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地獄世界のヘルヴェルト  作者: 生獣屋 芽怠
第六章 炎雷のアトラ
25/75

彼女の目覚めを待ちながら

 

 怖くなる、このまま手から爛れ落ちていくのでは無いかと疑いを孕む。

 綺麗な手を握り締めただ待つしか出来ない。せめて寝息の一つでも聞こえたなら生きていると実感が湧くのに。

 清潔なベッドに横たわり深い底へと落ちたまま帰って来ない彼女を眺めた。肉体も精神もボロボロだ、その二つだけでは無く心も異端なる悪魔に穿たれた。

 彼女は今何処にいるのだろうか? 残酷を好む夢を彷徨っているのなら心配する。

 あれだけ傷付き、目茶苦茶にされた彼女に悪夢が追い討ちを掛けていないと信じたい。

 そっと髪に触れ、優しく撫でてみる。いつもならくすぐったそうに笑うのに。

 出来るなら幸福を与えてやりたい。


 あれからどれだけ時間が経過したのか、時計など無論ヘルヴェルトにある訳が無い。時間の感覚がどうも疎い、人間界と違ってこっちでは昼が長い為日数の経過が異なっているのだ。

 何日経ったのか見当もつかない。


「彼女の様子はどうですかですよう」


 背後からの声に振り向くとそこには死神の少女が現れた、スミスの後輩で名前はリリリ、どう見ても幼い少女だがそのなりで50年は生きているらしい。

 聞いた話では地獄の住人は寿命が人間よりも遥かに長い。スミスだって見た目十代の女の子だが、100は年を取っていると言う話だ。

 ちなみにヘルヴェルトでは100歳何て子供扱いらしい。


「ああリリリか、まだ眠ったままだ。……目覚めてくれるのか、もしかしたらまこちゃんは……」


「元気を出せですよう! 必ず目覚めると信じる事が大切なのですよう! ……多分」


「多分って何だ多分って!」


「ううう、つまりは信じる者は救われちゃうのですよう! そんな事よりお腹減ったんじゃ無いですかですよう? 人間が食べられる実を持って来てあげたので感謝しやがれですよう!」


 話を逸らしやがったなこいつ。でもこれがこいつなりの励ましなのかもしれない。何かと様子を見に来てくれるし、アホらしい事を言っては俺と喧嘩みたいな感じに。

 まあ、悪い奴では無い事は接して理解したよ。


「……ありがとうなリリリ」


「今日はやけに素直ですよう……気持ち悪」


 前言撤回、こいつは憎らしい奴で決定だ。


「テメェ……」


「ほら、ちゃっちゃと食べやがれですよう」


 と言って渡して来たのはどす黒い実だった、本当に食べられるのかこれ?


「なんだこれは、本当に食えるのか?」


「大丈夫、大丈夫! リリリを信用するですよう!」


「……そこまで言うなら」


 異様なる物質を眺め、意を決っするまでやたらと時間が掛かってしまった。が、リリリの食べてよと言わんばかりの表情をないがしろに出来る訳も無く、無理矢理にでも決意を固め、一口。

 スミスが言っていたな、ヘルヴェルトの食べ物は美味しくないと。この実もそれに逸脱してはいないだろう。確かに美味しくない、この味はあれに似ているな、メロンを食べ続けると甘くない部分があるだろ? まさにこの実はそれだ。

 下手をすればメロンの甘くない部分の方が旨いかもしれない。


「……美味しくはないな」


「それでもその実はヘルヴェルトで美味しい方なんですよう?」


「なんだと?」


 今なら理解出来る、スミスが人間界の食べ物に執着する意味が。


「お前らっていつもこれを食べているのか」


「ヘルヴェルトは人間界とは違い争い事が絶えないですから食する文化があまり栄えなかったんですよう。栄養を素早く取り込まないと、食べている間に殺されたら洒落にならないですから……あ、でも今のヘルヴェルトは大昔に比べて安泰なんですよう?」


 つまりヘルヴェルトは弱肉強食な環境だった為に食を楽しむなんて発想が生まれなかったのだろう。もしそんな文化が芽生えていたなら、例えば幾種の実を擂り潰してジュースにするとか出来ただろうに。

 ま、これから変わって行けば良いか。


「ねえねえ人間」


「おいおい、人間はあんまりだな。名前は峻だ、だから峻って呼べ、何ならお兄ちゃんでも良いぞ?」


「ふ~ん、じゃあお兄ちゃん、人間界の事色々教えてですよう」


「……すまん、やっぱお兄ちゃん却下」


 本当に言いやがって、俺にそんな趣味がある分けないだろうが。

 やっぱりロリよりナースと人妻だよな、もしこの二つが一緒になっていたら堪らない。


「ひとづま? なーす? それってなんですよう?」


「な! 何故俺の考えている事が分かりやがる! さてはお前人の心を読めるのか!」


「何言っちゃってるんですよう、今自分がベラベラと喋ってたじゃんですよう」


 しまった、どうやら考えていた事をそのまま口にしていたらしい。恥ずかしい。だがこいつは意味が分かって無いのだ、それは幸いだ。


「で? ひとづまとなーすってなんですよう? 一から十まで隠さずに教えやがれですよう! じゃないとその人間が目を覚ましたら言ってやるですよう!」


「や、止めろ! まこちゃんには絶対に言うな! 分かった、分かった、教えるから!」


 こうして情けなく意味を教える。


「へーー、ふーーん、あはははーー! しゅんは変なのに欲情するんだ、意味分かんねーーですよう!」


 恥ずかしい。何故こんな奴に人妻とナースの良さを熱く語らなくてはならないのか。

 話している途中で、別世界の奴なのに引かれるし、踏んだり蹴ったりだ。


「あははは、人妻好きなしゅんは変態ですよう~! あはは…………あれ? と言う事はしゅんは先輩が大好きなんですよう!」


「は? 俺がスミスを大好きだと? 何を寝ぼけて……嫌待て、そうか、あいつは地獄王って奴と子供を作ったんだ、なら……あいつは人妻か?」


「うううーーっ! この変態め! 先輩は渡さないですよう! 先輩はリリリがその内誘惑しちゃうんですようーー!」


 何やら爆弾発言を宣言し、死神の鎌らしきものを出しやがった。

 ちょっと待て、その物騒なものをどうする気だ!


「おい、ちょっと待て! 一旦落ち着こうか、その物騒な物で何を始める気なんだいお嬢さん?」


「今の内に先輩にたかる蟲を退治ですよう! 先輩はリリリが誘惑するんですよう!」


「おいおい! 俺はあんな自己中大食らい不真面目死神様何かどうとは思って……」


「ほーーう、佐波、もう一度言う勇気はあるか?」


 己を握り潰さんと放たれた殺気に冷や汗が、恐る恐る声がした方向に視野を向けてみる。

 銀髪の少女が明らかに不満げに腕を組みながら睨みを利かせる。

 間違いない、死神スミスだった。


「あ、先輩!」


「何してるんだリリリ、こんなところで鎌何か出して。さっさと引っ込めろ」


「了解ですよう先輩!」


 鎌が視界から消え失せた、助かったと安堵したがそれは誤認なのだ。


「さて佐波、もう一度言ってくれないか? オレが何だって?」


 と凄みながら死神の鎌を向け、明らかに殺意を感じて収縮する自分がいた。素早く跪き、こうべを地面に垂らす。

 簡単に言えば土下座だ。


「スミス様は素晴らしい死神様です!」


 ああ、情けなくて涙が。


「ふん、まあ許してやるか。今度変な事を言いやがったら……死神流の拷問術を味合わせてやるからな?」


「ううっ! 先輩痺れますよう、格好良い~ですよう!」


 ちくしょう、リリリのお陰で酷い目に合ったぞ。でも、元気は出て来たかな。


「佐波、まだ皆川は目覚めないのか?」


「……ああ、あれからずっと眠りっ放しだ」


「その内目覚めるってソフィーネオが言っていたんだ、心配せずに待ってろ佐波」


「ああ、ありがとうなスミス」


「……そうだ、ソフィーネオがお前に話があると言っていたぞ? 後でここに来るからその時に話すだろうよ」


 死神王が俺に話があるだと? 一体何の話だ? もしかしてスミスに聞いたが今ヘルヴェルトで妙な事が起きているらしい。

 それと関係があるのか?


「スミス、まさかヘルヴェルトで起きている事と何か関係があるのか?」


「まあな、詳しい事はあいつから聞いてくれ。オレはまだ死神の仕事が終わって無いからそれを片付けてくる、リリリ、変な真似は止めろよ?」


「ううっ! リリリは何時でも何処でも誰にでも優しい死神さんですよう!」


 嘘吐け。俺に何かしようと企んだくせに。


「じゃあオレは戻るな。リリリ、皆川がもし目覚めたら知らせに来いよ?」


「合点承知ですよう!」


 去って行く死神を見送り再度リリリと向き合うが、屈託無い笑顔を向けて来やがる。

 そうさ、屈託な程にその笑みは醜悪さを感じさせるのだ。


「……リリリ、お前何を考えていやがる?」


「ううっ? 別にリリリはしゅんを抹殺しようだなんて、これっぽっちも微塵も思ってねーーですよう? ニッコリ!」


 怖い、その笑顔が。

 企み顔をするリリリと会話をして時間を潰して行く。

 その間まこちゃんが目覚める事は無く、ヘルヴェルトに夜が訪れた。

 一応窓と呼べる四角い穴があり、外を一瞥出来るのだが、見えるのは荒野ばかり。景色を楽しむ事はなく、昼と夜を見極めるだけに止どまっているのだった。


「真っ暗ですよう」


「そう言えばお前仕事は?」


「今日は休日だったんですよう。感謝するんですよ? このかわゆいリリリちゃんが話し相手になってあげたんだからですよう」


 かわゆいは余計だが、休日を使って俺らを心配して居てくれたのか。

 やっぱりこいつは良い奴なのだろう。


「ほらほら、早く感謝の言葉を述べやがれですよう!」


「……感動が台無しだ」


 呆れながら再度眠る彼女に視線を戻し、手を強く掴む。

 今にも崩れそうな華奢な手がこのまま目覚めないかと錯覚を誘発する。

 待て待て、ネガティブになり過ぎだ、もっとポジティブに考えるんだ。必ず目覚める、目覚めるんだと強固に願いを固めろ。

 そう言えば人間界に残して来たネリスとマギサは無事なのだろうか? ネリスはスミスに会いたくて人間界にやって来たのに、まさか俺がヘルヴェルトで出会うなんて。皮肉めいた展開だ。

 そしてマギサ、あいつは無事なのだろうか? 身を挺して俺を守ってくれた彼女は。

 あの時、ロゼリアの攻撃を食らい晒された血潮は黒色だった、つまりあいつは悪魔だったのだ。

 分からない、何故あいつは俺を助けた? ロゼリアが言った様に騙していたのか? それならば身を挺する意味が分からない。

 連れて来る事が任務だったならもう騙す利点がない。

 それなのに……あいつは守ってくれた、傷を負いながら。


「それに……」


 素顔を遮るサングラスが取り除かれたあの顔は……。


「ううっ? 今何か言いやがりましたか? ですよう」


「え? あ~……何でもない、ちょっと考え事してただけだ」


「紛らわしいですよう、ひとづまスキーしゅん」


 この野郎、じゃなかった、このアマ!


「……ですようって何だよ、媚びてんのかそれ? しつこくてウザいぞ」


「うううーーっ! リリリの口癖に難癖付けるなですよう!」


 ま、この状況では考えるだけ無駄だ。今はまこちゃんが目覚めるのを待つ、これしかない。

 必ず目覚めると信じている。


「まああら、まだ目覚めて無いのねえ?」


「あ、ソフィーネオ様ですよう!」


 長い銀髪を風に遊ばせながらスミスの姉にして死神王、ソフィーネオが優雅に歩幅をこちらへ向けて来るのだった。

 閉じた瞳はスミス曰く薄目らしい。目を開く時は怒りをあらわにする時らしい。


「死神王……」


「ソフィーネオで良いわよ呼び方は、その方が堅苦しく無いでしょう? それにスミスと友達だもの、丁重に接したいしね」


「あ、はい、じゃあソフィーネオと呼ばせて貰います」


 第一印象は優しいお姉さんって感じだったのだが、こんな人が死神王だとは誰が思うか。優しい笑みを浮かべている、てっきり怖い奴だと覚悟してここに乗り込んだ時は拍子抜けだったな。


「リリリご苦労様ね、ありがとう」


「ううっ! いえ、好きでやってるので気にしないでですよう」


 さすがのリリリも死神王の前では畏まるか、いつもそうだったら良いのに。しかしあのスミスに姉が居た事も驚いたがまさか死神を統べる王だったとは。

 前にも双子の子供がいると聞かされた時だって驚愕だった、あいつは人を驚かせる特技でもあるのか。

 ま、最初の出会いも唐突で驚いたが。


「スミスはまだ仕事ですか?」


「ええ、あの子はおサボりさんだからちょっとの仕事も時間掛かっちゃうの、しょうがない子ね」


「やっぱりサボり癖があったか」


「ううっ? しゅん、今何か先輩の悪口を言いやがりませんでしたか? ですよう」


 何にも言ってないと述べたが目が座っている、リリリの前であいつが不利になる事は言わない方が良いかもな。


「それにしても、まだその娘は目覚めていないのね?」


「ええ、まだ目覚めません……」


「困ったわねえ、三王会議が間近なのに」


「三王会議?」


 何だろうかと疑問に思っていると親切にもソフィーネオが教えてくれた。

 三王とは『死神王』『獣王』『地獄王』の事を示すものらしい。その王達がヘルヴェルトに異変が起きた場合、集まり議論する事を三王会議と言う。

 ついでに三王の役割を教えてくれるらしい。


「まず死神王からねえ? 文字通り死神達を統べる存在を表します。死神は命を司る、魂の導き、輪廻転生、良質なる魂の選定が主な仕事。続いて獣王、獣族とは貴方と交流があったケルベロスがそれに適しますねえ、他にオルトロスやキマイラなどの獣型生物を統べるのが獣王。仕事はヘルズゲートの守護及び監視、次元なる門の番犬なのよ」


「ううっ! 最後はもちろん地獄王様ですよう!」


「そうよ、最後は地獄王、仕事と言うか使命と言うのか、このヘルヴェルトが生まれた頃から世界を守護する事を任された王族の頂点よ。ん~、人間界で言うなら軍事国家みたいなものかな? 強大な力を使いヘルヴェルトを守っているのが王族、地位は最上だから王族に従わなければならないのわたし達は。こんなところかしらそれぞれの役割は」


 何か俺が想像していた地獄と随分違うよな、一般的に悪い奴が行くところとしか認識が無かった。

 ま、実際に地獄を見る機会何て死んでからじゃないと無いからな。

 想像と現実は違うと言う訳か。


「良い勉強になったでしょう? 貴方が死んだらまたわたしに会えるわよ!」


「あ、あははは、そうですね、あははは……」


 死んだらって、嫌な話だな。


「三王会議がもうすぐ始まってしまう、わたしは貴方達二人をそこへ連れて行こうと思ってるの」


「俺と……まこちゃんを?」


「そうなの。今ヘルヴェルトで何かが起きている、それは多分悪魔の仕業……敵の情報を一番知っているのは貴方、元々人間がこちらにいるのは大罪だけど、敵の情報と引き換えに罪を何とかして貰う様に地獄王にお願いするつもりよ」


 つまりこれは司法取引みたいなものか、刑事ドラマとかで協力すれば罪を軽くする、みたいなもの。

 本当にそんな事が出来るのだろうか、もしダメだったら……。


「大丈夫、必ずわたしが貴方達を守ります。可愛い妹の友達だし、スミスと約束したからねえ」


「……信じて良いんですね?」


「ええ、スミスと死神王の名に誓って貴方と彼女を守ります。これは誓い、……姉としてもう一度ここに誓う」


 一瞬表情に悲しみを帯びた、しかし直ぐにいつもの柔らかな笑みを浮かべる。

 今はどうすれば良いのか分からない。俺だけではヘルヴェルトから人間界に帰る手段が無い。でもここには仲間のスミスがいてくれるし、口は悪いが本当は良い奴なリリリ、それにソフィーネオが手を差し延べてくれる。

 真剣な眼差しを向けて任せてと言ってくれているのだ、俺はソフィーネオが悪い奴には思えない。妹を、家族を大切にしているこいつを信じてみたい。


「頼む、俺達の命、ソフィーネオに預けます」


「任せて、スミスの大切な友達を傷付けるものですか!」


 賽は投げられた、後は身を任せるのみ。どうなるかは分からないが、スミスとリリリとソフィーネオを信じてみたい。

 人間の俺達の為に必死になるこいつらを。


「良かったわ~、話が決まったからこれで心置きなく彼女の胸……えっと、彼女を起こしましょう!」


「え? 起こすって……無理矢理にですか?」


「まああら、三王会議がある場所に彼女を連れて行かないでどうするの? いつ目覚めるか分からないし、わたしが目覚めさせてあげます!」


 そりゃまこちゃんが目を覚ましてくれるのは大歓迎だが、無理矢理起こすと言う点が気に入らない。

 しかしソフィーネオの言い分は分かる、もうすぐ三王会議が始まるのだから。俺だけ付いて行ったらここに置き去りになってしまうし、見知らぬ場所だから出来るだけ一緒に行動した方が良いだろう。

 さて、どうしたものか。


「何を迷ってるの? わたしは早くこの娘のむ……おほん、仕方が無いわねえ、リリリ、彼をしっかりガッチリびっしりと拘束しなさい」


「了解ですよう! がし!」


 突如リリリに羽飼締めにされてしまい身動きが取れなくなってしまった。

 さすがは死神、力強過ぎて抵抗出来ない。


「な、何しやがるリリリ!」


「ソフィーネオ様の命令は絶対なんですよう」


「それでは時間が勿体ないので彼女を起こしますね?」


 これから何が始まるんだ?

 静かに眠り続けるまこちゃんの上に馬乗りをし、ある一点を凝視する死神王。その部分とは何とまこちゃんの胸だった。手が意思を帯びた生き物の様にクネクネと動き回る。

 ま、まさか……。


「人間の胸は久し振りだから腕が鳴りますねえ! うふふ、それでは頂きます!」


 ソフィーネオの手がまこちゃんの胸を襲う。


「や、止めろーー!」


「うううーーっ! 淫らな光景ですよう!」


「まああら! この娘すっごく良い! ほ~ら、ここをこうして、こう!」


「…………んっ」


 数秒後、何とまこちゃんが声を出したのだ。まさかこんな方法で目覚めさせるとは。

 しかし何て羨ましい、あんなに好き放題しやがって、俺と代われ……じゃない!


「止めろ!」


「えい! ほれほれ~!」


「……んっ、……あっ、んんっ! …………あ、れ? 私……あっ、なに、これ?」


 まこちゃんが目覚めた!


「もう目覚めたぞ! 止めてくれ!」


「嫌! こんなに良質なものは滅多にない、止めないわ!」


「え? え? 貴女は誰……あん! や、止めて……そんなところ……んんっ! やぁ、やだぁ……んんっ!」


「ちくしょう! 俺だってそんな大胆に揉んだ事ねぇんだぞ!」


 馬乗りだったソフィーネオは一瞬でまこちゃんの体を起こし、後ろへ回り込む。

 背後より伸びた手が再び彼女を襲撃。


「や! 止めて! あっ……え? しゅー? 一体私は……んんっ! やだ、止めてよ、しゅーが見てるよ……」


「もう本当に素晴らしい! ほら、もうイ……昇天させてあげるわ!」


「止めろ! まこちゃんの胸は俺のもんだぁーー!」


「な、何言ってるのよしゅー! あっ! ……や、ダメ、私、もう……」


 はちゃめちゃな展開に終止符を打ったのは、あいつだった。


「何していやがる! 皆川を放しやがれ!」


 死神スミス参上、ソフィーネオに拳骨をプレゼント。

 こうして死神王の暴挙は阻止されたのだった。


「はぁ、はぁ……」


「大丈夫かまこちゃ……痛たたたた! み、耳引っ張……痛たたたた!」


「馬鹿! 何恥ずかしい事叫んでるのよ! しゅーの馬鹿! エロエロ!」


「だ、だってさ、痛たたたた!」


 耳を引っ張られるのはさすがに痛かったが、拉致される前の元気なままの彼女が目の前にいる。

 それだけで俺は目頭が熱くなり、力強く抱き付く。


「良かった、元のまこちゃんだ……良かった、良かった……」


「え? えっと、しゅー? 一体どうしたの? 訳が分からないよ……それにその眼帯は何?」


「え?」


 まさか忘れているのか、悪魔達との出来事を。


「まこちゃん、覚えて無いの?」


「え? な、何を?」


「まああら、どうやら一時的に記憶の混乱があるみたいねえ。精神を乗っとられたり具現化させたり戻したりしたからちょっと混乱が生まれたみたい。でも大丈夫、時間がそれを元に戻してくれるわ」


 どうやら一時的らしい、良かった。


「えっと、何でみんな私を見てるの? 私何か悪い事したのかな?」


「違うよ、まこちゃんが悪い事する訳が無いじゃないか」


「……何か良く分からないけど、ここはどこ? この人達は誰なの?」


 これまでの事を話して聞かせる事にした、本当は無理に思い出させたくは無いが敵はきっとまたまこちゃんを襲うかもしれない。ならば知らないで不安がらせるより詳細を述べる方が彼女の為になると信じた。

 やはり信じられない様子だったが、スミスやリリリ、そしてソフィーネオも話に加わり今自分の置かれた状況を理解したらしい。だが、記憶は戻った訳ではなかったが。

 奴等に拉致されてから現在までの記憶だけが空白、彼女自身はいつものまこちゃんだった。


「私って一体何なんだろうね? 不思議な力を持っているけど、それ以外は普通の人間なのに……」


「うん、まこちゃんは普通の人間だよ。誰が何と言おうと俺はそうだと思っているし、まこちゃんの味方だ」


「……ありがとう」


 悪魔何かに壊させるか、彼女との時間、そして彼女自身を。

 そんな思いの中俺達は三王会議へと出向く。

 不安を帯びて……。





 

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