新たな戦い
待て待て、これはなんの悪い冗談なんだ? 分からない。まさか妄想か。嫌々、妄想ならこの暖かみはなんだ。
冷たい床に寝ていたはずだが、いつの間にかベッドの上にいた。右隣りには地獄の姫君ことネリスがスヤスヤ。問題は左側だ、腕はしがみつかれ身動きが出来無くて甘く良い香りが漂う。
左側にはマギサが寝ているのだ、サングラスをしたまま。寝る時ぐらい取れよ。って違う、マギサはバスタオル一枚だけで俺の腕にしがみついて寝ていた。
「な、なな……」
見事な谷間が視界にちらほら。むむ、でかい。じゃない!
何でこんな事に? 柔らかい二つの弾力が腕を押す。
「やばいだろこれ……」
「おはようおにいたん」
「うわぁあああ!」
突如起きたネリスに驚いてしまった、心臓が口から出るかと思った。
「にゅにゅ! びっくりしたよ。おどかさないで」
「わ、悪いネリス。とにかくおはよう」
「んん……うるさいな~、朝は静かにしてよ~。もう」
ようやく起床したか。それにしてもプロポーションが凄く良い。
と考えてしまった、自重しろと自分に言い聞かせた。
「佐波くんおはよう。子供もおはよう」
「わたちこどもじゃないもん! ネリスだもん!」
「あ~そう。それは良かったね~」
「にゅにゅ~! よくないもん!」
朝からうるさい。
「と、とにかく服を着ろよマギサ」
「あそっか、このままで寝ちゃったんだ。じゃ着替えるね!」
と言ってバスタオルを外した、俺の目の前で。
美しい肌が露出して、あれ、こいつ下着つけて無いぞと。
「うわああああ! ば、馬鹿野郎!」
「あははは! どう? ムラムラしたぁ?」
「するかぁ!」
ちくしょう、馬鹿にされているよな? 恥ずかしさが込み上げる中、両手は目を覆い決してマギサを見ない様に頑張った。
朝っぱらから何でこんな目にあうんだ。
「佐波くん、指の隙間から見てるでしょ? このスケベ~」
「断じて見ていない! ……な、なぁ、俺床で寝てたよな? 何でベッドに?」
「私が寝かせたの、だって眠り辛そうだったから。私って親切なお姉さんだからね」
余計な事を。でも感謝はしてやるか、少しだけだが。
ようやく着替え終わったマギサとネリスを連れてホテルを後にした。受付の人と目が合ったのだが、お兄さん隅に置けないねこのスケベ、という顔をしていやがったのがムカついた。
「おにいたん、わたちおなかへった!」
「お兄たん、私もお腹減った!」
「にゅ~! まねしないで!」
取り敢えず飯だな。
近くにあったファミレスに入る事となった。そう言えば金持ってたっけ? マンションを急に出て来たから財布が……無い。
やばいな、どうしたものか。
「大丈夫、ここは私がおごるから」
「そ、そうか? そりゃあ有り難い」
「佐波くんの体で返して貰うから気にしないで!」
ここは無視しないと疲れる事は目に見えている。
ネリスはホットケーキ、マギサはトーストとコーヒー。俺は和食の朝食セットを頼んでいた。
さて、これからの事を話し合わないといけない。
「マギサ、今まこちゃんは何処に居るのか知っているか?」
「知らないわ。抜けた後の事は知らないから……ねぇ、やっぱり皆川真を助ける気?」
「当たり前だろうが! まこちゃんは大切な人だ。俺の大切な……」
「でもね、佐波くんじゃ奴等に敵わないと思う」
敵わないだと? 確かにマンションで会った男、レイスに手も足も出なかった。この結晶の碧と紅の帰還はルベスから借りた力、それが無ければ俺はただの人間だ。
けど、それでも俺は助けたい。
「俺はそれでも……」
「佐波くん、皆川真を忘れなさい。悪い事は言わないから」
「……無理に決まってるだろ! マギサ、お前には大切な人は居ないのか? その大切な人が捕まっている。相手は強くて歯が立たないからあきらめろって言われて、あきらめられるか? 俺はちっぽけな人間だ。敵わないかもしれない……でも、大切な人をあきらめる様なクズにだけはなれない」
何処まで戦えるかは分からない、死ぬかもしれない。
それでも、俺は戦う。全てを賭けて。
「佐波くん……」
じっと俺を見詰めるマギサ、今の言葉を曲げる気は無い。それを教えるため見詰め返す。
強く意思を込めた、必ず助け出すと祈る様に。
「……はぁ、もうしょうがないな。佐波くんに熱い眼差しで見詰められたら私火照っちゃう! 参った、お姉さんの負けよ。皆川真を助けましょう。私が力を貸してあげるわ!」
「ほ、本当か!」
「だって、一人突っ込んで行ったら絶対死んじゃうもん。佐波くんが死んだら……助けた意味が無いじゃない」
寂しそうにそう呟く。どうして俺を助けてくれる? マギサ、本当にお前は誰なんだ。
この謎、いつかは教えてくれるのだろうか。
「おにいたん! わたちもてつだうよ!」
「お兄たん、私も手伝うよ!」
「にゅ~! またまねしたぁ~!」
「あはは、貴女本当に可愛いわね。名前は?」
「おしえない! いじわるだからおしえないもん!」
まったくこいつらは緊張感は無いのか、それとも緊張し過ぎてるのは俺なのか? 嫌、今は気を抜けないだろう。相手は俺を殺したがっているのだから。
「そうだ、奴等の居場所が分からないのにどうやって探すんだよ。このままじっとしているなんて嫌だぞ」
「大丈夫、私に考えがあるわ。ふっふっふ、私がただ男をムラムラさせるだけの女に見える? こう見えても知的なのよ私!」
「嘘くせぇ」
「ひ、酷いよ!」
見た目からは痴女としか思えない。だが、マギサの言う考えが今の時点で最良だろう。さて、どんな考えなんだ?
「それじゃ店を出よう。ほら子供行くわよ?」
「にゅにゅ! おいていかないで!」
さっさと先を歩き出すマギサと一生懸命に追いかけるネリス、二人に付いて行く。
朝食から数時間後、マギサの言う考えを実践しているのだが、この行為の意図が掴めない。
これが考えなのか? 本当の本当にこれで良いのか?
「どう佐波くん、ムラムラする?」
「……おい」
「あ、それともこっちが良かったかな? もう、佐波くんってマニアックだね!」
「……おい!」
遂に我慢の限界が訪れた、こんな事が本当に考えなのか? 何が起きているのか、あれから数時間、俺達は街を彷徨い、ある店にいた。
そこは洋服店だ。但し、普通の店では無い。メイド服やナース服、はたまたアニメや漫画の世界の衣装まで。ま、いわゆるコスプレ専門店な訳だ。ちなみにマギサは試着でナース服を……。
「やっぱりピンク色のナース服が受けが良かったかな? 白は普通過ぎる?」
「馬鹿野郎! ナース服は白って決まってるんだ! 良いか、ピンク何て邪道だ! 真にナース服を語るなら白が基本…………って違う! 何でこんな事をしてるんだぁ!」
「途中までノリノリで熱く語ってたのに。ふふ、大丈夫だよ佐波くん」
「何を根拠に大丈夫だと……」
「良い佐波くん、私達は相手の居場所を知らない。けど、佐波くんは命を狙われている。さて問題、この数時間街中を彷徨ったのは何の為?」
「……そうか、奴等は俺を探している。つまり撒き餌だ、俺を餌にして奴等を誘き出して倒し、まこちゃんの居場所に案内してもらおうって訳か!」
それならば何とかなるかもしれない。だが、あの男、レイスが来てしまったら正直勝てるか分からない。
所詮、俺はただの人間なのだから。
「正解! 佐波くんは勘が良くて良いね! だから奴等が襲って来るまで楽しくしましょう。向こうが来ないと何も出来ないから……という訳で次は女王様とかが良いかな? ボンテージに鞭とロウソク……」
「それは楽しみ過ぎだ」
「おにいたん! このおようふくどうかな!」
振り替えるとネリスがにこやかにマギサにチョイスしてもらった服を着ていた、まるで水着の様なゴスロリ悪魔の衣装。ちなみにツインテールにして着こなしていた。
似合い過ぎている気がする、一部の方々に馬鹿ウケしそうな気が。
「にゅ~、これがにんげんかいのおようふく? かわってるね!」
ゴスロリ悪魔の格好が地獄の姫君には変に見えるのか。嫌待て、もしかしたらオタク文化自体が変なのか? 嫌、断じて違う。
俺はオタクでは無いが、ナース服だけにはうるさいのだ。
って、何を熱くなってるんだ俺は。
「佐波くん~、これなんかどうかな?」
「は、裸エプロン! ……おい、本当はただ遊びたいだけなんじゃないか?」
「ぎく! 何の事かな~?」
自分でぎくって言うなよ。
不本意だが楽しい時間が流れた、外はすっかり夜になって街は昼間とは違う顔に。楽しく遊んだお陰らしいのだが、ネリスとマギサがいつの間にか仲良くなっていたのだ。
まるで姉妹の様に寄り添っていた。
「ねぇ、ねぇ、つぎはどこいくの~! にんげんかいはおもしろいね!」
「人間界? ネリスちゃんは人間じゃ無いの?」
「うん、そうだよ。おねーたんは?」
「……さぁ、どっちでしょう」
そうだ、相手は悪魔だ。なら元仲間と言っていたマギサはどうなんだ? また一つ謎が増えやがった。本当に謎だらけの女だ。
「どうしたの佐波くん、そんなに見つめられたら照れちゃ……は! いけないわ佐波くん、私はそんな安い女じゃないの!」
「……もう突っ込まなくて良いか?」
「何よ、少しくらい乗ってくれても…………佐波くん、付いて来て」
突然マギサは急ぎ足で進む、俺を置いて行く勢いで。
訳が分からず、付いて行くしかなかった。
無言のまましばらく歩いた。ネリスは心配そうにマギサを見ている。
どうしたんだ一体。まさか……。
「おいマギサ、まさか……」
「ええ、撒き餌に魚が掛かった。それも大物が」
「レ、レイスって男か?」
「いいえ。でも、油断したら負けるわ。良い、いつでも戦える用意をしておいて」
結晶の碧を発動させた。瞳は青色に染まり、体を冷気を纏わす。
街を離れ、川沿いを歩く。黙々と歩くしかない、きっと向こうは俺達を見ている。
人気が無くなった頃、辺りは田んぼや畑が広がる場所だった。ここなら見渡しが良く、隠れる場所が限定される。
「奴等はいるのか?」
「ええ。……舐められたものね。たった一人なんて、そうでしょリーゼス!」
「嫌、自分一人で十分だ」
後ろから声が、男の声、だが聞き覚えは無い。レイスって奴では無さそうだが。
息を整え、振り返った。
一瞬、巨人がいるのかと誤認してしまった。圧倒的な存在感が渦巻く。巨人では無かったが、身長は軽く二メールはあるだろう。その点から言えば巨人と言えるか。
鋭い目、まるで鷹の様な瞳孔。体はその巨体さを支えるかの様な筋肉、ボディビルダーの一言が似合う。
「貴方一人で来たのリーゼス」
「ああ。それで十分だ。……マギサ、やはり戻る気は?」
「無いわよ! 私はもう二度とあんた達の仲間にはならない! これは決定事項なのよ!」
「そうか。なら……」
ズンと奴が一歩歩き出す。地響きだ、更にもう一つ。やるしかない。奴は強い、本能がそう言っている。
冷気を右手に集中、手の平に針に形を整えた氷を作りだし、巨人に発射。
「むん!」
腕を振るう、ただそれだけの仕草で針を弾いた。振るっただけと言ったが、それはまるで強風、奴は腕を振るうだけで凄まじい風を起こした。
「なんて奴だ! 腕だけで俺の攻撃を!」
「油断しないで! リーゼスは恐ろしい男なんだから。良い、あいつには“前も後ろも関係ないんだから”」
「関係ない? それは一体……」
「奴が来た! 逃げて!」
地響きが近付く、巨大な体に似合わず足が速い。あっと言う間接近を許してしまった。氷の針を撃ち出しながら右横に飛ぶ、マギサは左に飛んでいた。良し、挟み撃ちだ。
だが気に掛かる事がある、マギサの言った前も後ろも関係ないとはどんな意味だ?
考えても仕方ない、ちょうど良く奴はマギサの方を向いている、後ろががら空きだ!
地を足で殴り、その勢いで一気に奴の背中へ。俺の力は手に触れたものを凍らせる力だ。カッチンコッチンの塊にしてやる。
「佐波くんダメぇ!」
「え?」
それはまるで頭に直接電流を流されたかの様な衝撃だった、一瞬目の前がフラッシュしたかと思った次には地面に叩き付けられていた。
右頬が痛い、これは拳に殴られた痛みだ。だがおかしい、リーゼスは完全にマギサの方を向いたままだ。体のどこも動かした形跡は無い。
「な、何でだ……お前、俺を手で殴ったか?」
「ああ、鬱陶しいから殴った、拳でな」
そんな馬鹿な、殴る動作をしたならこっちに体が向いているはず、それとも肘にやられたか?
「大丈夫佐波くん!?」
「ああ、大した事無い。ちくしょう、奴の力が分からない以上、接近戦は不利だ」
無数の氷で出来た弾丸を精製する、大きさは三センチ程。
それを次々と放つ、マシンガンの様に。
「むん!」
回転しながら腕を振るい、弾を風圧で弾いて俺と面を合わせる。
「シュバルツミスト!」
マギサの頭上に黒い粒子を集束し、槍に固めた物体が浮かぶ。それをリーゼス目掛け穿つ。
瞬時、奴は消えた。だが何処にいるかは分かっている、空だ。ジャンプして避けたんだ。
「甘い!」
「甘いのはそっちよ!」
黒き槍は方向を上と向け、突き進む。まるで追尾ミサイルだ。
俺はこの瞬間を見逃さなかった、再度氷の弾を精製し、発射。空中なら上手く動けないはずだ。二つの攻撃が一点を目指す。
「仕方ないか、むん!」
両腕を顔の前で組み、二つの攻撃を受ける。
右腕は吹き飛び血潮が舞う、左腕は穴だらけとなった。
「ぬっ、ぐうぅ!」
空中でバランスを崩し、そのまま落下。地面に激突する瞬間にバランスを取り戻したらしい。綺麗に着地をする、轟音と共に。
「ふぅ、腕二つで済んだか」
「良し、これでお前は戦えないな!」
「佐波くん、油断しないで」
だが、両腕がもう使い物にならなくなったのだ、奴はもう戦えない。
負傷のまま俺達二人を相手にするのは無謀だろう。
「仕方が無い、か。むん!」
吹き飛び、血潮を振りまくかつては右腕だった場所の血がぴたりと止まる。そこからそれが伸び、生えた。
吹き飛んだはずの右腕が何ごとも無かったかの様にそこにあった。
「再生能力した!」
「……ぬぅ、これは予想外だった。やはり制限した力ではお前に勝てぬか」
「そうよね、本気の貴方ならアレを避けられた」
力を制限していた? それだけであれだけの動きが出来たのかよ。
ちくしょう、何て遠い。俺の力はどこまで奴に通じる?
「片腕ではやはり無理だろうな。むん!」
舞う左腕、右腕を振るい、穴だらけだった左腕を吹き飛ばしたのだ。
その刹那、新たな左腕が現れた。
「うむ、不備無し。さて、男はチョロチョロと目障りだな」
一呼吸する間、リーゼスに俺の領域に侵入を許してしまった。ほんの一瞬だった、奴は右腕をのけ反らせ、打ち抜こうと照準を合わせる。
落ち着け、焦ったら死ぬ。
冷気を体全体に纏わせ、濃い霧状にさせて散布。俺と奴とのフィールドは霧となり、互いの姿を削る。咄嗟に後ろでは無く、逆に前に飛び出す。そのまま頭上にある巨大な影を通り過ぎることが出来た。
股下から飛び出し、すぐに氷の弾を放つ。しかし、霧は瞬殺される。見ると両腕を平行に伸ばし、例えるならコマの要領で体を横に回転させ、霧と弾を飛ばす。
「しゃがんで佐波くん!」
言葉に反応出来、身を屈めた。上をマギサが通過して行く、その手には粒子を集めて練成した黒い剣を持って奴に振り落とす。
しかし迫る刃が空中で止まる、リーゼスがマギサの腕を掴み止めたのだ。反射神経が良い。
だが黒い剣は蛇の如く蠢き、奴の顔面に向かった。
だが、蛇をもう一つの手で捕らえてしまう、刃を握った手からは黒い血が流れる。黒い血、つまりこいつは人間では無く、悪魔か。
「惜しかったなマギサ。むん!」
「がっ!」
マギサは殴られて吹き飛ぶ、だがおかしかった。奴の両腕は塞がっていた、足を使った形跡は無い。
それなのにマギサは殴られたのだ。
「にゅにゅ! なぞがわかったぁ!」
空中から声が響く、翼を背に生やしたネリスが上空から今の戦いを見ていたのだ。
ビシッと指をリーゼスに向けて啖呵を切った。
「あなたはにんげんのどうたいしりょくに、とらえられないはやさで、“むねからうでをだした!”」
「ふむ、君は目が良いな」
「にゅ~! わたちのなはネリス! ヘルヴェルトのおう、アフトクラトルと、しにがみスミスのこどもだもん! いっぱい、いーーっぱいすごいんだもん!」
ネリスが言った言葉、それは人間の目では確認出来ない程の速さで攻撃した。胸から腕を出して。なんだそれは? 胸から腕だと?
とにかく今の場所は危険なので走って距離を取った。
なんだこいつ、ネリスの言った、胸から腕を出すとは一体?
「うっ……奴の能力よ」
「マギサ! お前大丈夫なのか?」
「うん、何とかね。……佐波くん思い出して、リーゼスは後ろにいた貴方を見ずに攻撃をした事。実はちゃんと佐波くんを見ていたのよ、ただ、前の目は使わずに」
なんだそれは。前の目、つまり顔に付いている眼球の事。前じゃ無い目……まさかこいつ。
「バレたなら隠す必要は無い。知られたとは言え、どうという事は無い」
俺は幻覚を見ているのか? 奴の姿に頭が回らない。落ち着け、見た目は人間でも相手は悪魔だ。ネリスが胸から腕を出したと言ったが正しくそうなのだ、リーゼスの胸から腕が生えて来たのだ、植物の様に。
それだけでは無かった、奴の右頬と腹の辺りに“眼球”が現れた。
「なんだよこれ……」
「リーゼスの能力なのよあれは。体のどの部分にでも、体にあるパーツを生み出せる。頭、腕、足、胴体、髪、どれでも良い、パーツを体の様々な場所に生み出せるのよ」
「……つまり、腕を足から出せたり出来るって事かよ」
なんて体だ。なら、さっきマギサを吹き飛ばした時胸から腕を生やして殴った。
後ろからの攻撃を、後ろに目を生やして見ていたのか。
「面白い攻撃を見せてやろう」
構え、リーゼスは暴風の如く右足の蹴りを放つ。しかしここまで距離が有るんだ、届く訳が無い。だが、こいつの能力でそれをカバー出来た。
右足の先端から何かが飛び出る、それは“左足”だった。そしてその先端に右足、左腕、右腕が伸びる。それらは鞭の様に迫り、俺を殴った。
咄嗟だったので腕で防御するが、防御した腕を奴の“右手”に捕まった。
「そら、捕まえたぞ!」
グンと力が俺の腕を引っ張る。リーゼスは伸ばした体のパーツを元に戻して行く。一気に体が引力で引っ張られ、向かう先に奴の腕が。手刀の形、串刺しにする気か。
「佐波くん!」
「おにいたん!」
「さらばだ、運が無かったな」
手刀が胸に迫る。
「させない!」
大声を放つマギサ、その直後体に何かが巻き付く。色は黒で長いロープの様なもの。これはマギサの黒い粒子をロープ状しているものみたいだ。
それに引っ張られて俺は空中で静止する、マギサの粒子とリーゼスの腕に引っ張られ合い、止まったのだ。
「やるな。さすがはマギサだ」
このままではやばい。冷気を手の平に集中させ、奴の腕に触れる。
手に触れたものを凍らせる力、今が絶好の機会だ。瞬時、奴の体を這う様に氷を生む。
「ぐおおおおお!」
腕、胴体、そして片足が包まれた。
「今だマギサ!」
気が付いた時にはマギサはリーゼスの真上、そのまま粒子が奴を飲んだ。
リーゼスの体を粒子のロープが絡まり続け、束縛が完了した。
粒子の塊と成り果てた奴はピクリとも動かない、生け捕りが出来た訳だ。自然と俺を捕らえていたリーゼスの手が離れそのまま地面に尻餅してしまった。
「痛ってぇ!」
「おにいたんだいじょうぶ!」
「佐波くん!」
ネリスとマギサは心配そうに俺に駆け寄り心配そうに見詰めている、涙目で。
心配してくれたネリスの頭を撫でてやる。
「ありがとな心配してくれて」
「あ、良いな~! 佐波くん私にも頭撫で撫で!」
「……お前大人だろ?」
なんて言ってやると頬をぷくりと膨らまして「ひいきだ」とうめく。
その顔が面白くて笑ってしまった、ネリスもついでに。
「二人して笑うなぁ!」
指をさして笑ってやった、ほっとした時間が流れる。
だが油断していた、異様なものを俺達は感じた。
圧倒的な殺気、全身が震え、恐怖が誕生してしまう。どこからこれは起きている? と思っていたが自然と三人の視線が交わる場所があった。
それはリーゼスを閉じ込めたあの黒い粒子の塊だ。
「何が起きているんだ?」
「なんて奴なの! まさか“戻る”なんて……」
「戻る?」
爆音が突然発生し、塊の中からリーゼスの腕が飛び出す。その腕は真っ黒に染まっていた。そのまま黒い腕は引っ込み、塊が拡散し、消失。リーゼスが姿を晒す。
だが、黒い腕では無く、先程と変わらない姿だ。
あれは何だったんだ。
「リーゼス、あんた一瞬だけ戻ったわね?」
「ああ、そうしなければ抜け出せなかった。さすがにお前を敵に回すとやりにくい。……だから、吹き飛べ!」
一瞬でマギサが空中に浮く。リーゼスが殴り、その威力で浮いたのだ。
「こんな攻撃じゃ私は倒せない!」
粒子を一か所に集め、即席の盾を作り出して今の攻撃を塞ぐ。だが、リーゼスの攻撃は終わらない。強力な蹴りを盾に食らわせる。勢いは絶大、空中に投げ出された。
奴は睨んできた、邪魔なマギサを空中に追いやり、俺を始末する気か。
「しまった! 佐波くん逃げて!」
腰の辺りから粒子の翼を出し、急降下してくるが、リーゼスが俺の間合いに入るのが速い。
やるしかない、戦うしか。冷気を全身に纏わせ始める。
「遅い!」
奴が右腕を伸ばす。その先端から左腕、そして右腕が伸びる。
氷を精製する時間が無い。
「ダメぇ!」
突然ネリスが俺の前に現れた。退けと叫ぼうとしたが、間に合わなかった。
猛撃が貫く様に迫る。
「ぬっ!」
どうしてだろう、あのままなら勝利は確定だったはずだ。なのにそれはならなかった。静止する攻撃、大きく手を広げているネリスの寸前で止まっていたのだ。
攻撃の手を止めた? 何故?
「ぬぅ……不覚」
「リーゼス!」
空から迫るマギサ、粒子を槍状に変えて巨体目掛けて発射。砂煙が爆音と共に舞う。咄嗟にネリスを抱き締めて地面に伏せた。
どうなったんだ、倒したのか?
観察していると違うみたいだった、煙の中から現れたのはマギサだ。奴はどこだ? 眼球が忙しく動き、見つけた。リーゼスは随分と離れた位置でこちらを伺っている。
「なんで止めたの? あのままだったら終わってたのに」
「……分からん」
戸惑っている様に見えるが、見間違えか?
もしかしたらあいつ、ネリスを、子供を攻撃出来ないのか?
「……今日は引く。いつでもその男は殺せるからな」
一瞬で消えた。瞬きする間に視界から外れ去る。
なんて事だ、逃がしてしまった。まこちゃんの居場所が分からないじゃないか。
「ちくしょう、振り出しか……」
「大丈夫だよ佐波くん。これで居場所が分かる」
「何?」
「私のシュバルツミストを一粒奴の体に付けた、それが発信機の役割が出来るの。だから今奴がどこにいるのか手にとる様に分かるわ。ちなみに一粒はミクロ単位だから気付かれないわよ。元気でた?」
そうか、今の戦いは無駄じゃなかったんだな。
良し、ならまこちゃんを助けられる。
「んん、ん~!」
「ん? あ、悪いネリス!」
「ぷはぁ! いきできなくてしんじゃうとこだった」
胸に押し付ける様にしてたから苦しかったろう。
今回はネリスに助けられたからな、御礼を言わないと。
「さっきはありがとうな。でも、もうあんな危険な真似をしないでくれ、頼む」
「にゅ~、わかった、おにいたんのいうとおりにする」
「佐波くん、しばらく休んでから追いかける?」
「……嫌、すぐに行こう」
絶対に救い出してやる、待っていてくれまこちゃん。
と決意しているがまだ彼女の顔を思い出せなかった……。




