《観測の罪》
その子は、根を張る花のようだった。
踏み荒らされても折れず、
折れないくせに、決して鋼にはならない。
弱く見えて、弱さに甘えない。
守られる立場に甘んじず、
守られない未来にも、自分の足で立とうとする。
――アイリス。
その名に相応しく、光を拒まない存在だった。
危険を知らないわけではない。
恐怖を理解していないわけでもない。
それでも、考える前に動く。
後悔するくらいなら、傷を負うことを選ぶ。
合理でも、正義でもない。
ただの選択だ。
――それが、世界を壊す選択だとしても。
気づけば、視線が追っていた。
気づけば、目を離すことができなくなっていた。
彼女が選ぶたび、
世界の歯車が、ほんのわずかに軋む。
それを理解しながら、
私は、何も止めなかった。
止める理由が、なかったからだ。
――もし。
もっと早く出会っていたなら。
もし、この人生が、最初から違っていたなら。
背負う責任も、立場も、名前も。
与えられた役割が、すべて違っていたなら。
私は、
人であることに、
ここまで縛られずに済んだのだろうか。
未来は、見えない。
正しさは、いつも遅れてやってくる。
この世界は、あまりにも脆く、
それでいて、壊れることを恐れすぎている。
守りたいものが増えるほど、
選択肢は、ひとつずつ削られていく。
――それでも。
もし、この想いが、
選択という名の檻を越えてしまうのなら。
もし、私が、
“選ぶ側”に立ってしまうのなら。
世界が壊れても、構わない。
彼女の笑顔が、
その犠牲になるくらいなら。
――観測の罪。




