導入
異能の力。
人類が夢を見て、欲し、憧れる、人知を超えた超能力。
これを最初に獲得したのは、人類の誰でもなく、一頭の象だった。
彼はその大きな耳で空を翔けた。人類が提示する物理現象を無視して、超越して、ただ空を飛んだ。それだけだった。それなのに象は捕えられ、調べられ、実験され、ついには命を落とした。これが人間だったのなら、また違ったかもしれない。能力を隠したり出来たかもしれない。だがそれだけの知能が無く、成す術も無くその一頭の象は死んだ。
それから象以外でも、幾つかの種類の動植物、それらの個体が異能を獲得し、人間に調べられ、そのメカニズムを、人類は獲得していった。
「規格外生命体」、そう呼ばれた動植物の実験から数年。人類もついに異能を手に入れた。
だが最初に言っておく。人類が能力を獲得したのは、人類の技術の粋ではない。ただただいつの間にか、数人の人間はそれを獲得していた。つまり実験は無意味だった。
獲得したメカニズムの情報は完全に無価値。少なくとも今の人類には到底理解できない。
だが人間は諦めが悪い。それが何なのかどこまでも突き止めたがる。
……この前振りから、この物語は始まる。
さて、俺はなんと世界の七不思議。世にも珍しい自動販売機人間である。
なんだ? 言っている意味が解らない? だが残念。そのままの意味だ。俺は自動販売機みたいな人間なのだから仕方がない。
人類初の能力者。「枚引数理」は、ほとほとこの異能に困っていた。
俺の異能は、右手で硬貨を握ると、その硬貨が何処かへ消え、いつの間にか左手に缶ジュースが握られているといったものだ。……。がっかり? 俺もがっかりだ。
なんの意味があるんだろうかね、……はっはっは。
俺がこの異能に気が付いたのは、一昨日。何となく右手で、利き手ではない右手で、硬貨を持っていた時の事である。右手に硬貨を握りしめた俺は、買い物へ行こうと道を歩いていた。
で、だ。俺がふと違和感に気付くと、左手に缶ジュースがあった。
つまりはそういう事だ。……どういう事だ? ううむ、俺の小銭は何処なのかなぁと思ったのだけれど、結局、何処を探しても俺の小銭は見つからず、俺の金が戻って来る事はなかった。
それから俺はこの能力を隠し続けている。まぁ、飲み物買うのには便利ではあったのだが、そういう事ではない。こんなびっくり人間。見世物にされるのが落ちだ。そんな人生、俺はごめんである。決して周りには言わない。そう決めていた俺なのだが、
しかし今現在。その事実を目の前の女子に知られた所である。