エピローグ
それは、本当に突然のことだった。
あの能天気な娘が――
ある日の午後、まるで天気の話でもするように言ったのだ。
「ねえ、お父様。私、結婚したい人がいるの」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
聞き返す暇もなく、娘は少しだけ照れたように笑った。
その隣に立っていたのは、藤色の髪の青年だった。
柔らかく微笑み、こちらに一礼するその姿は、驚くほど自然で――
まるで、ずっと前からそこにいたかのようだった。
「僕は次男ですから。婿入りについても、特に問題はありません」
そう言って、青年はあっさり続けた。
本当に、天気の話でもするみたいに。
……いや、待て。
話がうますぎる。
鴨がネギを背負って歩いてきた、どころの話ではない。
名前を聞いて、ようやく理解した。
――あの公爵家の。
――あの、引きこもりで有名な天才を。
とんでもない婿を、連れてきたものだ。
けれど。
娘は、幸せそうだった。
魔法学園に入学してからというもの、
あの子はいつも、ほんの少しだけ不安そうだった。
未来を考えているのか。
それとも、考えすぎているのか。
理由は分からなかったが、笑顔の奥に、微かな影があった。
だが、今は違う。
その影は、もうどこにもない。
隣に立つ青年を見る目は、穏やかで、迷いがなくて――
きっと、この男のおかげなのだろう。
結婚にあたって、問題がないわけではない。
むしろ、問題はひとつだけ、はっきりしている。
結婚式の費用だ。
我が侯爵家では、公爵家が満足するような
豪華絢爛な式を用意するのは、正直難しい。
その話を、いつ切り出すべきか。
それだけが、目下の悩みだった。
……もっとも。
娘があんな顔で笑っているのなら、
きっと、なんとかなるのだろう。
私はそう思いながら、
目の前の二人を、静かに見つめていた。
◇
物語の幕が下りるその瞬間まで、彼らとともに歩んでくださり、本当にありがとうございました。この余韻が、皆さまの心に静かに灯り続けますように。
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皆さまからいただく言葉が、次なる物語を紡ぐための大切な道標となります。




