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ASMR系VTuberの私、ぼっちのはずがなぜかクラスの美少女に溺愛されてます!  作者: 海野アロイ
第一章 ASMR系Vtuberの私、ぼっちのはずがクラスの美少女に囲まれています!
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4.朝霧透子の友人も悠木ゆめめ様のASMRを聞いていた件

「最近さー、ASMR、聞いてるんだよねー? 悠木ゆめめってVTuberなんだけどー」


 フラペチーノを片手に持ちながら、嬉しそうに話すのは私のエリカ・鏑木かぶらぎ・ローランだ。

 フランス人のクォーターで髪は金色、くっきりした目鼻立ちの美人。

 高校一年生ながらモデルをしており、かなり目立つ。

 実際に他の客の視線をさっきから集めっぱなしである。

 当のエリカは我関せず。

 子どものころからかわいかったので、注目を集めるのには慣れているのだろう。

 

「は?」


 私の思考は一気に凍り付いてしまう。

 なぜなら、エリカの口からあり得ないワードが出てきたからだ。

 ASMR、それに悠木ゆめめ様。

 根っからの陽キャであり、今ではギャルみたいになりつつあるエリカが聞くジャンルとは思えない.

 ゆめめ様のリスナーの大半は男性だと思うし。


「あー、ASMRって言うのはねー、なんか音を録音してて聞くやつなんだけどねー?」


 エリカは私に構わず話を続ける。

 目鼻立ちのくっきりした美人だが、話し方はとにかく緩い。

 それにしても、ASMRの説明が雑だ。

 ASMRとは、Autonomous Sensory Meridian Response(自律感覚絶頂反応)の略語。

 簡単に言えば、『脳神経に心地よい刺激が送られるような音』のことだ。

 いや、定義なんかどうでもいい。

 問題は、私がどう話を聞くべきか、だろう。


 藤咲さんの正体を明かすわけにはいかない。

 これは私だけの秘密なのだ。

 エリカはあくまでも悠木ゆめめ様のリスナーでしかないのだから。

 まぁ、にわかリスナーでしょうけど。


「そ、それにしても珍しいわね? エリカってほら、そういうのに関心なさそうだけど?」


「でしょー? 私もそう思った―」


「でもほら、最近のマイブームみたいなものでしょ?」


 エリカとの付き合いは小学生の頃にさかのぼる。

 彼女は私のいた学校に転校生としてやってきたのだ。

 その頃からの付き合いで、エリカは飽きっぽいということを知っている。

 一過性のものなら聞き流せばいい。

 

「ううん? もうかれこれ半年近くはハマってるかなー? 毎日聞いてるし、配信だから新しくなるし飽きようがないっていうかー」


「へー、そうなのね、意外だわ。かなり意外だわ」


 顔が引きつりそうになるので、思わず笑顔を作る。

 やばい、やばい、この子もドハマりしてる類いだ。

 いや、一人のファンとしては喜ぶべきことだと思う。

 思うんだけど、かなり微妙だ。

 私がぼろを出して、藤咲さんの正体を悟られたら一巻の終わり。

 気を付けて話さなきゃ。


「ほらー、この人なんだけどさー、すごく声がかわいいのー」


「VTuberって初めてみたかも」


「えへへ、かわいいでしょー? 自作のアクリルスタンドも作ったんだー」


 エリカは嬉しそうにスマホの画面を見せてくる。

 ほぼすべての配信に再生済みの痕跡が残っていた。

 さらにはアバターを勝手に切り抜いた、アクスタまで。

 ゆめめ様は物販に関心がないらしく、公式グッズなるものが存在しない。

 よって、根っからのファンは自力でなんとかするしかないのだ。

 オタクとして権利関係に思うことはあるけど、公式からの供給がないからしょうがない。

 

 かくいう私もゆめめ様のクリアファイルに始まり、アクスタ、アクキーまで持っている。

 学校には持ってきてないけど。

 

「かわいいでしょー? 声がすっごくいいのー。てぃとてぃとてぃーん、ゆめめのじかんー」


 エリカは嬉しそうに配信の始まりのメロディとタイトルコールを口ずさむ。

 やばい、この子、十分にオタクじゃないの。

 さっきから目がキラキラしているのがその証拠だ。


「へぇえ、初めて聞いたわ、興味深いわね」


 私はとりあえず嘘で取り繕う。

 一緒にゆめめ様の話題で盛り上がるのもよかったけど、こちらには負い目がある。

 なんせ私は藤咲さん(a.k.a. 悠木ゆめめ様)に小声で挨拶をしてもらい、教科書を読んでもらい、さらには後ろから抱きしめたのだ。

 私がしたことに気づかれたら、ファン失格と罵られて修羅場になりそう。


「VTuberって本当にいるのかなー。身近にいたりしたらびっくりだよねー」


「ひ? ど、ど、どうなのかしらねー? あぁいうのって、声優の人が片手間でやってるんじゃないのかしら?」


「でもー、この人、個人でやってるんだってー。事務所とか入ってないんだよー?」


「いや、裏があるに違いないわ! そこらへんで女子高生やってるなんてありえないでしょ!」


 話した途端、冷や汗が背中を伝う。

 あ、私、まずいことを口走った。


「高校生なのー? 女子大生とか、もっと大人じゃないー?」


「今のは……モノの例えよ! 勘違いしないでよね!」


 話題が危険な方向に行きつつあるのを察知して、慌てて会話を止める。

 いや、もちろん、エリカが知っているはずがないし、何の変哲もない会話だとはわかっている。

 だけど、悠木ゆめめ様の中の人はクラスメイトの藤咲さんなのだ。

 私が彼女の秘密を守らねば!


「とーこ、ノリ悪いよー? てか、一回、聞いてみー? 絶対にはまるからさ?」


「え、遠慮しとく」


「いいから、いいから、一回だけでいいからー、最初は無料だからー。大丈夫、すごく気持ちいいんだよー? みんなやってるよー?」


「怪しい話しないで! 周りの人が見てんのよ!?」


 エリカはワイヤレスイヤホンを耳にねじ込もうとしてくる。

 べたべたと私にくっついてこられると、周りの目が痛い。

 この子、自分のことを本当に理解していないのだ。


「もー、怒んないでよー? あはは、むきになってておっかしー。とーこ、クールダウンしなー?」


「だから、抱きつくな!」


 エリカは冗談交じりにハグをしてくる。

 昔からの癖なのだが、高校生になった今では受け止め方が違う。

 発育の良すぎる彼女の色々なものがこっちに触れるのだ。

 私はどちらかというとスレンダーなので、少し、いや、大分、劣等感を刺激される。


「あぁ、もうどうしよ……」


 エリカとバカ話をしながら私は決意する。

 藤咲さんにこの子をあわせないようにするということを!


 エリカはぽわぽわしているが、野生の勘の働く女だ。

 

『藤咲さんって、悠木ゆめめだよねー? ASMRのー?』


 なんて、頭に浮かんだことをすぐに口に出す可能性が大ありだ。

 正体のバレた藤咲さんは配信活動をやめてしまう。

 そして、エリカは世間から袋叩きの大炎上。


 藤咲さん、そして、悠木ゆめめ様は私が守るっ!



 そう思っていたのに。

 まさか、あんなことが起こるなんて。

 


「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「今後どうなるんじゃっ……!」


と思ったら


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