やまがらは 鳴いた
森と緑と清流のある
やさしい
田舎に住んでいた
人々は
みんな
名前で呼び合った
くんも なく
さんも なしで
名前だけを呼び合った
私の家の軒先に
一羽のヤマガラが
籠にいた
友からの
プレゼントだった
毎日、餌と水を与えた
彼は美しい声で
歌った
ツーツー・ピー
ツーツー・ピー
私は彼の歌声が
心地よかった
小鳥を愛していると
思っていた
そんな、ある日
保育園児の娘が
友達を連れて来た
彼女は言った
わーかわいい
でも
かわいそー
こーしてあげる
と ひとこと言って
籠の扉を
パーっと開けた
ヤマガラは
ぴゅーっと
飛びたち
すぐに緑の山に消えた
残された
鳥籠ひとつ
中の小枝が
揺れていた
私は
茫然と
飛び去った
方角を眺める
くれた友の顔が浮かぶ
逃がした、少女の
嬉しそうな顔
大空に羽ばたいた
ヤマガラ
夕方
逃がした女の子と
その母が来た
ごめんなさい って
言うのよ
その子の母は言う
ガンとそれを拒み
佇む女の子
そして
その目は
良い事をして
何が悪いの
自然に返しただけなのに って
いっているようだった
私が
本当にしたかったことを
彼女が
ちいさな女の子が
してくれただけだった
私は
本当は
そうしたかったのだ
友に
悪いからって
そうしなかった私
本当の愛を知ってる
その女の子は
母に叱られた
理不尽を
無言で抵抗した女の子
私は
言ってやるべきだったのか
あなたは
良い事をしたのよ。って
でも
言わなかった
言ってはいけないと思った
妻は彼女の母に言った
お気になさらないで って
親子二人で
帰って行く背中を見送り
私は
もの思いにふける
ヤマガラがないた
ツーツーピー
ツーツーピー