Venus Gospel
ただの駄文
嘗て栄華を誇った国が有った。
最盛期には大陸中に影響を及ぼし、世界中にその名を轟かせた文明が有った。
最先端の魔導技術を開発し、その力を行使し、大陸の盟主にまで上り詰めた。
今から数千年前。
彼の国は、突如として歴史から姿を消した。
大陸の隅々まで勢力を拡大し、世界中のあらゆる物が集まっていたと言うその国は、ある時期を境に忽然と消え失せた。
理由は今以て定かでは無い。
研究者の間では様々に推測されている。
――地震、戦争、気候の激変、果ては信仰していた神の呪い――
仮説は枚挙に暇が無い。だが、今となっては確証の有る物は全く無い。
現在その場所は荒野と化し、嘗てそこに有った建物は風化し、遺跡として朽ち果てている。
ただ一つの石碑を除いて。
同時代に作られたその石碑は、周囲の建造物と違い、一切風化する事無く遺跡の中心に佇んでいる。
そう、何処をどう調べても、全く劣化していない。
周囲の建物は朽ち果て、文字通り遺跡と化しているのに、だ。
嘗ての王都、その中心たる王宮の更に中心に、まるで時間にすら忘れられたように、たった一つポツリと立っている。
更に不可思議なのはその材質だ。
欠片を持ち帰ろうとした者が何人も居たが、ナイフで削ろうとしても粉々に砕こうと魔法をぶつけても全く太刀打ち出来ず、罅一つ入らなかったのだ。
あらゆる兵器や魔法を拒絶するそれは、恐らく合金であろうが、現在の技術では全く作る事が出来ない。
それにも関わらず、その物体は碑なのである。
即ち、その表面に文字が刻んであるのだ。
表面に書かれた文字の羅列は、今以て解読不能であり、誰も読めない。
既に失われた言語であり、推測の手がかりすら、今の所は不明である。
ただし、一つだけ現在に伝わっている事が有る。
ただの言い伝えであり、信憑性は薄いと研究者の半分は思っている。
だが、もう半分の研究者は信じても良いと考えている。
伝承に依れば、この石碑に刻まれているのは詩であり、とある女神を称えるものであるらしい。
そして、タイトルだけが今に残っているとの事だ。
―――我が女神に幸多かれ―――