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異世界転生先はSF世界観で平和なスローライフ!?  作者:


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第1話:方舟って言うならもうちょい積んでほしかった

目が覚めた瞬間、私は泣いていた。


というより、泣くしかなかった。


だって、体が小さい。


小さいどころじゃない。


手が、豆みたいで。


足が、短くて。


声が、か細くて。


そして――透明な丸いポットの中に、私はいた。


「……は?」


声を出そうとして、当然のように「ばぶぅ」みたいな音になった。


……いや、違う。


私は、今、赤ちゃんだ。


赤ちゃんが「は?」って思ってるの、だいぶ面白い。


面白いけど、笑えない。


だって、ポットが揺れてる。


揺れてるというか、浮いてる。


浮いてるというか、飛んでる。


飛んでるというか――宇宙にいる。


見えるのは真っ黒な窓。


星が、点々と。


遠くに、淡い光の渦。


そして、ぽつんと浮かぶ私のポット。


いや、待って。


待って待って。


誰?


誰が赤ちゃんを宇宙に流すの?


倫理は?


保護者は?


私は必死で周りを見た。


ポットの内側に、簡単な表示板がある。


文字が読める。


読めるの、変だ。


赤ちゃんなのに。


でも読める。


たぶん、私が「転生者」だからだ。


よくあるやつだ。


異世界転生。


……ただし、剣と魔法じゃなくて、宇宙。


私の想像してた異世界、もっと地面が近かったんだけど。


表示板には、淡々とこう書かれていた。


【開拓者投下ポッド:個体番号 074 通称:方舟】

【目的:未開惑星への到達/生存/定住】

【支給物資:種子パック一式/多用途変換ステッキ×1】

【注意:救助は期待しないこと】


「救助は期待しないこと、じゃないのよ」


赤ちゃんの喉で全力のツッコミを入れる。


当然、かわいい声しか出ない。


かわいい声で人生詰んでるの、悲しい。


……いや、悲しいのは、支給物資が少なすぎることだ。


方舟って言うなら、もっと色々乗せてよ!


種とステッキって……魔法少女か!?


宇宙の魔法少女ってなに!?


光るの!? 変身するの!?


私のステッキ、変身するの!?


ステッキは、私の脇に固定されていた。


銀色で、短い。


先端に小さなリングがついている。


赤ちゃんの私の手にはまだ持てないけど、見た瞬間にわかった。


これ、変な力がある。


そして、ルールもある。


“既知のもの”にしか変化できない。


つまり――私が知らない道具は作れない。


知識がチートの鍵。


……勉強しててよかった、前世の私。


宇宙に捨てられる用途で役立つとは思わなかったけど。


ポットは音もなく進んでいく。


時々、小さく姿勢制御の噴射。


私は泣くのをやめて、観察した。


泣いても仕方ない。


赤ちゃんの涙は燃料にならない。


ならないよね? ならないで。


時間の感覚が、どんどん曖昧になる。


眠って、起きて。


食べて、出して。


たぶん、ポットが勝手に栄養をくれている。


私は育っていく。


育っていくというより、流されていく。


宇宙の川を。


ひとりでいる時間が長すぎると、人はどうなるか。


――独り言が増える。


それも異常なほどに。


私は、いつの間にか、ずっと喋っていた。


誰もいないのに。


返事がないのに。


「はい、本日の自己紹介をします。私はソラ。ソラです。空にいるからソラ。安直だけど覚えやすいので採用」


「今日の予定:生きる。以上」


「今の悩み:方舟って言うなら毛布くらい欲しかった」


「今の希望:地面」


宇宙の真ん中で、私は地面を夢見た。


地面って、あったかい。


踏める。


座れる。


掘れる。


掘れるって大事。


人は掘れないと落ち着かない。


たぶん。


そして、ある日。


表示板が淡く光って、こう告げた。


【減速フェーズ開始】

【目標天体:未登録惑星】

【大気圏突入:予定】

「予定、じゃなくて確定して」


突っ込みながらも、私は胸が高鳴った。


地面だ。


ついに地面だ。


たとえ荒野でも、地面は地面。


宇宙よりはマシ。


ポットが震え、熱が走る。


窓の外が一瞬、白く燃え上がった。


炎の帯。


大気摩擦。


そうだよね、そうなるよね。


私は知ってる。


知ってるから、怖い。


知ってるから、祈る。


お願い、壊れないで。


私の命、ポットの品質にかかってる。


どん、と衝撃。


体が浮いて、また沈む。


何度も跳ねるように止まり、やがて静かになった。

音がした。


ごう、と風。


それが、宇宙とは違う音だった。


私は息を吸った。


フィルター越しでも、わかった。


空気だ。


匂いがある。


ポットが開く。


外気が頬を撫でた。


私は、十六歳になっていた。


――到達する頃には十六歳。


表示板の通り。


私の人生は、スキップと倍速でできているらしい。


成長期の栄養と教育はどこへいったのか。


いや、教育は私の頭に残ってる。


たぶん、睡眠中に何か入れられた気がするけど、そこは深く考えない。


深く考えると、怖い。


外は、広かった。


空は薄い青。


雲は少なく、太陽は白っぽい。


大地は赤茶けていて、石が多い。


けれど、完全な死の星じゃない。


遠くに、低い森が見える。


緑がある。


水も、あるかもしれない。


胸が、じん、と熱くなった。


「……到着。ソラ、到着です」


私は自分に言い聞かせる。


独り言の量で正気を保ってる。


たぶん。


きっと。


うん。


支給物資は、ポットの底にあった。


種子パック。


土壌に適応するための、複数種混合。


穀物、豆、根菜、果樹、繊維。


小さな説明書もある。


読むと、さらに不安になる。


“育つかどうかは運”。


運で文明が発展するな。


そして、ステッキ。


銀色の棒。


私はそれを握った。


ひんやりして、手に馴染む。


リングが指に触れると、脳の奥に言葉が浮かぶ。


“変化”。


私は試しに、知っているものを思い浮かべた。


石。


いや、石はここにある。


水。


水が欲しい。


私はステッキを地面に向け、リングを回すように撫でた。


――ぽん。


空気が弾けるような音と共に、手元に小さな容器が現れた。


透明なボトル。


中には、少しの水。


成功だ。


嬉しい。


けど、量が少ない。


「……あ、これ、無限じゃない系だ」


察した。


ステッキの変化には、たぶん、何かの“対価”がある。


エネルギー?


材料?


もしくは、私の体力。


変化した瞬間、少しだけ頭が重くなった。


何度もやったら倒れる。


つまり――使いどころは選べ。


便利だけど万能じゃない。


チートっていうより、命綱。


一本だけのロープだ。


「はい、今日の目標を発表します。水の確保。寝床の確保。あと、死なない」


私は歩き出した。


ポットの影から、世界へ。


風が強い。


乾いている。


足元の石が、靴の代わりの布に当たって痛い。


靴、欲しい。


でも靴を作るには、靴の構造を詳しく知らない。


私はファッションに詳しくない。


詰んだ。


文明の敵は、無知。


私の敵は、無知と小石。


それでも私は歩く。


森の方へ。


緑があるところに、だいたい水はある。


だいたい。


科学は祈りと同居する。


途中で、小さな影が動いた。


石の影から、何かが飛び出す。


灰色の、細長い生き物。


四足。


目が赤い。


歯が多い。


歯が多いのは、やめてほしい。


私は反射で後退したが、相手は私を見て身を低くした。


捕食者。


この星、ちゃんと自然がある。


自然って、だいたい私に厳しい。


「落ち着こう、ソラ。相手は小さい。私も小さいけど、年齢的には勝ってる」


意味のない励ましをしながら、ステッキを握る。


既知のもの。


既知のもの……棒。


棒なら知ってる。


私はステッキを“丈夫な棒”に変化させようとした。


しかし、ステッキはステッキのまま動かない。


そうか。


ステッキ自体は変化の“主体”であって、別の道具に置換はできないのか。


だとしたら――作るのは、石の槍?


いや、槍の構造は知ってる。


棒と尖り。


単純。


私は地面の石を拾い、ステッキで“紐”を出した。


紐は知ってる。


結べる。


指が震える。


それでも、結ぶ。


石を尖らせる方法は……叩く。


叩ける石を探して、叩く。


時間はない。


影が近づく。


息が荒い。


「来るな、来るな、来るな……!」


独り言が呪文みたいになる。


そして、灰色の獣が跳んだ。


私は咄嗟に、未完成の石槍を突き出した。


――ぐっ。


衝撃が腕に走る。


石が骨に当たった感触。


獣が鳴いた。


高い悲鳴。


そして、転がって距離を取る。


血は少ない。


致命傷ではない。


けれど、相手は警戒した。


私は、逃げる。


勝てない。


勝てない戦いは、しない。


開拓者の鉄則。


今、私が決めた鉄則。


岩陰に身を滑り込ませ、息を殺す。


心臓が痛いほどに鳴っている。


獣の足音が遠ざかり、やがて風の音だけになった。


私は座り込んだ。


震える手で額を押さえる。


汗が冷たい。


生きてる。


生きてるけど、世界は優しくない。


それでも、私は笑った。


笑うしかない。


生きるってそういうことだ。


「……はい、今日の反省。武器は事前に作りましょう。以上」


独り言が戻ってきた。


戻ってきてくれて、ありがとう。


私の中の私。


夕方、森の端に小さな川を見つけた。


水だ。


透明で、冷たい。


私は膝をついて、手ですくって飲んだ。


うまい。


うまいけど、油断はできない。


煮沸。


煮沸のための火。


火を起こすための道具。


火打ち石は……知ってる。


けど、作れる?


やってみる。


私の文明は、私の手から始まる。


川辺の土は、柔らかかった。


掘れる。


掘れるって、落ち着く。


私は小さな畑の予定地を決め、石で囲った。


ここが、私の“生活圏”の第一歩。


誰も祝ってくれないけど、私は自分で言う。


「おめでとう、ソラ。あなたは今日、地面に勝ちました」


夜。


空は濃い藍色で、星が近い。


私は簡単な穴蔵を掘り、枝と葉で入口を塞いだ。


防寒には足りない。


でも、風は防げる。


火は、まだ。


明日、絶対に火を作る。


穴蔵の中で、私はステッキを抱いて眠ろうとした。


そのとき。


遠い空の端が、ほんの一瞬だけ光った。


流れ星じゃない。


直線的な、人工の光。


そして、次の瞬間には消えていた。


――航行体。


宇宙に、誰かがいる。


この星の近くを、誰かが通った。


救助は期待しないこと。


表示板の言葉が、喉の奥に引っかかる。


「……期待しない。しないけど」


私は小さく呟いた。


期待をすると、傷つく。


けれど、誰かがいると知ってしまったら。


宇宙の片隅で、ひとりじゃない可能性があると知ってしまったら。


心は、勝手に揺れる。


私は目を閉じる。


今日を生き延びた。


それだけで十分。


明日もまた、畑を作って、水を運んで、火を起こして――この星に、私の暮らしを根付かせる。


そして、いつか。


あの光の正体が、私の空に戻ってくる日が来るのかもしれない。


来ないかもしれない。


どちらでも、生きる。


私は開拓者だ。


食いぶち減らしと呼ばれて捨てられた、開拓者だ。


だから、ここで。


私の安息の地を、作ってみせる。

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