、話します」


「うむ、それで良い。さて、何から訊き出そうか……」


 出来るだけ分かりやすく今の人間界について述べて行く、それで理解してくれただろうか?

 話をしているとどうもミラエルが人間界に行った時は剣を掲げた騎士の戦争中だったらしい。中世くらいだろうか?


「儂が見た人間界は争いの真っ直中、剣を掲げる王とそれを守護する騎士達……素晴らしい戦いじゃった、人間にしてはなかなかやりおる」


「日本じゃなくて外国だなそりゃあ……ミラエルって一体何歳だ?」


「何をぶつぶつ言っておるか、まあそんな事は良い。下衆が生まれた国の戦士の話を聞かせよ。儂は戦士の戦いの話が好いておるのじゃ」


 戦士の話? えっと日本で戦士って言ったらやっぱり侍の事になるのかな? とは言ってもあんまり知らないぞ、知ってるのは宮本武蔵とか織田信長とかメジャーな侍ばっかだけど、まあその話で良いか。

 それを話してやると興味深そうに聞き入っていた。


「さむらいとな? それが下衆の国の戦士か?」


「はい、まあこっちで言う騎士みたいな感じですよ」


「なる程のう、興味深い」


 どうやら気に入ってくれたらしい。


「……時に話が変わるが下衆、お主はもうしたのか?」


「へ? したって何をですか?」


 はて、したのかといきなり言われても分かる訳がない。

 何の話だ?


「決まっておろうが下衆、あの人間の女子とは恋仲であろう? ならば必然的に交尾はしたのかと言う話じゃ」


「こ、交尾!? な、何言ってんだ……じゃない、何を言ってるんですか! いきなりストレートに訊いて来るなんて、しかも交尾って……」


「何を驚いておるのじゃ? 儂の見たところお主らは相思相愛じゃろう? ならば交尾の一つや二つはするじゃろう?」


 なんだこれ、何でこんな話をしているんだ俺達は? そりゃあミラエルだって若い女(見た目は)だからそんな話に興味があるって事なのか?


「どうした答えぬか下衆、まさかお主は玉無しか?」


「失敬な! 俺とまこちゃんは……まあ、その……ぼちぼち、かな?」


「何じゃその答えは、面白みに欠ける」


「じ、じゃあミラエル……様はどうなんですか? 誰かと交尾の一つや二つしているんですか!」


 と聞き返してみるとミラエルのツノが真っ赤に染まって行く。

 どうやら恥ずかしく思ったらしい。


「下衆、儂とて女子の端くれ! 交尾の一つや二つ……」


「一つや二つ?」


「…………ぐっ、ぐぐぐっ、おのれ下衆め! 女子の儂に何て破廉恥極まりない事を述べさせる気なのじゃ! この助兵衛野郎め!」


 怒鳴られた、話を振って来たのはそっちなのに怒鳴られた。

 だったら最初から話さなければ良いんだよ、理不尽だなちくしょうめ。 


「ふぅ、まあ今回はこの辺で勘弁してやるかのう」


「逃げたな」


「下衆、今何か言ったか?」


「な、何も言ってません!」


 いやいや、まさかミラエルとこんな話をするとは誰が予想出来たか。そう言えばここ最近ミラエルが優しくなった様に思えてならないのだが気の所為かな?

 もしそうなら少しは仲間って認めてくれた、とか? そうだと嬉しいけどな正直な話。


「お、そうじゃ思い出したぞ下衆、お主に訊きたい事があったのじゃ」


「俺に? 一体何ですか?」 


「うむ、ちょっとした疑問じゃ。これまでお主の戦い方を見せて貰ったが、ケルベロスから借りた『結晶の碧』を使っておろう?」


 肯定する。


「不思議じゃな、何故それしか使わぬのじゃ?」


「え? それしかって……」


「ケルベロスからはもう一つ借りておるのだろう? 何故使わぬのじゃ?」


「何故ってそりゃあ戦闘じゃ使えないからですよ。『紅の帰還』は地獄の住人をヘルヴェルトへと送り帰す力ですから」


 亀裂が出来てしまったマンションでの出来事では『結晶の碧』を使って住人を束縛し、『紅の帰還』で帰していた。

 人間界からヘルヴェルトへの借りの道で門だ。しかし一方通行、ヘルヴェルトから人間界へは行けない。送る専用の力だ。そうミラエルに説明する。


「うむ、それは知っておる。ケルベロスは昔から知っておる仲じゃからな。下衆、紅の帰還の本質はなんじゃ?」


「本質って……えっと一種の空間転移だったかな? …………あれ?」


 人間界からヘルヴェルトまでの一方通行。ヘルヴェルトからは人間界へは無理。

 だったら……。


「気が付いたか下衆? 全く無知よのう。“それ”さえ知っておれば戦いは楽になっていたものを」


「じ、じゃあ“それ”が可能なら……飛躍的にパワーアップじゃないか、な、何で今まで気が付かなかったんだ」


「ミラエル……さん、今から練習して来ますから先に寝て下さい」


「そうか、じゃがあまり無理をするなよ下衆? 明日に障るといかんから程々にのう? では儂はまた夢でも見るかのう」


 スタスタと洞窟へと戻って行くミラエルの背中を見送ると俺は『紅の帰還』を発動させた。

 瞳の色が赤へと変貌し確かに発動していると知らしめた。


「もし仮説が正しいならヘルヴェルトで『紅の帰還』は有用な能力になるぞ」


 そう信じて特訓を始め気が付けば小一時間程経過していた。疲労感が凄まじい、あまり使っていなかった力だ、慣れていない為余計に体力が削られた。

 明日はまた暴れ回る住人達を止める為に働く、だからもう休む事にした。洞窟に戻るとリリリはいびきをかきながら爆睡、ミラエルは耳を押さえながら眠る。

 ちなみにミラエルのツノは元気なさげに下に垂れ下がっていた、元気がない、悄気ている時のツノだ。

 リリリの奴妙なところで仕返しとはな、ただ本人に自覚は無いだろうが。横になり瞼を閉じるとすんなり夢に落ちた。









 翌日は一番最後に起床したのは言うまでも無いかも知れない、昨日の鍛練が響いているのだろう。

 だが俺は納得が出来ない、なんせリリリが俺の腹の上に飛び乗って起こして来たのだから。


「起きやがれですよう!」


「げふっ!」


「きゃははは! ネボスケしゅんがやっと起きやがったですよう!」


 朝っぱらから何人の腹の上で騒いでいやがるんだこのガキんちょめが! お仕置の為リリリの両脇に手を侵入させてこちょこちょ。


「ううっ! き、きゃははは! や、止め……きゃははは!」


「このガキんちょめ! どうだほれほれ!」


「へ、変態しゅんめ! きゃははは! や、止めてくらはいれすよう! きゃははは!」


 いやいやちょっとスッとしたがいつの日かリリリに壮絶なお仕置を敢行したいものだ。

 そうすれば生意気な事を言わなくなるだろう。


「ううっ、お、乙女の脇に手を入れるなんてしゅんは変態野郎ですよう! このセクハラ!」


「ちょっと待て、お前セクハラ何て言葉を何故知っている?」


「ううっ? 何故って先輩から聞いたんですよう!」


 スミスから教えてもらっただと? 一体誰から教わったのやら。まあそんな事はどうでもいい、未だ腹に跨るリリリを退かし起き上がる。目覚めは最悪だがこれはこれで良い目覚ましかも知れない。


「あれ、ミラエルは何処行った? 見当たらないけど」


「とっくに外に出て朝ご飯探しに行ったですよう。リリリはしゅんを起こす任務を任されたんですよう! みっしょんこんぷりーと! ですよう!」


「そうかい、ですよう野郎」


「リリリは野郎じゃねーーですよう! かわゆい乙女ですよう!」


 ですよう野郎はほっといて取りあえず外へと出て空を見上げると見事な真紅、あれが青だったらな。人間界の空が恋しい。

 背筋を伸ばし、肩も。ゴキゴキとなり妙な格好で寝ていたらしい。寝違えたか少し首が痛い。

 どんな事にでも対応出来る様に準備運動がてらに体操を。


「しゅん」


「ん? 何だよリリリ」


「朝から体操をしているしゅんを見ていると……おっさん臭いですよう」


「テメェ、カッチンコッチンに固めるぞこら!」


 こいつはそんな事しか言えないのか本当に、溜め息を一つ吐き出すと空から気配を感じ見上げる。

 翼を羽ばたかせた騎士ミラエルが手に木の実を携えて帰還を果たす。


「ようやく起きたのか下衆、昨日は頑張り過ぎたのか?」


「まあそうかも知れないですね」


「ううっ? 頑張り過ぎた……ですよう?」


 疑問に思ったのだろう、リリリが首を傾げて神妙な顔を。

 昨日こいつは爆睡だったからな、俺達が夜中に話していた事なんざ知らないか。


「ううっ……しゅんが頑張り過ぎた……ミラエル様が知っている出来事……しゅんは男でミラエル様は女ですよう…………うううーーっ! ハ、ハ、ハレンチですよう! 淫らですよう! いやんえっちぃ~ですよう!」


 大々的な勘違いをしたであろうリリリは真っ赤な顔になって俺らを交互に見詰めていた。

 顔が真っ赤だ、ちなみに頭から湯気が見える様な気がするな。


「や、やっぱりしゅんは変態だったんですよう! 人妻な先輩を狙うくらいですもんね、いつかはがっつく気がしてたですよう! この手当たり次第男め! まことが可哀相ですよーーう!」


「はぁ、あのな俺がミラエル……さんとそんな事になる訳が無いだろうが! 大体リリリ、お前そんな事しか思えないなんてお前がやらしいんじゃないのか! この発情小娘!」


「うううーーっ! リリリはそんな女じゃねーーですよう! エッチって言った方がエッチなんですよう!」


「お前から言ったんだろうが! それにエッチって自分で言ってるじゃないか! しかも二回!」


 ガミガミと言い争う人間と見習い死神は死闘を繰り広げた挙句は……。


「五月蠅いわ! 黙らぬか下衆にガキ! 儂の剣で微塵切りに処すぞ! さっさと朝飯を食わんか馬鹿者が! 軟弱な思考回路を殴って修正してやろうか! ああ!」


「ひぃ! すいませんでした!」


「うううーーっ! ごめんなさいですよう!」


 ミラエルの一喝で幕を閉じるのであった。

 やっぱりミラエル怖い。

 そそくさと食事をして出発した、これから崖の頂上へと赴き暴れ回る住人を静めに行くのだ。この上には森があり、昨日そこで住人を静めて回ったのだが何匹か逃げ出した為それを追いかける事にしていた。

 何故操られているのか分からないがたとえ数匹でも放っておけないとミラエルが言う。

 さてと、仕事の始まりだ。数日やって来た事だしもう慣れたが蜘蛛に似た奴が出ないかハラハラしている。


「飛ぶぞ下衆にガキ」


「了解ですよう!」


 リリリが俺を背中から抱き締めそのまま空へ。

 続いてミラエルも飛翔。


「気を引き締めて行くのじゃぞ?」


「了解ですよう、リリリちゃん頑張っちゃいますですよう!」


「了解、こっちも頑張りますよ」


 数秒で空へと舞い上がる。

 最上に広がるのは広範囲なる森、この一面見渡す限り全てが樹木である。ただ少し人間界ではお目にかかれない風景が広がっていた。

 葉も枝も何もかも白一色の森、白色の森と呼ばれている場所らしい。この樹木は普通の木と違い強度が高い。枝は鋼の如く硬いが柔軟性を有していて柔らかい。

 葉も鉄板の様に硬く鋭いのだ、つまりは葉そのものが凶器となりうる。


「良いか下衆、前にも申したが森に入ったら頭上を常に注意するのだぞ? 時々葉が落ちてくるのでな、下手をしたら即死じゃ」


「そうなんですよう! 変態しゅんは間抜けだから気をつけないと切り刻まれちゃいますですよう!」


「ガキ、一番心配なのはお主なんじゃがな?」


「うううーーっ! リ、リリリちゃんは大丈夫ですよう! ……多分」


「まあ良い。さっさと中へ入るぞ? 暴れ回る住人はこの森に潜んでいる筈じゃ。見つけ次第救済か削除じゃ……では散るか、またこの場所に集合じゃ、迷うで無いぞ?」


 こうして俺達はバラバラに白色の森へと踏み入る。

 ここからは何が起きるのか分からないからな、常に結晶の碧を発動させながら進む事にした。

 言われた通り頭上も注意、しかし地面も注意しないとダメだ。何故なら落ちて来た葉が突き刺さっていて踏んだら大怪我だ。上も下も注意しながら迷わない様に木々に氷を張り付かせ印を残して行く。

 こうすれば迷わなくて済むだろう。


「しかし、頭上も地面も気にしつつ森に迷わない様に印を付けながら住人を探す何て……気疲れするぞ」


 しかも森は広大と来ている、大変だこりゃあ。

 リリリの奴、今頃頭に落ちて来た葉が刺さってたらウケるけどな。

 間抜けなリリリの姿を思い浮かべながら森の奥へと進めて行く、途中約3回程頭上から葉が落下して来て危うく串刺しになるところだった。

 あれは心臓に悪い、なんたって鼻のスレスレを落ちて言ったのだから。


「危ねぇ危ねぇ、危うく鼻が真っ二つになるところだった……ふぅ、しかし何か妙だなこの森」


 昨日この森に入っているのだがその時は小動物らしきものを見た。ランクDの住人だって見掛けたんだ、それなのに今まで進んで来て一度も生物に出会わない。

 まるで無人の世界だ。まあ人は居ないだろうが無生物と言おうか。かれこれ30分は進んで来ただろう、生物に出会わないのも不思議だがもう一つ気掛かりな事が。


「……んーー、多分入って5分くらいから……みたいだな」


 ある気掛かりが渦を巻いて俺を悩ませていた、最初は気の所為かと自身を疑ったがようやく今になって確信出来たらしい。

 ここに入ってから約5分後から……誰かに付けられている。

 姿は見えないが今になって気配を感じる、それに視線。これが強烈に突き刺さるのだ。

 嫌な奴だな、ストーカーみたいで。推測を立てるならランクSの地獄の住人だろうか。

 しかし何故見ているだけなんだ?

 俺を食料にしたいならさっさと襲って来れば良い、機会を伺っているのか? だったら今まで隠して来た強烈な視線と気配を表さない筈だ。 何が目的だ? 気配を出しているなら自分をアピールしている、つまり隠れている訳じゃない?

 ああもうごちゃごちゃ考えても始まらない、直接奴に訊いた方が早い!


「出て来いよストーカー野郎! 俺に何か用か!」


「やっと声を掛けてくれたね?」


 中性的な声が反響する、それが鼓膜を震わせ脳に伝え心臓を激しく働かせた。

 ドクンからバクンと音を変化させ血液が暴れ回る。


「いつ声を掛けてくれるかずっと待ってたのに」


 様々な感情が食い込む。驚愕、怒り、憎悪、これらがこの声を苗床とし、成長を初めて開花。

 こいつだけは、こいつだけは許す訳にはいかない。


「お前は!」


「久し振りだねその他、元気そうだし……キヒ、キヒヒ、キヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!」


「ロゼリア……!」


 まこちゃんを一番苦しめた張本人、そして俺の右目を抉り出した悪魔ロゼリア。森の奥より堂々と姿を晒した。


「キヒヒヒヒヒ! 元気だったぁ? キヒヒヒヒヒ、ねぇねぇ、皆川真はどうしてるのかな? キヒヒヒヒヒ!」


「黙れ! テメェの笑い声は癇に触るんだよ!」


「キヒヒヒヒヒ、ワタシの笑い方をとやかく言わないで欲しいなぁ……キヒヒ、で? 皆川真とはよろしくやってるの? キヒヒ、“もちろんちゃんとやってるもん、ね~しゅー?”」


 また自らの声をまこちゃんの声へと変えて遊び始めた。


「“私をいっぱいいっぱい愛してくれたよ? しゅーったらベッドの上だと甘えてくるんだよ、私の胸に顔を埋めて甘い声で……”」


「止めろ! まこちゃんの声を汚すな!」


「キヒヒヒヒヒ、なんだよせっかく愛しのまこちゃんを聞かせてやったのにそれは無いよ……キヒヒヒヒヒ!」


 怒りで頭が変になりそうだ、とにかく落ち着け。

 何故ここにこいつがいるのかを確かめないと、ぶっ飛ばすのはその後だ。


「どうして貴様がこんなところにいやがるんだ! それだけじゃない、ヘルヴェルトで一体何をやらかそうってんだ! 地獄の住人を操っているのはお前らなんだろ! 答えろ!」


「うざいし。いっぺんに質問して答えられる訳ないし……キヒヒ、でもちゃんとした質問をしたって教えてあ~げないしぃ~! キヒヒヒヒヒ、そうだなぁその他、お前が素っ裸になって土下座したら教えてあげても良いよ~? キヒヒヒヒヒ!」


 くそ、完全に舐められている。だったら力尽くで訊き出してやろうじゃないか。

 と、そんな決心をした直後妙な音が鼓膜をつつく。

 それは物音、蠢く黒の足音。


「キヒヒヒヒヒ、遊ぼうよその他、ワタシ今暇なんだよ……キヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!」 


 木々に黒い斑点が出現し這いながら増殖して行く、気が付けば周り全てを黒が覆う。

 ロゼリアの蟲が周りを囲んでいる、既に逃げ場は無い。

 戦いは避けられない展開へと突入して行くのだった……。


 



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