騎楼のある国の少女が雨宿りに感じたカルチャーギャップ
挿絵の画像を作成する際には、「AIイラストくん」と「Gemini AI」を使用させて頂きました。
日系二世という事もあり、私こと菊池須磨子は在籍する台南市福松国民中学で日本語の選択授業を履修しているんだ。
授業では日本映画を鑑賞する事もあるんだけど、これが日本語だけじゃなくて日本文化の勉強にもなるんだよね。
「今日の映画は恋愛ものだから楽しく見れたけど、少し違和感があったね。」
そんな級友の一言には、私も大いに共感したんだ。
「林杏さんもそう思う?私も主人公カップルが雨宿りしながら喋るシーンが気になって…」
何しろ台湾の建物は庇が歩道まで張り出しているからね。
この騎楼があるから、私達は急な雨でも気にせず歩けるんだよ。
だから雨宿りの為に軒先で立ち止まるなんて「まどろっこしいな」と思っちゃうんだよね。
「それは仕方ないよ。だって日本の町には騎楼が無いんだから。私のお父さんも日本駐在中はそれで何度か泣きを見たみたいだし。」
そんな私達に冷静な指摘をしたのは、私達の共通の友達の王珠竜ちゃんだった。
日本時代の長かったお父さんの薫陶もあり、日本語と日本文化の成績は誰よりも良いんだ。
「成程…それも台湾と日本の違いなんだね。」
そう呟く私の胸中で、好奇心が頭をもたげて来たんだ。
これも日台ハーフの性なのかもね。
「そうね、須磨子…お母さんも留学中はそれでよく失敗した物よ。特に一回生の間は有りもしない騎楼を当てにしたせいで、梅雨時には散々だったわ。」
神戸で大学時代を過ごした母の口振りは、内容とは裏腹に楽しそうだったの。
それを訊ねると、母の口元には微笑さえ浮かんだんだ。
「校舎で雨宿りする度に、菊池君に下宿まで送って貰ったのよ。菊池君…いや、若い頃のお父さんは、梅雨時には必ず大きな傘を用意してくれてね。だから雨の日になると、つい期待しちゃったのよ…」
そういえばお父さんとお母さんは、一回生の基礎ゼミが馴れ初めだったね。
そんな二人にとって、学生生活や日本時代の思い出はそのまま惚気話に繋がっちゃうんだよなぁ…
「雨宿りからの相合い傘…まるで恋愛映画みたいに決まり過ぎてるね。それだと騎楼のある台湾に夫婦で帰国してからは、雨宿りも相合い傘も出来ずに物足りなかったんじゃない?」
少し意地悪な質問だけど、先方は更に上手だった。
「そうでもないわ、須磨子。騎楼の下を一緒に歩いて、良さそうな御店で御茶しながら雨宿りする。そんな休日も悪くはないわね。」
こんな具合に、お母さんの惚気は収まらない。
まあ、夫婦円満なのは何よりだけどね。




