2、虚言者根絶計画
『嘘つき』
そう一言だけ書かれた携帯のディスプレイ。とても小さな字だった。
「なんじゃこりゃ」
言って、折りたたみ式携帯をぱたりこ、と閉じ、布団に投げつけた。
《キャァ!》
携帯が……鳴いた。悲鳴。しかも女の子の声。
《いったいわね! 何するのよ!》
「は……? え……デイドリーム?」
幻聴? 幻覚? 何だこれ?
《ドリームじゃないわよ! よくも投げてくれたわね!》
「え? 誰?」
《誰? ふふふ……よくぞ訊いてくれました!》
「…………」
《あたしこそは、虚言者根絶課所属、時田まことちゃんですー!》
舌ったらずな可愛い可愛いアニメ声が、携帯から漏れていた。
「溶き卵……ちゃん?」
《違いますぅ! 時田まことですぅ!》
「…………」
《ケータイを開いてみて》
「は? あぁ……」
言われるがままに折りたたみ式の携帯を開く俺。
《同意するなら『1』を押してね、同意しないことはないなら『2』を押してね》
開くと同時に声を発する俺の携帯。
携帯の画面には
1、同意する
2、同意しない ことはない
とあった。
「はぁ? こんな怪しい契約同意するわけないだろ? 同意しない、と」
俺は、携帯の『2』と記されたボタンを押した。
《はい、ありがとうございます。契約完了でございますね!》
「え? 2を押したぞ?」
《ですから、契約成立ですぅー》
契約…………萌えヴォイスでそんなことを言われたら、何かに期待してしまうぞ俺は。
「で? 何の契約だ?」
《命の契約ですー》
「は?」
あぁ……そういう設定で何か楽しいことをするみたいなやつか。そういう非日常にはマンガとかゲームとかアニメとかで慣れてるからあっさりと受け入れる体質を俺は持っているぞ。こういうものは信じて楽しんだ方が勝ち組だろ。
《これから一ヶ月でー、八百を超える嘘を吐いたらあなたは死にますー》
「はっはっは、何だ、簡単じゃないか」
《嘘を吐く度にこの携帯がちょっとだけ震えるようになりましたー。おめでとうございまーす》
「よくわからんがレベルアップみたいなものか?」
《そうですねぇ。そうなります!》
ロリっぽい、舌ったらずな声。俺の好きな声優さんみたいだぜ。
携帯が音を出すことなんて、当然のことだと俺の脳は認識していたから、この異常であるはずの現象は、俺にとっての異常ではなかった。
《では、ご説明しますね。これからきっかり一ヶ月間、三十日後の午前零時に、八百一以上の嘘を吐いていたら、あなたは死にますー》
「は?」
死ぬ……何、それ……。
《嘘を吐いた回数は、いつでも確認できますが、確認には嘘一回分が必要になります。沈黙は肯定、自分の気持ちに嘘を吐くことも嘘とみなされますのでご注意下さい。あとは単純、嘘をつかなければ何事もなかったかのように日常に戻れます。何か質問はありますか?》
何だか「美人局」という単語が脳内を走り抜けて行った。
「知らねえよ、そんなの! 契約なんかしてねえ!」(ヴ)(ヴ)
「知らん! こんなん知らん」(ヴ)(ヴ)「ヴーヴーうるっせえんだよ!」
《ちなみに、今の段階で、四回、です》
「はぁ? 死ぬ? 何で? くそ……この――」
俺は携帯の電源を切った。
「は……はは……よし。これは夢だ」
時計は深夜一時。
「明日になれば、こんな夢から醒めるはずだ」
俺は布団に潜って、電気を消して、寝た。




