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地獄世界のヘルヴェルト  作者: 生獣屋 芽怠
第五章 優しき悪魔
23/75

悪魔VS悪魔

 

 一気に駆け抜けるかの様な緊張感を味わいながら冷や汗を感じ、避けられない戦いを予感させた。

 静まり返った建物の内部は気味が悪い。だが、奴等の誰かがいる事は分かっている、それは向こうも同じ筈。

 多分向こうは私達を監視しているのだろう。

 静寂を展開する空間を切り裂く様に足を急かした。


「いいエティオ、わたちからはなれたらダメだからね!」


「うん、わかった。もしネリスがたいへんになったらぼくがたすけるよ!」


「……大丈夫、二人は私が守るから」


 幼い光を二つ、それを消させてなるものか。一体誰が待ち受けているのか分からないが、倒すだけだ。慎重に階段を上がって行きながら警戒を怠らない。

 しかし拍子抜けした、何故なら佐波くんが暮らす階まですんなりとやって来てしまった。


「おかしいわね、すんなり過ぎる気がするわ……罠、かしら?」


「にゅにゅ! おくからみょうなけはいがするよ!」


「うん、ぼくにもわかるよ! あれが……アクマだっけ? それがいるんだよきっと!」


 まさか敵は私達がヘルヴェルトに行く事を察知している? 佐波くんの部屋に門があることまで知っているのだろうか?

 あからさまに罠だろうこれは、私だって敵の気配を感じるのだから。

 しかし、ここを進まなければヘルヴェルトへは行けないのだ。ならば罠だと知っていても行かねばならない。


「二人は私の後ろにいて、絶対に前に出て来ちゃダメよ? 分かった?」


「うん、わかったよ! オバチャ……マ、マギサのいうとおりにする!」


「わたちもおねえたんのいうことにしたがう!」


 幼い子達を背に隠し、先頭となり先へと進む。一歩を踏む度に増す鋭利な殺気が肌を焼き感覚を増させて警戒を増幅する。周りに展開させていたシュバルツミストを集めてランスを形成させ、数個を生産。

 これでいつでも攻撃出来る、さあ来い、いつでも相手になってやる。そんな緊張感を高めて行くが、気が付けば佐波くんの部屋が目の前に。

 着いた。まさかとは思うが敵は中か?


「……ドアを開けるわよ? 用心してね」


「にゅ、わかった。エティオもわかった?」


「うん、わかってるよ」


 ゆっくりとドアノブを掴み、回す。すると外界と内部を遮断していた扉がすんなりと動き、二つの世界を一体化させた。

 扉の向こうに住み着くのは闇と薄気味悪さ。玄関横にスイッチを発見したのでそれを押し、天井より降りかかる光が闇を照らす。一瞬で蛍光灯は自己主張するかの如く光続ける。

 廊下まで明るくなったが奥は未だに闇が居座っている。


「薄気味悪いわね、隠れて無いで出て来たらどうなの!」


 いると分かっているのだ、わざわざ敵に呼び掛けようが構うものか。


「出てきなさい!」


「ふむ、その言葉に甘えよう」


 耳奥に突如として飛び込んだ声は男のものだと解析する。

 その刹那、“右壁から腕が生えた”。

 嫌違う、生えたのではなく砕いたのだ。舞う破片をものともせず腕が衝突し、左壁に私の体がめり込む。

 それだけでは終わらない、更なる力が上乗せされ、壁の向こうへと吹き飛んだ。数えて四つの隣り部屋まで威力は衰える事を忘れてあざ笑いながら粉塵を撒き散らして穴と破片を生む。


「ぬ、余り飛ばなかったか。予想を下回る」


「おねえたん!」


「オバチャン!」


 身体全てにナイフを埋め込むかのような激痛が意思を征服し、苦痛に表情を作り替えて行く。唐突過ぎて脳内が白色を染み出させ、思考を浸食する。

 それらを退治してようやく頭が回り始めた。どうやら突如に壁から現れた敵にぶっ飛ばされたのだ。


「痛っ……やってくれるじゃない」


「流石、と一応褒めておこうか。あの程度で死ぬ体でも無いだろうがな」


「……そう、あんたが人間界(ここ)に残ったの」


 二メートルはあるだろう体は恵まれた筋肉を持ち、美しいと褒めても過言では無いだろう。

 こいつを表す言葉を示すなら、巨人の一言で充分だ。


「リーゼス、あんたが私を殺しに来たのかしら?」


「何、退屈なただの見張りだ。ここは亀裂が修復された場所だ、もしかしたらとレイス様より命じられここにいる……ここに向こうへの扉があるのだな?」


「こいつ! オバチャンになにするんだ!」


「ぬ、子供か。……お前達には興味が無い、直ちにここから去れ」


「むぅ! なんだこいつ! なまいきだぁ!」


 拳を作り、殴り掛かろうと駆け出すエティオくんをネリスちゃんが止めた。

 あの娘は私とリーゼスの戦闘を目撃している、止めるのは妥当な判断だ。


「エティオだめ!」


「なんでじゃまするのネリス! あいつオバチャンをいじめたんだよ!」


「エティオひとりじゃかてないの! わたちたちはいつもいっしょ、だからふたりでやるの! おねえたんをいじめた、おまえはわるいやつだ!」


 なんて事だ、ネリスちゃんが戦闘意欲が高まっていた。私の為に怒ってくれるのは嬉しい、だが相手が悪過ぎる。


「二人共離れて! お願いだから何もしないで!」


 子供が傷付く姿を誰が黙って見ていられようか、いくら人間ではないとは言え幼い存在に変わりはない。意識をシュバルツミストに集中させ、鋭利な槍を生成し、かつていた場所へと向かわせる。

 黒き槍は加速し一筋残像を残しながら猛撃、まるでレーザー光線を思わせる一撃。敵を捕らえた。

 かに見えた。黒の道筋は反対側の壁を貫き消える。

 紙一重で躱された。


「ぬぅ、流石に危なかったぞマギサ」


「ち、巨体のくせに素早い……」


「さて、楽しもうか」


 リーゼスがこちらへと駆ける、壁など奴には意味が無い、突き破りながら照準を私に向け突撃してくる。

 巨体との距離がゼロとなった瞬間球を蹴る要領で飛ばされた。

 しかしこちらもやられてばかりではない、蹴り飛ばされる瞬間にシュバルツミストを散らせ肉体全体へと撒き、即席の結界を出現させた。

 また壁を破壊しながら飛ばされるが今度は痛みはない。


「ぬぅ!」


 ただで飛ばされるのは真っ平だ、浮遊感漂う中、リーゼスに向け無数の刃を創り上げ撃ち込む、奴の体を抉り吐血させた。

 気が付くと建物を貫通し空中へと投げ出された。ミストを翼に固め空を舞う。まさかここまでの馬鹿力があるとは。

 普通これだけ暴れたら轟音となり近所に響くのだが、このマンションの周り結界が張ってあり、それが防音効果をもたらしたらしい。寝静まる家々は静寂のまま、これなら例えここが全部無くなろうと誰にも聞こえないだろう。

 つまり全力が出せる。


 先手は取られたがまだ負けた訳では無い、やられたらやり返す、それが私の信条だ。螺旋を模した突起物を生成する、つまりはランスだが威力と精密を出す為に回転させて飛ばす。

 壁にめり込みながら標的を捕らえた。魔力を感じる場所へ次々と連射。流星群を思わせる黒の雨、躊躇なく攻撃を休めない。

 この攻撃が牽制になっていれば良いが。

 と、ひんやりと冷や汗が伝う。何故こんなものが出てくる?

 その解答が私の頭上に現れた。屋上から巨体を現したのはリーゼスだ。いつの間にあんな場所に。なら今まで攻撃していたのはなんだ? 確かに魔力を感じた、奴がいると確証を……ああ、そうか、そうだった。

 あいつは能力を駆使し、隠された効力を使っただけなのだ。


「甘いぞマギサ」


 二つの手の平を私へと向け、そこから高速を纏いた物体が射出され迫る。羽ばたかせた翼がそれらを回避するが休息を与えてくれない。

 攻守逆転、今度は避ける側へと立った。

 迫る物体は白く鋭利な物、紙一重を発動しながらその正体を凝視した。これは本来己が身を守る為に存在している、それを攻撃として使うとは。

 手より“生み出されている”物は白色の骨だ。それを棒状に変換させ、弾として撃っている。奴の力は体のパーツをあらゆる肉体から生み出す。骨を手で作り飛び道具とした。つまり双方とも遠距離攻撃が得意と言う訳か。


「くっ、調子に乗らないでよね!」


 ならばこちらも砲撃戦と洒落込もう。

 球、槍、ナイフ、バリエーション豊富に創造して狙う。骨を避けながら狙いを定めて奴に攻撃を放つ。激しい攻防が渦巻く中、このままでは埒が無い。

 棒状にミストを集束させ手に掴みすかさず振り下ろす。先端が蛇を模したかの様にぐんと伸びリーゼスを貫かんと牙を穿つ。


「ぬ!」


 蛇は空を切る、後ろへと飛び退き回避したらしいが、こいつは何処までも追いかける。

 追尾を開始する蛇は何処までも標的を目指す。


「しつこい女だ!」


「しつこくて悪かったわね!」


 蛇の先端が無数に裂け、追尾の数を増幅させてやる。更なる猛撃を与え、奴が避ける姿を俯瞰した。

 上手く避けているがジワジワと追い詰めて行くのが手にとる様に分かる。

 さあ、もう一息だ。

 等々無数となった蛇が奴を四方から取り囲み逃げ場を削った。

 後一撃で決着が付く筈だ。


「うっ……」


 しかし唐突に激痛が走った。

 それは腹からだ、痛みに耐え切れず顔が歪む。そうだった、私は本調子では無かった。一瞬目眩が生まれ思考が空白に染まる。

 目眩を振り払い、再度リーゼスを睨むと驚愕があざ笑う。

 無人、追い詰めた筈の奴がそこから消えていたのだ。


「しまった! 何処?」


 見回すが見当たらない、なんて事だ、見逃すなんて。緊張感が汗を噴き出させ私を濡らす。

 と、更なる目眩が襲う。


「ううっ、……無理し過ぎたかしら?」


 警戒を怠らない様に球状にミストを周りに展開させ結界を作り、フラフラと屋上へと降りた。息が切れる、動悸が治まらない。


「苦しそうだなマギサ」


 声が噛み付き鼓膜を振動させ焦燥を伝える、緊張感が重圧を開始し危機を示す。分かっていた、屋上に降りるのは危険だと理解はしていた。

 しかし痛みがそれらを押し退け羽を休めさせた。こんな時に不調が嘆かわしい。

 ぞわりとした悪寒が発生し私を怖気さす。結界をものともせずに破り、肌に触れる感覚。それは足首から感じるものだ。地中より手が貫かれ私を掴んだ。

 建物の中にいたのか!


「あぐっ!」


「結界が脆い、どうやら本当に弱っていると見えるぞマギサ。逃げていれば良いものを……こんな場所へくるからそら、捕まるのだ」


 地を破片に変換させ巨体を空に晒す。そのまま立ち上がり、捕まれた足首を持ったまま起立。

 おかげで逆さまに吊られ羞恥を味わう。


「ううっ、降ろしなさいよ、パ、パンツが丸見えじゃないこの変態!」


「ぬ、生憎お前の下着を見たからと欲情はしない。なら問題は無い筈だ」


「失礼な事を言ってくれるわね、私のパンツを見て欲情しないですって? あんた本当に男? ……うっ、無駄口叩き過ぎたか……」


 また目眩が奇襲を始め悩ませた。そんな中、突如痛みが食らい付く。リーゼスの腹から右腕が生まれ、まだ癒えぬ腹傷に拳をくれる。あまりの激痛に喘いだ。


「ひぎぃ、がっあ!」


「大人しくして貰おうか。レイス様より頂いた命令はお前を生かしたまま捕らえる事だからな、変に暴れられて殺してしまったら自分が困る」


「ううっ……ど、どうして捕まえるのよ、さっさと殺した方が懸命なのに……」


「皮肉のつもりか? 何故生かして捕まえるのか、お前はとっくに分かっている筈だが?」


「……そうよね。はは、レイスは私が居ないと……」


 だから殺せるチャンスだ、とある理由により今なら奴を葬れる。しかしあの工場ではしくじった、メイディアの力で甦ってしまったのだから。


「さて、しばらく眠って貰おうか。レイス様達が戻るまでな」


「くっ……嫌だと言ったら?」


「苦しむだけだ」


 奴の腹がうねり始めまた腕を作るつもりらしい。なるほど、また腹を殴る気か。今度は手加減無しで気絶を誘発する訳か。

 くそ、目と鼻の先には佐波くんを追いかける門があると言うのに。この身が万全だったらこんなへまは取らなかった。

 力が入らない、もうダメだ。


「「まてーー!」」


「ぬっ?」


「え?」


 闇夜に響く重複する声が放たれた。

 内部から屋上へと繋がる階段の入口からその声の主が現れた。

 金の長い髪と銀髪で二つの小さな角を持つ双子、ネリスとエティオが怒りを露にしてこちらを見詰めていた。


「にゅにゅ! おねえたんをはなせ! このヘンタイ!」


「オバチャンをはなせ! さかさまにしたら、あたまにちがのぼるんだよ!」


「……また子供か」


 まさかあの子達はこいつに戦いを挑もうとしているのか? ダメだ、勝てる訳が無い。それに二人が傷付くところなんか見たくない。


「に、逃げなさい! 二人共逃げて!」


「子供、見逃してやるからここから失せろ。痛い目に合いたくなかったら……」


「にゅにゅにゅ! わたちカッチンしたもん! わたちこどもじゃないもん!」


「ぼくだってこどもじゃないやい! おまえきらいだーー!」


 幼き叫びが四方を伝い大気を震わせ、反響し注目を余儀なくされた空間にそれは降臨する。

 相対する二つの色、一つは黄金、片方は白銀。

 金の髪を持つあの子から生まれた黄金の灯。

 銀の髪を持つあの子から生まれた白銀の灯。

 それは炎、見つめるだけでその鮮やかさに心奪われそうな相対色。

 二人の体から炎が現れた。


「おねえたんをはなせーー!」


「オバチャンをいじめるなーー!」


 双子は空と陸に別れ、こちらに向けて突進む。


「な! に、逃げなさい!」


「……遊びに付き合う程暇では無いのだがな」


 翼を羽ばたかせ空より来るのは双子の姉だった。

 金の炎を右手に集束させ、形を成す。それは黄金の炎で創られた鎌だった。

 多分、死神が使う様な鎌だと思う。


「やあーー!」


 真っ直ぐ金の鎌を振り降ろす、軌跡の後は金が星屑のように消えて行く光景は美しかった。

 それに対するリーゼスは開いた手に魔力を集めコーティングを施し、金を待つ。

 あれで受け止める気なのだろう、おもむろに黒き手で金の鎌を迎え、掴む。そのまま炎を握り潰し霧散、させる気だったのだろう。

 しかし、黒は金に引き裂かれた。


「ぬっ!」


 魔力で固めた手をものともせず、ネリスの鎌が走る。巨体たる悪魔の手が綺麗に二つに別れ、そのまま腕、肩と閃光が抉り切り飛ばす。

 黒色の血潮が舞う。


「ぬうっ! 何!」


 予想外だと言わんばかりに奴の顔が歪むと同時に私を放してしまう。

 地面に落ち、次に視界に入ったのがエティオだった。


「ぼくはおこったーー!」


 意思を含むと誤認しそうな銀の炎を体に纏い、全面を覆った。

 エティオは銀に隠れ巨大な球となりて敵に抉る様にぶつかる。


「ぬぐっ!」


 一息もつかぬ間に視野から奴が消え、吹き飛ぶ。

 残った銀が薄れ、またあの可愛らしい子を映し出す。


「どうだおもいしったか~!」


「にゅ~! とんだとんだ~!」


 一瞬で唖然としてしまいしばらく固まってしまった。

 まさかあの子達がこんな力を秘めているとは予想外だった。


「へっへ~んだ! ぼくらはじごくおうアフトクラトルと!」


「しにがみスミスのこどもだもん!」


「「いっぱい、い~っぱいすごいんだもん!」」


 双子が腰に手を当て胸を張る。あれだけ強力な力を持っていながら、見ているだけで可愛いのだ。

 自然と笑みを零した。


「おねえたんだいじょうぶ!?」


「オバチャン!」


「大丈夫よ。それより私はオバチャンじゃないの……でも、ありがとう」


 今の内にさっさと向こう側へ行こう、リーゼスが何処まで飛ばされたのかは知らないが直ぐには戻って来られないだろうから。

 立ち上がると激痛が噛み付く、腹を手で押さえ痛みに耐える。


「おねえたん! むちゃはだめだよ!」


「そうだよ! やすまなくちゃ!」


「……大丈夫、私は大丈夫だから……早く行かないと、佐波くんが危ないかもしれないんだから、だから早く……」


 こんな痛みがなんだ、こんなものに私を阻ませてなるものか。


「にゅ……おねえたん、もしかしておにいたんのことスキなの?」


「え?」


 佐波くんの事が好き? 私が?


「…………ふっ、あははは! 痛てて、そんな訳ないじゃない、私には愛している人がいるの、だから違う。佐波くんに恋心なんてないわ」


「にゅ、じゃあどうしておにいたんをたすけようとするの?」


 言葉が詰まった、何と言えば良いのか分からず一瞬動きが膠着した、時間が止まったと誤認する様に。

 そうだ、佐波くんにも訊かれたっけ、どうして助けるんだって。

 他人が私を見ていたらそう疑問が生まれるのは当然なのだ。命懸けで何故守る、何の利点がある?


「……どうしてだろうね、本当は私も良く分かんないんだ」


 理由は話せない。嫌、話しちゃいけないのだ。

 それでも……自然と体が動いてしまう。


「オバチャン? かおいろがよくないよ?」


「オバチャンじゃないの。さ、行こう、向こうへ……ヘルヴェルトに」


「にゅにゅ……う、うん……」


 支障な体に鞭を打ち、佐波くんの部屋へとやって来る事が出来た。しかしエティオくんが思い切り体当たりをし、吹き飛ばされたリーゼスがいつ戻って来るか分からない、早く向こう側へ。

 それにしても玄関横に巨大な穴を空けてしまった、これ佐波くん許してくれるだろうか? 連なる穴の先に外の風景が見えてしまっている、多分、嫌、絶対に怒られるな。


「二人共良い? この穴は向こう行っても内緒だからね? もしバレたら……怒られるから」


「にゅにゅ! おにいたんがおこったらこわいんだよ!」


「ほぇ、ぼ、ぼくもおこられるのかな?」


 内緒と三人で秘密を共有する。なんだか馬鹿らしいが、何故か和んだ。


「これこれ! このハコからわたちは出て来たんだよ!」


「……へ? これから?」


 そこに在ったのは冷蔵庫だった。まさかこれが向こう側への門? 予想外だった、こんな1メートルにも満たない冷蔵庫がヘルヴェルトへの門だったなんて。

 もっとこう、神々しい様な言葉に表せられないゲートが在るものとばかり。拍子抜けだ。


「ほ、本当にこれなの?」


「うん! いまからショウコをみせてあげる! エティオ!」


「うん!」


 ネリスちゃんが冷蔵庫を開けると中は至って平凡な冷蔵庫だった、ただ中身が無いだけで。それに向かうエティオくんとネリスちゃんは手を繋ぎ、空いた手を冷蔵庫へと差し出す。

 しばらくそのまま時間が過ぎる。何も起きないなと溜め息をする寸前にそれが生まれた。まるでスクリーンに映像が映るかの如く一瞬で真っ赤な光が覆い、異界への門を錬成する。


「これがヘルヴェルトへの門……」


「うん、ヘルズゲートだよおねえたん!」


「はやくいこうよオバ……マギサ!」


 ようやくヘルヴェルトに向かう事が出来る、いらない邪魔が入ってしまったが結果オーライだ。こんなにも小さなヘルズゲートをリーゼスなんかに壊されたら堪ったものではない。

 そんな不吉な想像を浮かべてしまい嫌な気分になったが、そんな事はどうでもいいのだ。ゲートへ向かうべく一歩踏み出したところで現実の冷たさを突きつけられた。

 粉々になった冷蔵庫が絶望を呼ぶ。

 驚愕するしかなかった、だってゲートが壊れて無くなったら私達はヘルヴェルトに行けなくなるじゃないか。

 いつ壊れた? どうして?

 混乱するな、確かに今まで完璧な姿でそこに聳えていただろう。ただ、上からあいつが降って来てゲートを破壊しただけじゃないか。


「なっ!」


「にゅにゅ!」


「あーー!」


 ギロリとリーゼスが睨む。


「ぬっ、なんだ冷蔵庫がゲートとやらだったのか……しまったな壊してしまった」


 天井を打ち抜き破片と共に落ちて来た巨体は異界の門を踏み砕いた。あまりの衝撃にしばし言葉を忘却し、ただ立ちすくむしか出来ない。

 赤い光が破片となった箱から溶ける様に薄まり消える。

 扉が、道が、門が消失を遂げた瞬間だった。


「あ……ああ……そんな……これから佐波くんを助けに……行く……筈……だったの、に……」


「……逃がすと思ったのかマギサ?」


「許さない、あんたは許さないから!」


 ありったけの魔力を放出しミストを動かす。頭上に巨大なランスを生み奴に撃つ。発射の反動で空気を捩じ曲げ家具や食器を四方に吹き飛ばしながら突進んだ。

 それを受け止めリーゼスは壁へと食われて行く。

 私が飛ばされ作った連なる穴を凌駕したものを作りながらランスに押されて行った。

 眼球が捕らえる空間がゆらりと波を打ち、吐き気が噛み付いて頭を悩ます。衰弱している中無理に力を使った為だろう、体が悲鳴を上げ出して膝を地に落とさせて両手足が動きを止めてしまう。


「うっ……くそ、後ちょっとだったのに……くそ!」


「おねえたん……」


「……ネリス、あいつたおしちゃお! ゆるせないよ!」


「うん! わたちたちがたおす!」


 再び黄金と白銀が燃え上がる。炎は鎌へと姿を変え、双子が握り締めた。

 金と銀の鎌がここに現れ私に問い掛けを渡す。


「おねえたんてきのけはいわかるよね?」


「ぼくたちにおしえて! ありったけのちからをぶつけるから!」


 真剣な眼差し、確かに今私は動けない。戦えるのはこの子達のみ。

 子供を戦わせるのは嫌なのだが、今戦わないと負ける。


「……ごめんなさい、ありがとう」


 やるからには妥協には眠っていて貰おう、私がレーダーでこの子達がミサイルだ。

 動けない代わり、完璧な指示をしてやろう。


「良い? 今奴は外で様子を伺ってるわ、もうすぐこっちに痺れを切らして飛び込んで来ると思う。私が場所とタイミングを教えるからその炎をぶつけるのよ?」


「にゅにゅ、まかせて!」


「ぼくらならかてるよ! だってじごくおうアフトクラトルとしにがみスミスのこどもだもん!」


「「いっぱいいっぱいすごいんだもん!」」


 こんな二人を見ていると元気が出て来る、怒りを忘れさせてくれる気がする。

 さあ始めようか、見ていろよリーゼス。


「いつでも攻撃出来る様に構えて」


「にゅにゅ!」


「うん!」


 意識を敏感にさせ集中、励むよう催促を提示し、蠢く魔を掴む。建物の周囲を漂いながらこちらを伺っているらしい。不意に動きがピタリと制動に徹して不気味さを垂れ流す。

 その刹那、暗雲が立ち込めて喉を渇かせた。

 膨大な魔力が湯水を想像させる勢いで広がり集束を開始。ただ一点に固まって行く力は濃厚に殺傷能力を増加させこちらに吠える。

 時の秒針が一周を行う前に強大な魔力がこちらに向かい敵意むき出しに突進む。

 来た、奴は私を殺しはしないだろうがあれを食らえば動けなくなってしまうだろう。そんな事許さない、こんなところでリタイアなんて私自身を許せない。

 絶対に佐波くんを助けに行く、必ず。


「来たわよ! 場所は部屋の奥の壁向こう!」


「にゅ! くるならこい!」


「まけないぞ!」


 瞬時、爆音が世界を食い尽くす。

 奥の壁を吹き飛ばしテレビやベッドを粉々とさせ、リーゼスが現れた。全身に魔力をコーティングし、薄い黒へと皮膚が変色した肉体は砲弾と化して迫る。

 あのまま体当たりをする気か、ならば来い。良くは分からないがこの子達は地獄王と死神の子供らしい、親譲りの力は強力だ。

 悪魔を退ける程強大な力。


「今よ!」


「にゅーー!」


「わぁーー!」


 金色の刃が縦から、白銀の刃が横からクロスした。

 黒き砲弾に食い込む二色の十字が塞き止め、空に力がぶつかり合いながら拮抗する。


「にゅーーーー!」


「にぃーーーー!」


 どちらも引かない、つまり同等の力と言う訳だ。

 なら、微力だが私の力が加われば……。

 些細な魔力はミストを集め手の平サイズのランスを作り上げたが中身はスカスカだ。でもこの微弱な力だけでも加われば拮抗が崩れる筈。

 最後の力を振り絞り、十字を模す炎の中央へと向かわせた。

 金と銀とそして異色な黒が混じり合い、ピクリとも動かなかった対抗が砕け散る。


「ぬぅ!」


 三色から成る光は闇の衣を抉り罅を発生させこちらが有利と教える。リーゼスを覆う魔力に罅が入り、今にも爆ぜそうだ。


「ぬ! ば、馬鹿な、自分がまさか!」


「……終わりよリーゼス、あんたはここで死ぬの! ……恨まないでね、私はこんなところでリタイアはごめんだから……」


「ぐっ……ぬっぅ! 自分がここで消え様と……ぬがああああああ!」


 闇が欠け、破片が舞う。黄金と白銀に燃やされリーゼスが消えて行く。

 勝った、でもそんな事が何になる。

 向こうへの行き道が無くなってしまったのだから、勝利の美酒を口に含んでも味わうのは空しさのみ。


「やったぁ! オバチャンあいつをたおせたよ!」


「にゅにゅにゅ! しょうりしょうり~! ……あれ? おねえたん?」


 いやはや、力を使い過ぎた。

 一気に意識が遠ざかり、闇に転落。

 ただただ体を休める為に。







 

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