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地獄世界のヘルヴェルト  作者: 生獣屋 芽怠
第六章 炎雷のアトラ
30/75

決定された今後

 

 抉るかの如く苛立ちが蝕み始める、オルトロスであるルトと二人だけで会議の間に向かう事が非常に嫌だった。家族を何とも思わない外道と何故一緒に歩かなければならないのか。

 悪魔は去ったがまだこれから俺とまこちゃんの運命が決まると言う時にこいつが横にいると考えるだけで気が滅入る。

 だから無言を貫き歩くのだ、嫌な奴だと思ったがそれ以上に嫌な奴だった。


「おやおや、ご機嫌が斜めですね雄、今から会議だと言うのに……まさか緊張からですかその苛立ちは? それともルトの事、じゃないですか?」


 喋り掛けて来るな、鬱陶しい。


「どうやら後者だったらしい。さすがは兄が甘やかした人間だ、あの程度の話で取り乱すとは」


「……あの程度、だと?」


「おやおや、どうやらお気に召さない単語が会話の中に含まれていたらしいですね? 良いですよその表情、怒りに身を焦がす姿が惨めで笑ってしまいそうだ」


「テメェ……」


「何ですその敵意は? ルトと殺り合いますか? 雄等敵では無いのですがね?」


 堪忍袋が破裂する間際、会議の間に辿り着いていた事に気が付く。

 そこには愛しのまこちゃんが笑顔で出迎えてくれたのだ。


「良かった、無事だったんだね」


 と言って駆け寄る姿に安堵が生まれ徐々にではあるが怒りを静まった。

 また無事に出会えた、それだけで嬉しさが沸く。


「ただいま、まこちゃん」


「うん、お帰り」


「まああら、そこで愛しの人にキッスしないなんて佐波峻はフヌケさんねえ?」


「ううっ、無事で何よりですよう、心配したリリリがアホみたいですよう……あ、心配って言ってもちょっとですよう! ミクロンサイズですよう! 勘違いするんじゃねーーですよう!」


 微笑む死神王と騒ぐ駆け出し死神が微笑ましく場を和ませた。


「みんな……」


「うわ、しゅん何ですようその『待っていてくれる人ってこんなにも温かいものなのか、そうかこれが……仲間か』って顔は! ちょっと引いちゃいましたですよう」


「なんだと、このですよう野郎め!」


「うううっ! リリリは野郎じゃねーーですよう!」


 リリリVS俺の口論が激しい攻防戦へともつれ込むと死神王ソフィーネオが何故か参戦しリリリ側に付く。

 こっちも負け時とまこちゃんを誘うが、


「もうみんなふざけないの、これから大変だって言うのに」


「本当ねえ? リリリ、佐波峻、反省なさい?」


「……ソフィーネオも加わってたじゃないか」


「そうですよう」


 不安からか無理矢理場を和ませ様と奮闘したがやはり不安が纏わりついて離れやしない。

 この場で俺達の運命が決まるのだから。


「何を騒いでおる! ここを何処だと思っておるのじゃ!」


 凛々しい一喝がこの空間に反響しとある人物の到着を知らせた。

 騎士ミラエルが新たな鎧に身を覆い部屋の奥より現れた。


「まああら、ミラエルの鎧がさっきと違うわねえ?」


「侵入者との戦いで鎧がダメになったのですよ死神王様」


 オルトロスが説明役を買って出て来た、誰が頼んだ訳でも無いのに。ソフィーネオに媚び様としているのかこいつ?


「鎧がダメに? それって……裸になったのかしら?」


「裸と言うより下着姿ですが」


「そんな、わたしがいないところでそんなラッキーイベントがあったなんて……ミラエルの胸揉みたかった!」


 何言ってるんだソフィーネオは、見ろよ変な事を大声で言うもんだからミラエルのツノが見事な真紅に染まってるぞ?

 でもま、ソフィーネオらしいって訳か、多分俺達を和ませ様としてくれてる筈だ。


「ルト、分かるかしら? わたし唯一揉めて無いの、ミラエルの胸だけ揉めて無いのよ!」


「は、はぁ……」


「もう! もうもう! ミラエル、今直ぐここで鎧脱いでくれないかしら!?」


「し、死神王様、何を戯れた事を言うのじゃ!」


 和ませて、くれてる訳じゃ無い様だ。


「……死神王、それは破廉恥だぞ?」


 獣王すら呆れていた。


「獣王ゼルガ、わたしの唯一の楽しみを知っていますでしょ? 可愛い女の子の胸を揉む、わたしの生き甲斐なのです! 別にレズでは無いけど、あの柔らかな二つの膨らみ、芸術と言っても過言では無いの! その形を揉みくちゃに出来るのであればそれはもうわたしの本懐を遂げるのよ!」


「ううっ、ソフィーネオ様が熱くなり過ぎちゃったですよう! こうなったら誰かのを揉むまで止まらないんですよう!」


 獣王とルト、後はリリリとまこちゃん、最後に俺とミラエルは呆れ果ててしまうのだった。

 ソフィーネオは仮にも死神王なのだが今の姿はただの危ない奴に成り下がっていやがった。終いには熱く深く女性の胸について語り出す始末。これは暴走だ。


「と、そんな訳だからミラエル、貴女は鎧を脱ぎ捨ててわたしの前で胸を差し出しなさい。そうすれば世界は平和へと導かれます!」


「意味が分かりませんぞ死神王! 儂の胸は誰にも触れさせぬ! 触って良いのはただ一人、それは…………おほん、とにかくおとなしく地獄王様を待って欲しいものじゃな……あの侵入者と同じ匂いがするのう死神王様は」


 何だか微妙に爆弾発言らしき言葉が混じっていたような気がするが、死神王を静める為にリリリを犠牲にする事を考案しよう。

 まこちゃんは絶対ダメだ、ならリリリしかいないだろう。


「ソフィーネオ、リリリが自分で憂さ晴らししてくれって言ってるぞ?」


「な! 何言うですよう変態しゅん! リリリは……」


「まああら、それはそれは有り難いわねえ? それでは頂きます!」


「ま、待つですよう! 待って……ひにゃあああああああああああああああああああですよーーう!」


 リリリは生け贄と相成った。

 とまあ馬鹿をしたおかげで多少は気が楽になったと思う。







 それから数分後、地獄王アフトクラトルが現れ三王会議が始まる。

 銀の二本ツノに金の髪、右目には亀裂の様な穴が開き、中に赤く光る瞳が浮かぶ。それ以外は優しそうな若者に見えるこいつが地獄王アフトクラトル。

 会議の間に置かれた三つある椅子に腰掛け皆を一瞥。

 後ろに控えるのは騎士ミラエルだ。


「久方振りだね死神王に獣王、元気そうで何よりだ」


「本当ねえ? 三王が顔を合わせるなんて本当に久し振り」


「……同意する死神王、小生らが会うのは地獄王就任の儀以来か」


「そうだね、ボクが王に就任してもう何十年も歳月が流れたから……さてと、挨拶はここまでにして一つ訊かなければならないかな、どうして……あの子は倒れているんだい?」


 地獄王が指差す方向にはリリリがぐったりとして倒れていたのだ。笑って誤魔化すソフィーネオ、あんなにリリリを弄んだのに誤魔化すとは。少し気の毒に見えて来たぞリリリの奴、ま、後で謝ってやるか。


「色々あって疲れてしまったの、だから失礼だけど休ませて貰えないかしら? リリリはほっといて会議を始めましょう!」


 酷い、と地獄王を除いて全員が思う。ついでにあんたの所為だろうがとも一致した考えをしたことを心を読めずとも読めた。

 非難の瞳がソフィーネオに集中するが当の本人は応えている様子は無い。


「良く分からないけど死神王、獣王、会議を始めて大丈夫だよね?」


「大丈夫です」


「……小生に異論は無い」


「では始めるよ? ……二人は今ヘルヴェルトで起きている不可思議な現象を知っているよね? ミラエルの調査で明らかになったのはランクAからDまでの住人が何者かに操られているらしいと言う話だ。屍に取り付き操るタイプや知力が低い住人を生きたまま操るタイプ、それらが各地で暴れているとの情報が入っている……」


 ようやくこの場に緊張感が漂い始め皆の表情に鋭さが表れた、ソフィーネオも笑顔を止めていた。


「被害状況を知りたい、獣王はどうだったかな?」


「……小生が住居する森でランクAからDの住人が突如暴れ出し何とか鎮圧した、邪悪な気を感じ操られているのは分かったが……その邪悪な存在が何なのかは分からぬじまいだ」


 地獄王の視線がソフィーネオに向けられる。


「死神の箱庭に決して近付かない筈の住人達が群を成し、向かってきました。それは屍に取り付くタイプのものでわたしの独断により消滅させました。もう助からない、それ以前に死んでいましたから……。それと申し上げなければならない事が、この人間達のおかげで敵の正体に一番近いと思われる情報を得ました」


「正体が分かった!? 死神王、それは一体……それに人間が何故ここにいるのかを話してくれるね?」


 地獄王からの問い掛け、ここからが本番だ。


「正体を述べる前にこの人間達の事を話した方が敵を理解しやすいと思います。だからまず彼らがここにいる理由を語りますがよろしいですか?」


「分かった、死神王がそれを優先だと判断したなら聞こう」


「彼らはあのヘルズゲート事件の人間達です」


 との言葉に獣王が反応を示した、今思えば現段階で俺達の正体を知らないのは獣王だけだ。

 地獄王はスミスから話を聞いていたらしいから容易に想像出来ただろう。


「……驚愕だ、ヘルズゲート事件、ケルベロスが担当していたゲートで起きたゲート亀裂のあれか! つまりそこにいる女が門を開く人間……男がケルベロスが力を与えて仮の門番に仕立てた人間なのか」


「その通りです獣王、彼らがその人間達……今回のヘルヴェルトにおける異変は彼女、皆川真の力を狙った族が起こしている確率が非常に高い」


「皆川真の力を狙った族? それがヘルヴェルトに異変を起こしていると言うのかい?」


「はい。その族の目的は不明ですが皆川真の力を狙って襲い、一時的に拉致され彼女に拘る人々の記憶を改竄し拉致すら気付かせぬ様にしました。ゲート事件の舞台となった建造物にはケルベロスが張った結界があり、そのおかげで彼佐波峻だけは改竄を免れ皆川真の救出に出向いたのです。

 しかし敵は強大な為危うく、敵が皆川真の精神を痛め付け追い込んだ為に力が暴走しこちらへとやって来た。その時に敵もこちらへとやって来たと見て間違いないでしょうねえ。死神スミスが彼らを保護しわたしに頼り今に至ります」


 掻い摘まんで今までの経緯を語ってくれた、興味深そうに地獄王は聞き入る。

 ここで当然の疑問を地獄王が投げ掛けた。


「その敵とは何なんだい?」


「その敵とは……悪魔」


 一気に場に緊張感が走る。地獄王や獣王、そしてあのルトも驚いているらしい、目を丸くして話に耳を貸す。


「……馬鹿な、死神王忘れた訳ではあるまい? あの戦争で先代の地獄王が悪魔を封印し、二度とヘルヴェルトに現れ無い様に施した事を!」


「分かってるわ獣王、しかし確かにわたしは住人を操る悪しき力を感じた、それに佐波峻の話によれば敵も自らを悪魔と名乗り……黒い血を流したと」


「……それは本当か人間!」


 驚愕に捕らわれた獣王が俺を睨む様に問う。


「本当……です、黒い血を流し、自分が悪魔だと言った……それにさっき侵入してきた奴だって奴等の仲間で悪魔だ」


「おやおや、あの痴女たるレディが悪魔とは……」


 愉快そうにミラエルを一瞥しながらルトがあざ笑う。

 こいつこんな時でも馬鹿にするのか。


「ではあの侵入して来た女が悪魔何だね? 確かに悪しき気を感じていたけどまさか悪魔とはね……ボクはまだ信じられないよ、二度と現れる筈の無い悪魔が人間界にいる事すら驚きだ」


 信じられないと言わんばかりに地獄王が思案に(ふけ)る。

 しかし現にあのメイディアの力を目の当たりにした筈だ、重度の火傷を一瞬で治し、完全に気配を消して逃走したのだから。


「とにかく敵が悪魔であるか否かは不問としておこうか、この議題で一番の論点はヘルヴェルトの異変。あんな邪悪な力を持つ侵入者が何者であれ、異変を起こしている可能性が高いと考えるのは今のところ妥当だとボクは思うよ? どうかな獣王」


「……小生は地獄王と同意と答える。敵は何者であったとしても異変をもたらしている可能性が極めて高い。それに敵を捕獲すれば正体は自ずと分かろう」


 つまり何者だとしても倒すか捕らえてしまえば異変への謎へと近付くって事だと思う。

 確かに奴等を捕まえて正体を訊き出した方が手っ取り早いからな。


「地獄王、わたしに提案があります」


「何だい死神王?」


「ここにいる人間、佐波峻と皆川真は敵に襲われ自らの意思では無く無理矢理ゲートを開かされてヘルヴェルトにやって来ました。しかし彼らは敵をその眼に焼き付けています、つまり現段階で敵を一番知っています、ですので……」


「ここへ侵入した罪を敵討伐、もしくは捕獲に協力させる変わりに見逃せと言いたい訳だね死神王?」


「その通りです」


 等々俺達の未来が決まる場面に出くわした、地獄王の言葉一つで全てが決まる。不意にまこちゃんへと視線を移す、やはり不安げに俺を見詰めていた。

 そして地獄王が口を開く。


「何を言ってるんだい死神王、たとえどんな理由だろうと掟は掟何だよ。ヘルヴェルトに人間は入ってはならない、それは絶対だ。つまりもう君達は罪人であり処罰を受けなければならない。よって人間、佐波峻と皆川真は極刑……生きたまま地獄の炎へと入れ身を焼かれて行き魂を取り出し更なる苦痛を与える、覚悟を」


 頭が真っ白になって行く、俺達はもう未来は存在しない。


「……と、しなければならないのが通常だ。先代の地獄王ならそう言っていたかもしれないね……でも死神王の言う通り自らの意思で来た訳では無く敵により来てしまった、それに敵を一番知る貴重な情報源を粗末には出来ないからね」


「それじゃあ彼らを許してくれるのですか地獄王!」


 俺達に笑みが生まれた、リリリ何か飛び跳ねて喜んでる。


「喜ぶのは早いよ? 条件がある」


 喜びも束の間、笑みは霧散し消え行く。確かにタダで許して貰おう何て厚かましいか。

 一体条件とは何だ?


「まず一つ、人間佐波峻はボクらに協力して敵の捕獲もしくは討伐に協力する事、但し君は一人にさせる訳にはいかない。なので……そうだな、ミラエルとこれから行動を共にして貰おうかな? 彼女には敵の捕獲及び討伐の命を出す、なのでミラエルのサポートをする事。これは佐波峻の監視も含んでペアを組ませる訳だ、それにミラエルと行動させる事により行く先々で人間がいる理由をミラエルが話せば妙な騒動は起きないだろう? そして二つ目、勝手な行動はとならい事。三つ、こちらの指示に必ず従う事。これを飲まなければ直ぐに極刑だ、どうだい佐波峻?」


「分かりました、協力します」


 こっちだってその提案は願っても無い、奴等を野放しにしていたらまこちゃんがまた危険な目に合うかもしれない。

 ならばその前に倒す、俺がこの手で。


「ミラエルはそれで良いかな? 急な決定だったけど」


「儂は地獄王様に従うだけじゃ。しかし儂一人では下衆を逐一監視出来るとは限らん、じゃから……ああ丁度良い、そこの新人死神、儂の手伝いでその下衆の監視と儂の仕事を手伝え。良いだろう死神王様?」


「まああら、リリリは人気者ねえ? ちょっと寂しいけどこれも勉強だと思って手伝いなさいリリリ?」


「うううーーーーっ!」


 自分には関係ないなと聞いていたリリリは目を見開き驚愕していた。

 まあいきなり言われたらびっくりするよな。


「な、なな、何でリリリなんですよう! それにどうして監視がもう一人いるですよう!?」


「儂とて隙がある、排泄行為、体の清め、睡眠等の隙じゃ。その間にそこの下衆に勝手な真似をされたら困る。そこでガキ、貴様も見張りに付けば効率が良いであろう?」


「ううっ、そ、それはそうですが何もリリリじゃなくても……ですよう」


 ギロリとリリリを睨み付ける騎士、それだけで縮こまる新人死神。


「貴様以外有り得ぬであろうが! 地獄王様と死神王様と獣王様は無論除外じゃが、ルトは獣王様の守護、人間の女は問題外、ほら貴様しかおらぬではないか」


「ううっ! で、でもでも……」


「貴様、これ以上口答えを申すならば……微塵切りじゃぞ?」


 鞘から剣を抜き出す。


「うううーーーーーーーーっ! リ、リリリはいつでも何処でもお利口さんなので頑張らせて貰うですよう!」


 あっけなく落ちたか。つまりミラエルとリリリ、そして俺は敵を捕獲及び討伐の任務に着くって訳か。

 後はまこちゃんだ、どうなるのだろうか?


「話がまとまって良かったよ。さてと、次は皆川真の事だ……君はボクの指示に従うだけで良いよ? 但し拒否すれば直ぐに処罰を下す」


「わ、分かりました、指示に従います」


「では指示を伝えよう。皆川真、君はこれから行動そのものを禁止させる、王宮の監禁室で事を終えるまで一切出るのを許可しない、無論王宮外へ出るのも禁止だ」


 何だよそれ、それじゃまるで刑務所に入れられた犯罪者じゃないか。確かにヘルヴェルトに入る事態が罪だがそれは今回俺達の協力で免除されたんじゃないのか?


「ち、ちょっと待って下さい! それじゃまこちゃんが可哀相過ぎるじゃ無いですか! まこちゃんは何も悪くない、なのに……」


「佐波峻、落ち着きなさい。これでも地獄王様は譲歩してくれたのよ? 本当なら殺されても文句が言えないのよ?」


「それは分かっているよソフィーネオ! でも、それでも監禁だなんて俺は納得出来ない! だいたい……」


「しゅー落ち着いて! 私は大丈夫だから、だから落ち着いて?」


 一番辛いのは自分なのにまこちゃんは笑顔で俺を制する、若干ではあるが彼女の笑みが渦巻く精神状態を緩和してくれた気がする。

 そっと彼女の手が俺の手を包む。


「私は一度死ぬ運命だった、でもしゅーのおかげで今がある。今回だって死ぬ瀬戸際だったけどまた生かされた。それは凄く幸せな事だと私は思う、だって命が有る限り私達はまた巡り会える、どんなに離れていたって私はまた会えるって信じているから平気だよ。あの出来事で記憶を封印されて貴方の前に現れた時の私はしゅーからしたら遠かった、でも記憶が戻って距離は重なり今がある。ほら、一回は離れたけど繋がった。だから私達はまた会えるよ、根拠は無いけど……分かる、また私はしゅーの隣りで笑うんだって。だから私は大丈夫、しゅーはしゅーの使命をやらなくちゃ、私も頑張るから!」


「まこちゃん……分かった、分かったよ、必ず敵を片付けてまこちゃんを迎えに来る。そして一緒に人間界に帰るんだ、俺達の世界に君と一緒に帰る! 約束だ」


「うん、約束……ね?」


 彼女の笑顔が力になる、俺は彼女がいなかったらきっとつまらない人生を送っていたと思う。そんな灰色の世界を君が着色してくれる、きっとそれはどんな困難も乗り越えて行けると……信じている。


「決心はついたみたいだね? 皆川真、君はもう普通の人間では無い、門を開く力、それを有しているのだから。この王宮に監禁するのは見張る事と敵から守る為、それに監禁室と言っても牢獄では無く清潔感ある部屋を用意する、何も危険な事は無い」


「はい、私は地獄王様の指示に従います」


「うん、理解があって助かる。ではこれからの事についてまた議論をしようか、その間皆川真と佐波峻は退室を。ミラエル、部屋に案内してあげてくれ、会議が終わるまでそこでおとなしくしていて欲しい」


 別室? ここまで話をして会議から外されたぞ? 敵を知っている俺らをどうして離すんだ?

 疑問だらけな思考を見透かす地獄王はニコリと爽やかに笑みを浮かべた。


「心配しなくてもちゃんと会議の結果を伝える。それに敵の情報だって後程訊く、まあ会議はまだまだ長く掛かるからゆっくりとするといい。ミラエル頼む」


「承知しました。下衆、人間の女、儂に付いて来い」


 こうして俺とまこちゃんだけが別室へと移動させられた。退室する前にソフィーネオとリリリを見る。悄気ているリリリと微笑むソフィーネオが俺らに片手を小さく振る姿を視界に納めてから廊下へ。

 無言のまま騎士ミラエルの後に続くと明るい部屋へと招かれた。白をベースにした四角い部屋はやはり近代的な造りだ。真ん中に雲の様なふかふかした座布団みたいな柔らかそうな物体があった。


「なんだあれ?」


「あれはヘルヴェルトのみに存在する植物の花じゃ。人間界で言わば綿の様なものじゃな、ふかふかしてあれの上で寝転んで寛ぐと気持ちが良い。あれで仮眠を取るも良し、二人で寄り添うも良しじゃ……では会議が終わり次第儂が迎えにくる、それまでここでおとなしくしておれ……良いな?」


「あ、ああ……」


 まだ理解出来て無い、会議中に悪魔の事を話したって良かった筈なのに。

 訳が分からない。


「では儂は行くぞ? ……ここには時間まで誰も来させぬゆえ、緩りとな」


 そう言って退室する騎士だった。


「何なんだよあれ、訳が分からないぞ」


「しゅー、本当に分からない?」


 ふわふわに飛び乗り感触を楽しんでいたまこちゃんが謎かけの様な事を言う。


「まこちゃんは分かるのか?」


「大体かな……地獄王さんやミラエルさんは優しいなぁ」


 優しい?


「どう言う事なんだまこちゃん?」


「憶測だけど、しゅーが手伝いをし始めたらきっと私達は当分会えなくなると思うんだ。だから……地獄王様はそんな私達の為に二人だけの時間をくれたんだよきっと」


 敵の捕獲及び討伐、それは簡単な事では無いだろう。それに無事に終えられない可能性だって孕んでいる。

 そうだ、こうしてまこちゃんと二人きりの時間何て今だけじゃないか。任務で他の場所へ行って直ぐに戻って来る可能性は低い。

 ならこれは本当に貴重な時間だ、彼女との二人だけの時。


「ね? 優しいって思えるでしょ?」


「……そうだな、きっと今は凄く貴重な二人だけの時間なんだ」


「うん、この時間だけは二人だけのもの……ねえしゅー、私を強く抱き締めてくれない?」


 自然と体が動いた、ふかふかする雲もどきに腰を下ろし力強く彼女を抱き締める。華奢な体は彼女の体温を運び知らせる。温かい。

 触れてから初めて気が付く、彼女が震えている事に。


「私はここで待つ事に異論は無いよ、ただね、怖いのは、恐ろしいのは……しゅーが帰って来るかって事だけなんだよ。出向いた先で何かあったら……無事でいるのかって考えるだけで震えるんだよ。しゅーが帰って来ない、それだけが一番怖い、堪らなく怖い」


「帰って来る、俺は必ず皆川真の元に戻る、これは決意で約束だ」


「うん、待ってるよ。待ってる」


 見つめ合い、そのまま唇を重ね合う。これは誓いの口付け、必ず帰って来ると誓う行為。それから彼女を求める、深く、深く刻み付ける様に優しい時間を共有し合った。

 事を終えた後俺の腕を枕に安らかな寝息を漏らす彼女を見つめる。

 失いたくない、もう彼女は帰る場所となっていた、指で髪を梳き生きて帰ると強く心に刻み付けてもう一度彼女と口付けをした。







 

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