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異世界転生先はSF世界観で平和なスローライフ!?  作者:


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第2話:火は文明、独り言は心の防寒具

朝が来た。


穴蔵の天井――という名の、雑に積んだ枝と葉っぱの隙間から、白っぽい光が差し込んでくる。


寒い。


夜は想像以上に寒い。


宇宙よりはマシ、と昨日の私は言った。


撤回はしないけど、訂正はする。


宇宙よりマシだけど、地面は容赦しない。


「はい、おはようございます。ソラです。生存確認。手足、動く。心臓、動く。メンタル、ギリギリ動く」


誰も聞いてないのに、報告する。


報告することで、私は私を動かす。


独り言は、心の防寒具だ。


寒いときほど、よく喋る。


まず、火。


火がないと始まらない。


煮沸ができない。


夜が越えられない。


怖い獣に対して、火は「ここは人間の場所だ」と主張できる唯一の光だ。


私の主張、薄い。


薄いけど、やる。


川辺に戻り、乾いた枝を集める。


木の皮を剥いで、細い繊維を作る。


火起こしの知識はある。


けど、実技は少ない。


紙の上で上手な人間が、現場で泣くやつだ。


今の私は、泣く人間。


泣くな。やれ。


私はステッキを握り、悩む。


火打ち石。


マグネシウム。


ライター。


どれも“既知”だ。


でも、既知の度合いが違う。


仕組みを理解していないものは、作れない。


ライターの内部構造、私は知らない。


マグネシウムの棒も、サイズや純度を説明できない。


なら、火打ち石と鋼――石と金属。


金属……金属はこの辺りにあるのか?


ない。


ないなら作る?


でも、金属は簡単じゃない。


溶かして、精錬して――火がいる。


火を作るために火がいる。


詰みの香りがする。


「はい、ソラさん。ここで一旦落ち着きましょう。火は火打ち石じゃなくても作れます。摩擦です。摩擦。原始を舐めるな」


私は太い枝を一本探し、先を少し削った。


硬い木の板も探す。


森の端の倒木から、乾いた部分を割り出して板にする。


手が痛い。


爪が割れそう。


でも、痛みは生存の手応えでもある。


石を拾って、削って、穴を作って、枝を回す。


ぐりぐりぐり。


息が乱れる。


汗が出る。


寒いのに、汗が出る。


人生、忙しい。


「……っ、火、火、火……!」


独り言が増える。


増えて、途切れて、また増える。


焦げた匂い。


煙。


煙だ。


煙は、希望の匂いだ。


私は必死で息を殺し、黒くなった粉を集めて、乾いた繊維に包む。


そっと、そっと、息を吹きかける。


ふっ。


ふっ。


ふっ――


ぽっ。


小さな赤が生まれた。


小さすぎる赤。


でも、確かに赤。


私は泣きそうになりながら、枝を足す。


炎が、ゆらりと立った。


揺れて、揺れて、でも消えない。


私は笑ってしまった。


勝った。


今日の私は、自然に一勝だ。


「おめでとう、ソラ。あなたは文明を発明しました。文明って、たぶんこういうこと」


火を囲むように石を並べる。


簡易の炉――のつもり。


つもりでも、あると違う。


火があるだけで、世界が“住める”に近づく。


私は水を煮沸し、湯気を吸い込んだ。


あたたかい。


喉が、胸が、ほっとする。


この星で、初めて“落ち着く”という感覚が生まれた気がした。


次は、畑。


種を蒔く前に、土を知る必要がある。


土は、裏切る。


見た目が良くても、栄養がないと何も育たない。


逆に見た目が悪くても、意外と育つ。


土は、性格がある。


私は昨日囲った場所の土を手に取り、匂いを嗅いだ。


湿り気。


少しだけ酸っぱい。


腐葉土というほど黒くないけど、死んだ土でもない。


石が多いのが難点だ。


石は、根の邪魔をする。


私は石を拾っては脇に積み、拾っては積んだ。


積む場所が増える。


石の壁ができる。


結果的に防壁っぽくなる。


よし。


文明は、だいたい片付けから始まる。


「今日の予定、午前:石拾い。午後:石拾い。夜:石拾いの余韻に浸る。……私、石と結婚するのかな」


自分で言って、自分で笑う。


笑うと、少しだけ楽になる。


空に向けて、ぽつりと呟く。


「誰かに聞かせたいな」


言った瞬間、胸がちくりとした。


期待しない。


救助は期待しない。


でも、寂しさまで禁止されたわけじゃない。


寂しいものは、寂しい。


昼過ぎ。


森の中から、ぱき、と枝が折れる音がした。


昨日の灰色の獣かもしれない。


私は火のそばに、乾いた枝を多めに置き、煙を濃くした。


煙は目印でもあるけど、威嚇にもなる。


たぶん。


自然は、たぶんで戦う。


音は、獣じゃなかった。


金属が擦れるような、ぎぎ、という音。


私はゆっくり立ち上がり、石槍――という名の、石を縛った棒を握る。


心臓が速くなる。


森の影から現れたのは、小さな――球体だった。


銀色の球体。


直径は私の頭くらい。


表面は傷だらけで、片側が焦げている。


そして、三本の脚で、よろよろと歩いている。


獣でも植物でもない。


機械だ。


ここに、機械がある。


つまり――誰かの文明の残骸か、誰かの手の届く範囲か。


球体は私を見ると、一瞬止まった。


そして、ぷつぷつとノイズ混じりの音を出した。


「……が……こ……」


言葉になりそうで、ならない。


私は一歩下がり、火の近くに移動した。


機械は火を恐れることがある。


配線があるならなおさら。


でも、球体は逃げなかった。


代わりに、ゆっくりと、私に向けて何かを投影した。


空中に、薄い光の板。


ホログラム。


そこに表示されたのは――簡易の星図。


そして、点滅する矢印。


矢印は、空の一角を指していた。


「……え、なに。案内? 誘導? それとも、“危険だから逃げろ”の方向?」


私は首を傾げる。


球体は、またノイズを吐いた。


「……せ……い……」


今、確かに「せい」と言った。


気がする。


偶然かもしれない。


でも、昨日見た直線の光と繋がる。


胸がざわつく。


この球体は、どこから来た?


落ちてきた?


ここに迷い込んだ?


それとも、誰かが送った?


「助けに来たよ!」ってことはないと思う。


私も、そんな都合の良さは望んでない。


望んでないけど――情報は欲しい。


相手が敵か味方か以前に、私はこの宇宙のルールを知らなすぎる。


知らなすぎることは、死に直結する。


球体は脚を折りたたみ、地面にぺたんと座るみたいに沈んだ。


そして、自分の側面を開いた。


中から、小さなパーツが出る。


工具……というより、修理用のアーム?


でも、動きがぎこちない。


壊れかけだ。


助けを求めているようにも見える。


助けを求める機械。


……それ、私と同じだ。


捨てられて、壊れて、それでも動いてる。


「はいはい、落ち着きましょうソラさん。機械を拾って飼うのは、たぶん危険です」


言いながら、私は近づいた。


危険だとわかってるのに、近づく。


だって、久しぶりに“私以外”が動いている。


久しぶりに“反応”がある。


それだけで、脳が甘い方へ傾く。


でも、甘いだけじゃ死ぬ。


私は観察し、距離を保ちながら、球体の開いた部分を覗いた。


配線が焦げている。


電源が不安定。


たぶん、大気圏突入で焼けたのか、落下で壊れたのか。


私はステッキを握る。


“既知のもの”で修理できる?


配線は配線。


導線。


絶縁材。


……導線って、知ってる。


でも、規格は?


太さは?


ここで大雑把に作ったら、余計に壊れるかもしれない。


なら、まずは応急処置。


絶縁テープ。


テープは知ってる。


粘着剤。


布。


私はステッキで“布テープ”を作り、焦げた部分を覆った。


それだけ。


それ以上は、怖い。


球体はぴく、と震えた。


ノイズが少し減った。


そして、今度ははっきり、短く鳴いた。


「セイ」


「……セイ?」


私は反射で復唱した。


球体は、肯定するように小さく点滅した。


セイ。


誰かの名前。


昨日の光の正体に近い音。


胸が、またちくりとする。


期待しない。


でも、これは“救助”じゃない。


ただの、落ちた機械。


ただの、偶然。


偶然にしては出来すぎ?


でも、宇宙は広い。


広いから、偶然も起きる。


起きるだけ。


起きた以上、利用するだけ。


「よし。あなたの名前は……えーと、球。タマ……は可愛いけど、安直。とりあえず『セイの何か』ってことで、セイボール。略してボール」


球体――ボールが、沈黙した。


沈黙された。


ロボに沈黙で抗議されるの、地味に刺さる。


でも、いい。


私は勝手に名付ける人間だ。


ひとりで喋り続けた人間だ。


名付けは、生存の技術だ。


ボールは、ホログラムを再び出した。


星図。


矢印。


そして、距離らしき数字。


……読める。


私の頭の中で、勝手に単位が変換される。


これは、座標だ。


この星の上空か、近傍宙域の座標。


つまり、ここから“どこか”へ繋がっている。


ボールは、そのどこかに帰りたいのか。


あるいは、そこへ私を誘導したいのか。


どちらにせよ――私は、今すぐ行かない。


定住が先。


生活圏の確保が先。


短期目標を捨てたら、長期なんてない。


「ごめんね、ボール。私はね、今、畑と火で手一杯なの。宇宙の秘密は、明日以降」


そう言いながら、私はボールを火から少し離れた石の陰に置いた。


熱で壊れたら困る。


壊れたら、情報が消える。


そして何より――私の“会話相手”が消える。


それが嫌だと思ってしまった自分に、私は小さく笑う。


人は、孤独に慣れると、孤独を増やすものを嫌がる。


矛盾だけど、たぶん普通だ。


夕方。


畑に、試しに豆を少しだけ蒔いた。


全部蒔かない。


全滅したら終わりだから。


私は保険をかける。


人生に保険がないなら、自分で作るしかない。


土をかぶせ、水を少しだけ撒く。


煮沸した水。


大事な水。


大事な未来。


未来が芽を出すかどうかは、運。


でも、運に祈る権利は、努力した者にだけある――って、どこかの偉い人が言ってた気がする。


今の私は、偉い人の言葉にすがる程度には弱い。


夜。


火を大きくし、穴蔵を少し改良した。


石で入口を狭くし、枝を二重にする。


風は減った。


寒さも、少し減った。


私は火の前で、ボールを眺めた。


ボールは時々、点滅する。


寝ているのか、待機しているのか。


そして、たまに小さく、ノイズ混じりで呟く。


「……セ……い……」


まるで、帰る場所の名前を呼ぶみたいに。


空には、星が多い。


昨日よりも、星が多い気がする。


気のせいかもしれない。


私は、ふと、あの直線の光を探した。


来ない。


来ないほうが、安心する。


来ないほうが、ルール通りだ。


救助は期待しない。


期待しないのに――胸の奥が、少しだけ、空っぽだ。


「……セイって、誰なんだろうね」


私が呟くと、ボールが一度だけ強く点滅した。


肯定?


否定?


呼んだら来る?


来ない。


救助はあり得ない。


だから来ない。


来なくていい。


来なくていいけど――もし来るなら、ちゃんと段階を踏んでほしい。


遠くから、少しずつ。


怖くないように。


私の生活圏を壊さないように。


私は火を見つめ、目を閉じた。


明日は、畑を広げる。


防壁を作る。


水を運ぶ。


そして、ボールの示す座標を、もう少しだけ理解する。


理解して、選ぶ。


私は選ぶ。


捨てられた赤ちゃんでも、開拓者でも、ひとりでも。


選ぶことだけは、譲らない。


その夜。


風の中に、微かに混じる音があった。


遠い、遠い金属音。


空からじゃない。


地面の向こう、森の奥。


ぎし、と。


何か大きなものが、ゆっくり動く音。


ボールが、唐突に起き上がった。


点滅が速くなる。


そして、はっきりと、今度こそはっきりと、言った。


「セイ。……セイ、来た」

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