タイトルは秘密w
だいぶ前に書いたのでダメダメですがよければどうぞ。
そこは魔界の奥深く、黒い太陽が輝く漆黒の空の下にある魔王が居城、『無還の影宮』。
ただひたすらに続く暗く静かな石畳の廊下を、頼りなげに浮かぶ青白い光りのみを頼りに進み行くのは5人の人間の男女。
彼らは男女問わずいずれも容姿や体格に優れたものたちだったのだが、どこか共通して下卑たところのある顔つきであり、真の意味での精悍さや美しさをもっていなかった。
しかしその身につけた武器防具はどれも強い力を秘めた魔法の品々であり、そしてその武具に相応しいことを証明するかのように彼らが歴戦の戦士であることは、多少その方面に目のあるものなら一目瞭然だろう。
その中でも腰にひときわ目を引く拵えの剣を佩いた5人のリーダーらしき金髪の男が、自分が今いる場所が魔王の本拠地故に気を抜くことを許されず、ただひたすら最大限の緊張状態を続けざる得ない現状に思わず愚痴をこぼす。
「おい、なんでこんなにも魔物が現れないんだよ。仮にもここは魔王の城だろうが」
「そうだね……、ここまで静かだと薄気味悪いね」
「案外この城の魔族のやつら、俺たちにびびって夜逃げでもしたんじゃないのか。その証拠にここまでの道中に宝箱一個もありやしなかったぞ」
――失敬な。誰も出てこないのは我が一族のものがお前達のような阿呆どもを相手にして無用な怪我をしないようにと私が命じたためだよ。そして宝箱がなかったのは、むざむざ敵に取られるような場所に大事な一族の宝を無造作に置いておく他の種族の阿呆どもほど我らが愚かでないだけだ。
魔術師らしい女性の杖の先端に灯るわずかな燐光によって照らされた長い長い黒曜石を敷き詰めたかのような廊下に虚ろに響いた彼ら彼女らの声に応えたのは、声なき声。
もっともその声を聞くことが出来たのは声を発した本人だけ。彼らは気づかない。
「本当ですわね、まったく魔物の影も形もありません。……何故だか罠は見たこともないほど極悪なものばかりでしたが。エディがいなければ何度死んでいたか分かりませんわ」
「……ホント。マジで悪質だぜ、ここの罠。これを仕掛けた奴はどうやったんだかわからねぇが人間の心理って奴を知り尽くしてやがる。俺からすればこの罠があれば魔物の守りなんていらないとここの主が判断したとしてもまったく不思議には思わんね」
純白の神官衣に身を包んだ聖職者の言葉に、これまでの道中間違いなく一番気をすり減らしていただろう頬に傷を持つ盗賊の男がすかさず同意した。その声は男の疲労とこの罠を仕掛けた相手への少なからぬ尊敬の念を隠してきれてはいなかった。
――それはこちらの台詞だ。まさかここまでの罠が全て無傷で解除されてしまうとは。今回のものは我ながら自信作だったのだが……。
その盗賊の声に応えたのは、やはり声なき声。その声は彼らには聞こえず、ただその声を発した本人にのみわずかに響くのみ。
やがて永遠に続くかと思われた漆黒の回廊にも遂に終わりが訪れ、五人の冒険者の前に精巧に意匠の凝らされた黒水晶製の巨大な門が姿を現した。
恐ろしいくらいの静寂の中で、ゴクリ、と誰かが唾を飲み込んだ音がやけに大きく辺りに響く。
5人は準備を整え、リーダーの合図と同時にその門を開け放ち中になだれ込んだ。
そこは全てが黒い水晶で象られた玉座の間。ぽつんと黒一色の空間に異彩を放つ金色の玉座らしきものがそれを証明しているかのように彼らの目線の先にあるだけだった。その部屋のどこにもその玉座を守るべき誰かの姿はなく、そしてその主らしきものの姿もない。
奥に進みながら誰ともなしにくちぐちにつぶやく声。
「……本当にだれもいないのか?」
「……のようね」
「冗談からでた真実ってやつか?」
「まさか本当に魔王が我らに恐れをなして逃げだしたというのですか?」
「……そんなまさか」
――そのとおり。誰がお前達のようなものを恐れるものか。
相変わらずその声は呆然と佇む彼ら5人の冒険者には届かない。
そのうちリーダーらしき男が耐え切れなくなったらしく大声で叫びだした。
「魔王! 怖気づいたか! 出てこい! 俺はお前を倒して勇者になるんだ! 特に貴様は魔王の中でも正体が分からないにも拘らずその恐ろしさだけが語られる『無還の影宮』の主! その貴様を殺せば俺は歴代の勇者の中でも飛びぬけた存在として歴史に名を残す事ができる!」
そのリーダーの自らの欲望に満ちた声に同調するように、力自慢らしい男――先ほどから夜逃げしたのではなどとしきりに言っていた男だ、が同じく大声を張り上げる。
それは蛮勇か、それとも恐怖の為か。
「さっさと出てきやがれ魔王! 城のどこにも財宝のかけらも置いておかねぇなんて、てめぇどんだけけちなんだよ! おれはてめぇを殺して、それでどこかの国で貴族にでもなって、あとは酒と女に囲まれて一生楽しく暮らすんだよ!」
一度解き放たれた水がその場に留まる事ができないように、彼らの口からはそれぞれの欲望があふれ出していく。
「私もよ! 私も貴方を殺せば世界第一級の魔術師と認められる! そしてこの魔族の地で魔法の研究三昧の日々をおくるのよ! 貴方たち魔族を奴隷にしてね!」
「魔王よ! 潔く出てきなさい! 正義の裁きを降して差し上げますゆえに! そして貴様の討伐の暁にはわたくしが聖女の席に列せられる事は必定! そしてわたくしが聖女になることはわたくしがこの世に生まれたときから決まっていたこと! さぁ早く出てきなさい!」
「……出てこないならそれでも俺はかまわん。ここにある金目の物や隠れているだろう魔族の女子供を探し出して連れて帰って奴隷として売っぱらえば、さぞいい金になるだろうからな!」
全員が自らの欲望をさらけ出しながら叫び、そして笑う。
その声を聞いていた『彼』は、やはりといった表情を一瞬した後、先ほどまでとまるで変わらず、音もなく、気配もなく、存在すら感じさせず5人の冒険者の背後に忍び寄った。
彼は思う。自分は一度も姿を隠してもいないし、隠そうともしていない。ずっと貴様らがこの城に入ったときから貴様らの後ろで観察し続けていた。
――ただお前達が気づいてくれなかっただけだ。
そう彼らが彼の存在にまったく微塵も気づかなかったのは、その存在を隠蔽する魔法を使っていたからでも、卓越した技術をもって彼らの死角へ移動し続けたからでもなく、ただ。
『存在感がなかったから』
そしてやはり誰にも聞こえない、否、認識できない声でそう言ってから、彼ら5人の冒険者たちが『無還の影宮』に入ったその瞬間から紡ぎ続けていた魔法とともに、愚かな人間どもにどうにか『うっすら』と『聞こえる』ように、『せいいっぱい存在感』を出す為に『わざとその膨大な魔力を垂れ流し』ながら言った。
「貴様らのような下種には『地獄』がお似合いだ。
――そこがどういう場所かまでは『魔王』である私もどういう場所かまでは知らないが」
突如自分たちの後ろから聞こえた声に驚いた冒険者達が振り向く間すら与えず、彼の放った闇色の奔流が彼らを飲み込む。
そして次の瞬間その場に音もなく残ったのは、彼ら彼女らの身につけていたものだけ。他のものは全て、欠片も残らずこの世界から掻き消えてしまった。
――ふぅ、今回も阿呆どもでよかった。後腐れなく消す事ができる。
またしても本人以外には誰にも聞こえない声でつぶやいたのは、魔族の頂点に立つ13人の魔王の一人にして闇人族の王。
その名もOO(まだ名前決めてません)。
またの名を『影の薄すぎる魔王』という。
タイトル『影の薄すぎる魔王』。
これを中篇で一回仕上げて自信をつけるのがいいのか……とかも思ったり。