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断罪される未来を知っていたのでみんなで全部ひっくり返した結果、ついでに国も救ってしまった件

作者: 逢月 悠希
掲載日:2026/01/21

——ハッとして、まばたきを繰り返す。


 ここはどこだろうと考える間もなく、手にしたワインを見て、私は気づく。


(そうだ、これから婚約破棄されて、聖女を害した罰だと修道院送りにされた挙句、道中で野盗に襲われて……!)


 今いる場所は、王城。

 王太子の成人を祝して行われるパーティ会場には、他国の高位貴族を含め、多くの人々が集まっている。


 そんな中で、大勢の目に晒される形で婚約を破棄されるのだ。


……妹が。


「ッ!」


 王太子が会場に来るまで、あと2時間。

 いてもたってもいられず、私はすぐに、父と母の元へと向かった。

 私の顔を見て、両親——アンダーソン公爵夫妻は、頷いた。


「! まさか、父上と母上、も……!?」

「その『まさか』ですわ。ランベルト」


 苦虫を噛み潰したような顔で、母が頷く。

 なんということだ。父も母も、これから無実の妹を襲う、惨たらしい未来を知っている。


 だが、それならば話は早い。

 私たちはすぐに、近くのバルコニーへと移動した。


 父は静かにガラス戸を閉め、重い口を開く。


「私たちは、今すぐにリリアを救わなければならない」

「父上……!」


 リリア。

 私の、私たちの、可愛い妹。

 アンダーソン公爵家の、宝。


 ミルクティー色の髪を風になびかせ、イチゴ色の目を細めて控えめに笑う、どこまでも愛らしい少女……そんな妹は2時間後、理不尽にも悪女として断罪される。


「協力してくれるか? ランベルト」

「勿論です。そもそも、あんな男にリリアをやること自体が間違いでした」

「そうだな……聖女とやらにうつつを抜かす大馬鹿に娘はやらん。王命には背くことになるが、知ったことか!」


 婚約者のいる男達を誑かし、何なら私さえも誘惑しにきた愚かな聖女。

 もはや質の悪い娼婦か何かではないかと言いたくなる女、アニー・メーベル。


 元は庶民であった彼女は、“不思議な力”を持つことを理由にメーベル伯爵家の養女となり、貴族との関わりを持つようになった。


……その結果が、これだ。


 私は音が鳴りそうなほどに、割れそうなほどに奥歯を噛み締める。

 感情が表情に出ないようにと厳しく躾けられてきたが、父も母もこれでもかと顔に出ている。だが、今回ばかりは仕方がないだろう。リリアの一大事だ。


「とにかく、リリアを救いましょう。あの子はバーナード殿下が迎えに来るからと、まだ控え室にいるはず。リリアを連れて、今すぐ城を出るべきです」


 妹はただ、じっと待っている。じっと、耐えている。それなのに、迎えはこない。

 バーナードは、よりにもよってアニーの手を取って入場する。


 ゆえにリリアは遅れて、たった1人で会場に入る羽目になった。

 今にも泣き出しそうな、悲しげなリリアの姿が忘れられない。母は、涙ぐみながら頷いた。


「ええ。控え室には、私が行きます。すぐにリリアを連れて外に出ます。リリアを、助けます。

 きっとあの子は嫌がるでしょうが……リリアだって、迎えはこないと分かっているはず。

 何か理由があれば、すぐに出てきてくれるはずですわ」

「そうだな、イーヴィ。ここはひとまず……そうだな、セバスが倒れてきた本棚に挟まれたことにしておこう」

「まあ……! それは、リリアはいてもたってもいられなくなるはずですわ!

 申し訳ないけれど、セバスには犠牲になってもらいましょう!」


 執事のセバスは、リリアや私に厳しくも優しい愛情を注いでくれた。

 私たちにとっては、言わば、祖父のような存在だ。

 嘘とはいえ勝手に本棚に挟んでしまったが、彼ならきっと、笑って許してくれるはずだ。


 決意を胸に、私は扉に手を掛ける……バルコニーの外が、騒がしい。

 だが、ここから出なければ何も始まらない。


 意を決して、扉を開ける。

 そこには何故か、国王と王妃、そして第二王子のアレンが立っていた。


「……!」


 母が「そんな」と声を震わせる。

 私も、悔しさが顔に出てしまいそうだった。

 まだ何もしていないというのに、計画がバレてしまったのだろうか。


 そうだ、リリアの追放後、私たちは何やかんやあって処刑される。

 きっと今から、国家反逆罪か何かに問われるに違いない。


 国王は、すっとバルコニーを指差す。話は外で、ということらしい。

 悔しいが、今は国王の指示に従うしかないだろう。


 再び、扉が閉まる。

 それを見計らい、彼は重々しく、口を開いた。


「バーナードを、廃嫡する」

「は?」


……思わず、間抜けな声が出てしまった。


 父も母も、ぽかんと口を開けている。流石にこれは無理だ。何なら私もそうなった。

 王妃は涙を拭いながら、「ごめんなさい」と呟いた。


「聖女に騙され、リリアさんを追放するだなんて。私たちは、なんと愚かなことを……本当に、申し訳ありません……」

「え? あの、まさか……!?」


 第二王子であり、親友でもあるアレンが頷いた。


「その『まさか』だよ。2時間後に起こる惨状、そしてランベルトたちの悲劇を、僕たちは知っている」

「なんだって……!?」

「やっぱり君たちもそうなんだね? ああそうだ、安心して欲しいな。兄さんたちは僕が責任を持って、部屋に閉じ込めておいたから」

「そ、それは……もはや、お前にしかできない力技だな……」


 とにかく、このままだと2時間経ってもバーナードたちは会場には現れないようだ。何故か、本当に何故か、唐突に頼りにしかならない協力者が現れた。


……だが、納得がいかないこともある。


 私と同じ考えを抱いていたのだろう。口を開こうとした私を制し、父は国王へと視線を向けた。


「無礼を承知で、お伺いします」


 だが、国王はゆるゆると首を横に振った。


「弟よ。お前が言いたいことは、分かっている。だからこそ、私から話させて欲しい」


 酷く苦しげに、彼は顔を歪ませる。


「リリアを追放した後、お前たちが国家反逆を企てることを“予言した”聖女の言葉に従い、処刑を行なった。

 だが、後になって……すべてが、偽りであったことが分かった。リリアが聖女を害したという話も、聖女の予言、そのものも」


 国王いわく、私たちの死後、聖女の振る舞いがおかしくなっていったそうだ。

 何やら「私はヒロインなのよ」と謎の発言を繰り返しながら国家予算を食い潰し、バーナードを含めて婚約者を捨てた愚かな男たちを侍らせ、堕落の限りを尽くす。


——そうして、豊かだったはずのこの国は、呆気なく滅んだそうだ。


「本当に……申し訳ないことをした……」


 首を垂れようとする兄を嗜め、父は意味が分からないと言わんばかりに首を横に振るう。


「最終的に国が滅ぶ。ならば、私たちが今まで信じてきた聖女の予言とは、一体……?」


 そもそも論として、アニーが聖女たる所以は“予言能力”にある。

 アニーは予言によって流行り病の蔓延を防いだ後、伯爵家の養子になってからも秘密裏に進んでいた大臣たちの国家転覆行為を見抜き、国を守ってみせた。


 だからこそ彼女は聖女だと持ち上げられ、(リリアには遠く及ばないが)可愛いらしい容姿でバーナードを懐柔してリリアを辱め、最終的には国家繁栄のためにと国王たちに、『アンダーソン公爵家を切る』という選択をさせたのだ。


 切り捨てられた者としては非常に悔しく、屈辱的なことだとは思う。

 だが、一国を背負う立場である国王の選択は……何も、間違ってなどいない。


 しかし、聖女とやらの能力に疑惑が生じた今となっては話が変わる。

 国王たちも、私たちと同様の判断をしたのだろう。だからこそ、パーティの真っ最中に玉座を降り、こんなところまでやってきたのだ。


「……ん?」


 さらに疑問が生じた私は、おもむろに手を挙げる。


「一応、確認しておきたいのですが。バーナード殿下にも、同様の記憶がある可能性は?」


 国王や王妃、そしてアレンが未来の記憶を持つのであれば、王太子であるバーナードにも記憶があるのではないだろうか? 

 そう思って聞いてみると、アレンは酷く呆れたと言わんばかりに肩をすくめてみせた。


「無い。事前に確認した。だから、閉じ込めてきた」

「なら廃嫡で良いな。聖女とやらは?」

「無い。事前に確認した。何なら兄さんの部屋で兄さんとイチャイチャしてた。ものすごく腹が立ったから、ドアノブに鎖巻いてきた」

「でかした。ちなみに、お前はリリアの顔を見ているか?」


 問えば、アレンは「ごめんね」と弱々しく笑う。


「すごく悲しそうにしてたよ。でも僕らが行くと拗れるし、一刻を争うから、ランベルトたちに会うのを優先させて貰ったんだけどね」


 その判断は、正しい。


 どうやら、リリアには記憶が無いらしい。

 ならば、アレンたちが押し掛ければ怯えさせてしまうだけだ。

 何よりスムーズに事を進めるのであれば、先に私たちを懐柔するべきだろう。


「なら、今から母上がリリアを迎えに行く。とりあえず『セバスが本棚に挟まれたから帰ろう』と伝えて、連れて帰ろうと思う……細かい話は、リリアを家に置いてきてから詰めたい」


 私とアレンの会話を聞いていた父は、国王と目配せする。

 方針は、決まった。


 なら、今すぐリリアの元に……外が、騒がしいな?

 嫌な予感を抱きつつ、私は扉を開く。


「ら、ランベルト様!! お話が!!」


 聖女とやらに懐柔されて侍らされたり、その結果、婚約者を奪われたりした上位貴族の面々とその親族が、溢れかえっていた。


「……」


 ややこしくなる前に扉を閉めて振り返り、私は口を開く。


「失礼ながら、これは逆にバーナード殿下と聖女とやらを、この場で吊し上げた方が早いのでは?」


 もはや、私の発言が国家反逆罪になる気がする。

 だが許して欲しい。


——事態は、完全に()()()の方向で、深刻なことになっている!


 とはいえ私たちにとってはどこまでも追い風であるし、国にとっても追い風だ。あとセバスが意味もなく本棚に潰されずに済む。


 国王は目を伏せ、深々と息を吐き出した。


「アンダーソン夫人。あなたはリリアを連れて、会場に入って欲しい。アレンは1時間後にバーナードを解放しよう。

 どうせあのうつけは閉じ込められた事実に気づいてなどいないだろうが、念のためお前が行ってくれ。何の罪もない人間が、意味の分からない理由で処罰されても困る」


 承知しました、と母とアレンの言葉が重なる。

 国王は、さらに言葉を続けた。


「ヒロインだの何だの言っていた女の力は、バーナードと一緒になると同時に消えていた。ならば、この段階でバーナード“ごと”国外追放で良かろう。

 聖女の予言はもう役には立たんし、バーナードは真実の愛だの何だの言っていた。ならば国から放り出しても、適当に幸せになるだろう……未来の記憶によると、あのうつけは最後まで女の尻に敷かれておったし、我々を隣国に差し出して逃げようとしていたがな」


 国王の話が終わると同時、パン、と王妃が両手を叩いた。


「さあ、皆さん。外にいる方々にも声を掛けて……断罪劇の、準備をしましょう?」


 王妃はニッコリと笑っている。容赦がない。

 彼女らの怒りは現在のバーナードには()()()()()()も加算されている気しかしないが、きっと彼女らは未来で相当に酷い目に遭うのだろう。


(本人には、何の記憶もないのにな……)


 だが、流石にバーナードが不憫に……思ってやる義理は、ない。

 聖女とやらを愛で、幾度となく可愛い妹を泣かせ続けた罪を、しっかり償ってもらわねばならない。


 これは、これだけは。もはや変えようのないバーナードの罪だ。


 私たちは今から、妹を救う。そして何故か、ついでに国も救う。

 バーナードと聖女とやら以外は全員幸せになりそうだから、何も気にする必要はないだろう。


 私はバルコニーの扉を開き、父と、さらに言えば国王や王妃も加わる形で、そこにいた人々と意見を交わす。

 幸いにも、これからバーナードが読み上げる偽りの罪状。

 そのすべてに、真っ向から異議を唱えられるだけの人材が揃っていた……これなら、戦える。

 リリアの名も、リリアの名誉も。一切穢さずに済む。


 その間にアレンは全く出てくる気配のない愚かな王太子と聖女がいる部屋の鍵を開けて戻ってきた。


 ただし「どんなことがあっても、どんな目に遭っても。これが私の役割だから」などと言いながら寂しそうに笑う、あまりにも健気でいじらしい妹を控え室から連れ出すのには少々苦戦した。

 最終的には私と父、そして何故かアレンも説得に加わり、何とかリリアを連れ出すことに成功した。ちなみにセバスは何度か本棚に潰された。


 そうして、時が流れる。


 聖女とやらの肩を抱いて堂々と、誇らしげに入場したバーナードは、会場の中心でリリアの名を叫ぶ——だがその後、どうなったかは言うまでもない。


 強いて言えば、連行されていく聖女とやらがひたすら「私はヒロイン」だの「逆ハーエンド」だの意味の分からない発言を繰り返していたくらいだろうか。

 あまりにも、品の無い姿。化けの皮が剥がれた彼女の姿を見て嘔吐する惨めで哀れな男たちもいたが、興味がないので放置した。


 それはそれとして、バーナードと聖女とやらが消えた後、急にアレンがリリアを口説き始めてしまった。

 どうやら兄の手前引くしかなかったようだが、私の親友は前々からリリアを心の底から好いていたらしい。そのセンスは、認めよう。素晴らしい。

 そういえば未来の記憶でも彼だけは最後まで妹を庇ってくれていたし、処刑が決まった私たちを、身を挺して逃そうとすらしてくれた。

 絶望でしかない未来でも、彼はどこまでも愚直な男だった。


(リリアの幸せ……か)


 そんなアレンならば、訳の分からない女に惑わされることもなく、リリアを幸せにしてくれるかもしれない。まだ、渡す気はないが。

 傷ついた妹は、しばらくアンダーソン公爵家で可愛がらせてもらう。

 まだ、誰にも渡さない……まだ。


 戸惑う可愛い妹をアレンから引き剥がし、私たちは帰路につく。

 屋敷に着くと、中からメイド長が飛び出してきた。


「み、皆さま、お帰りなさいませ! その……っ、セバスが、セバスが本棚の下に!!」

「……」


——嗚呼、セバスよ。どうして。


 とんでもない罪悪感を覚えた私は、もはや何の躊躇いもなく叫んだ。


「今すぐ、国一番の医者を呼べ!!」

たくさん見ていただけて、本当に嬉しいです。

本当に、ありがとうございます……!


お礼を兼ねて、ちょっとだけ補足を書きにきました。

もし興味がありましたら、読んでみてください。


【勝手にQ&A】


Q.逆行前の記憶は誰が持っていたんですか?

A.リリア、バーナード、アニーと血縁関係がある人間および、アニーと深く関わる人間(俗に言う攻略対象)、攻略対象の関係者(婚約者および両家と血縁関係がある人間)は全員持っています。なので、該当範囲はかなり広いです。

逆に当事者でしかないリリア、バーナード、アニーおよび関係者と血縁関係のないモブは逆行前の記憶が一切ありません。


Q.セバスは無事ですか?

A.本当に国一番の医者が爆速で召喚されたので、2か月後くらいには後遺症も何もない元気なセバスがいます。

ただし本棚周りの処理だけは公爵家夫妻と長男がやるようになりました。セバスは勿論、メイド長やリリアは触るのも近寄るのも禁止です。


Q.セバスに逆行前の記憶はありますか?

A.ありません。びっくりするくらいありません。

ちなみに逆行前のセバスが本棚に挟まれる事故もありませんでした。何ならセバスは公爵家一斉処刑前に逃がされていたので、逆行前は怪我すらしてませんでした。

……だからこそ、公爵家夫妻と長男の罪悪感は(※セバス本棚事件と逆行に因果関係があるかどうかはともかく)相当に強いです。


Q.国の勢力図に影響は出ないのでしょうか?

A.影響がないように見えて、逆行前の記憶諸々のせいで負い目や私怨等が発生し、ぶっちゃけめちゃくちゃ面倒なことになっています。何なら記憶持ちがあまりにも多岐に渡るので、そのせいで凄まじく厄介です。

少なくとも実質、セバス≧公爵家>>>アレン王太子>国王夫妻、という構図ができています。そして記憶持ちの中には確実に国の重鎮が混ざってしまうので、実際はもっと、というよりも、ここが一番ややこしいです。

ただし肝心のセバスおよび、リリアに害を及ぼさない限りは温厚な公爵家に王家への反乱を起こす意思が皆無なので、かなりギリギリのラインで万物がどうにかなってます。

つまり、やろうと思えばセバスは天下取れます。やろうと思わないので取りません。


Q.急に王太子にされたアレンはリリアと結ばれますか?

A.可能性はあります……リリア“が”アレンを選べば。


※上記の実質勢力図のせいで、特に国王夫妻は相当に公爵家の顔色をうかがってしまうので王命でリリアを強制的にアレンの婚約者に、みたいな行動は絶対にできません。

そうなるとアレンは気合いでリリアを落としに行くしかないですし、それは本人も分かっているので親友を含めた公爵家の顔色を全力でうかがいつつ、どうにかこうにか頑張ることになります。

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― 新着の感想 ―
嘘が真に成ってしまった・・・。
オチが爆笑。嘘から出た真。おじいさん執事さんが無事であるように。 国王夫婦と弟殿下の公爵家を切り捨てた報いは消えた未来で馬鹿長男の馬鹿行為によって受けたみたいですねー。それにしても公爵家に対して調子…
おもしろかったです。 ですがセバス…! 無事を祈ります。
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