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地獄世界のヘルヴェルト  作者: 生獣屋 芽怠
第六章 炎雷のアトラ
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再来の悪魔

 

 それを認めるしか無いのだろう、視界に蠢く女を睨み眉間にしわを寄せた。間違いなくそこで笑っている女は悪魔なのだ、皆川真を拉致した仲間の一人。

 メイディア、そいつが間違いなくそこにいる。


「何でお前がここにいやがるんだ!」


「それはわたくしの台詞でもありますのよ? 貴方こそどうしてここにいますの? わたくしは珍しい球体に興味を惹かれてこの中に侵入しましたの、そうしたらいきなりそこの野蛮な騎士が襲ってきましたのよ? レディに刃を向けるからお仕置しましたわ……貴方がここにいるのなら、皆川真もいるのかしら? それとも死んじゃいまして?」


「誰が言うもんかよ、まこちゃんを付け狙う奴に小さな情報だってやるもんか!」


 奴を見ているだけでも煮えくり返る、こいつらの所為でまこちゃんがどんな目にあったか。

 その所為で記憶の一部を喪失してしまった、ただ幸いだったのは辛い記憶が無かった事くらいだが、それでも許せない。


「ふぅ、全くルトを置き去りにぽんぽんと話を進めないで頂きたいものです、取りあえず貴女は何者ですか美しい人?」


「あら、初めて見る方ですわね? わたくしはメイディア、別に覚えなくて結構ですわ、だってわたくし男は嫌いですから」


「おやおや、そうなのですか。しかしルトは貴女に興味がありますね、貴女は一体何者ですか? 正体を述べなさい」


 現段階で敵が悪魔だと知っているのは俺やソフィーネオ達だけだ。ルトが不思議がるのも無理は無い、敵が悪魔だと知らないのだから。


「命令口調とは優雅さに欠けますわ。わたくしの事を知りたいのならば古来よりの方法で問い正したらどうかしら白髪さん?」


「おやおや、ルトとした事がお決まりを失念していました。戦って(こうべ)を地に垂れさせ吐かせるのがセオリーですからね、お相手してあげましょう」


「ご名答ですわ白髪さん……それにしても貴方を見ていると誰かに似ている気がしますわね? ん~……ああ、赤髪さんに似ている気がしますわ、スーツといい喋り方といい」


 赤髪、まさかルベスの事を言ってるのかこいつ?


「……貴女に一つお訊きしたいのですが、まさか赤髪とはルベス、ケルベロスの事ですか?」


「あら、白髪さん赤髪さんをご存じですの?」


「ケルベロスは兄です。そしてルトは弟のオルトロス」


 そう答えた瞬間にメイディアは甲高い笑い声を響かせこちらを不快にさせる。

 何がおかしいのだとルトが目を細め不可解に取り憑れていた。


「何がおかしいのです?」


「ふふっ、だって貴方が赤髪さんの弟だと知ったら笑ってしまうのは道理ですもの。これは運命なのかも知れないですわね? “抹消した男”の弟に出会ったのですから、これは笑わない方が不思議不思議ですわよ! ふふっ、ふふふっ!」


「今、貴女は妙な事を口走りませんでしたか? 兄を抹消? 馬鹿な、どんなに兄が甘い男だとしても貴女何かに殺られる訳が無い!」


 荒々しく怒りを孕ませた怒涛を言葉に織り混ぜて刺す様にメイディアに向けた。

 しかし女はあざ笑うだけ、惨めだとルトを笑うだけ。


「心配しないでもよろしくてよ? だって赤髪さんは痛みも感じないまま消しましたから……わたくし優しい女ですのよ?」


「決定です、貴女はルトが食い千切ります。骨など残しませんから安心して下さい」


「ふふっ、楽しい楽しい遊びの始まりですわね!」


 急遽、放たれた殺意が絡み合い殺気が世界を覆って行く。重く、息苦しささえ感じてしまうそんな空間で事が起きる。

 動いたのはオルトロスだった、無動作から一瞬の内に軌跡を削りメイディアへと急接近。

 しかし彼女は動揺とは無縁、素早く小指を口に運び噛み切る。溢れ出す黒き血、しかし直ぐ再生され元の五本へと帰す。口内の小指を歯で砕き、擂り潰しながら飲み込む。


「美味ですわぁ!」


「霧散しなさい!」


 下から一筋の何かが伸びる、それはルトの蹴り。右足が彼女の顔面を狂い無く襲う。

 だが獲物に到達する事実は無く、変わりに空気を切り裂くのみ。


「な!」


「ふふっ、遅いですわよ!」


 敵は空中に現れた。高速移動をした?

 そうだ思い出した、メイディアは指を食べると様々な能力を得るのを。小指を食したら素早さが上がった、それが小指の効果か。


「空に逃げるとは無謀ですね貴女は!」


「ふふっ、負け惜しみにしか聞こえないですわ、そらもう一噛み!」


 中指が消える、何とも幸福が似合う顔か、指を食べ笑うとは。

 痛みは無いのか? と、無駄な考えが過ぎるが彼女の行動は早い。

 手の平に漆黒の塊が出現、大きさは30センチ前後か。


「魔弾の根源、さあ身を千切りて行きなさいな!」


 それは粘土を連想させた、黒き球体から千切れる様に次々と弾がルトに降り懸かる。

 弾の雨、それが砂埃を舞わせ地を抉り食らう。


「ふふっ、ふふふふっ! どうかしらわたくしの魔弾のお味は? 美味ではなくて?」


 豪雨は止む事を忘れている、俺は何をボケッとして見ているのか。直ぐに結晶の碧を発動させた。

 瞳が青へと変色を遂げる、右手に意識を集中させて氷を作り上げた。この空間は気温が高く乾燥している為空気中の水分が極めて低い、密閉空間ではあるが絶氷空間を発動するのは困難だ。あれが使えれば直ぐに片付くのだが仕方が無い。

 精々作れるのは手の平サイズ程の氷、それで何とかするしかない。狂喜する女目掛け槍状の氷を放つ、狂い無く突き進む。

 だがそれにメイディアが気が付いていた、魔弾の一つを槍に向け見事に破壊された。魔弾を撃ち終えた彼女は地上に舞い戻りこちらに笑みを向けた。


「邪魔をするなんていけませんわ、でも無意味ですのよ? 力があれど所詮は人間ですもの、貴方の力などままごと遊びと同一、あの時はびっくりしましたけど今貴方は虫けらにしか見えませんわよ?」


「誰が虫けらだって?」


「まぁ、理解能力が乏しいですのね? 仕方がありませんわね、わたくしが優しく教えてあげますわ。もちろん貴方が虫けら、ですわよ? お分かり頂けまして?」


 怒りがざわざわと這い出し今にも支配されそうになる、落ち着けこれは心理戦だ。相手を怒らせ自分を有利にする手法だ、こんなのに俺は引っ掛からないさ。


「怒りで冷静な判断力を無くそうとしたって無駄だ! どんなに熱くなっても冷静に戦う、これが俺の戦闘スタイルだ!」


「ふふっ、そうなんですの? 多分わたくし貴方を怒りの虜に出来ますわよ?」


「はっ、出来るもんならやってみろってんだ」


 こうして長話でルトへの注意を逸しているがあいつまさかあの攻撃で死んでないだろうな? 少し話で時間を稼いであいつが生きているのか判断するしかないか。

 嫌いな奴だが目の前で死なれたら後味が悪い。


「わたくし皆川真がお気に入りですの、あの柔らかな肌、美しい胸部、見事な唇……ああ、わたくし食べちゃいたいですわ!」


「……女、だよなお前?」


「ええ当たり前ですわよ、わたくしは醜い男と一緒にされたら嫌嫌ですわ!」


 ああなる程、そっちの趣味がある女か。と言うかまこちゃんを変な目で見やがって。おっといけないいけない、平常心を忘れるな。


「そんな話じゃ怒りは出ないぞ?」


「じゃあそろそろ出させてあげますわ……皆川真を拉致している間、彼女は意識は無かったのですけれど、その時に……いっぱいいっぱい皆川真の体を隅々までこの目に焼き付けましたわ! 服を捲りブラも取り外し、そしてそしてショーツの……」


「テメェ! 俺だってそんなに見た事無いんだぞーー!」


 カッと頭が熱くなり氷を素早く生成し奴に向け発射。

 見事に狙いが狂っており掠りもしなかった。


「ほら怒りの虜になりましたわよ? ふふっ、皆川真の体は最高でしたわ、未だ目にあの肌が焼き付いて離れませんのよ?」


「て、テメェ!」


「おやおや、やはり雄ですねこれしきの事で取り乱すとは馬鹿としか言えません」


 いつの間にかルトが俺の真横に現れていた。

 何だ無事だったのか。


「せっかく心配してやったのに何だよその口の聞き方は」


「おやおや、雄に心配されるとは自殺ものですよ。でも死にたくないので変わりに死んでくれませんか?」


「テメェ、喧嘩売ってるのか?」


 ざわざわと残りの騎士達は俺達とメイディアを目の当たりにし、どうしたら良いのか困惑に囚らわれていた。そりゃそうだ、いきなり現れた悪魔、それに対抗するオルトロス、しまいには人間の俺と喧嘩まで始めたのだから。


「喧嘩します? ああすいません、ひ弱な人間がルトに勝てる道理が無いですね? これは失礼」


「テ、テメェ! カッチンコッチンに固めてやる!」


「ちょっとお待ちなさいな! わたくしを忘れて喧嘩何て優雅さに欠けますわ!」 


 瞬時、メイディアの薬指が口の中に消える。

 彼女の傍らに存在する約3メートル程の岩に手を添えると指をめり込ませ掴む。


「わたくし少しおつむに来ましたわ」


 まるで綿を持ち上げたかの様にふわりと岩が持ち上がる、彼女の頭上に浮かぶ岩。

 薬指、どうやら怪力になるらしい。


「ペッチャンコになりなさいな?」


 勢いを付け投球、非常に恐ろしい速度でこちらに飛ぶ。素早く横に飛びそれを回避、ルトも反対側に飛び退き躱す。

 が、間を空けずに第二波が俺に迫る。次は先程よりも倍デカい岩だ。もう一度飛ぶ。


「うを! あ、危ねぇ~」


「おやおや、頑張りますね」


「うるさい! お前は戦わないのか!」


「先程は不用意に接近しましたが、あの魔弾は厄介です。それにあの怪力、捕まっても危険です。だから雄、貴方の道化ぶりを眺めて敵の分析と言う訳ですよ……聞いてましたか?」


 さっきから俺に集中的に岩が飛んで来ているんだ、それを躱しながら聞いてる身になれ。


「何で俺ばっかり狙いやがる!」


「貴方が消えれば皆川真はフリーになりますわ、そうしたらわたくしが頂いちゃいますの!」


「ふざけ……うわ! 今のはヤバかった、髪を掠めたぞ」


「ふふっ、じゃあこれは避けられて?」


 遥か天を貫かん勢いの岩が空中に浮かぶ、両手で持ち上げた岩と呼ぶには抵抗を感じる。言うなれば岩山である、数十メートルに及ぶ山を持ち上げていたのだ。

 あんな物を避けられる訳が無い!

 結晶の碧でもあれは壊せない、質量がデカ過ぎる。


「さ、観念なさいな!」


 もう隕石と変わらない、一瞬で視界は覆われ光が奪われた。何処に飛ぼうが距離が足りない、四方何処へ逃げても潰される。

 だが、


「まぁ、介入するとは優雅さに欠けますわ」


 これは夢か? 岩山が目の前で散って行く、比喩表現とかけ離れた現象が巻き起こる。


「この程度で死を覚悟するなどやはり下衆じゃな」


 久しく思わせる青空を帯びた髪がふわりと舞う。銀の鎧が眩しくそれから覗く尻尾が妙にマッチしていた。

 頭部から伸びた漆黒のツノが雄々しい。


「ミラエル!」


 岩山を自慢の剣で微塵に帰した女騎士、ミラエルが威風堂々とそこに現れた。


「助けに来てくれたのかミラエル!」


「……下衆、誰が馴々しくしても良いと許可を出したのじゃ? 微塵切りにするぞ!」


「ヒィイイ! ご、ごめんなさい!」


 怒りを表すミラエルの上へと向くツノが本当の怒りだと示す。

 やっぱりミラエルは怖い!


「下衆! 何故ここにおるのじゃ! 人間風情が王宮に蠢く等腹立たしいわ! ルト! 貴様も貴様じゃ! 何故この下衆を連れて来たのじゃ!」


「うっ……こ、これには深々な事情がありまして……」


「言い訳をするとは女々しい奴じゃ! 男なら腑抜けた事を申すな!」


「すいません!」


 あのルトが尋常では無い汗を顔中から噴出す。いい気味だと思っていたが怒られているのは俺も同じ、また睨みを向けられた。


「何ですの貴方……いえ、貴女ですわね。ふふっ、貴女美人ですわね、わたくしのタイプでしてよ?」


「貴様が侵入者じゃな? 生きてここを出られると努々思うな?」


「まぁ、何て凛々しい方かしら。わたくし貴女を食べちゃいたいですわ……ふふっ、その鎧をはぎ取り隅から隅まで肌を舐めて上げましてよ? ああ、貴女が淫らに狂う顔はさぞかし興奮しますのでしょうねぇ、ふふっ!」


 メイディアの舌が自らの右手へと這い、小指をまるでアイスを舐めるかの様に愛撫する。音を立て、糸を張らせ、小指を舐めて行く。


「気色が悪い女子(おなご)じゃ、見ているだけで嫌悪を感じる、何のつもりじゃそれは?」


「ふふっ、この小指は貴女、こうやってわたくしが貴女を思い浮かべながら愛でているのですわ……もう脳内で貴女は自ら股を開いていましてよ?」


 さすがのミラエルも今の言葉に引いたらしく、ツノが後ろに若干動く。事前にスミスからミラエルのツノの説明は完璧に頭に叩き込んだ、あれはそのまま気持ち悪いと言う意味だ。

 確かにメイディアは気持ち悪い。


「儂を侮辱するのか?」


「ふふっ、ふふふっ、否ですわ。貴女を愛すだけですわよ!」


 愛撫を受けた小指が消えた、それは口の中で噛み砕かれて消える。一瞬の内に視界からメイディアが削られた、また高速移動か!

 俺の目では追えない速さ、何処に移動したのかと眼球を忙しなく動かしようやく発見する。

 ミラエルの真後ろに出現した、何て速さだろうか。だがミラエルは今の動きが見えていたらしい、素早く愛剣を抜き切っ先をメイディアへと向け睨む。

 一瞬で今の行動が行われミラエルの反射神経が優れていると知らしめた。


「まぁ、流石ですわね? お見事と賛辞を贈呈しましてよ?」


「ふん、この程度の賛辞等高が知れるわ。そこを動くで無いぞ? 動かせば微塵に帰す!」


「ふふっ、ふふふっ、本当にそれは可能かしら? だって……攻撃範囲内ですわよ貴女」


 突如として黒い球体がメイディアの手の平に浮く。

 馬鹿な、中指は噛んで無かった筈なのに。


「ジ、エンドかしら?」


 球はその全てを放つ、一閃の闇が牙を剥く。

 例えるならばレーザー砲が妥当だ、意思を孕んだ生物を連想させる黒き道は微小に蛇行しながらミラエルを飲み込む。

 空に浮かぶ鎧の一部、まさか直撃なのか?


「ミラエル!」


 と叫ぶと何かが俺の頭に直撃し、激痛が発生。

 何かが飛んで来たらしい。


「誰が呼び捨てを許したのじゃ! 下衆め!」


 レーザーを避けたミラエルが破損した鎧の一部を俺に投げやがったらしい。良かった生きてたか。


「ふふっ、良い! 良いですわよ貴女は! 食べちゃいたいですわ! ふふっ!」


「少し侮ったか。しかしもう儂は本気で貴様を微塵にするぞ!」


 残った鎧を全て脱ぎ捨てチューブトップ型の黒い下着姿となった、まるで水着みたいだ。


「おやおや、なるほどなるほど」


「何一人で納得してんだよ?」


「雄は頭がどん底に悪いですね、鎧を捨てたのはあのスピードに付いて行く為、防御が弱くなる分軽くなりスピードが上がると言う事ですよ……ミラエルは鎧時でも速いからこれは見物です」


 こいつ高みの見物をしているが助ける気は無いのか? と言ったが俺はあいつらの速さに全く付いて行けない。動きが見えない、援護しようとしても直ぐに別の場所に移動されて翻弄されてしまう。

 くそ、絶氷空間が使えたら何とか出来たのに。無力な自分に腹が立つ。


「おい、あいつは許さないんじゃ無かったのかよお前」


「おやおや、雄がルトに意見とは……まあ確かに最初腹立たしかった、しかしそれは彼女に対してでは無く、兄に対してです。我が兄ケルベロスがあんな女如きに負けたとなると恥です、オルトロスであるルトまでも弱く見えてしまうでは無いですか。全く兄には困ったものです、ルトは良い迷惑ですよ、それが許せなくて戦いました、ふはは、嫌々おかしかった、この程度の相手に負けたのか……とね? ルトが戦うまでも無い、ミラエル一人で充分でしょう。全く一族の面汚しですよケルベロスは……」


「……それ本気で言ってるのか?」


 信じたくは無いがルベスを殺ったと言っている相手にそんな理由に腹を立てたのか? 兄が殺されたと聞いて何とも思わないのか?


「家族構成とか事情とかは知らないがお前らは兄弟じゃ無いのか? 家族じゃ無いのか! ルベスは兄貴何だろうが! それなのにそんな理由でしか怒れ無いのかお前は!」


「おやおや、お熱くなってしまって……家族、ねぇ……つまりは家族愛が無いと言いたい訳ですか雄は? そんなものが何故尊重されるのです? 所詮ただ同じ女から生まれただけの事では無いですか、所詮兄弟と言っても別々の個体であって他人です、そう“他”人何ですよ。そんなものを何故気にかけなければなりませんか? ふ、やはり雄であり人間ですね。でも感謝は感じているんですよ兄には、死んでくれてルトの方が優れていると身を挺して証明してくれましたからね!」


「て、テメェ!」


 怒りが身を焦がす、肉親への愛情すらないのかこいつは。俺には一人姉がいる、大酒飲みで悪戯を良く仕掛けて来て随分と悩まされた事が度々ある。

 でも母さんが死んでから姉さんは母親代わりとなって良く面倒を見てくれた。俺は感謝している、本当は姉さんだって悲しくて辛かった筈なのに涙を一遍足りとも流さない。

 笑顔で優しく抱き締めてくれた、そんな温かいものが家族であり兄弟では無いのか? それにルベスは仲間だ、実の弟だとしてもあいつを悪く言うのは我慢なら無い。


「ふざけんなーー!」


 固く、固く、強固なる拳を作り上げルトへ殴り掛かる。

 だが……。


「ルトに汚ならしい手を向けないで頂きたい」


 腹部に強烈な痛みが寄生するかのように生まれて顔を歪めてしまう。そのまま地面に平伏す。


「おやおや、一蹴りでダウンとは情けない」


「ぐっ……ガハッ! テメェ、……俺は、お前を許さない……ぐっ」


「全く、戦闘中に何を考えているのやら。敵が誰なのかお忘れですか?」


 嘔吐感が這う中、再びルトを見上げる。そこに映るのは見下した奴の笑い顔。醜悪さが染み出た笑みが更に怒りを募らせ眉間が狭まって行く。


「ま、落ち着きなさい人間。どう言葉を並べたとて理解させるには力不足ですよ貴方は。無論、戦闘面も該当しますけどね? わははははははははは!」


「ぐっ……」


 こいつは気に食わない、俺はこいつを認める訳にはいかない。


「ふふっ、男子二人は何を遊んでいますの? わたくしと凛々しい彼女との優雅な戯れを傍観しないでどうしますの?」


 メイディアが微笑を浮かべ俺達を一瞥してくる、そうだった今はミラエルとこいつが戦っていたんだ。

 ルトに怒りをぶつけてそれを失念してしまうとは。

 改めて二人を眺め現状把握に勤める事にした。

 黒き球体を手の平に浮かべメイディアは笑っていた、次々と千切られ飛ぶ魔弾が凛々しき騎士に牙を向き集束して行く。

 対するミラエルは冷静に剣を使い攻撃を弾き飛ばす。

 攻防が激しく交差する。


「わたくしそろそろこの部屋にいるのが飽きてきましたわ、佐波峻がいるのならば皆川真がいる筈ですものね? だから……もう茶番はお終い、ですわ。さっさと凛々しい騎士をわたくしのものにしちゃいますわ!」


「ぬかせ、儂がそう簡単に貴様如きに平伏すと思うのか?」


「ふふっ、では次の一手で貴女の体を弄んで差し上げましてよ?」


 と勝利宣言とも言えるものを吐き、塞がって無い手の平を真横に。

 すると新たな黒い球体が現れた、馬鹿な、指を噛んでいないのに。これじゃさっきと同じだ。


「ぐっ、どうしてだ、指を噛み切らないと力を出せないんじゃ無いのか?」


「まぁ佐波峻ったら不思議不思議で困ってますわね? ふふっ、わたくしの力が一噛みで一回きりと申しまして?」


 まさか何回でも使えると言うのか?


「説明して上げたいですけどわたくしは今忙しいのでまた今度ですわね? じゃあ行きますわよ凛々しい貴女?」


 右手は未だ魔弾を放ち続けている中、左手に浮かぶ球体を焦らす様にミラエルに向ける。二重攻撃、あれだけの魔弾を弾いている最中にもう一撃を食らわせる気か!

 撃つか?


「分かっていますわ、貴女はこの攻撃を完全に避ける事が出来るって、なのにどうしてこれを出したのでしょうか? 貴女は分かりまして?」


 そう言い終えると左の球体をミラエルとは別の方角に向ける。


「まさか貴様!」


「ふふっ、わたくし貴女をゲットする為なら外道に落ちましてよ? それは一途な思いによる行動、ああ、これは優雅さに値しますの!」


 メイディアが狙う場所には騎士の軍団が待機していた。


「や、止めよ!」


「ふふっ、ふふふっ、あの騎士団にこれを避けるのは無理ですわよね?」


 と次の瞬間黒き線が走る。

 狂いとの言葉とは無関係に真っ直ぐ騎士団へと黒き閃光が穿たれた。魔弾による攻撃を防いでいたミラエルはその場から難無く離脱し、騎士団の前へと高速移動をやってのける。

 盾になるつもりらしい、両手を広げ身構えを。あんな攻撃を食らったらただでは済まないぞ!

 心配を余所に黒がミラエルを飲み込んだ。

 消滅、そんな言葉が脳内に沸き上がる前に疑問が浮上して来たのだった、何故なら妙だから。ミラエルを飲み込んだ後も勢いは止まらずに突き進んだが、ふわりと黒が浮き、騎士団の頭上を通過して行く。

 そのまま後方に聳える岩山に突進、黒が弾け飛ぶ。


「な、何じゃこれは!」


 開口一番に叫んだのは何と飲み込まれた筈のミラエルだった。彼女は岩山にくっついていたのだ、まるで磁石の様に。


「ぐっ、ぬぅ! 何じゃこの物体は! ぐぅ! 外れぬ!」


 ミラエルの両手足首に黒が見えた、なんだあれは? それにあの攻撃は一体? まるでゼリーの様にプルプルで魔弾では無いのか?


「ふふっ、わたくしの力は質を変えれますの」


 岩山に束縛されたミラエルの前にメイディアが浮いていた、足元には弾け飛んだ筈の黒が塔の様な形に。その上に立ち、ミラエルに微笑み掛けているのだ。また一瞬の内にあんな場所に。


「何をしたのじゃ貴様!」


「ふふっ、わたくしの魔弾をゼリーの様な弾力に質を変えて解き放ちましたの。予想通り助ける為に動きましたわね? そう動くだろうと思ってゼリー状の魔弾を撃ちましたの、貴女を捕らえる為に……ほら、両の手足に魔弾が張り付いて離れないでしょう? ふふふっ、動けなくなった凛々しき騎士をゲットですわ~! さぁ、わたくしのお楽しみを始めさせて貰いますわよ? まぁ、何て綺麗な肌かしら、ゆっくりゆっくりと指で愛撫して上げますわ、貴女のここやここを……」


「ぐっ! 儂に触れるな! くっ、何処を触っておるか! 離せ!」


 痛む腹を食い縛り立ち上がる、ミラエルが捕まった、助けられるのは俺達だけだがどうせこいつの事だ何もしないのだろう。

 一応確認の為、奴に睨みを送ると案の定鼻で笑う。


「おやおや、ルトを見て無いでさっさと助けに行って上げたらどうです? 捕まったのは油断の為、自業自得ですからね」


「やっぱり助ける気はねぇんだな?」


「わははは! ルトがここにいるのは雄、貴方の監視の為ですよ、それを履き違え無い様に……ほらさっさと行きなさい、ミラエルが弄ばれてますよ?」


 やはりこいつは気に食わない、しかし今はミラエルを助けなければ。癪だがこいつの言っている事は正しい、喋っている場合では無い。

 全速で地を駆け抜ける。


「貴女の体は素晴らしく綺麗ですわ、見事なプロポーション……ちょっと筋肉質が欠点かしら? でもそれを差し引いても素晴らしいこと!」


 上唇を舌で濡らし淫らな笑みを向け己が舌をミラエルの頬に触れさせ下へと這う。

 唾液の道が首から谷間、そしてヘソへと蠢いて濡らす。


「き、貴様!」


「ふふっ、美味しい体ですわね? 運動したおかげで体が汗で湿って、ふふふっ、堪りませんわ! ほら、ここをこうしてあげますわ」


「触るな汚らわしいわ! 儂に触れるで無いこの色欲女が!」


「まぁ激しい罵倒が弱々しいですわよ? ふふっ、わたくしって焦らすのが好きですけど邪魔が入らない内に直接的に攻めますわね? 焦らした方が貴女に取って屈辱的だったのに……まあこっちも屈辱的ですけれど、ね? ほら、ここへ指を……」


 ゆっくりとメイディアの手が下半身へと移動して行く、ミラエルのツノが赤くなっていた、やはり恥ずかしいのだ強気な表情であっても。


「や、止めんか!」


「ほら、もう直ぐ到着ですわよ?」


「させるかあーー!」


 ようやく射程圏内に入った、結晶を生成しメイディアに向けて発射。針状に練成された氷が飛ぶ。

 が、簡単に避けられてしまう。虚しく通過して行く氷が侘しい。俺を愚弄する様にメイディアが甲高く笑う。


「貴方の攻撃ではわたくしを貫く何て無理ですわ、無駄ですわよ無駄! ふふっ、この岩山の頂上まで人間の貴方では辿り着けるか怪しいですわ。ふふふっ! 地上で指を舐めながら見物してなさいな、淫らな宴を下半身を膨らませながら見てなさいな! ふふっ、ふふふっ!」


 くそ、これじゃ本当に見ているしか出来ないぞ? 絶壁と言っても良い岩山、何とか隙間とかに手を掛けて登れそうだがミラエルまで辿り着くのにどれだけ時間が掛かるか。

 待て待て、考えろ、何か手がある筈何だ。


「貴様、本当にあの下衆の攻撃は当たらないと思うておるのか?」


「ふふっ、当たり前ですわよ。確かに人間にしてはあの力は強力ですけれどわたくしに言わせたら極小ですわ。攻撃のスピードも目を瞑っていても避けられますわよ……ふふっ」


「では……こうしたらどうなるかのう!」


 素早くメイディアに這う物体が見る見る内に彼女の首に巻き付く。

 それはまるで蛇、獲物を逃がさない執念を帯びた物体。


「な! これは何ですの!」


「どうじゃ動けまい? 貴様は儂の手足を束縛して喜んでおったな? じゃがそれは失念じゃ、儂にはまだ動く部分があるわ!」


「これは……尻尾!」


「儂は竜の子孫にして化身、代々誉れ高い名を受け継ぎ地獄王を守護する一族の最高種、それが儂じゃ! 名をミラエル、儂の名を覚えて後悔せい! 下衆、攻撃始め!」


 無我夢中で氷の弾を手が作り上げ、マシンガンの様に撃つ。

 次こそは狂い無くメイディアに届けてやる。


「は、離しなさいな!」


「儂に戯れた罰じゃ、その代償は高いぞ? 覚悟するが良い」


 ようやく結晶が色欲女に噛み付いた。


「ひぎぃいいいい!」


 苦痛に震わせた悲鳴を甲高く木霊させ、酷く顔を歪める。攻撃はミラエルのサポートで的中したのだ。右肩、右太股、左踵に結晶が直撃し張り付く。

 結晶の碧が生む氷は少し特殊な事が出来る、ぶつかった対象に張り付きまるで生物の如く氷を増殖させジワジワと這いながら結晶化させて行くのだ。メイディアに張り付いた結晶はジワリと身を拡大させながら徐々に彼女を固めて行く。

 増殖する度に皮膚が氷に触れて強烈な痛みを与える、絶氷空間と違い速度が遅いのが欠点か。


「ひぐっ、ううっ……や、やりますわね貴女達、わたくしに痛みを与える何てびっくりですわ……」


「痩せ我慢は止すのじゃ、苦しいのであろう?」


「ふふっ、こんな痛みではまだギブアップには程遠くてよ?」


 瞬時、薬指を噛み切る。


「ミラエルそいつを離せ!」


 薬指、確か怪力が使える筈だ。身近にいるミラエルがその怪力に掴まったら潰されてしまう。俺の言葉を瞬時に危険だと理解してくれたらしい、尻尾を解き放つ。透かさずにまた結晶を飛ばす。

 それはやはり簡単に避けられたが微弱ながらミラエルとの距離が離れた。怪力が届かない位置まで追いやる為休み無く打ち続ける。


「ふふっ、もう油断しませんわ。それに……」


 人差し指を噛み切り自身を苦しめる氷に自らの手で触れた、すると氷が水分となって霧散。

 あれだ、瀕死だったレイスを治した力、触れたものを元に戻す力。


「ふふっ、ふふふっ、わたくしにこんな仕打ちをしたら殺してしまいたいくらい愛しいですわ佐波峻、ミラエルと申しましたわね貴女は? わたくしとミラエルの邪魔をする貴方達を一掃して続きを楽しみますわ……ごめんなさい、もう殺しちゃいますから覚悟は良くて?」


 中指を噛み切り、黒い球体を出現させた。

 また遠距離からの攻撃かと覚悟したが少し様子が変だ。

 手の平から浮遊する魔弾の塊は飛び立ち横にスライドして地を離れた。メイディアの横に浮かび続け、“仲間”の合流を待っていたのだ。

 更に第二、第三の魔弾の塊が生まれては飛び立ち、またそれを繰り返す。気が付けば数十もの球体がメイディアの周りに泳ぎ回り異常さを訴えた。


「この魔弾の根源達はわたくしの思いのまま優雅に飛び回る言わば召使いですわ、これ全部が貴方達を死へと導いてくれますわよ……ミラエル待っていて下さいね? 邪魔者を全部全部消滅しちゃいますから! ふふっ、その後でさっきよりえげつない愛撫をして差し上げますわよ?」


 魔弾一つから雨の様に攻撃してくる物が大量に浮かんでいる、避けられる訳が無い。

 今の俺や騎士団は格好の餌食。


「おやおや、あれはちょっと危ないですね」


「止めんか貴様! 騎士団に手を出すでない!」


「ふふっ、凛々しき騎士様が弱々しい発言をしましたわね? わたくしゾクゾクしちゃいますわ~! ふふっ、それでは皆さん……」


 片手を高らかに上げ天に晒し、笑みを零して終焉の調べを述べた。


「穴だらけになって御機嫌よう」


 天から手を振り下ろす。

 一斉に魔弾が降る、視界を埋め尽くしながら。

 黒、黒黒黒黒、視野全てを遮る魔弾の群れが一斉にこちらに向かう。逃げ場は無い、広範囲における爆撃と同一であり、絶対的な力を示しながら教えるのだ。

 絶体絶命だと。

 死の奔流を聞き、絶望に食いちぎられてしまう刹那にそれでは無い音が耳に飛び込む。注意深く聴くそれはまるで生の高らかさの様な万象、視界もそれを捉えて釘付けとなる。

 言わば力そのもの、真紅と閃光が混じり合ったものに近い。黒を飲み込むそれが凄まじく咆哮し、耳の奥に刺さり爆音を置いてく。燃え上がる音と雷鳴との和音、つまりは炎と雷が同時に鳴り響く。

 雷が出現しそれに炎が纏う。その二重たる力が一気に魔弾を防ぎ消滅させたのだ。


「……え?」


 呆れる程間抜けさを孕ませた声を出してしまった、だって死が直ぐ目の前に迫っていたのに炎と雷が混じり合った強大な力によって守られたのだ。

 それも唐突に。何なんだよこれは?


「……何ですのこれは? わたくしの魔弾達が……一瞬で……」


「ら、雷炎(らいえん)!」


 驚愕な声でそう呟いたのはミラエルだった、雷炎? どうやら今の力を指す言葉らしい。何が起きたのかまだ把握出来ない最中、オルトロスも驚きの声を上げた。


「こ、これは……まさか……」


 ルトの視線がとある場所を示していた、気が付くと騎士団もミラエルも、更には悪魔メイディアまでもそこに注目していた。

 俺もそこへと意識を向け皆の視線を奪う何かを眺める。

 神々しき背中がそこに立っていた、黄金の短髪、小柄な体、多分男性だろうか。夕焼けに似た茜色の服は体のラインを良く魅せるもので全身を包む。そこまでなら人間らしいが一つ違う、頭部に生える二本の銀なる角が人間では無いと知らしめた。

 そいつはメイディアと対峙している、まさかこいつが助けてくれたのだろうか?


「な、何者ですの貴方は!」


「控えよ! この方を誰と思うておるのじゃ!」


 黒を飲み込んだ力が薄れて行く世界で美しき騎士の声が響く。

 身を束縛され様と勇ましく澄んだ声は自由だった。


「我が一族が仕えると誓った唯一のお方、ヘルヴェルトにおいて偉大なるお方! 地獄王アフトクラトル様じゃ! 侵入者め、汚ならしい言葉を王に向けるでは無い!」


 地獄王アフトクラトル、あいつがヘルヴェルトを統べる王なのか? 何と言えば良いのか、小柄ではなくて強大で怖い奴かと思っていたが、そんなもの微塵も感じさせない。


「そうですの、この世界の王なのですわね貴方は? まあ、わたくしにはどうでも良い話ですわよ……邪魔をするのであれば貴方も遊んで差し上げてよ?」


 見下す態度にミラエルが激しく怒りを顕にしている姿が恐ろしく身を縮こまらせられた。

 しかし地獄王とメイディアには届かない怒涛だったらしい。


「ふふっ、わたくしの遊びを邪魔した罰は……」


「君は……喋らない方が美しい」


 澄んだ海を連想させる優しげな声が地獄王から放たれた瞬時、メイディアが炎と雷に包まれる。

 一瞬、たったそれだけで全身を飲む。


「ひぃぎいいいいいいいいいいいいいいいいい! 痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃいいぃいぃ! わ、わわ、わたくしの、は、肌が、髪が、ああっ、ああああ!」


 全身焼き爛れた姿で生還を果たしたメイディアだったが、最初の美人はもう彼方へと散ってしまう。

 向き出しになる皮膚下の肉が破れた人形の様で気味が悪い。


「わ、わた、わたくしの……じ、自慢の肌が……ああっ、髪が……服も……体も……よくも、よくもよくもよくもよくも!」


 素早く中指を噛み切り魔弾を生成し始めたが。


「言った筈だよ」


 地獄王は悪魔に囁く。


「君は……喋らない方が美しいと」


 二撃目の雷炎がメイディアを貫く。

 悲鳴を上げる気力すら燃やし尽くしメイディアは醜く焼き爛れ地面に平伏せ、そのまま蹲る。動かない、まさか死んだのか?

 分からないままメイディアを見つめたが動く気配は無い。それから急に思い出したかの様に捕まっていたミラエルの方へ視線を動かす。両手足を束縛していた黒き物体は蒸発する様に消え失せて騎士を開放する。


「大丈夫かいミラエル?」


 地獄王がミラエルへと歩み寄り安否を気遣っていた。


「心配を掛けました、儂は大丈夫です地獄王様」


「そうか、それは何よりだ。ところで……どうして王宮に人間がいるのかな?」


 地獄王の視線が俺を捕らえ、睨むとはかけ離れた優しい瞳で見つめて来る。

 意外だった、敵視の如くキツい視線だと思ったのに、むしろ温かみすら感じるのだ。


「地獄王様、それは死神王が知ってますよ?」


 今まで高みの見物を貫いていたオルトロスのルトが進言し出す。ミラエルがルトを睨み付けている、ただの傍観者となった事に腹を立てているのだろう、後で怖いな。


「そうか、死神王が……なら三王会議で話してくれるだろう。……人間、君の名前は何て言うんだい?」


「さ、佐波峻……です」


「佐波峻……ああ、スミスから話は聞いているよ。そうか、だからボクの眼帯を持っているのか、ようやく理解出来たよ何故その眼帯をしているのかをね?」


 遠くから歩み寄って来る地獄王の顔を見て俺は凄く驚く事になった、それは何故かと言うと地獄王の右目が異常だったから。

 右の額から右頬に“穴”が空いているのだ、まるで裂けたかの様に。

 しかしその穴が地獄王の目なのだと気付く。赤く光る眼光が穴の中に浮かんでいた、そう、右側の半分以上に及び生じている穴自体が目なのだと俺の目の前にやって来た時に分かった。


「スミスは元気にしているかな?」


「は、はい、凄く元気で困ってます……て、すいません!」


「あっははは、構わないよ事実だからね。しばらく会って無かったからそれだけは訊きたかった……やはりエティオとネリスを自力で探しているのかい?」


 そうだった、ネリスの父親何だよな地獄王は、だったらネリスの事を話した方が良いのではないか? エティオとはまだ会った事は無いが、きっと心配している筈だ。


「あ、あの地獄王さ…………あれ?」


「どうかしたのかな?」


「……な、何でだ?」


 視線がある場所で止まる、それは雷炎に身を焦がされたあいつが“居た筈”の場所。見当たらない、悪魔メイディアの姿が無いのだ。確かにそこで蹲っていた筈なのに、奴が消えてしまっている?


「な! ば、馬鹿な、消えておる!」


 ミラエルの驚愕が事態の重さを知らしめた。メイディアがいない、どうなっている?

 あれだけの傷を負ったのに消えてしまうとは。


「おやおや、おかしいですね? もし高速移動をしたのならルトは気付きますけど……」


「まぁ、皆さん不思議不思議で堪らないのですわね?」


 聞き慣れたあの声が全員の意識を縫い止めそこに集中させる。

 数十メートル先に聳える球体に近い形を模した岩の上で消えた筈の悪魔が笑う姿が飛び込む。

 しかも何もなかったかの様に無傷の姿で。


「き、貴様、何故傷が消えておるのじゃ!」


「ふふっ、愛しいミラエルに教えて差し上げますわ、わたくしの人差し指の効力ですわよ。物体を元に戻す力……わたくしの火傷を治しましたわ、まぁもう一度食らえばもう戻せませんけどね?」


「貴様、何故その様な情報を容易く語るのじゃ!」


「ふふっ、ふふふっ! 分かりませんの? つまり……それを教えたところでハンデにならない、と言ってますのよ?」


 レイスもあの力で助けたんだ、自分自身に使わない方がおかしいか。

 くそ、何てしつこいんだ。やはり悪魔何だあいつは、普通じゃない。


「まだやると言うのか貴様、もう貴様に遅れは取らぬ! 儂の剣で……」


「待ちなさいなミラエル、わたくし今から逃げますの。だから戦いませんわよ? だってどう見たってわたくしの不利ですものこの状況では……ミラエル、必ずまた貴女の前に現れますわよ? 必ずわたくしのものにしちゃいますから! ふふっ、佐波峻、皆川真によろしくね? それから……白髪さんはどうでも良いですけど地獄王って方、あの痛み忘れませんわ、必ず痛い思いをさせて上げますからお覚悟、ね?」


「この状況から逃げられるかい? ボクやミラエルに騎士団、オルトロスまでいるこの状況でだよ?」


 甲高く罵る様に笑う悪魔、それから皆を一瞥しながら言う。


「ふふっ、バイバイですわ、またお会い致しましょう?」


 と瞬時に親指を噛み切ると姿が消える。


「おやおや、これはこれは……気配が全くありませんね」


「妙な力を使ったらしい、そのおかげで逃げられたみたいだねどうも、追うのは無駄だろうね、それに深追いは危ない……さてと、騎士団は負傷者の救護及び警護の強化を。オルトロスは佐波峻を会議の間へ。ミラエルはボクと一緒に……ああ、その前に着替えてね?」


 地獄王の言葉に恥ずかしそうにミラエルのツノが真っ赤に、表情は変わらないが。

 ルトがこちらに近付いて来るのがうっとうしかったが仕方が無い。


「さて行きますよ雄、精々何故ここにいるのか必死に説明すれば良い……わははは!」


 こうして悪魔は去ったがこれからが大変だ。

 三王会議、そこで俺とまこちゃんの運命が決まるのだから……。


 



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