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地獄世界のヘルヴェルト  作者: 生獣屋 芽怠
第三章 マギサという女
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サングラスの女

 月夜の街は人で賑わい、眠りを知らないかのようだ。ネオンの光、車のライト、ビルの明かり。その全てが月光を遮り、主張するかのように光り輝く。

 そんな街中で俺の背中には心地良く夢を泳ぐ地獄の姫君がいて、前方にはサングラスをした謎の女、名をマギサというらしい。

 この三人で夜の街を歩いていた。


「おい、どこに行く気だよあんた」


「マ、ギ、サ! 私の名前はマギサ。あんたじゃないの。はい、ちゃんと呼んでくれないとお姉さん泣いちゃうぞ?」


「……マ、マギサ、これから何処に行く気なんだ?」


「わわ、いきなり呼び捨て? 佐波くんって結構大胆なんだね。良いよ、お姉さんそんな子嫌いじゃない」


 調子が狂う。何なんだよこいつは、勝手に俺の家に上がり込んでいたかと思えば、変な奴等に襲われるし。

 でも、こいつは俺を助けてくれた事は間違ない。味方……と見て良いのだろうか?


「あはは、怖い顔しないで。良い佐波くん? 貴方は命を狙われている、ということは貴方の家、学校、良く行くスーパーまで奴等が見張っている。私達は取り敢えず体を休めなきゃならない。さて問題、こんな状況で何処に行くのか分かるかな?」


「……まあ休憩出来る場所だろ? 行ったことのないホテルとに行くって事か?」


「正解! ん~頭の良い子だね、正解のご褒美あげるね!」


 と言って急に接近して来て唇を近付けてきやがった。

 まさかキスする気なのでは? 咄嗟に後ろに飛び回避した。


「な、何するんだ!」


「え? 正解のご褒美に私の熱~いキッスを! と思って。何、照れた? それとも私にムラムラと……」


「するかぁ!」


 本当に調子が狂う。何を考えてるんだ。


「ウブだね佐波くんは、彼女と散々してるくせに」


「な、何言っていやがるんだ、お前変態みたいだぞ」


「何言ってるのよ、私は変態よ」


 いや、そんな真顔で言われても困る。


「ふふっ、冗談よ。……さてと、着いたわよ」


「何? ……ここは」


 大きなビルが目の前に、ここはホテルの様なのだが、建物の壁はピンク色。

 まさかここは世にいうラブホテルでは無いのか?


「ちょっと待て! 何でここなんだよ!」


「佐波くん、今はあいつらが知らない場所に隠れなきゃいけないの。あ! もしかして佐波くんってここの常連さん?」


「な訳あるかぁ! 隠れるならビジネスホテルとかでも良いだろうが。何でここなんだよ……ご、誤解されたらどうするんだよ」


 こいつは常識を知らないのか。ちくしょう、何でこんな女とこんなところに。


「可愛い~、やっぱりウブだね佐波くんは。大丈夫、佐波くんを食っちゃったりしないから……多分」


「多分ってなんだ! って、さっさと入って行くなぁ!」


 仕方が無いので付いて行くことに。中は意外に普通、どこにでもあるホテルのフロントがあった。だが一つ違う点がある、壁に大きなモニターがあっていくつかの部屋が表示されていた。なんだこれ、普通の部屋から全室ピンク色や牢屋なんかがあるぞ、マニアックな。

 初めての場所で戸惑ってしまった、マギサは受付にいた。ちくしょう、恥ずかしい。こんなとこに入ったの初めてだ。


「ねぇ佐波くん、いけない先生と個人授業の部屋と、ナースの手取り足取りの部屋と、女王様の優しいお遊びの部屋、どれが良い?」


「俺に訊くな! 普通の部屋にしろ!」


 でも、ちょっと興味があるな、特にナースの……ゴホン、断じていやらしい事を思って無いぞ? あくまで好奇心をくすぐられたからだ。





 色々あったが部屋に到着した、結果的にマギサが選んだのはシンプルな部屋だ。床や壁は真っ白、意外に綺麗だな。ただ、ベッドが一つというのが気になるが。


「わわ、佐波くん、このベッド手錠が付いてるよ? そんなプレイしてみる? あ、それに玩具売ってる! ……って、うわぁ、そんなに睨まないでくれる? 私、場を和ませようとして頑張ってるのに」


「……マギサ、そろそろ教えてくれないか? お前とあいつらは何者で、まこちゃんの行方を」


「焦らない、焦らない。ちゃんと話すわよ。でもその前にその子をベッドに寝かせてやったら?」


 確かにネリスをずっとおんぶしている訳にはいかないか、起こさない様にそっとベッドに寝かせてやった。

 疲れたろうな、人間界で俺を探し回って、マンションでは謎の襲撃。疲れたのは俺も同じか。


「さぁ~て、佐波くん、先にシャワー浴びて来たら? 体を綺麗にしてから話をしましょう。疲れたし、汗臭い中でのお話は嫌よ」


「ま、確かに……シャワー浴びてからちゃんと教えて貰うからな!」


「もちろん。ささ、行ってらっしゃい」


 取りあえずシャワーを浴びる事にした、シャワー室に入ってみると、中の壁は全部ガラス張りで趣味が悪い。ま、ラブホだから仕方ないのか。上着を脱ぎ、ズボンを脱ごうとした時ある事を思い出す。確か雑誌とかで読んだが、こんな感じの部屋は大抵マジックミラーになってるんじゃ無かったっけ?

 直ぐにドアを開け外に出ると案の定シャワー室は外から丸見えだった。それと、マギサがシャワー室を食い入る様に見詰めていたのだ。


「何やってんだこら」


「あ~あ、見たかったのにな、佐波くんのオットセ……」


 何かを言いかけていたが、シャワー室にあったシャンプーを投げて頭にヒットさせた。油断も隙もあったもんじゃない、シャワー室を隠す為にバスタオルで覆い隠してから浴びる。

 ああ、ドッと疲れが。


「何でシャワーを浴びるのに疲れなきゃならない」


「さっぱりしたみたいね。さて、私も浴びてくるかな。……と、その前に」


 マギサはシャワー室を隠していたバスタオルを全部はぎ取りやがった。何考えてるんだ、これじゃ中が丸見えじゃないか。


「うふふ、佐波くん、貴方をムラムラさせてあげる! 一部始終を見ていて良いんだからね? なんならオカズにしても……」


「だ、だだ、誰が見るかぁ! さっさと入れ!」


「やっぱり純情な少年ね。可愛い~、うふふ」


 絶対に見るものか。これは意地だ、背を向けてシャワーが終わるのを待つ。その最中マギサはいやらしく俺の名前を呼んでいた。ちくしょう、誰が見るか。

 長い時間が経った様に思える、ようやくマギサがシャワーを終えた。


「気持ち良かった~。佐波くん、ムラムラしてるでしょ?」


「してない! って、ちょっと待て、なんだその格好は!」


 バスタオル一枚を巻き付けただけの格好だった、サングラスをしたまま。


「どう、私の体、ムラムラしちゃうでしょ~? 触ってみる?」


「触るか! 痴女かお前は!」


 また疲れた。さっきからああ言えばこう言うし、話がなかなか進まない。

 いい加減、我慢の限界だ。


「マギサ、はぐらかすのはもう無しだ。教えろ、全て!」


「静かに、この子起きちゃうよ。……さてと、からかうのはここまでね……それじゃ何から聞きたい?」


「まこちゃん、皆川真は無事なのか? それに何でみんな彼女を覚えて無いんだ!」


 どんなに複雑な状況でも一番気になっていたのはやっぱりまこちゃんの事だった、何故誰も覚えていないのか、何故消えたのか。


「皆川真は生きてるわよ」


「ほ、本当か! 本当に本当なんだな!」


「うん。皆川真が必要なの。だから殺して無い。……誰も覚えていないのは仲間の中に記憶を改竄出来る奴がいるのよ、その力を使って皆川真が居なかった事にしないと不味かったの」


 何故不味いんだ、それに記憶みんなのを改竄させられるのにどうして俺は覚えていたんだ? 確かにまこちゃんの顔を思い出せないが、どうして居たと分かる? この疑問をマギサに伝える。


「そう、皆川真に関係する人達全ての記憶から彼女の存在を消した。それは後で説明するけどある者から見つかるのを恐れたからそうした。なのに佐波くんというイレギュラーが生まれた。ここは仮説なんだけど、佐波くんの部屋は何故かは知らないけど結界が展開していたわね、その結界のおかげで彼女の事を覚えているんじゃないのかしら」


 結界か。確かに俺の部屋には結界が貼ってある、あのマンションは地獄と繋がってしまった場所だ、ルベスがもしもを考えてあそこに結界を貼ったんだ。

 そのおかげで生き延びれた、その結界のおかげでまこちゃんを忘れなくてすんだかもしれない。でも、顔は思い出せない。多分、記憶の改竄が中途半端に掛かったのだろう。


「……まこちゃんを狙った奴等は何者だ? 人間じゃないよな、マンションの屋上にいた男は?」


「あいつの名はレイス。奴等のリーダーと言っても良い。佐波くんの言う通りあいつは人間じゃない。魔族、つまり悪魔」


「悪魔、ネリスも言っていたな。確か魔界ってところから来ているとか……」


 人間界とは別の世界、ヘルヴェルトとはまた違う世界。どうやら何個か世界があるみたいだ。

 その悪魔が何故まこちゃんを狙う?

 まさか。


「皆川真には不思議な力があるわよね、佐波くん?」


「何で知っているんだよ。……悪魔はまこちゃんの力を狙っている?」


 特別な力、門を開く能力。その力で一体何をしようと言うんだ? 謎だらけだ。それに……。


「どうしてそんな事を知っているんだマギサ。屋上にいた男、レイスだっけ? そいつと面識があるようだったが? マギサ、あんたは何者だ?」


「ん……隠し切れないよね。分かったよ、教えてあげる。私は昔……あいつらの仲間だったの。でも、あいつらが気に入らなくてね、仲間を辞めたわ」


「……それなら知っていて当然か」


 なら知っているはずだ、奴等の目的を。

 しかし仲間を裏切ったと言っているが本当かは怪しい、マンションの屋上で繰り広げた戦いだって演技だったかも知れない。ま、何にせよ気を許してはダメだ。


「マギサ教えろ、まこちゃんの力を使って何をする気だ?」


「……ご、ごめんなさい。今はまだ話せない」


「な、何? どういう事だ! 敵の目的を話せないなんて! ふざけるなよ、大切な彼女が危機なんだぞ!」


 睨み付ける。俺は焦っている、もしもまこちゃんに何かあったら俺は、俺は。

 マギサは無言だった。しばらくの沈黙を砕き、話し始める。


「奴等の目的はまだ話せない。でも、信じて? 私は貴方の敵じゃないの。本当よ? 本当なの!」


 悲しみに満ちた声だった。サングラスで表情が読みにくいが、今にも泣きそうに見える。

 こいつは敵なのか、それとも味方か。この段階ではまだ判別は難しい。でも、悲しみに満ちた声が心に染み込む。


「まだ俺は信用していない。でも、今だけは信じる。今だけだが」


「それで十分だよ。今だけでも信じてくれてありがとう、佐波くん」


 ニコリと彼女が笑う。あれ? この笑顔を見た記憶があるような。

 誰だ? お前は一体。


「マギサ、俺達会った事あるか? 昔に」


「……いいえ。私達は初対面だよ。これは嘘じゃない」


 何か引っ掛かるんだよな。でも、考えても分からない。マギサ何て名前は聞いた事が無い。

 とにかく、今はまこちゃんを助ける事を考えなければ、今分かっている事を整理してみようか。

 まこちゃんには特別な力がある。奴等(悪魔)はある目的の為に彼女を拐う、何者かに見つかるのを恐れて皆川真を知る者全ての記憶を改竄した。

 そうか、何者かに見つかるのを恐れているなら、俺が邪魔になる。顔は覚えて無いが存在した事を知っている、だから命を狙われた。完全に皆川真は初めから居なかった事にする為に。

 マギサは仲間を抜け、俺を助けに来てくれた。だが、そこに何のメリットが彼女にあるんだ? ある目的の為に拉致、ある者に見つかるのを恐れている、敵は悪魔。敵に関してはこれくらいの情報か。そして、屋上で会ったレイスという男がリーダーか。


「佐波くん、ごめんね。全部喋るって言っておきながら話せなくて」


「何か理由があるのか?」


「うん……ごめん、これも話せないや」


「……そうか」


「佐波くん、ちょっと訊きたい事があるんだけど良い? あの力は一体……」


「ああ、まぁ特技みたいな奴だ。詳しい話はまた今度な、まだ完全に信用出来て無いからな」


「あ……そうだよね、ごめん」


 きつく言い過ぎたろうか、でも用心にこした事は無い。

 だけど本当に悲しそうにしているマギサを見ていると心が痛くなる。


「……あ~、取り敢えず今日は寝るか。これからどうするかは明日話し合おう」


「うん。それじゃ寝よっか」


 ベッドに眠るネリスの横にマギサが。そして彼女はじっと俺を見詰めている、まさか。


「どうしたの? 早く寝よう」


「……お、俺は床で寝る」


「ええ! せっかく3P出来ると思ったのに……って、シカトしないでよ! もう、冗談なのに」


 さっきまで悲しそうにしていたのにもうこれだ、全く調子が狂う。

 夜は更ける、最愛の彼女がいない世界で。





 

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