《沈黙の罪》
――語らなかった。
語れなかったのではない。語らなかったのだ。
知っていることは、力になる。
だが同時に、それは暴力にもなる。
何か知ることで、選択肢を奪うことができてしまうから。だから、黙った。
何も言わず、何も示さず、何も決めさせないまま。
それが「平等」だと、それが「優しさ」だと、そう信じることにした。
――沈黙は、便利だ。
真実を告げなければ、誰も傷つかないように見える。
正しさを語らなければ、責任を負わずに済む。
希望も、絶望も、選ぶのは本人だと言える。
けれど。
本当は知っている。
語らないという選択が、最も強い介入であることを。
何も言わないことで、未来の形が変わっていくことを。
沈黙の裏で、誰かが悩み、誰かが傷つき、誰かが孤独を深めていくことを。
それでも、黙る。
答えを与えないために。道を指さないために。
誰かの選択を「正解」にしてしまわないために。
――それは、逃げでもある。
自分が裁く側になることから。
自分が壊す側になることから。
そして何より、自分が選ばれる可能性から。
もし、口を開いてしまえば。
もし、本音を告げてしまえば。
もう元には戻らない。
だから沈黙する。
優しさの顔をしたまま。理解者の仮面を被ったまま。
それが、自分に許された唯一の距離だと信じて。
だが――
何も言わなかったという事実は、何もしていないことにはならない。
語らぬことで守ったものも、語らぬことで壊したものも、すべて知っている。
それでも選んだ。
沈黙を。
この世界を、そして彼女を、“見守り続ける”という立場を。
その覚悟こそが、
――沈黙の罪。




