56.三人に新曲を布教してみた(おそるおそる)
「この曲知ってるー?」
「知ってるよ! マジでかわいいよねー」
「昨日やってみたんだけど、全然、あの音が出ないんだよぉ」
「ぎゃはは! うけるんだけど!」
朝のホームルームを前にして、私はムズムズしていた。
もうすぐ期末試験が近いとか、そういうわけではない。
なんとクラスメイトの女子たちが、私の、悠木ゆめめの新曲について話しているのを耳にしてしまったのだ。
Vtuberはメジャーになったとはいえ、私のチャンネルはまだまだ小さい、一部のASMR好きが見るチャンネルだと自認している。
それなのに、普通の女子高生たちが、私のASMRを再現しようとしているのだ。
#whisperslavechallengeというハッシュタグで、おしゃれな女の子たちがささやいたり、ヘンテコな音を出したりしている。
さらに曲の中でやっている高速ささやきを再現する人まで現れた。
このASMRチャレンジを考えてくれたインフルエンサーさんには感謝するしかない。
私とは住む世界が違いすぎる人だと思うけど。
ニヤニヤしているのがバレないように、うつむいたまま教科書を読むことにする。
うわ、ダメだ、ほっぺたが引きつりそう。
「……おはよう、ゆうなさん」
「おはようございます……。と、透子さん、顔色、悪いですよ!?」
そんな中、声をかけてきたのは、透子さんだった。
顔面が蒼白というか、やつれた印象だ。
きちんと眠れていないのか、くまもひどい。
思わず心配して声をかけてしまった。
「大丈夫ですよ、大丈夫。ふふふ、エリカと春野セカイ、許さない、絶対に……」
「エリカさんはともかく、春野先生まで!?」
透子さんは疲れ切っているのか、ぶつぶつと独り言をいいながら立ち去っていった。
春野先生、何かしでかしたのだろうか。
いつもの学校生活が始まるのだが、今日の私は決意していたことがあった。
それは今回のMVについて切り出してみること。
もちろん、私がASMRを好きだとか、そんなことを言うつもりはないし。
こんな動画が流れてきたと偶然を装って、三人のリアクションを見てみようと思うのだ。
身バレしたら、きっと三人は私から距離を置くだろう。
だから、あくまでもコッソリである。
リスクがあるかもしれないけど、悠木ゆめめと普段の私は少し声も違うし、話し方も違う。
そもそも、三人はASMRを聞かないって言うし、Vtuberなんて知らないだろう。
私に至っては個人勢だし、声を聞いてバレるなんてことはまずないはず。
そう、早い話、私も布教とやらをしてみたいと思ったのである。
今までの人生でお友だちと呼べる人がいなかったので、初めての体験だ。
うぅ、どうしよう、引かれたら泣く自信がある。
お昼ご飯の時、私は思い切って切り出してみた。
「えええっとぉ、皆さん、そのぉ、今、こんな動画が流れてきたんだけど、知ってるゥー? 私は全然、く、く、詳しくないんだけどね、ほほ本当に」
緊張で声は上ずり、スマホを持った手が震える。
基本的に私は嘘が下手なのだ、うぅう、忘れてた。
「ふひっ!? そ、それは、えと、あはは、ぶ、ぶ、ぶいちゅーばーの曲ですか?」
「へー、知らなかった―、すごーい! エモいかも―!」
「……ほーん。わしは何も知らん、知らんのじゃっ!」
透子さん、エリカさん、ふみさんの順に口を開く。
三人とも案の定、私の曲など知らないようである。
しかし、どうして三人ともあらぬ方向を見るのだろうか。
かわいいサムネイルを見て欲しいのだけど。
「え、えと、こっちを見てほしいなぁ? あ、いや、別に私も、偶然、本当に偶然、見つけただけでして、興味なんてゼロなんですけども」
とはいえ、私も三人をまとも見られるわけではない。
なんせ自分の曲であることを隠しながらPRするのだ。
陰キャの私にかなりのトークスキルが求められるのは言うまでもない。
「そ、そうなんですかぁ! さすがはゆうなさん、目の付け所が違いますねっ!」
「まじリスペクトー!」
「……偶然ならよかったのじゃ、偶然ならっ!」
私の説得に応じて三人はこちらを向いてくれる。
三人ともすごく笑顔だ。
もしかしたら、さっきのリアクションは冗談だったのかもしれない。
「それで、ですね。なんていうか、いや、私も初めて見たんですけど、この動画のイラスト、かわいいなって思って。こんな絵を描けるイラストレーターさん、本当にすごいなぁって思ってですね、プロってすごいですよね」
顔を引きつらせながらも、売り込みに走る私である。
そう、いい点をプッシュして、三人に興味を持って欲しいなぁなんて思っているのだ。
「ぬひょおぉおおっ! 本当なのじゃっ! 最高のなのじゃっ! ありがとう、これあげるのじゃっ!」
「えぇええ!? いいんですか!?」
いの一番で反応したのはふみさんだった。
彼女はなぜか、私にクリームパンを半分くれた。
やはり、絵を描く人同士、技量のすごさというものが理解できるのだろうか。
「それで、えと、この動画、伸びてるみたいで……どこかのインフルエンサーさんがなんとかチャレンジ? みたいなことをされてるとか聞いて、いや、これはもう又聞きでうろ覚えですけどっ! 天才みたいな人がいるもんだと感心してて」
「ウにゃああっ! そうだよねっ、天才っているよねっ! もう、ゆうなちゃん、大好きっ!」
続いて大きなリアクションをするのはエリカさんだった。
彼女はがたんと席を立つと、私に抱き着いてきた。
チャレンジを紹介しただけでここまで感謝されるとは。
「い、いや、私も聞き始めたばかりなので詳しくは知らないんですけどねっ!」
とはいえ、話し過ぎた気もするので釘をさしておく。
三人が悠木ゆめめのことを知ってるはずはないけど、念には念を入れよである。
自分の策士っぷりがちょっと怖くなる。
「へぇ、この人の概要欄のスペシャルサンクスにミスティっておるぞ。これ、何者なのじゃ?」
「あたしも気になる―! へぇ、ケモノ系のVtuberじゃーん! かわいーい」
ふみさんはミスティさんに関心が向いたようだ。
確かにミスティさん、気になるよね。
よし、ついでだから、この人についてもちょっと話しておこうかな。
「な、なんか、さっき、まとめ動画でやってたんですけど、このVtuberの人、この方に歌を習って上達したとか聞きましたよ。すごくかわいい先生ですよね。声も仕草もかわいくて、あ、いや、別に、偶然、知っただけなんですけどね?」
「んおおふっ!? かわいい!?」
透子さんは急に咳き込み始め、胸を抑えて机に顔を埋めた。
ひぃいい、いつもの心臓の発作だろうか。
さっきまで顔がやつれていたし、非常に心配。
私は思わずスマホを手に取る。場合によっては119番だ。
「……私、受け入れることにしたわ」
顔をあげた透子さんを見て、私は衝撃を受ける。
肌がつやつやしているのだ。
一気に血行が改善して、タマゴ肌になってしまった。
「ゆうなさんにここまで言われたら仕方ないわね。聞いてみようかしら」
「そだねー! 聞いてみよっかなー!」
「うちも! あとで感想を送るのじゃ!」
「あ、ありがとうっ!」
三人はあの曲を聞いてくれる気になったようだ。
私の布教が成功したと思っていいのかもしれない。
いや、もちろん、悠木ゆめめにチャンネル登録をするはずはないと思うけど。
大満足のまま、昼食を終えると、私のXにDMが入っていることに気づく。
「ん?」
差出人は、ぶいぱらさんの運営様。
こないだもこんなことがあった気が。
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